リアクション
● ロベルダたちは地下へと探索に赴いたわけであるが――それ以外においてもヤンジュスの古城を調べる探索者たちはもちろん存在した。 「探索は〜男のロマ〜ン♪」 「おいおい……なにわけのわかんねぇ歌、歌ってんだよ」 「いやー、こういう古びた城の中ってわくわくしませんか?」 そう言ってパラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)を振り返ったのは、どこかぼけっとした雰囲気をかもし出す月詠 司(つくよみ・つかさ)だった。先ほどから何やらご機嫌らしく、探索を進めながらも歌をちょくちょく歌っている。 どうやら……いつもは一緒にいる女吸血鬼がいないせいか気が楽らしい。それに関してはパラケルススも否定はできないが、あいにくと共にいるタァウ・マオ・アバター(たぁう・まおあばたー)はほとんど自ら喋らない無口体質であるし、必然的にツッコミ役とというか言葉を交わすのが自分にならざるを得ない。 なにかと巻き込まれることの多い彼のことだ。パラケルススは自分の役目にため息をつくしかなかった。 「あれ、パラケルスス……どうしたんですか?」 「うんにゃ、なんでもねぇよ。それより、どうしてこんなところを調べんだ?」 彼らのいるのは、古城の上階の奥にある使用人用の部屋であった。一見すれば何の変哲もないその場所で、ごそごそと司は物を漁っている。 「聞いたところによると、シグラッドという方は秘密にこだわる用意周到な方だったとか……ということは、こういう何の変哲もない場所――」 司が講義する教師のように歩き始めたその瞬間、踏み込んだ床がカチッと音を立てると、天井からギロチンが落ちてきた。ギロチンは司の前髪をわずかに切り裂いて、床にざっくりとめり込んだ。 硬直していた司は、震えながら続ける。 「――と、とか、あ、あるいは、城内のトラップが必ずしも侵入者を退けるだけの物とは限らず、もしかしたらトラップの配置や種類自体にすら意味があって、特定のトラップが発動する事で隠された道が見つかるなんて……一見何でもなさそうな物と、保管庫にある書物や文献を照らし合わせる事で更に隠されたモノが見えてくる様な所謂二重三重の仕掛け、が在ってもおかしくない訳ですよね?」 饒舌になったのは恐怖を覆うためか? まあ、とにかく、パラケルススとて彼の言いたいことはよくわかった。それに、カナンの世界樹といえばセフィロトだ。錬金術的にも、何らかの関係があるかもしれない。 「……いっそ城そのものが何らかの大掛かりな仕掛け、とか……もしかしたらエリシュ・エヌマに関する資料のみならず、モートや他の何かに関しても見えて来るかも知れませんね……まあ、それは飛躍しすぎかもしれないですけど」 「そうでもなさそうだぜ」 にやりと笑ったパラケルススはそう言うと、壊れた机のほうに向かった。議論で巻き添えを食らって壊れたものだ。破壊されたそれの引き出しの奥でわずかに見えていた刻印を司たちに指し示す。 反応を示したのは、タァウだった。 「コレ……ハ……」 「お、わかるか?」 「古キ……魔法ジカケノ一種ダ……雷ニ……反応スル」 くぐもったようにローブの奥からささやくタァウの説明を受けて、パラケルススは司に不敵な笑みを見せる。 「しかもこりゃ……そこのギロチンの隅っこに刻まれてあるやつと一緒だぜ。多分、連動してるんだろうよ。そんでもって……」 パラケルススは小石を投げた。すると、落ちた床に更なるギロチンが振り落ちてきた。 「こっちも仕掛けってわけだ」 どうやら引き出しの奥の刻印は、ギロチンのトラップが動くことを前提とした魔法仕掛けなのだろう。 「しかし……おかしな話だな。どうして一般の使用人の部屋にこんなもんがあるんだ?」 「多分、地下への扉が開かれたからでしょう」 パラケルススの疑問に司が答えた。 「ある意味、城そのものが仕掛けになってるってのも、あながち間違いじゃなさそうですね。地下の扉が開かれたことで、この部屋のトラップも発動するようになっていたんじゃないでしょうか?」 「なぁるほどね。ま、とにかく――」 合点がいったように頷いたパラケルススはタァウを見やった。こくりと、彼女は頷く。この中で雷の魔法が使えるのは、彼女だけだ。 すっと持ち上げられた片手の先に魔力が集中する。わずかに、タァウが意識を高めるような呼吸を漏らしていた。そして、次の瞬間――雷が迸った。 雷が刻印にぶつかると、突如刻印はなぞられるように光り始めた。ギロチンの刻印もまた、同様に反応している。 同時に、城のどこかで歯車が回るような音がした。しばらく鳴り響いていたそれは、やがて静かに収まった。 「……これは、なんというか」 「へへ……俺たちの思ってた以上に、面白い場所みてぇだな、こりゃ」 どうやら一筋縄では、いかないようだった。 ● |
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