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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

リアクション

 その直後、現場に到着した豊美ちゃんが目の当たりにしたのは、あちこちに散らばる綿と、地面に伏せる多くのゆる族、そしてそれらの中心で佇む一人の魔法少女であった。

 「INQBの派遣マスコットは言いました。
 『伝説の魔法少女の豊美ちゃんに勝てるわけがない』。
 正社員マスコットはこう返しました。
 『レベルを上げて、物理で攻撃すればいい』」


 まるで辞世の句を詠むかのように、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が呟いてそして、豊美ちゃんに恭しく礼をする。
「故在ってINQBの魔法少女をやっている、牛皮消 アルコリアです、よしなに。
 ……まあ、彼らには『いけまさん』と呼ばれているようですが」
 冗談めかして言うアルコリアの、足元には数名の魔法少女らしき者たちが地面に倒れていた。
「……これは、全てあなたがやったのですか?」
 豊美ちゃんの声は、普段の明るさを一切廃した、とても冷たいものだった。
「いいえ、最初はこの方たちがINQBに手をあげたのです。豊美ちゃん、この方たちに見覚えはありませんか?」
「…………」
 凝視した豊美ちゃんが、首を横に振る。先に手を出したという魔法少女は、少なくとも『豊浦宮』所属の魔法少女ではない。
「どうして、あなたはINQBについているのですか?」
 豊美ちゃんの問いかけに、アルコリアは微笑んで答える。
「INQBに付く人が居なく、負けると思ったからですよ。……まあ、実際は違ったようですけど、それはいいです。
 単純な力など、友情、団結、絆……正義とか、そういう強大な力にひねり潰され、溶けて消える儚い六花……でもね、諦めて勝ち馬に乗りたくないんですよ。例え雪の結晶だったとしても、世界がそんな風に出来てるとしても、足掻かずにはいられないのです」
 それは、力を極めし者が抱く思いか、それともアルコリア個人の思いか。
 果たしてそれは分からぬまま、アルコリアが続ける。
「似合わぬことを言いました。本当のところは、ええ……豊美ちゃんが可愛くて、それはもうはむはむして、噛み付いて、千切って、血の一滴、骨の一欠片まで愛でたいと思っている、にしておきましょうか」
 冗談か本心か、そう口にしたアルコリアから殺気がブワッ、と膨れ上がる。

「りりかる・うーじー・じぇのさいどっ! まっじかるマーヤーへんしんだよっ☆」

 その時、豊美ちゃんとアルコリアの間に、魔法少女な名乗りをあげた樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)が割り込んでくる。
「まほーしょーじょのあんこくめんにおちたアルママを、まぁやがたすけるよ!」
 なんとなく棒読み感の漂う言葉を吐いて、眞綾がまじかる☆ますけっとを呼び出し、
「テロる・フィナーレっ!!」
 直立不動のアルコリアに撃ち込む。手応えを感じた眞綾が、やったか、と言わんばかりの表情を浮かべた瞬間、頭部を龍のものに変化させたアルコリアが眞綾に飛び掛る。
「……え?」
 眞綾がその声を上げたのは、自分の頭がアルコリアの頭に咬まれていると知ってからだった。
「え、ちょ、ま、まって、ようじょグロとかだめだとおも……」
 眞綾の声に答えず、アルコリアが二度噛み付く。並の魔法少女ならとっくにライフはゼロだが、そこはアルコリアのパートナー。珍しく慌てているしなにやら紅いものが噴き出しているように見えるが、元気そうだ。
 そして、アルコリアが三度噛み付いたかと思うと、身体をひねって眞綾を遠くへと投げ飛ばす。眞綾の身体は首から上がなかったが、「マヤられたー」と言いながら飛んでいくのが聞こえたので、多分首を引っ込めているだけだろう。
「さあ、豊美ちゃん。貴女もマヤってあげますよ?」
 血に濡れる牙を煌かせ、アルコリアが至極楽しそうに微笑む――。

「……わけがわからないぞ。……いや、INQBの魔法少女として動くことになった以上、『豊浦宮』とぶつかることになるのは当然の帰結かもしれないが」
 呟き、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)がはぁ、とため息を吐く。ちなみに一行には『INQB』のマスコットは付いていなかったが、アルコリアのような魔法(少女を屠る)・魔法(を捨てる鎧を纏う)・魔法(を弾く)少女と契約しようとする者が現れなかったことに、シーマはそれでよかったのだろうと思う。
「魔女のような奴と契約したが最後だからな……」
 その『魔女のような奴』に、豊美ちゃんとの一騎討ちが行われた場合邪魔立てが入らないようにしろと命じられていたシーマは、複雑な気分を抱えつつ指示には従おうと、槍を手に周囲を警戒する。

「豊美ちゃんのピンチに、魔法少女マジカル美羽、登場だよっ!」

 すると、上空から声が聞こえ、そして小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が高層ビルの上からダイブし、マントを脱ぎ捨て魔法少女への変身を行う。もちろんお約束の如く、ぱんつは見えそうで見えない。
「一部始終を見させてもらったよ! あなた達は自分の意思でINQBに加担しているんだね! 魔法少女として恥ずかしくないの!?」
 ビシッ、と指を立て、抗議する美羽に、答える声があった。
「全てはマイロード・アルコリア様の御心のままに。わたくしは何ら恥じ入るものはございませんわ」
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が進み出、美羽と対峙する。
「……ナコト、いつから魔法少女に……ちょっと待て、その装備は何だ? ボクにはどう見ても殺る気満々に見えるのだが」
「いいえ、これでも手加減してますわよ? ただの力押し装備ですわ、ふふふふふ……」
 銃に強力な魔弾を装填し、発射姿勢を取るナコト。その姿は魔法少女とは程遠いが、本人曰く「魔法少女といえば、魔道書!」ということなので、問題ないらしい。一応、魔法陣による魔力強化はやっているので、全く魔法を使っていないわけではない。
「……このままでは、間違いなく死人が出るな。そうなる前に退場願おうか」
 別の意味で危機を感じたシーマも、槍を構え戦闘態勢を取る。
「……こんなの絶対おかしいぞ」

「えっと、大丈夫?」
「うぅ……す、すまねぇ、兄ちゃん……」
 魔法少女同士の戦闘が開始されようとしている中、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は地面に倒れていたゆる族を治療していた。
「よければ、ここでの経緯を教えてもらえませんか?」
「ああ、実は……」
 そして、治療を行ったゆる族から、コハクはここでの経緯を知ることになる。どちらの陣営でもないフリーの魔法少女が『ゆる族狩り』を行い、襲われたゆる族が用心棒として所属していたアルコリアを呼び出したのだと。
「何か悪いことをした、というわけじゃないんですよね?」
「俺たち何もしてねぇ! あの事件だって、実際は……」
 まくし立てるゆる族から、コハクは対立のきっかけとなった事件の真相も知ることになる。騒動の中心人物でもある地球人たちは、今は既に別の魔法少女たちによって鎮められ、行方不明になっていたゆる族は助け出されたのだが、この時点では彼らは未だ知る由もない。
「じゃあ、この戦いは無意味……? 美羽、お願い、手を引いて!」
 コハクが訴えるが、美羽には届かない。
「兄ちゃんすまねぇ、手が付けられなくなる前に、仲間を助けてくれねぇか? 今ならまだ間に合うはずだ」
「は、はい、分かりました!」
 ゆる族の彼に頼まれる形で、コハクが他のゆる族を助けに向かう――。


「戦いは避けられそうにないな……ならば、魔族としての役目を果たそう」(……イケる! 魔法少女が乱立してるこの状況なら、私が魔法少女の格好をしても自然なはず! 幼い頃からの憧れだった魔法少女に、今ならなれる! もう何も恐くない!)
 建前を言葉に、本音を心に呟いて、シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)がかねてからの念願だったという魔法少女への変身を果たす。

「この世の悪を守る為、ザナドゥから来た魔界の天使! 魔界天使マジカル☆しゃのん、ただいま参上!」

 自室でもう何度も繰り返した魔法少女な名乗りをあげ、鏡の前で特訓したポーズをバッチリ決めるシャノンが、背後に控えていた黒の子猫姿のマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)と、白の子犬姿の魄喰 迫(はくはみの・はく)を魔法で人の姿に戻す。
「マスコット1号! ホワイト☆どっぐ、見参だぜ!」(……にしても、このドレスみたいな服、動きづらいぜ。ま、理由は知らんが要は喧嘩だろ? 揉め事ならあたしに任せろ〜!)
「マスコット2号! ブラック☆きゃっと、推参だにゃん♪」(……猫の姿ににゃん口調、そしてこの黒ロリな衣装……はぁ〜、命令とはいえ大変だなぁ。まぁ、でも人……この場合魔法少女かな? まぁいいや、石化できる機会だし、楽しませてもらうよ〜♪)
 こちらも何やら本音を心に呟きつつ、それぞれ元の黒猫と白犬をイメージした外見と衣装を纏い、シャノンの両脇に立つ。三人編成な点はアルコリアと一緒だが(眞綾はマヤられたので数に勘定していない)、こちらの方がちゃんと魔法少女していた。

「悪の魔法少女なんて、そんなの、私が許さない!
 魔法少女に憧れるみんなの想い、私が守ってみせる!」


 そこに、馬宿から連絡を受け、『豊浦宮』所属の魔法少女が続々と現場に到着を果たす。その中の一人である東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)奈月 真尋(なつき・まひろ)と共にシャノンたちの前に立ち、魔法少女として戦いを挑まんとする。
(魔法も使ったことないし、少女って歳でもない気がしたけど……みんなを見ていたら大丈夫な気がする!
 もう何も恐くな――ダメ、これは思っていても言葉にしちゃダメ! 油断したら負ける……!!)
 心に浮かんだいわゆる『死亡フラグ』を、慌てて秋日子が首を振って打ち消す。そうでなくても視界の向こうでは異次元の戦いが繰り広げられていたし、既にあちこちで激しい戦闘が開始されている以上、本当に油断したらただでは済まない気がしていた。
「魔法少女な私に、もう何も怖いものなどない!」
「……って、私が必死に言わないようにしていた言葉、あっさり言っちゃってるしー!」
 非難の言葉をあげながら、秋日子がシャノンから放たれた銃撃を飛んで避け、こちらも銃による反撃を行う。
「身体動かすのは大好きだぜ! あたしの動きに付いて来れるかい?」
(は、速い……! これほどの力の差、覆すのは厳しいどすなぁ)
 迫の神速の動きに、真尋は目で追うことすら叶わない。『魔法少女はレベルを上げて物理で殴ればなんとかなる』と思っている真尋にとって、このレベル差は厳しいどころか無理ゲーと言っていい。
「ほら、どうした? もう終わりか?」
 案の定、真尋は迫に組み敷かれてしまう。
「…………ウチにはまだ、とっておきがありますえ!!」
 迫の外見と立場を鑑み、悩み抜いた末、真尋が念力で迫の尻尾を掴む。
「あっ、や、やめろ、そこを掴まれると、あたし……」
 途端に、へなへな、と力の抜けた迫が、真尋に倒れかかろうとして、突き飛ばされる。追撃に向かおうとした真尋を、しかし影に潜んでいたマッシュの石化魔法が襲う。
「し、しまった……男にこのような仕打ちを受けるなんて、ウチ、もう生きてけへん……」
 マッシュが男だと知った真尋が、愕然とした表情を浮かべたまま石化してしまう。
「あはははは、とてもいい顔だにゃん♪」
「真尋ちゃん!? ……よくもやってくれたわね!」
 パートナーをやられた秋日子が、猛然とシャノンに迫る。
「必殺☆マジカルグランドフィナーレ!」
 名前こそ大層だが、実際は剣と銃の複合攻撃な技を繰り出し、電撃魔法と銃で応戦するシャノンに一太刀浴びせんと迫る秋日子。振り下ろした剣と、シャノンの手にした銃が金属音を立ててぶつかり、視線が交錯し、鍔迫り合いを演じる。

 そんな二人の戦いを、高層ビルの上から見つめる一人の少女の姿があった。
「……紛争を確認しました。これより魔法による介入を行います」
 呟き、少女がふわり、と空中に飛び出す。ひらりと舞うスカートを気にする素振りもなく、壁を駆け、そして勢い良く蹴り出す。

『――――!!』

 直後、二人の直ぐ側を何かが落ち、地面に大きな穴を開ける。距離を置いた秋日子とシャノンの間、立ち込める土煙が晴れるに従って、そこに一つの人の姿が浮かび上がる。

「ある時は、イルミンスール魔法学校の在校生。
 またある時は、メイドの心を持った謎のメイド少女。
 ……しかし、その実態は、魔法による紛争根絶を目指す魔法少女マイスター!
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)、私が魔法少女です!!」


 魔法少女な名乗りをあげたナナが、自らの理念――魔法少女の悪行根絶のため、あらゆる紛争に対して魔法による介入を行い、悪行を幇助する企業や国をも武力介入の対象とする――を実行すべく、シャノンをターゲットに定め踏み込む。
(感謝されてもされなくても、理解されてもされなくても、魔法少女とは己が道を貫き通す強さがなければ務まらないものなのです!)
 シャノンの銃撃を飛び越え、電撃を掻い潜り、懐に入ったナナの拳が、咄嗟にかざしたシャノンの銃を弾き飛ばす。
「シャノンさんがピンチだにゃん! 今助けるにゃん!」
 ナナに石化をかけようとしたマッシュが、直後、沸き起こる炎に包まれる。直撃こそ免れたものの、衣装の端が焦げてしまっていた。
(……いや別に、一人やんちゃしてくれる分には一向に構わないけど……何でボクを巻き込むのさ?
 まったく、こんな事は今回限りなんだからねっ!)
 どこか醒めたような目でナナを見つつ、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が続けて氷術を見舞い、ナナに攻撃が向かないようにサポートする。横目で見遣った先には、魔法少女と名乗っているがもはや化物レベルのアルコリアと、魔法少女な豊美ちゃんの戦いが続いていた。
「魔法少女は、少女じゃなくなると魔女になるのさ。
 その時のショックで化物になったりもするらしいけど、ボクのように揺るがない意思があれば、ちゃんと人のままでいられるんだ」
 ズィーベンの発言は、アルコリアを見れば確からしいようにも思えた。そしてそうだとすると、とうに少女という歳を飛び越えている豊美ちゃんが未だ魔法少女でいることは、やはり伝説に語り継がれる魔法少女ということなのだろう。
「ボクは! 魔女で! 18◯歳で! 賢人なんだよ!」
 そんな主張を口にしたズィーベンだが、直後、マッシュの石化魔法を受けてしまい、石化してしまう。実績を主張したところで、実力差を覆すことは難しいというのが図らずも証明されてしまったようである。