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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

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 その後、歌菜と羽純、沙幸とウィンディは手分けして、ケガをしたゆる族や散らかった会場の整理を行った。
「歌菜が迷惑をかけたな。大丈夫か?」
「うぅ……ゆ、夢に出てきそうですよ……」
 歌菜に迫られたゆる族、高梨 理人、マスコット名『リト』も、介抱を受けてなんとか立ち直れそうな様子であった。
「お前たち、大丈夫か!?」
 そこに、バーン、と扉を開けて、六兵衛と魔穂香がやって来る。
「あっ、社長! 実はかくかくしかじか」
「そうか……分かった、お前たちは下がっていろ」
 物凄い速度で事態を理解した六兵衛が、沙幸と歌菜の前に進み出る。
「『豊浦宮』の魔法少女の皆さん、もう話は聞いているかと思います。ツアーの事件は、確かに自分たちの浅慮と無知が原因だったことは認めます。ですが、決して悪巧みをしようとしてやったわけではないことは、分かって頂けると嬉しいです。自分たちも自分たちの生活を守るために必死だったんです」
 そう言って、六兵衛が一行の前で土下座する。マスコットらしからぬ振る舞いはしかし、言い分に対する反論を言わせないほどの完璧な土下座だった。
「あなたたちが反省していることは、よく分かったよ。だからね、えっと、この場合、仲直り……って言うのかな? もし本当に魔法少女と契約したいなら、豊美ちゃんに相談してみたらいいんじゃないかな?」
「そ、そんな! 絶対無理ッス! 話し合いとかする前に消されるッス!」
 沙幸の提案に、起き上がった六兵衛が全力でブンブンと首を横に振る。どうやら『INQB』の中では、豊美ちゃんは有無を言わさず蹂躙する怪物扱いらしい。
「ふふ、豊美も随分と誤解されたものじゃの。……いや、その片鱗がないわけでもないか」
 声が聞こえ、そして現れた【真紅の魔法少女】悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、場の流れを引き継いで話を続ける。
「古来より、魔法少女とマスコットは、切っても切れぬ間柄。
 『豊浦宮』には魔法少女がおるが、マスコットがおらぬ。『INQB』にはマスコットがおるが、魔法少女がおらぬ。お互いがお互いを欲していると言えよう。
 おぬしたちが心を改め、正しき魔法少女の姿を理解してくれたなら、わらわたちはお互いに良きパートナーとなるであろう。
 ……どうだ? わらわたちと手を取り合ってみぬか?」
「『豊浦宮』からそんなことを言われるとは、思ってもみなかったッスよ。どうっスかね、魔穂香さん。一考の価値ありと思うんスけど」
「あー……まあ、いいんじゃない?」
 話を振られた魔穂香が、興味なさげといった感じに呟く。
「決まりッスね。それじゃ――」
 と、その瞬間、六兵衛の携帯が着信を告げる。マスコットらしからぬ器用ぶりで携帯を操作した六兵衛が、通信に出る。
「私だ、どうした? ……な、なんだって!?」
 直ぐに六兵衛の表情が険しいものに変わり、何度かやり取りがあった後、六兵衛が一行に振り返る。
「近くで、『豊浦宮』と『INQB』、それにフリーの魔法少女同士の衝突が起きてるそうです!」
 かくかくしかじか、と現場の状況が伝えられ、『INQB』の社員は同僚の安否確認に動く。
「豊美ちゃんも現場にいるんだって! 私たちも行こっ、羽純くん!」
「ああ、行こう、歌菜」
 歌菜と羽純、そして沙幸とウィンディが現場へと飛ぶ。
「魔穂香さんも行くッスよ! 今行かないとたくさんの同僚がやられちまうッスよ!」
「えー……いや、私がやる必要あるの? 魔法少女なんてたくさんいるんだし、別に私じゃなくてもいいんじゃない?」」
 六兵衛が魔穂香に指示するが、肝心の魔穂香はダルそうに地面に座り込んでいた。六兵衛が動かそうとしても、魔穂香に動く素振りは見られない。
「わ、私たちも現場に向かった方がいいんでしょうか? ……あれ? ベア? どこですか?」
 カナタと緋桜 ケイ(ひおう・けい)と一緒に来ていたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、さっきまで一緒だったはずの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の姿が見えないのに気付いた時には、当のベアは座り込む魔穂香の傍に歩み寄っていた。
「おまえも魔法少女なんだろ?」
「……何? そうだけど、それがどうしたって言うの――」
 座り込んだまま見上げてくる魔穂香を、ベアがその胸倉を掴み立ち上がらせ、
「呈路・非難荒(ていろ・ひなあれ)!」
 『正しき路を呈し』『悪しき行いを非難する』という必殺技――しかし見た目には往復ビンタ――を食らわせる。
「魔法少女ってのはみんな、大切な何かを護ろうとしているもんだろが! そんな無気力な魔法少女で大丈夫なわけねーだろ!
 どんな理由で魔法少女になったか知らねーが、ちゃんとしやがれ!」

「…………」
 頬を紅くして、魔穂香が呆然と下を向く。
「ちょっと、何するっスか――」
 魔穂香を助けようとした六兵衛にも、ベアは同じように『呈路・非難荒(ていろ・ひなあれ)』を食らわせる。首が折れるんじゃないかというほどに捻られ、返す手で元に戻された六兵衛に、ベアの言葉が降る。
「これは同じゆる族に対する、俺様の愛の鞭だ……! 魔法少女が輝くも輝かないも、マスコットの働き次第だろーが。
 おまえはマスコットの役目を果たしてねー!」

 もう一発、そんな勢いで振り上げられたベアの腕が、背中に押し当てられた感触にピタ、と止まる。ベアの背中には砲身が押し当てられ、その明らかに自分の背丈より長い砲身の先、トリガーに手をかけ、魔穂香が険しい表情で立っていた。
「……私が責められる分にはいいけど、六兵衛を責めるのなら、撃つわよ」
 ソアが両者を見遣ってあたふたと心配する中、首だけ振り向けて魔穂香を見たベアが、フッ、と笑って答える。
「いい目してんじゃねーか。これならまぁ、心配ねーな」
 ひょい、と六兵衛を投げてよこし、悠々とソアの元へ戻ったベアは、しかしソアの振るったステッキにぶっ叩かれる。
「いってぇ! ご主人、いきなり何するんだ――」
「ベーアー!! あんなことして、もしも何かあったらどうするつもりだったんですかー!!」
「いや、何もなかったんだから別にいいだろ――いってぇ!」
 二発目を食らい、地面を転げ回るベア。その後もう二発ソアからお仕置きをもらったので、これでおあいこ……にしてはベアのダメージが大きい気がするが、気のせいである。
「……大丈夫?」
「うぅ、首がもげるかと思ったッス。……えへへ、魔穂香さんが助けてくれるなんて思わなかったッスから、ビックリしてるッス」
「……別に、私以外の人にちょっかい出されるのが、気に入らなかっただけよ」
 プイ、とそっぽを向いてしまう魔穂香を、六兵衛はなおもニコニコしながら見つめる。
「……分かったわよ、今日だけちゃんとしてあげるわ。六兵衛、案内しなさい」
「了解ッス!」
 意気揚々と飛び立つ六兵衛に、魔穂香も召喚した銃に乗って後を追う。
「わ、私たちも行きましょう! ……あっ、ケイ……ケイは、どうしますか?」
 目を回してグッタリしているベアを引きずって、ソアが呼びかけたところで、ケイを気遣う言葉を口にする。ケイは過去に起きた事件がきっかけで、魔法を行使できなくなっていたのだ。
「……ケイ、おぬしならきっとなれると、わらわは信じておるぞ」
 カナタに言われ、頷いたケイが自らの掌を見つめ、グッ、と拳を作る。
「今の俺は、魔法が使えない……でも……夢と希望の存在である魔法少女を貶める行為を、俺は見過ごせない!
 魔法少女の真の姿を示したい……【悠久魔法少女】として!!」
 意思を込めた言葉をケイが放つと、瞬間、握った拳が光を持つ。その光は腕から肩、そして全身へと広がり、ケイを魔法少女へと変身させていく。
 そして、光が収束した後には、両手に光る血煙爪――命名:ヤドリギ――を持ち、【悠久魔法少女】に変身を果たしたケイが立っていた。装備が魔法少女っぽくないという指摘があるかもしれないが、ちゃんと変身しているので魔法少女である。大丈夫だ、問題ない。
「で、出来た……! 魔力がないはずの俺が、魔法少女に変身出来た!」
 自分の姿を見、ケイが感嘆の声を漏らす。カナタがうむうむ、と微笑んで頷き、ソアがまるで自分のことのように喜びを表現していた。
「よし、行くぞ!」
 ケイとカナタ、ソアとベアが屋上を飛び立ち、激戦が繰り広げられているという現場へと向かう――。