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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

リアクション

「……ねぇエミリア、ホントにこの格好じゃなきゃだめ? か、かなり恥ずかしいんだけど……」
「何言ってるの繭、ケンカしてるのを止めたいんでしょ? そのためには必要なことなのよ」
 エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)がそう言って、マントで全身を隠すようにしている稲場 繭(いなば・まゆ)のマントを半ば強引に剥がしてしまう。露になった繭は、スク水にマント、顔には仮面という出で立ちであった。
「さ、行くわよ繭! ……乙女の心が高ぶる時!
 自身もスク水、しかもヘソ出しスタイルのエミリアが、膝をついて両手で円を描くような動きを取る。
「あ、現れたるは美しき女神!」(は、恥ずかしい……!)
 顔を紅くしながら、懸命といった様子で繭がエミリアの背後に立ち、伸びをするような姿勢を取る。

「マジカルエミリー!」
「み、ミラクルコクーン!」
「少女の夢を守るためただいま参上!」
「ケンカする子は……おしおきしちゃうぞ?」


 魔法少女な――本人たちは違うと思っているようだが――名乗りをあげ、繭がやっぱり恥ずかしいらしくマントで身体を隠しながら呟く。
「魔法少女同士がケンカしてるなんて、嫌だな……なんとか仲直りしてもらえるように説得――」
「あなたたち、そこまでよ! マジカルサンダー!」
 しかし、繭の思惑を完全に無視する形で、エミリアが争いを続ける魔法少女たちに電撃を見舞おうとする。
「って、エミリア、なんで攻撃してるの!?」
「だって、言うこと聞かない子にはお仕置きって、豊美ちゃんもよくやってることじゃない」
「そ、そうかもしれないけど、でも今のって不意討ちみたいじゃない」
「当たらなかったらお仕置きにならないでしょ?」
 実は『可愛い子を気絶させてお楽しみ』を目論んでいたエミリアと繭が言い争っていると、そこに上方から声が飛んでくる。

「あなたたちの行いは、魔法少女律に反しています。
 魔法少女として間違った行いをこれ以上続けるようであれば、私があなたたちに断罪を下します!」


 エミリアの行動を、魔法少女の行いに反する行為と判断したフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が、二人に向けて警告を発する。
「魔法少女の評判の悪化は、いずれイルミンスールの問題へと繋がりかねない。ハイジ様が不在の時に限ってこのような問題、大事にするわけにはいかないわね」
『そうかもしれないが、だとしてもこの騒ぎ、放っておいて問題ないと思うんだが。……いや、そもそも手遅れ――』
 フレデリカに真紅の魔道衣として装着されているグリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)の呟きは、キッ、と表情を険しくしたフレデリカに遮られる。ここでうっかりフレデリカの気を荒立てれば、火の粉が自分に降りかかりかねない。主と一緒に焼死は御免被りたい。
『い、いや、なんでもない。……まぁ、気が済むようにやればいいさ』
 ともかく、主を守ることを優先しようと決めたグリューエントが、口を閉ざす。
「先程の行いに対し、言いたいことがあれば聞きましょう。その上で最終的な判断を下します」
 半官の名に相応しい立ち振る舞いで回答を迫るフレデリカに、繭がエミリアに泣きつく。
「ど、どうするのエミリア!? 何か誤解されちゃってるよ」
「ちっ、いいところで邪魔が入ったわね。逃げる……にしても簡単に逃がしてくれそうにないわね」
 抱きついてくる繭の感触を楽しみつつ、エミリアがどうしようかと模索していると――。

「ついにあたしの時代がキタ〜!!
 魔砲少女マジカル★プリチー! 魔法少女になっちゃえば、もう何も恐くない!!」


 繭とエミリア、フレデリカの間を、飛空艇に乗った山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)が翔け飛び、手にした銃を乱射する。
「マジカルバレット! ティロ・フィナール!!」
「きゃ! う、撃ってきたよエミリア!」
「しゃべってないで走る! 逃げるわよ!」
 エミリアが繭の手を引き、その場から離脱を図る。
「……これで、あたしが活躍すれば、未だにあたしの名前を覚えられない玲や、あたしをバカにしてるささらを見返せるわ!
 あたしはね! 主人公なのよ!!」
 どうやら魔法少女イコール主人公と思っているらしいミナギが、調子付いて銃を四方八方に撃ちまくる。
「ああぁ、ミナギさんマズイッス、伝説の魔法少女、豊美ちゃんが近くにいるッス! バレたらお仕置きじゃ済まないッスよ!」
 そんなミナギを見、『INQB』のゆる族、佐々本 真紀、マスコット名『マキナ』が頭を抱える。
「うぅ、どうしてこうなったッスか……そもそもはと言えば……」
 マキナが、少し前に自分の身に降り掛かった出来事を思い返す――。

「そこのプリチーなパラミタペンギン風なゆる族! あたしと契約して魔法少女にさせなさい!」
 その声が自分に向けられたものだと気がついたのは、横っ腹に穴を開けられてからだった。確かに自分はパラミタペンギンなるものに似ていると思っていたが、それにしたっていきなり撃たれるのは絶対おかしいと思う。
「でも、あんさんシャンバラ人じゃないッスか。地球人でないと契約できないッスよ」
「そうなの? じゃあ、玲が契約しなさい!」
「私が……まあ、ミンキーさんがどうしてもと言うのなら……」
「だからー、あたしはミナギって言ってるでしょ!」
 反論するミナギを無視して、獅子神 玲(ししがみ・あきら)がマキナに歩み寄る。
「そういうことですので……ああ、一つ聞きたいことがあります」
「何スか?」
 まあ、契約取れるならいいかな、そう思っていたマキナは、次の玲の言葉に身が凍りつく思いがした。
「……契約すれば、お腹いっぱい食べられますか?」
「…………」
 咄嗟にマキナは思った。ここでいいえと首を振れば、喰われる、と。
「ええ、ええ、そりゃもちろん、ご飯なんていくらでも食べられるッスよ!」
「……そうですか」
 フフ、と玲が微笑み、そしてスッ、と手を差し出す――。

「もうあの時に、ウチの運命は決まってたッスね……」
 絶望紛れに呟いて、マキナがその契約者である玲を見上げれば。
「……ああ、戦闘ですか。分かります……この場には、大勢の強者がいます。
 戦いたい……血が、血が疼きます……強者と戦いたい、そう身体が求めるのです……」
 髪を金色に光らせ、何やら狂気めいた言葉を呟きながら、ゆらり、と剣を抜く。

「魔剣少女あきら☆マギカ……ふふっ、皆、切り捨ててあげます……!」

 魔法少女な名乗りをあげると、玲も戦場へと踏み込んでしまった。
「玲さんまで……だ、誰か止めてくれる人はいないッスか!?」
 マキナが助けを求めるように声を上げると、それまで事態を静観していた獅子神 ささら(ししがみ・ささら)が進み出る。
「ふふっ……こうして久しぶりに皆で外出したと思ったら、魔法少女になるためとは……ぷっくくっ! 今時それはないでしょ」
 ささらの吐いた言葉に、もしかしたら止めてくれるのか、マキナが一縷の望みを託すように見つめれば。
「まあ、面白そうですし……見てて楽しそうなので、どこまで出来るか一緒になって見ておきましょう」
「……え?」
 言うが早いか、ささらが『魔槍男女ささら』への変身を果たすと、呆然とするマキナを置いて戦場へと振り向く。
「一応、玲とミナギの監視役でもありますしね。ほら、ミナギさんなんて頭から喰われそうな感じですしね?」
 呟くささらが見つめる先では、
「……あなたたちは問答無用で断罪よ! 喰らいなさい、『グリューエント・ランツェ』!
 フレデリカが、弓に炎の魔力を集め、まるで巨大な槍のように番えた矢を放ち、縦横無尽に飛び回っていたミナギを包み込むように焼き払っていた。炎に喰われたと見れば、ささらの指摘も的を得ていたと言えよう。
「というわけですので、ワタシも行ってきますね」
 心底楽しそうに笑って、ささらもマキナを置いて飛び去っていく。
「……もう、どうにでもなればいいッスよ……」
 一人残されたマキナは、呪詛を呟くように愚痴をこぼしていた――。