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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

「俺たちも行った方がいいでしょうね」
「私もあの方…ラナロックに共感する物があります。我々も後を追い、一刻も早く犯人を発見、捕縛する事を臨みます」
 幸祐、ヒルデガルドが全員に訴えかけ、全員に出発しようと提案するが、しかしそれを雅羅が止める。
「ちょっと待って。もし、先輩と一緒に行動したとして、先輩が犯人を見つけたら…きっと暴れちゃって、私たちじゃ手が付けられなくなると思う。だから――私たちは別行動の方が良い。要は先輩よりも早く犯人を見つければいいって事になるし――」
「そうだな」
 肯定の言葉を挟んだのは、静麻。そしてそれに続いて可憐が言葉を繋げる。
「あの先輩……ラナロック様…でしたっけ。あの人と一緒に動くときっと、あの人が暴れたのを止めたりしなきゃならないんですよね。そうすると時間かかっちゃうし…」
「だったら私たちで犯人捜しちゃえばいいよねぇ」
 可憐に続きアリスがにっこりと笑みを浮かべてぽん、と手を叩く。
「成程な。ならそれで行くとしよう。それで? 具体的な動きはどうしていくんだ?」
 カイの問に対し、再び可憐が声を放った。
「具体体に…ですかぁ。とりあえずは身動きが取れる人たちで周囲の聞き込みとか、どうです?」
「なら、あたし等は引き続きネット上で情報を集めてみようかね」
 と、そこで樹の言葉に続き、コタローが一同に提案をする。
「こた、しょーくーがくえんにょ、ぱしょこんをつかいたいろ」
「うーん? 学園のパソコン? なんでまた?」
「はんにんしゃん、うぉううしゃんのころ、しってうひと、かもと、おもったお。しょれで、うぉううしゃん、しょーくーがくえんしょちゅぎょーしらから、おろもらちかと、おもった」
 アリスとコタローのやり取りをきき、一同が「成程」と頷いた。
「よし。ならば聞き込みをする人と蒼空学園に向かう人とで別れて行動するとしましょう」
 幸祐の言葉に雅羅が反応する。
「なら、私は一度蒼空学園に向かうわ。その方が、彼女たちがいるのも不思議じゃないと思うし」
「兎に角、この部屋を出て行動しましょうよ」
 渚が一区切りをいれ、一同はウォウルの部屋を後にし、一路蒼空学園へと向かう。
 ウォウルの部屋から蒼空学園まではそこまで距離もなく、故に一同が急いで向かえば数分で到着してしまう。その道すがら――
「そうだヒラニィ。さっき何を言いかけてたの?」
 ふとそんな事を思い出した鳳明が、隣のヒラニィへと尋ねた。
「そ、そうであった! 忘れてた! わしは見たぞ! 犯人が分かったやもしれん。いや、これはもう殆ど決定に近い! と思う」
「へぇ! 凄いじゃん! で? 犯人は誰なの?」
「それは……――」
「それは?」
 ヒラニィが目一杯溜めてから、鳳明の方を向き、人差し指を立てながら真剣な面持ちでそれを告げる。
「衿栖だ!」
「えぇ! 何その突拍子もない推理!?」
「いや、これは別に突拍子もない話ではない! だって聞いたもん、あの書置きを残したのは衿栖だと」
「……嘘でしょ…?」
「まさかあやつがこの事件の黒幕だったとは……あやつめ、色んな人を捕まえては操り人形にしているに違いない! てか、あざといし!! だから鳳明よ、ウォウルを見つけ出し、なんとしても衿栖を止めるぞ!」
「そんな…衿栖さんがこの事件に関与しているなんて……っ。今のところウォウルさんが誘拐されて以降は何も起こってないんだよね。って事は、ウォウルさんを見つけ出して衿栖さんを止めれば――」
 ヒラニィと鳳明のやり取りを、その僅か後ろで見ている緋雨、麻羅、天樹は苦笑を浮かべている。
「ねぇ…止めなくていいのかな? なんか話がとんでもない方向に流れて行ってるけども……」
「うむ、これで仲間割れ等が起こればそれはそれで厄介じゃな」
『大丈夫じゃない? 面白そうだし』
 そうこうしているうちに、一行は学校前に到着し、足を止めた一同がもう一度状況の確認を始めた。
「とりあえず俺とヒルデガルドは聞き込みに行こうと思います」
「集合地点は蒼空学園内、パソコン室ですか?」
「俺たちも聞き込みをしよう。良いか? 渚」
「うん、ただパソコン見てるだけよりそっちの方が私も良いわ」
「私も聞き込みします! (早く衿栖さんを止めないと……っ!)」
「うむ! わしもだ!」
『えー……暑いし眠いよ』
 幸祐、ヒルデガルド、カイ、渚、鳳明とヒラニィ、天樹がそう言い、行動を開始する。聞き込みをする為に彼らの中で区画を決め始めた。
「雅羅様、私たちは貴女と共に行きますよっ」
「ありがとう、可憐さん」
「でも、あんまりこっちに人がいてもしょうがないわよね?」
「わたくしたちも聞き込みに参りましょう。みなさん、お待ちになってぇ!」
「おいおい、そんなに慌てて走ると転ぶぞ、セレア」
「わー、置いてかないでくださいよー!」
 緋葉の呟きに対し勇刃、セレア、友見が聞き込みに回る一行の方へと走って行った。
「私たちもちょっと外で動いてみようか。良い? アデリーヌ」
「えぇ。それでは雅羅様、後ほど」
 さゆみとアデリーヌは聞き込みに向かった一行とは反対側へと向かって行った。
「じゃあ、そろそろ俺たちも行きますか」
「そうね、ぐずぐずはしてられないみたいだしね」
 真人、セルファの言葉に頷いた一同が蒼空学園へと向かう。
「そういえば雅羅様、貴女様とその、ウォウル様、ラナロック様とはどういったご関係なのですか?」
「あぁ、確かに気になるねぇ」
 蒼空学園内に入った雅羅たちは、パソコン室に向かいながら会話をしている訳であり、可憐とアリスはふと、そんな事を雅羅に尋ねた。
「あぁ……なんだろう、“通りすがりに厄介事に巻き込まれた”って感じで知り合ったんだけどね……あはは……」
 苦笑を浮かべながらに言う彼女、何やら思い出したらしく、そのまま肩を落とした。
「まぁ、あの人強引ですからね。確か貴女が巻き込まれて…がきっかけでしたっけね」
「へぇ、そうなんだ。あたしたちはほら、コタローが蛙に興味持ったってのがあるからさ。そこまで巻き込まれた感じはないんだが」
「かえうしゃん!」
「うーん、私もどっちかっていうとそこまで巻き込まれた訳じゃなくて、偶然会ったから協力したって感じ」
 樹、コタロー、結が順々に述べる。
「兎に角、悪い人たちではないのはわかるって、そのくらいよ」
「へぇ、そうなんですかぁ……」
「なんか会ってみたいかもねぇ、その先輩」
 いまいち理解出来ていないのか、「ふーん」と言った様に返事を返す可憐と、何やら面白そうにからから肩を揺らして笑うアリス。
「で、此処がパソコン室。放課後だから殆ど誰もいないけどね」
 扉を開き、一同を中に招き入れる雅羅。すぐさま部屋の一番奥、窓際の席に着いた樹とコタローがパソコンを立ち上げる。
「そう言えば、レキさんとカムイさんの姿が見えないですけど…」
 真人が誰にともなく尋ねると、結が苦笑している。
「なんかね、先輩のお部屋でお茶してたよ。“少しお茶でもしてウォウルさんの帰りを待ってすよ”ってさ」
「あーあ…私もそうすればよかったかなぁ。なんだってあの先輩の為に……はぁ」
 それを聞いたセルファが肩を落とした。
「なんだ、そんなにヘラ男の事嫌いなのか?」
「う!」
 樹がニヤニヤと冷やかすようにセルファへ振り返って声を掛けた途端、彼女の膝に座るコタローが声を上げた。
「けいじびゃん、かきこみあったろ」
 「何々」などと口ぐちに言いながら一同がパソコンに目をやった。
「『元蒼空学園の生徒……リカインと申します。如何なさいましたか』か。書き込まれた時間もそれほど経ってねぇしな、返事、書いてみたらどうだ?」
「あい」
 軽快なタイピング音だけが部屋に響き渡る。静麻の言に返事を返したコタローが返事を入力する音――。
「あ、また返事だ」
「『人攫いですか、何かお力になれそうな事はありますか?』、わわ、良い人ですね!」
「何を聞けばいいんだ? とりあえず、人手不足ってのは、書いといていいよな…コタロー、頼むぜ」
「あい」
「あとは……ヘラ男と小娘の身辺について、かな」
 樹が何やら呟きながら顎に手を当てる。その呟きを聞いていたコタローが返事を入力し始めた。

『コタ:ウォウル・クラウンと言う人と、ラナロック・ランドロックと言う人の情報を調べて貰えませんか?』
 暫くの待機時間。
『リカ:わかりました、最大限は調べてみましょう。わかり次第この掲示板に書き込めばよろしいですか?』
「おぉ…なんか順調だ」
 静麻が驚きながら画面から顔を離す。
「なぁコタロー、お前のアドレスおいてやれ、ソッコー消せば特に何もない。情報はそっちに送って貰えると助かるだろ」
「あい! こた、あどれしゅ、おきまう」
『リカ:わかりました。それでは後ほど、情報が集まり次第ご連絡を差し上げます。』
「ふぅ……もしかしたら大きな一歩、なのかも?」
 真剣に画面に目をやっていたからだろう。結がため息をつきながらそう呟くと、雅羅が「だといいけれどね」と笑顔になった。
「それで? 此処に来たのはこれの為、なんですか?」
 真人はふと樹とコタローに向いた。
「いや、違う。それならコタローの持ってるパソコンで充分なんだよ。違うんだ、これからこっちでも、ヘラ男と小娘の身辺情報を攫う。時間はまだあるだろ?」
「大丈夫じゃない? コタローちゃん、ファイトよ!」
「あい! こた、がんばう!」
 コタローは渚のエールに対しそう意気込むと、今までの更に上を行く速度でもってキーボードを叩き、学校の全校生徒情報画面を画面に表示させた。