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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

 ラナロックが連れて来られたのは、とある一室。それがどこだか、彼女は良くわからないままだ。
部屋は何やらパーティの用意をしているらしく、飾りがいたるところから伸びていた。
「それで? 貴女たちは何かしら? 私はここまで連れてきたのは何が目的?」
 当のラナロックは、部屋に備え付けられている椅子に座らされていた。手足はロープで雁字搦めにされている為、抵抗と言う抵抗が出来ないが、彼女の口調のそれ自体が別段軽快している様子もない。
「あちきたちは貴女のパーティを警戒してましてねぇ……ご協力いただきたいなぁ、なんて思ってるんですよぉ」
「ちょっとレティ、やっぱこれは不味いって。ほら……お姉さん睨んでるし……」
「睨んでないですわ。元からこんな感じですのよ」
 レティシアとミスティが話しているのを見ていた彼女は、鼻で一度笑うと、そっぽを向いた。どうやらこの状況に対し、何を思っているでもないよだ。怒りも、喜びもない。
「何だか機嫌が悪いみたいですねぇ…でもまぁ、それもいつまで続くやら…うっふふ」
「レティ、それ……」
「まずはお化粧ですよねぇ。お洒落は女の武器ですもんねぇ」
 手にするのは化粧道具。そう言いながらゆっくりとラナロックに近付いて行くレティシアと、ため息をつくミスティ。
「ちょ……化粧って、私そう言うのは」
「問答無用ですよぉ」
「はぁ…」
 鼻歌交じりに化粧を始めたレティシア。その様子を横から見ていたミスティは、徐々に出来上がって行くラナロックの化粧を見て目を真ん丸く見開く。
「うっそ……何この人」
「ありゃりゃ? 随分とお化粧の乗りがいいですねぇ……もしやすっぴんさんなんですか?」
「……悪い、かしら?」
 完全に出来上がり、距離を離してラナロックを見る二人。やり遂げた感よりも、彼女の変貌ぶりに息を呑んでいるらしい。
「まぁ……随分べっぴんさんとは思ってたですけど、まさかこれほどとは思ってなかったですねぇ……」
「なんか、同じ女として、びっくりだわ…」
 二人が唖然としている背後から、佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)がそれぞれ着替えて現れた。メイド服を着たアニス、スノーと、執事セットを着ている和輝。
「変じゃ……ないか? この格好」
「大丈夫だよ! それにしてもこのメイド服、可愛いでしょ。どう?」
「私は……着慣れないから恥ずかしいんだけど……」
どうやらまんざらでもない、と言った様子の三人は、しかしそこでラナロックの存在に気付き、ふと彼女を見た。
「……もしかして、ランドロックか…?」
「わぁ……綺麗! でも何で縛られてるの?」
「そう言う趣味、って感じでもないわよね」
「今ご招待したんですよ。お化粧が終わったので、そろそろお着替えです。アニスちゃんとスノーちゃんはお手伝いして欲しいんです」
「わ、私も手伝うのかしら?」
「勿論、ミスティにもです」
 どこからともなく取り出した紫色のカクテルドレスを取り出したレティシアが、にんまりと不敵な笑みを浮かべてラナロックに詰め寄って行く。
「ま、待て待て。俺はどうしていればいいのさ?」
「お外で待機していてくださいなぁ。着替え終わったらお呼びするですよ」
「お、おう」
 返事を返した和輝は足早に彼女たちがいる部屋を後にする。
「さぁて…それではさっそく」
「そんな動き辛そうな格好は、その、嫌なのだけれど……って聞いてます?」
 同様の色を隠せないラナロックは、しかし四人がかりで強引に着替えさせられる事になった。


「で、此処何処……」
 北都がきょろきょろしながら辺りを見回した。
「敵の秘密基地、には見えないが…」
 フィーアは至って真面目に答えるが、北都は彼女の返しに苦笑を浮かべている。
「もしかしてウォウルさんを誘拐した犯人って、同一人物?」
「でも、なんででしょう? 身代金の要求とかもなかったって事は、あんまり目的のない物だと思いますけど」
 美羽の言葉に、何か含みを持った衿栖がわざとらしく言った。どうやら彼女の中では彼女なりの答えが導き出されているらしかった。
「だが、ウォウルとやらの匂いは此処にはないぞ?」
 カイは至って真面目な顔でそう呟き、北都にならって周囲を見回した。
「どうでも良いが、ねーちゃんが一人で犯人に会ったら不味いんじゃねぇのかい? 全く関係のねぇマンボウですらすぐに撃ったぞ?」
「俺も撃たれた……いきなりだぜ?」
「そうだな、それがしもいきなり撃たれた。あれには些か驚いたが、致し方がないのだよ。青年」
 と、アキュート、陽、ウーマが話していると、ルーシェリアが何かを見つけた。廊下に立っている、一人の人影。
「あれぇ……誰かあそこにぃ――」
 それは着替え中の為、部屋を出て来ていた和輝の姿。
「あれ、お久しぶりです」
「どうもぉ」
 淳二と託が立っている執事姿の和輝へと声を掛けに行った。
「お、久しぶりだな。二人とも、あれか? みんなもラナロック先輩の誕生パーティに来たのか?」
「それをしたいのはやまやまなんですけど……今はちょっと違う用事が立て込んでて」
 彼の疑問に対し、苦笑を浮かべる衿栖が答えた。
「そうか。だったらなおの事、何で此処に?」
「ラナロックさんを取り戻しに来たんですよ」
 リオンは表情なくそう答えた。
「取り戻しに? なんだ、だから縛られたのか、彼女は」
「って事は、この部屋の中にいるって事だよね」
 北都が扉のノブに手を掛けた時、和輝がそれを止める。
「今着替えてるんだぜ? 開けない方が良いと思うが……」
「着替え?」
 美羽が全員の質問を代表し、首を捻る。
「あぁ、なんか凄い豪勢なドレスみたいな物だった気がするが……」
「お待たせ――って、ありゃ、みなさんお揃いで」
 和輝を呼びに来たアニスが扉から顔だけを出すと、全員の姿をみてお辞儀した。
「着替え、終わったのかい?」
「え? ……えと、一応終わったけど…」
「なら、お邪魔しますよ」
 アキュートに返事を返したアニス。その言葉を聞いた淳二が部屋に入った。途端、彼の動きが固まる。
「あれ? どうしたの淳じゅん……ってわぁぁっ!」
 後を追った美羽も、部屋に入るや驚きの表情を見せる。ぞろぞろとその後を追った一同も、同じ反応をした。何せ部屋には、今の今まで見ていたラナロックとはまるで別人の様な姿の彼女が立っているのだから。
不承不承、と言う顔ではあるものの、どうやら全員が自分を見ているのがわかったのか、顔を赤らめる彼女。
「やぁみんな。いらっしゃい」
 レティシアは何と言う事もなく、一同に声を掛ける。
「って、みんな固まってるわよ?」
 ミスティが一人ひとりの顔の前で手を振って、反応がない事を確認する。
「な、何よ……」
 ラナロックは全員のリアクションの意味が分からず、思わず窓の前に歩いていく。が、どうやら自分でも意外だったらしく、更に顔を赤らめた。
「な、何……これ!?」
「先輩、綺麗だねっ!」
「ですねぇ」
「うぉ! 見直したぞラナロっちゅん! まぁ今日知り合ったばっかなんだけどさ」
「いや、てか別人だろ。寧ろ詐欺か?」
 美羽とベアトリーチェが慌てて笑顔を作り、そう言った。圭介の反応を見て、訝しげにラナロックを見つめるフィーアは、相も変わらず無表情である。カイも、言葉を失った事に対し咳払いをしてごまかす。
淳二と陽は未だ硬直したままその場に立ち尽くしていたし、アキュートも彼で、何も言わずにその姿を凝視している。
「ま、当然の反応って言えば当然ですね。皆さんの反応は」
 スノーが冷静にそう呟く。と、ラナロックは慌てて外されていたホルスターを腰に巻き、急いで部屋を後にする。そのままの格好で、彼女は外へと飛び出した。
「あ、ちょっとぉ!」
 レティシアが残念そうに彼女の後姿を見送る。
「みんなぁ! 追いかけなきゃ!」
 託は慌ててそう言い、その言葉で全員が再び動きを見せた。
「時間稼ぎ、失敗なんじゃない?」
「そんな事はないですよ。これも立派な時間稼ぎ。あちきたちはちゃっちゃと準備を進めちゃいましょぉ」
 慌てて飛び出して行った面々を見送ったレティシアとミスティは、そう区切りを入れて飾り付けの準備を再開するのだ。
「レティお姉ちゃん、この飾りは何処におけばいいかな?」
「それはこっちにおいてくださいねぇ」
「私は何をすれば……」
「あの高い所の飾りつけをお願いしますよ」
「いや、しかし……こんなに短いスカートでは、その……」
「大丈夫よ、男の人は貴女のパートナーだけだし、その彼は今ラナロックさんたちを止めに行ってるわ」
 スカートを気にするスノーに対し、ミスティが笑いながらそう言った。
 出入り口の方へと向かっていた和輝は、後ろからやってくるラナロックに気付き、彼女の進路に立ちはだかっている。
「ちょ、ちょっとランドロック。あんたが主役なんだぞ、出て行ってどうするんだ?」
「…………」
 止めに入った和輝はしかし、彼女の潤んでいる瞳を見て思わず後ずさった。
「そ、そんな顔されても……」
 などと言うが、彼女が最後までその言葉を聞くまでもなく、急いで彼の横をすり抜けて飛び出して行った。
「和輝さーん、ちょっと通してくださいぃ!」
 遠くからベアトリーチェの声が聞こえ、急いで通路の端に避ける彼。
「なんだなんだ……忙しいなぁ、全く」
 彼はそうぼやき、再びレティシアたちが作業している部屋へと向かった。