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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

     ◆

 一同がそれぞれ、色々な意味で奮戦している最中、アンノウン8のアジトの一角では、それはそれは優雅なお茶会が催されていた。とは言え、その場にいるのはレノア、綾瀬、ウォウルの三人。
「いやいや、まさか此処まで連れて来られて、こんなにおいしいお茶をご馳走してもらえるとはねぇ、本当に驚いたよ。いやはや」
 相も変わらずにへらにへらしているウォウルがお茶をすすりながら、両側にいる二人を交互に見た。
「しかも両手に花。これはきっと何かの夢だね。そうに違いない。うふふ」
「ウォウルさん、キモいですわ。笑い方が」
「激しく同感ですな」
 静かに紅茶をすする二人がそう言うと、「困ったね」と更に彼は笑った。
「それで、ウォウルさん。聞いておきたい事ですけれど」
「うん」
「これは貴方が仕組んだ事、ですか?」
「何を言い出すのかと思えば、綾瀬ちゃん。一体僕を何処まで過大評価すれば気が済むんだい? あぁ、僕は君をとても評価しているけれどね」
「それはありがとうございますわ。でも、過大評価ではなく、今までのことを考えてると、貴方がそうやすやすとこの様な状態になるとは――」
「さぁ、どうだろうね」
「私も気になるな。ウォウルとやら、貴様この件に一枚噛んでいるだろう」
「まぁね。だって僕は誘拐されてしまった哀れな子羊さんなんだよ? これを一枚噛んでいると言わずになんて言うんだい?」
「そうではなく、貴様の思惑やら企みやらがあるのでは、と、そう聞いているのだよ」
 ウォウルは静かにティーカップをソーサーの上に戻し、微笑みを浮かべながらに辺りを見回した。
「幾ら結果が見えていたとしても、それを急いて読んではいけない。確かに、本屋さんなどで小説の結末を読んでお買い求めになる方はいるみたいだけど、それではスリルやハラハラがない。結論がわかっていても、それは今までのプロセスがあるから楽しめるものなんだよ。だからね、然るべきと時に、段階を踏まなければ、物語は面白くない。そうだろう?」
 含みを帯びた、しかし普段とは違う微笑を前に、二人は深々ため息をついた。初対面であるレノアは「ああ、この男はこういう人間なのだ」と実感し、既に彼を知っている綾瀬は「やはりこの方は面白い」とでも言うような含みを持って、沈黙した。
「あぁ、そうですわ――」
 綾瀬は何かを思い出したかの様に、そう口を開き、再び会話を始めるのだ。

然るべき時に、段階を踏む為に。



     ◆

 彼女たちは歩く。ひたすらに目的地へと向けて。しかしその目的地は何処か――彼等はその明確な答えを知らない。
 ゴーレムとの戦闘を終えた一行は、ただなんとなく、と言った具合に歩みを進めている。ラナロックが先ほど見つけたドラゴンは、ある一時から姿を消し、故にただただ歩くのみ、となっている。
ラナロックとしては、ドラゴンを見つければ何かしら手がかりが掴めると思っていたらしいが、その可能性が費えた以上は当て所なく歩くしか、残された方法はない。と、そこで――。
「あ、もしもし、エヴァっちゃん? うん? その呼び方はやめろって? そんな硬いこと言わないでよぉー」
 美羽の携帯に電話が入る。相手はエヴァルト。
「うん、先輩? いるよ? 何、代わるの? もしかしてぇ……エヴァっちゃんラナロック先輩にホの字なのかなぁ! わわわっ! ちょっとぉ! そんなに大声出さないでよぉ、うん。わかった――先輩、エヴァっちゃんから電話。先輩に話したいことがあるって」
 美羽の発言に首を傾げる一同。当然指名されたラナロック自身首を傾げているが、呼ばれた以上は話を聞こう、と、電話を渡され口を開く。
「……もしもし……えぇ、代わりましたわ」
 どうやら怒りは相当落ち着いてきた様で、話口調もいつものそれに戻っている。
「えぇ。 本当ですの!? どちらです? ええ、わかりました。ありがとうございますわ! えぇ、そちらもお気をつけて」
 何やら邪悪な笑みを浮かべている彼女は、慌てて作り笑いを浮かべると美羽に携帯を返した。
「で、エヴァルトさんは何だって言ってたんですか?」
 リオンの質問に対し、つくり笑顔のままの彼女が振り返り、返事を返す。
「犯人のアジトがわかったとの事でしたわ。まぁ、今向かっているとところとは正反対ですけれども、方角」
 くるりと踵を返すらラナロックと、再び唖然とする一同。
「ねね、なぶら殿! あの先輩、さっきとまるっきり喋り方が違うのだ!」
「俺も初めて会ったんだ、わからないけど……さっきのは機嫌が悪かったんじゃあないのかな」
「あら、私は何も変わってませんわよ」
「「ひっ!?」」
 なぶら、瑠璃が同時に体を強張らせ、思わず苦笑を彼女に向けた。
「戻ってきたねぇ、先輩」
「えぇ、相変わらずの地獄耳、ですね。拾わなくて良い発言までばっちりで――」
 慌てて北都が再びリオンの口を塞ぐ。
「そうですかしら? 拾わなくて良い発言……ではないと思ったんですけれどねぇ」
「ごめんね、先輩。リオンはほら、素直だから」
「存じ上げてますわよ」
 相変わらずにっこりと作り笑顔をしている彼女に、負けじと作り笑顔を浮かべる北都だがしかし、それを果たして作り笑顔というのか、はたまた苦笑というのかは、実際のところ判断に困る。
「僕等もビックリしたけどねぇ………」
 気楽に笑みをこぼす託と、その横で頭をさするアキュートは「もういい加減なれちまったよ」と自嘲気味に笑っていた。