天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション公開中!

乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

「仲良くピクニックかい? どうせならあたしも混ぜてくれよ。なぁ、ねえちゃんたちさぁ」
「お久しぶりにございます」
 そこで。そのタイミングで――彼等はやってきた。
「あまり喋りすぎるなよ」
「まぁまぁ、いいじゃないのよー」
 黒ずくめが二人と、シァンティエ、刹那の四名が、一同の前に現れる。
「おやぁ? おやおやぁ? その声はもしかすると、『泣き虫ブリッヅ』に『ドンクサファハトナ』じゃあないかしらねぇ……!」
 彼等の言葉に一番に反応したのはラナロック。今までの口調が嘘の様に、再び怒りに打ち震えた声色に豹変し、目の前に現れた黒ずくめを睨んだ。
「……その名で呼ぶな、昔の話だ。にしても、ならば仮面はもう無意味か」
「うぅ……ラナちゃん怒ると、相変わらず怖いねぇ……」
 二人は仮面と黒ずくめを外し、それぞれ武器を手にした。小さな小さなハンマーを持った、体格の大きな男が一人に、猟銃を持った小さな少女がひとり。
「あれまぁ、あんたら、そんな顔してたんだ」
 シァンティエが驚きながらも口笛を鳴らす。
「に、してもさ。お姉さん。あんたそんなお上品な格好してるけど、あたしの言葉を無視ってのは、ちょっと酷いんじゃあないかいね? あぁ?」
 最後の最後。語尾が低くなった彼女は、両手に握る銃をすかさず取り出し、ラナロックへと向ける。が、そこにはもう、彼女の姿はない。
「なっ!?」
「それはごめんなさいねぇ、お姉さん。でも生憎と、用があるのはそこの二人なのよ。貴女とは後でゆっくりお話するわ」
 にっこりと笑った、不気味に笑った笑顔がシァンティエの前に突然現れる。息がかかるほどの至近距離に、突然現れた彼女はしかし、そう言うと再びシァンティエの前から姿をくらます。
「なっ!? 訳わかんねー!」
 辺りを見回し、そして背後――二人の前に既に到着しているラナロック。
「ウォウルさんを誘拐したのはぁ、あなたたちなのねぇ?」
「い、如何にも!」
「怖い怖い! 怖いってばラナちゃん!」
 男は小槌を振り、少女は手にする猟銃の引き金を引く。二人が二人で後退しながら、しかし正確な位置へと攻撃していた。それを――ラナロックは回避する。アキュートとの戦闘で見せた開脚による回避行動。
「これ、戦った方が良いんだよね?」
「その為に……我々は此処へ……」
 北都が誰にともなく呟くと、彼の近くから刹那の声が聞こえ、彼は思わず後退した。
「北都!」
 すかさず魔法を発動させ、北都に近付いた刹那を攻撃し始めるリオン。
「我は射す……光の閃刃!」
 すばやく上体を逸らして彼の攻撃を避けた刹那は、数歩後ろに下がり、二人から距離をとった。
「私たちもいます! リーズ! クローリー!」
「そら、どこにも逃げられるものか!」
 衿栖が操る人形が刹那の背後から近付き、カイが放つ銃弾によって彼女の退路を更に遮断する。
と、そこにシァンティエが現れた。銃をそれぞれ、衿栖の繰る人形の前に突き出し、人形の攻撃を受け止める。
「ああぁ! くっそ、何だってシカトされたんだ! 気にくわねぇ! あたしじゃ役不足だってのかい! ああそうかい! くそっ、くそっ、クソッタレ!」
 銃の腹で攻撃を弾き返した彼女は、そのままカイと衿栖に向けて銃口を向けて発砲する。
「くぅ! いかん、衿栖! 掴まれ!」
「はいっ!」
 カイの手を掴み、彼と共に回避行動を取る衿栖は、更に追撃へ、と指を宙で躍らせる。
「ブリストル! エディンバラ! 頑張ってきて!」
「すまない……」
「良いんだよ! それより来るぞ!」
 背中合わせのシァンティエと刹那は、すかさず横並びになって衿栖の操る人形の攻撃を回避した。更にそれを追うかの様にして、彼女の人形は左右に展開し、攻撃の動作へと移行。
「どうなってんだ!? まとめて四体操ってんのかい、あのねえちゃんは!」
「単純な形で二対一……こちらの分は悪い」
「すばしっこいなら、これでどうだろうね」
「行きますよ、北都!」
 二人は共に、氷術を自らの前に展開し、それを回避に専念する刹那とシァンティエへと飛ばした。
「くっ! 後方支援まで…厄介な」
「ほら、口動かしてないでさっさと何とかしようぜ!」
 いいながらも、シァンティエと刹那は、互いに互いをカバーしあいながら何とか攻撃をかわし続ける。

「ラナロックよ。お前はいつも熱くなると後先考えずに動くな」
「煩いなぁ、いい加減ちょこざいんだよ。あんたはぁ!」
 それはそれは、まるで連射式のマシンガンを彷彿とさせる様な速度で二挺の拳銃を撃ち回すラナロックの攻撃を、男は懸命に避け、弾き、また避けている。
「でもでも、それじゃあ攻撃は当たらないよ!?」
「数撃ちゃあ、あたんのよぉ! こんなもんっっ!」
「ひゃっ!」
 突然自分の下へと向けられた彼女の銃弾を回避しようと、少女は慌てて首を引っ込めた。
「あぁあぁあああぁ! もおおおぅぅぅぅっ! ちょこまかとぉ!」
「先輩、大丈夫!?」
 彼女の前に現れたのは、託となぶら、瑠璃。
「助けに来たのだ!」
「割り込んでみたいけど、俺たちで大丈夫なのかぁ?」
 瑠璃の言葉になぶらが不安げに呟いた。
「俺たちが動きを止めるよ。その隙に先輩は攻撃を――」
「ありがとう。でも気をつけてね、今の私、見分けつかないわよ。つける気も、ないんだけどねぇぇ!?」
 突然走り始めるラナロックに援護をする三人。瑠璃は男の脇へと一足で踏み込み、拳を強く強く握った。
「何処誰かは知らないが、悪は即刻倒すのっ、だっ!!!」
「お嬢ちゃん、悪いことは言わない。早く此処から離れる事をお勧めするよ」
 二人がそれぞれ攻撃するが、敵は両者共にそれを回避し、数歩後ろに下がった。
「二人とも、頭下げてっ!」
 なぶら、瑠璃がその声を聞き、慌てて頭を下げると、彼等の頭上すれすれに、青いチャクラムが敵目掛けて飛んでいく。
「それはずるいよー!」
 慌てて頭を下げる二人だが、その反応が間に合わなかったのか、互いに髪が風に流れた。
「あぁ! 乙女は髪が命なのに!」
 猟銃を持っている少女が、頬を膨らませたままに呟いた。
「知っている。しかしそれでもまぁよしとしろ。首が胴と泣き別れれば、乙女じゃなくとも命が落ちる」
「……むぅ!」
「外したかぁ……今のタイミングでばっちりだと思ったんだけどなぁ…」
 やや不服そうな顔のまま、託は手元に戻ってきたチャクラムを受け止めて、再び構える。
「もう! 何がなんだかわからなくなってきたけど、私たちだって負けてられないわっ!」
 手にする槍に力を込めて、鳳明が全力で直線状に槍を滑らせる。刃が付いていない石突は、文字通り突きによる威力を発揮するのだ。そして彼女はそれを放った。上体を仰け反らせ、再び攻撃を回避した刹那はそのまま更に数歩さがり、壁を背負う。そうすれば、誰に後ろを取られることもない。
「これなら……!」
 反撃を決意し、彼女が手にする武器に力を込めたその矢先――。
「抵抗はしないほうがいいですよ。次はしっかり狙いますから」
 申し訳なさそうに、そして何より降伏してもらいたいという願いを持って、ベアトリーチェが持っていた剣を振り下ろす。刹那に当たるすれすれの位置で、その剣は空を切り、再び地面を穿っていた。
「そうそう、人数が人数だから、仕方ないんだよ!」
 今度は上から声がし、故に彼女は見上げるのだ。背後に壁を背負えば平気だ、と思っていたがしかし、まさか塀の上に美羽が上っているとは全く思わなかった。故に彼女は、大きくため息をつき、手にする武器を地面に落とす。
「……降参しよう」
 同じタイミングで、シァンティエも銃を地面に放っていた。そしてそのまま両の手を上に掲げ、降参、の姿勢をとっている。
「わかったよ……ったく。何もその人数で囲むこたぁねぇだろ」
 彼女の周りには北都、鳳明、リオン、麻羅と淳二が武器を向け、完全にシァンティエを包囲していた。
「話がわかってくれてよかった。それでは――」
 淳二はそこで振り返る。嫌な気配を感じたから、なのだろう。そしてそれは、ラナロックたちの方が相手をしていた少女が撃った、苦し紛れの弾丸。淳二がそれを振り向き様に一閃すると、全力で少女に向かって走り出す。
「背後を狙うとは良い度胸じゃあねぇか! あぁ!?」
 手にする刀『妖刀村雨丸』が、少女の首下でぎらぎらと歪な、おどろおどろしい光を放っていた。
「何なら此処で死ぬか? それも悪かぁねぇよなぁ」
「うぁあ……怒んないでよ…」
 しょんぼりしながら手にする猟銃を離した少女は、降参、と手を高らかに上げた。
「ねぇ、あの人もあんな感じだったっけ?」
「ラナロックさんといい、今後は発言を気をつけないといけませんねぇ」
 鳳明が呆然とその姿を見て呟くと、リオンも苦笑ながら返事を返した。
「さて、小槌の兄さん。俺たちも此処らで巻く引きといこうや」
「それは断る」
 アキュートがにやりと笑って男へと話しかけるが、その提案を彼はなんともあっけらかんと断った。
「はっ!? なんでだよ!」
「指示は守る。”身の危険がある場合は、速やかに作戦を放棄しろ”。リーダーからの命令だ」
「それで、あんた等のリーダーは誰なのよぉ」
 ラナロックが尋ねると、観念したのか男は言った。
「それは――」