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至高のカキ氷が食べたい!

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至高のカキ氷が食べたい!
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●生きた氷像を手に入れる?

 皆も落ち着きだし、話のネタも尽きてきたころに、氷精は氷を渡した。
 話の礼だと、そういったのだ。勿論氷漬けの香奈恵も解放された。一目散に勇刃の胸に飛び込み怖かったとひとしきり泣いていた。
 氷精からもらった氷はクーラーボックス5つ分にもなった。
「わたしの氷は、わたしの魔力が切れるまで周りの水分を取り込み容器一杯の氷を作り出すだろう。
 たとえそれが熱に晒され熔けたとしてもすぐに凍る。その代わり貯蓄された魔力は消耗されるから困ったものだがな」
 氷精は自分の氷の取り扱いについて説明した。話には相当満足してくれたようだ。
「もしかしたら、氷は余るかもしれんなあ?」
 そう言って笑う。
「では、しっかりと氷の方受け取りましたわ」
 ラズィーヤがそう言う。
「また何かあれば参ります」
「ああ、お前たちなら歓迎しよう。楽しかったよ」
 手を振り氷精の住処を後にする面々を見送り、氷精は少しだけ寂しそうな表情をした。
 そして、ほとんど人が出払った氷精の住処。
「あの、話を聞いて頂けますか?」
 源鉄心(みなもと・てっしん)が切り出した。
「なにかね?」
「私は氷入手とは別の目的で来ました源鉄心と申します。教導団というシャンバラの治安を預かる組織に所属しております」
 まずは自己紹介と、鉄心は丁寧に挨拶をする。
「あなたの元で氷漬けになっている者達に関することなのですが……」
「ふむ」
 先ほどの和やかな空気はどこに言ってしまったのだろうかと思わせるくらいに、氷精の目元は細く険しくなっていく。
「お前の身内に氷を取りに来て、帰ってこない人間でもいるのか?」
「いえ、そうではありません。氷漬けになるような、他人から強奪を試みるような人間は教導団としても取り締まりの対象となっています」
 鉄心は氷精の予想を否定し、話を続けた。
「しかし、力及ばずこのようなことになってしまっている。教導団に所属する一員として、そして私個人としても大変申し訳なく思っています」
「何、気にすることは無い。氷を手に入れた者たちが話をし、それが悪党の耳に入り悪党が強奪を試みる。良くある話だ」
 ふぅと氷精は一息置いた。
「伝聞というのは古来より連綿と受け継がれてきた文化だ。わたしが氷漬けにしている人間を見ただろう?」
「ええ……」
「見た目で判断はできない。だがあそこで氷漬けにされている人間は悪党中の悪党だ。迷い込み、興味本位でわたしの下へ訪れた人間は丁重にお帰り願っている」
「その氷漬けにされた連中を私どもの方で引き取らせて頂きたいというお願いです」
 鉄心は本題に触れた。話を聞いた限り、彼女も迷惑しているのではないかと思ったからだ。
 氷精は暫く考える。
「ダメだ」
 そして答えは簡潔だった。
「どうして?」
 氷精の答えに疑問の意思を示したのはティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。
「私のお話になってしまいますが」
 そう前置きしてティーは話し始めた。
「私自身、思い出せないけれど、過去に何か大変な過ちを犯してしまったように感じてるので……、私自身が罪悪感に押しつぶされそうになってもこうやって生きていますし……もしもまだやり直せるならと思うと」
 ティーは目を伏せ何かを思い出すように話を続けた。
「記憶は一年ちょっとしかないけど、古代シャンバラ女王の時代から生きている氷精さんにとっては、なんでもないことばかりかもしれないし……」
「ティー……」
 鉄心に変わって氷精に話を始めるティー。そんなティーを鉄心は心配そうにしていた。
「辛いこともあったけれど、それと同じくらい……ううん、それ以上に楽しいことも一杯で、氷の中に閉じ込められたままなのは勿体無いですから!」
 そしてティーは顔上げ、氷精の目を見た。
「もし、任せてもらえるなら、とても、たくさん、じっくり、たっぷりと……反省してもらえるまでお説教します!」
 にこりと笑みを浮かべそう言った。
 何もできずに氷に閉じ込められて一生終えるよりも、反省し更正し、過去を悔い改め、未来を楽しく生きることはできないのだろうかと。
「ティーの話は良く分かった。だが、これはどうしてもダメなのだ」
 氷精も悲しそうに顔を歪めた。
「お前たちは個人で来ているだろう?」
「個人というよりは、依頼を受けて、ですね」
「この量の人間を一度に運べるか? 難しいだろう?」
 氷精は氷漬けにした人間を安置している部屋を指して言う。
 そこには四桁に届きそうなほどの人間が氷漬けにされて、文字通り山のように積まれている。
「もし連れて行ってくれるのなら一度で頼みたい。また来いとは言ったが、そう頻繁に同じ奴から話を聞いて氷をあげる、また人間を解放するなどということは嫌だ。連れて行くなら一度に全員だ。そう何度も来られると余計に怪しまれてしまうよ」
「なるほど……」
「もしその教導団が引き取るというのなら、教導団の頭を連れてくるか、委任状を持ってくるといい。そのときは喜んで開放しよう。鉄心、今のお前は権力を振りかざして無理やり法を通そうとしている人間に見える」
 氷精は鉄心をなだめるように言った。
「心遣いは有難い。わたしのことも良く考えてくれている。悪い奴ではないということは痛いほど分かる。だからこそ時と場合を考えることだな」
「ははっ、手厳しい……」
 鉄心は乾いた笑いを漏らし頬をかいた。
「わかりました、また来ます。今度はきちんと委任状を持ってね」
「理解が早くて助かるよ」
「犯罪者も暫く頭を冷やせるでしょうし」
「キンキンに十分冷えてると思うぞ!」
 鉄心と氷精は面白おかしく笑い声を上げた。
「ティー、また来よう」
「はい」
 鉄心は、ティーに声を掛けその場を後にしたのだった。
「そういえば、イコナちゃんは?」
「皆と一緒に行ったはずだが?」
 てんてんてん、まる。そんな沈黙の空気が流れた。
「まずい……」
 そして鉄心たちは慌ててラズィーヤとレティーシアたちを追いかけていくのだった。

    †――†

「何か考えていることがありそうな顔をしているね?」
 氷精が叶白竜(よう・ぱいろん)に声を掛けた。
「いえ、確かに考えている事はあるのですが……」
「余程のことがなければわたしは、人を邪険にしない。それに君の考えていることは悪いことではないだろう? 言ってみるといい」
「そうですね」
 確かにと、白竜は思った。考えているだけよりも、きちんと伝えてしまおうとも思った。
「では、話してみるといい」
 氷精は白竜に話を促した。
「羅儀、準備をしてもらっていいかな?」
 白竜は世羅儀(せい・らぎ)を呼んだ。
「はいよー」
 そう言って、羅儀は洞窟から出て行く。
「源さんの話のように氷漬けの人間を引き取ることができればそれが一番ですが、数が数で個人で引き取ることはできない量である。そうですよね?」
「そうだな。教導団の頭が引き取りに来る、こいつらを教導団が管理し更正するという令状でも持ってくればわたしも引き渡すことはできる。無論移送用の準備もそちらでしてもらうがな?」
 氷精はうんうんと大きく頷いた。
「わたしとしても、こいつらを手元においておくのは嫌なのだよ。下種な奴の行動は顔にも態度にも表れる。正直見るのも嫌だね」
 そう言って、氷精は氷漬けにした輩の氷をひとつ叩く。
「さっきは勢いで凍らしてしまっていたが……」
 白竜は氷精の行動を小さく咎めた。
「そ、それはそれ、これはこれだ。あれはわたしが入室を許可していない区域まで入ろうとしたからだ! それにこの住処を、何百年とかけて作り上げたこの場所に傷をつけようとしたからだろう!」
 氷精は白竜にずずいっと近寄った。
「わ、わかりました」
「分かればいい。それで話とは?」
「ええ、貴方もこう犯罪を犯すような奴に氷を狙われ続け、氷漬けの人間が増えていくのも嫌でしょう?」
「うむ、確かに」
「貴方が狙われないように、痛い目を見てもらおうと思うのですよ」
「なるほどな」
 そして、白竜は氷精に自分の計画を耳打ちした。
「ククク、それは面白い。何、真面目そうに見えて実に遊び心があるではないか」
 計画を聞き氷精は笑う。
「いいだろう、その話乗った」
「それはありがたい……!」
 白竜は礼をいい氷精から距離をとった。氷精なだけはあり吐息すら凍えてしまいそうな冷たさだったのだ。
「白竜、戻ったぞ。それとこいつらどうする?」
 羅儀が準備とやらを済ませ氷精の元へと戻ってきた。
 そしてその後ろには伸びている人間が2人いたのだった。
「丁度いいでしょう。ではお願いしてもいいですかな?」
「ああ、いいよ」
 氷精は頷き、羅儀から計画に必要なモノを受け取った。
「どうせ、そいつらはお前たちから氷を奪おうとしていた連中だろう」
「たしかに、この人数で氷精の元へ向かえば誰か1人でも氷を入手できるでしょうからね。そこから横取りすれば効率的ではありますね」
 白竜は納得した。だが、その目は横取りする人間を軽蔑するような目つきだった。
「できたよ。これでいいかい?」
 氷精の前には氷像が3体できていた。
「ついでで悪いけれど、こいつらの身動きができない程度に凍らせてもらえないだろうか?」
「まぁ、そういう話だからね。いいよ」
 氷精は伸びている人間の下へと向かい、そいつらにふっと息を吹きかけた。
 それだけで首から下が床に縫い付けられ身動きは取れなくなっただろう。
「おい、お前ら起きろ!」
 羅儀がぺしぺしと縫い付けられた人間の頬を叩く。
「くっ……何をした」
「何をしたって。人の氷を横取りしようとする悪い奴らに制裁をしただけだぜ? なあ、白竜?」
 白竜の方を向き、羅儀が話を促した。
「そうですね。それと氷精から協力を得たので、今後、氷精から氷を奪いに来るような奴には……」
 ボッと目の前にある3体の氷像が白竜のパイロキネシスで燃え出す。
 氷が解け水になることなく気化する。
 そして氷像の中の人間がぶすぶすと嫌な音を立て燃え出していく。
「ヒィィィィ!」
「……しまった、やり過ぎたか」
 黒々とした元は人間型であっただろうものがどさりと縫い付けられている人間の前に倒れ落ちた。
「今回は未遂のようだから、逃がしてあげるよ。こうなりたくなかったら次はちゃんと面白い話を持ってくることだね」
 氷精は縫い付けていた氷を解き、開放した。
「すんませんっしたぁ!」
 両手を挙げて脱兎のごとく逃げ出していった2人を満足そうに白竜は眺めた。
「……白竜、容赦ないなぁ」
 羅儀はぽつりと感想を漏らした。
 そこに、ぼとっと何かが落ちる音がした。
 氷精を含む3人が音のしたほうを向く。
「ヒッ! あ、あの……わ、わたくし、桃を……」
 そこには青ざめたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)がいた。
 どうやら氷精に冷やしてもらった桃を氷精に渡し忘れたから戻ってきたようだったのだが、今の現場の一部始終を見ていたらしい。
 ガタガタと震えているが、腰が抜けてしまったのかその場から逃げ出すまでには至っていない。
「大丈夫ですよ」
 イコナに白竜は安心させるように言ったつもりだったが、イコナは逆の意味でとったようだ。
「な、何も見てませんわ! わたくし何も見てませんから! な、何も見てませんから……殺さないで……」
 目に涙を溜め懇願するイコナ。
「いえ、あれは人形です。だから大丈夫です。源さんのパートナーのである貴方にそんなことするわけないじゃないですか」
「へっ、人形?」
 呆然とするイコナと、それをはいと肯定する白竜。
「まぁ、余りにも氷精の氷を奪いに来る連中が後を絶たないらしいから一芝居打ったわけだ」
 補足をする羅儀。
「確かに、これは誰にも言ってませんでしたから恐怖させてしまったようですね。すいません」
 本当に申し訳ないことをしたかのように白竜はイコナに頭を下げた。
「いえ、いいんですの! もとはわたくしの勘違いで! あ、そうでしたわ!」
 イコナは立ち上がり、氷精に先ほど落とした桃とは別の桃を2つ差し出した。
「冷やしてもらって、渡すの忘れていましたの! これ差し上げますわ!」
「わたしに、くれるのか?」
「氷を貰ったり、お願いを聞いてもらったりしましたわ! そのお礼ですの!」
「ククッ、有難く頂こうではないか」
 イコナから桃を受け取ると、氷精は小さく微笑んだのだった。