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俺の祭りを邪魔するな!!

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俺の祭りを邪魔するな!!

リアクション

 ――光が走る一時間ほど前。
 歴史博物館に必要な部品を運び込んだ生徒達は、やっとのことで≪機晶式ジィビナイド・カノン砲台≫の改造を終わらせようとしていた。
 だが、もうすぐ発射可能という所で一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が大変な問題に気づく。
「砲身が操作できない……」
 瑞樹が砲身の角度を調整しようとした所、下がった状態から上げることができずに音だけが鳴るのだった。
「どうやら砲身と本体を繋いでいた部分が、最初の砲撃で壊れてしまったみたいですね。このままだとエネルギー砲を発射した際の反動で、砲身が上に跳ね上がってしまいます」
 生徒達が改造しようとしているエネルギー砲は、実弾の時より威力が遥かに劣る。
 だが、実弾と違い単発式ではないため、長時間照射が可能で、これによりダメージを蓄積させるのである。
 そのため、砲身が跳ね上がり照準がずれてしまうことはなんとしても避けたかった。
「……だが、これ以上時間はないぞ」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)が街の入り口に目をやった。
 空賊船はまもなく、街に侵入してこようとしていた。
「仕方ない、手動で調整するぞ。誰か長い縄か何かを持ってきてくれ!」
 静麻の呼びかけで住民達が大綱引き大会で使った縄を取りに走っていった。
 そして、集められた輪を繋げて一つにすると、輪を作って砲身に引っ掛けた。
 これを生徒と住民達が綱引きのように両サイドから抑えて砲身を固定しようというのだ。
 発射をまじかに控え、砲台の上に載った柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)匿名 某(とくな・なにがし)が調べてくれた情報を頭に叩き込む。
「……どうだ。頭に入りそうか?」
「ああ、問題ない。アレーティア、発射まで後どのくらいだ?」
「およそ五分じゃ」
 某が砲台から離れていったのを確認して、真司は後方に待機していたアレーティアに尋ねた。
 真司の手には砲撃の発射ボタンが握られている。
 照準機能が壊れた砲台の代わりに、真司は前線と【テレパシー】で交信しながら【行動予測】を使って空賊船を狙うつもりだった。

「始まったみたい……」
「ここが正念場ってやつだな」
 【846プロ】のアイドル神崎 輝(かんざき・ひかる)と【846プロ】所属の落語家若松 未散(わかまつ・みちる)は、背中を合わせながら集まってくる≪氷像の空賊≫を睨みつけた。
「先にこんな所でくたばるなよ」
「もしかして若松さん心配してくれてるの?」
「いや、これ全部相手にしたくないから」
「なんだ。自分の心配ですか……」
 向かってきた≪氷像の空賊≫に輝は剣を振り下ろす。
 それを皮切りに次々と≪氷像の空賊≫が襲いかかってきた。
 未散は軽やかな動きで≪氷像の空賊≫を足蹴にしながら、苦無を投げつける。
 二人の隣ではそれぞれのパートナーシエル・セアーズ(しえる・せあーず)ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が戦っていた。
「もう、汗だくでヘトヘトだよ〜。早くシャワー浴びたい!」
「もう少しの辛抱でございます。頑張りましょう」
 シエルを励ますハルも口には出さなかったが、かなり疲れを感じていた。
 休む間もない戦いの連続。
 体力的にも精神的にも限界ギリギリの状況だった。
 そんな中、≪氷像の空賊≫達が一箇所に集まり始める。
「なんかいやな予感がするぜ」
 未散の予感は当たっていた。
 ≪氷像の空賊≫達はお互いに身体を寄せ合うと、次々と合体していく。
 そして度重なる合体を繰り返し≪氷像の巨人≫が生徒達の前に立ちふさがる。
「ちょ、でかすぎだろ……」
「未散くん、下がって!!」
 ハルが未散に飛びつき、≪氷像の巨人≫の攻撃から助ける。
 背中を攻撃がかすめたハルは激しい痛みに襲われる。
「おまえ、よくも!!」
 未散が【四次元スカート】から大量の苦無を取り出し、一斉に投げつけた。
 だが、≪氷像の巨人≫の身体はこれまでとは比べものにならないくらいに硬く、小さな傷をつけるのが精いっぱいだった。
 歴史博物館の中からアレーティアの声が聞えてくる。
「何をしてるのじゃ。早く撃たねば機晶石が暴走してしまうぞ」
「わかってる。でも、このままじゃ前が見えなくて空賊船が狙えない!」
 アレーティアの言葉に真司がイラついた様子で返した。
 砲台を発射したい真司だったが、≪氷像の巨人≫が邪魔しているため発射ボタンを押せずにいたのだ。
 すると≪氷像の巨人≫が頬を膨らませ大きく息を吸い込んだ。
 次の瞬間、凍えるような冷たい風が≪氷像の巨人≫の口から吹き出し、未散達を襲い、歴史博物館の扉が氷漬けになった。
 邪魔者がいなくなったこと思い込んだ≪氷像の巨人≫が歴史博物館に入り込もうとすると、会津 サトミ(あいづ・さとみ)の笑い声が博物館の入り口から聞えてきた。
「残念だったね。サトミンを氷漬けにするのも、燃え上がらすのも僕の役目なんだよ」
 未散達と共にサトミが何事もなかったかのように立っていた。
 信じられないものを見たというように進めた足を戻す≪氷像の巨人≫。
 サトミは≪氷像の巨人≫の息を【アイスプロテクト】を唱えて氷漬けから逃れたのだった。
「さぁて、一気に決めるぜぇ!」
 未散達の背後から大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が≪氷像の巨人≫に向かって駆け出した。
「テディ、任せたよ!」
「……イエス、マイ・ロード」
 康之の傍に皆川 陽(みなかわ・よう)の頼みを受けたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が追いついてきた。
「よぉ、テディ。オレとおまえであのぶっといの足をぶったぎってやろうぜ」
「了解だ」
 ≪氷像の巨人≫の身体から飛び出してくる氷柱を回避しながら、二人はその太い足を狙う。
「行くぜ! 断殺熱焼・W(ダブル)――」
 康之とテディが≪氷像の巨人≫の足を挟みこむようにお互いの武器を叩きつきる。
「「 煉・獄・ザァァァァァァァァァァン!!!! 」」
 燃え上がる二人の刃が共鳴しあい豪熱の剣となった。
 ≪氷像の巨人≫の足が溶け出し、綺麗に切断される。
 バランスを崩して倒れこむ≪氷像の巨人≫。
「見えた!!」
 真司が空賊船をとらえた。
 ≪氷像の巨人≫が地面を這いながら立ちふさがろうとする。
 真司はこの機を逃すまいと発射スイッチを押した。
「ジィビナイド砲・改、発射する!!」
 眩い光が砲台から放たれた。
 光は一瞬にして≪氷像の巨人≫の頭を飲み込んで融かすと、民家の上空を通過して空賊船の下部に直撃した。
 バリアによってダメージが軽減される。
 真司が縄を持つ者達に指示をだし、抑える力を少しだけ緩めてもらうと、光が空賊船のど真ん中をとらえる。
「くぅぅぅ……」
「みんな持ちこたえてくれ!」
 縄を持つ者達が上に跳ね上がろうとする砲台を固定しようと、必死に歯を食いしばった。
 光が空賊船のバリアを突き抜け、先端部分の刃を溶かし始める。
 生徒達が引きずられ、砲身が少しずつ上に上がっていく。
「ええい、見ていられないのじゃ」
 パソコンで状況を確認していたアレーティアが縄を引く生徒達に加わった。
 そして――空賊船から爆発が巻き起こる。
 皆の表情に笑みがこぼれた、その時。
 砲台が奇怪な音と共に煙を上げ始げ、真司は慌てて飛び降りた。
 次の瞬間、砲台が爆発した。
 繋いでいた縄が千切れ生徒達と住民が前のめりに倒れこむ。
 ――歴史博物館から天空に、一本の光の柱が走った。


 ネクロマンサーの乗る空賊船が煙を上げながら落下していく。
 にも関わらず、≪氷像の空賊≫が姿を消すことはなく、空賊船に空いた穴は少しずつだが、再生しようとしていた。
「この機を逃してなるものかよ!!」
 ネクロマンサーを打ち取るべく駆け出した葉月 ショウ(はづき・しょう)の前方から、≪氷像の空賊≫が立ちふさがろうとする。
「援護する!」
 佐野 和輝(さの・かずき)が銃を連射してショウを援護する。
 すると健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)椿 椎名(つばき・しいな)も駆けつけて、空賊船への道を開いてくれた。
「ここは俺達に任せな!」
「しっかり決めてきなよ」
 宮殿用飛行翼で空賊船に向けて飛び立つショウ。
 空中でも妨害してくる≪氷像の空賊≫に魔法の矢が降り注いだ。
「雑魚はいいからさっさとボスを叩きなさい!」
 上空から伏見 明子(ふしみ・めいこ)が叫ぶ。
「みんな、ありがとう!」
 ショウは心強い仲間の協力を得て炎上する空賊船に乗り込んだ。
 扉をくぐり、内部へ。
 伝わってくる殺気を頼りにショウはネクロマンサーを探した。
 そして、数枚の扉をくぐりショウはようやく本命にたどり着く。
「見つけた!」
 ネクロマンサーは周囲に機晶石によるバリアを張って身を守っていた。
 ショウに気づいたネクロマンサーが空気中の水分から≪氷像の空賊≫を作り出す。
 立ちふさがる≪氷像の空賊≫達。
 敵の本拠地でたった一人。
 だが、ショウは仲間のためにも逃げるわけにはいかなかった。
 ショウは無光剣を構えると意識を集中させ、剣が輝き始めた。
 異変を察知したネクロマンサーが≪氷像の空賊≫に攻撃を指示する。
 だが、それより早くショウは剣を振り、【我は射す光の閃刃】を放った。
「おおおおおぉぉぉぉぉ……!」
 激しい光の刃が≪氷像の空賊≫を飲み込み、バリアごとネクロマンサーに叩きつけられる。
 ――その直後、空賊船が轟音と共に空中分解を始めた。


 光が歴史博物館から空へと伸びた後、煙を上げる空賊船を見た≪サルヴァの魔鎧≫は状況を察して逃げ出そうとする。
 すると、足止めしていた≪氷像の空賊≫を抜け、アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が≪サルヴァの魔鎧≫に斬りかかった。
 間一髪で交わす≪サルヴァの魔鎧≫。するとそこへルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)の細い手が伸びる。
「ルーシェリア殿、今です!」
「任せるですぅ」
 ルーシェリアは≪サルヴァの魔鎧≫の隙をついて手に持った書物を奪うと、バックステップを踏んで距離を取った。
「行かせません!」
 追いかけようとする≪サルヴァの魔鎧≫の前にアルトリアが立ちふさがる。
 アルトリアの剣を回避し、距離を開ける≪サルヴァの魔鎧≫は、追い詰められた状況でふと目についた子供を人質にとる。
 その子は父親を追ってきた街の子供だった。
「くっ、卑怯な……」
 ≪サルヴァの魔鎧≫は窓を割り、ガラスを女の子の首元に当てて脅してくる。
 ≪サルヴァの魔鎧≫は街にまだ爆弾がしかけてあることや、≪荒くれ者≫達がいつでも避難場所を襲う準備ができていることを交渉材料に、書物の引き渡しと街からの脱出を要求してきた。
 アルトリアは書物を渡す方が被害が大きくなると主張し、ルーシェリアの攻撃指示を待った。
 だがルーシェリアは決断できずにいた。
「あなたの言う通り、書物を渡したらもっと大変なことになるですぅ。でも、あの女の子や街の人達を見捨てるなんて、私には……」
 その様子を近くで見ていたセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は≪サルヴァの魔鎧≫を殴りたい衝動にかられていた。
 すると、【『シャーウッドの森』空賊団】副団長リネン・エルフト(りねん・えるふと)から【テレパシー】が送れてくる。
(エンドロア、フォークナー。ちょっといいですか)
「「!?」」
 セシルはすぐ隣にいたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)と顔を見合せた。

 決断できないでいるルーシェリアに痺れをきらした≪サルヴァの魔鎧≫が、爆弾を起動させることを宣言した。
「やめるですぅ――!!」
 ルーシェリアの叫びを無視して≪サルヴァの魔鎧≫が奥歯に仕込んだスイッチを起動させが、――何も起きない。
 ≪サルヴァの魔鎧≫が何度もボタンを押すが、結果は同じだった。
 すると民家の上から笑い声が聞こえる。
「ごめんね。爆弾の起爆装置ならあたしが無効化しちゃったわよ」
「セレンフィリティ!?」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が見つめる民家の上には、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の姿があった。
「あんな簡単装置じゃ、すぐに通信妨害されちゃうよ」
 満足そうな笑みを浮かべて屋根から降りてくるセレンフィリティ。
 だが、まだ≪荒くれ者≫達が残っていると主張する≪サルヴァの魔鎧≫。
「それなら先ほど僕らが倒しておきましたよ」
 すると、路地から執事服をくたくたした笹野 朔夜(ささの・さくや)が現れた。
 その背後には同じく疲れた様子のアンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)笹野 冬月(ささの・ふゆつき)の姿があった。
「皆さんお疲れ様です。なんだか大変なことになってますね」
 生徒達が≪サルヴァの魔鎧≫に詰め寄ろうとすると、捕まえた子供を盾に取られてしまう。
 嫌味な笑みを浮かべる≪サルヴァの魔鎧≫。
 その時、轟音と共に空賊船が空中分解を始めた。
 あまりに大きい音に背後に視線を向けた≪サルヴァの魔鎧≫。
(今よ!)
 その隙をついてリネンとグラキエスが一気に距離をつめた。
 ≪サルヴァの魔鎧≫の手に握られたガラスを、グラキエスが赤い滴を流しながら素手で抑えた。
「子供を戦いに巻き込むな!」
 そしてグラキエスが≪サルヴァの魔鎧≫の顔面に拳を叩き込む。
 吹き飛ぶ≪サルヴァの魔鎧≫。
 ≪サルヴァの魔鎧≫の手から離れた女の子をリネンがキャッチした。
「大丈夫?」
 子供がリネンの胸で泣き出した。
「全力で……殴り倒します!」
 どうにか踏みとどまった≪サルヴァの魔鎧≫にセシルが追撃をかける。
 ≪サルヴァの魔鎧≫が上着からナイフ取り出し投げつける。
 すると、駆け出したセシルのフルプレートアーマーの胸と腰以外の部分が消滅し、露出度の高いビキニアーマーに変わった。
 身軽になりナイフを次々と避けるセシルは≪サルヴァの魔鎧≫に鉛に鎖のついた武器スマッシュアンカーで殴りかかる。
 素早い動きでギリギリの回避をする≪サルヴァの魔鎧≫。
「だったらこれでどうですか!」
 セシルは武器を引き戻した瞬間に素早くスマッシュアンカーを蹴り返すと、不意をつかれた≪サルヴァの魔鎧≫の身体に鎖をからませた。
 そしてセシルは自身も回転しながら身動きが取れない≪サルヴァの魔鎧≫を空中へと放り投げた。
「これで終わりにします!!」
 セシルは【鬼神力】でパワーを上げながら遠心力を加えた一撃を≪サルヴァの魔鎧≫に叩き込む。
 大きな音と共に民家の壁を突き破って気絶する≪サルヴァの魔鎧≫。
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は急いで≪サルヴァの魔鎧≫の傍に行くとしっかりと拘束した。
「容疑者確保!」
 
 ――こうして街を襲った大事件は幕を閉じることになった。