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なし

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水中学園な一日

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水中学園な一日

リアクション

「カキ氷が溶けないとはねぇ」
 薔薇の学舎からたまたま遊びに来ていた清泉 北都(いずみ・ほくと)白銀 昶(しろがね・あきら)も、食べ歩きならぬ食べ泳ぎに疲れて、とまり木に腰を落ち着けていた。
「カキ氷が溶けるかどうか試してみたい」と北都の疑問に答えるために、ブルーハワイを注文した。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞー」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が運んでくる。カキ氷を見つめたまま、手を出さない2人に「どうかしましたか?」と尋ねる。自分に見えないところに髪の毛でも入っているのかと心配してだ。
「あ、いや……溶けないんだなぁって」
 北都の言葉に灯は納得して笑顔を見せる。
「そうなんですよ。不思議なこともあるものです」
「このままずっと溶けないの?」
 灯は顔の前で「いえいえ」と手を振った。
「そんなことはありません。でも水の中と同じように、気温が安定してて直射日光が少ないだけに、かなり溶けにくいようですよ」
 丁寧に説明すると一礼して下がっていった。
「とにかく食おうぜ」
「そうだねぇ」
 北都と昶は交互にブルーハワイを口へと運んだ。



 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)とパートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は、学園全体が水没した千載一遇の状況を、互いのトレーニングに生かしていた。
「かなり抵抗があるのね」
 透乃は腕を振り回す。腕の回転に従って水流が起きる。
「それに、ともすれば浮き上がりそうになります」
 陽子は軽くステップを踏む。しっかりとした動作だったが、水中のためか足腰が安定しなかった。
「じゃあ、やってみよっか」
「本気で……ですね」
「もっちろん!」
 言うや否や、透乃は一直線に踏み込んだ。水を裂いたかのうような鋭い動きを見せたかと思うと、瞬時に陽子を間合いに捉える。陽子はガードを固めて距離を置こうとしたが、その隙を与えず透乃は拳を打ち込んだ。
「決まった! って……そんなわけないかあ」
 バックステップで下がる相手に対して、拳は軽い衝撃しか感じなかった。続けざまに踏み込んで蹴りを放ったが、こちらは余裕をもってかわされる。
「くっ!」
 透乃が更に歩を進めようとすると、不意に透明な障害に遮られた。陽子がブリザードで生み出した氷の壁。すかさず透乃は爆炎波で砕いたが、陽子はすでに十分な距離を稼いでいた。
「私の番ですね!」
 わずかに笑みを浮かべた陽子は、凶刃の鎖を大きく振るった。
 
「あれは……喧嘩?」
 浮かびながら学園を見回っている神皇 魅華星(しんおう・みかほ)の目に、2人の生徒が争っているのが見えた。
「止めてきましょう」
 シオン・グラード(しおん・ぐらーど)が向かい、華佗 元化(かだ・げんか)椎名 真(しいな・まこと)も続いた。
「全く、下々の者は……この程度で浮かれるなんて……」
 魅華星は高いところから見守っている。しかし文句を言いながらも、その表情に不満はない。3人を従えて見回るのは実に気分が良かったからだ。ただ3人は魅華星に従っているのではなく、自分の意思で学園の秩序を守っているのが実際のところ。
 また魅華星自身は『わたくしの威光が学園のすみずみに浸透するのも時間の問題ですわね』と考えているけれども、単にボランティア程度のものに過ぎないところも食い違っていた。

「おーい、ちょっと待ってくださーい」
 シオンが透乃と陽子の間に割って入る。突然の乱入者に、透乃と陽子は身構えたものの、敵意を感じない姿勢に警戒を解いた。
「なーに? 邪魔しないでよ」
 不満をありありと見せる透乃。
「喧嘩ですか? 何が原因なんです?」
 シオンの問いかけに、透乃は笑い出した。
「透乃ちゃん、笑っては失礼ですよ。他の人から見れば、そう見えるのでしょうから」
「まぁ、そうね。でも私達、トレーニングしてただけなんだから」

「「「トレーニングぅ!」」」

 シオンと華佗と真が声を揃えて驚く。
「こんな面白い状況なんだもの。利用しなくちゃ」
「なんとまあ……」
「物好きな」と言おうとして、華佗が口をつぐむ。余計なことを言わない方が良いのは、魅華星を相手に唇が千切れそうな程に理解した。
「そ、だから邪魔しないでね。良いところだったんだから」
「それは分かったけど、注意してくれよ。水流の影響が大きく出るんだ」
 真はグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ネロアンジェロのことを話して聞かせる。
「氷の欠片などの後片付けも忘れないでくださいね」
 シオンが一通りの注意をすると、3人は魅華星のところに戻っていった。

「と言うわけで、水中でのトレーニングだそうです」
「いろいろ考えるものですね」
 魅華星は頭を振って肩をすぼめる。
「危険だとは思いますけど、ずっと見守っているわけにも行きませんもの、他に行きますわ。それ以上はあの2人の責任なのですから」
 4人は再び見回りの任についた。

「さーて、また始めようか」
「はい、透乃ちゃん」
 透乃は拳を固める。陽子は凶刃の鎖を鳴らした。


 羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)シニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)は学園内を見回る神皇 魅華星(しんおう・みかほ)達にインタビューしていた。
「自発的に買って出たんですよね」
「当然ですわ。これも上に立つ者の務めですもの」
「上に?」とまゆりは首を傾げたが、インタビューを続けた。
「この騒動を楽しむ人達も少なくないと聞きますが」
 魅華星は鷹揚に笑みを浮かべる。
「人それぞれですわね。他人に迷惑をかけなければ、ささやかな楽しみまで奪う気はありませんわ」
「うむ、酒もしかりじゃな」
 魅華星の言葉にシニィはグラスを空にした。
 まゆりは魅華星一行と分かれて、次の行き先に迷う。
「装置停止隊も面白そうなんだけどな」
「水中ライブもやっとるぞうじゃ」
 どっちにしてもシニィには一緒だったが、悩んだ末にライブに向かう。校庭の一角には大勢の生徒が集まっていた。
「じゃあ、俺達は装置停止隊に向かいます」
 シオン・グラード(しおん・ぐらーど)華佗 元化(かだ・げんか)は、魅華星と椎名 真(しいな・まこと)に別れを告げた。
「もう何時間かで、この変異も終わりですわ。椎名さん、もうひとがんばり致しますわよ」
「ああ」
 2人は見回りに向かった。

 空き教室ではマリリン・フリート(まりりん・ふりーと)プリスカ・シックルズ(ぷりすか・しっくるず)による氷術の展覧会が行われていた。プリスカが持参した果物やらボールやらぬいぐるみやらを、マリリンが凍らせて幻想的に展示してある。
 それでも形になったのは午後に入ってからで、プリスカが朝一番に訪れた時には、氷付けのマンモスのように固まっていたマリリンだけが、教室の中央に立っていた。プリスカは「おーい」と反応が無いのを確かめた後、なんとなく写真を撮って解氷した。
 それはマリリンも似たようなもので、誤ってプリスカを凍らせてしまった際に、「もしかして……」とプリスカの写真を撮っておいた。元通りに戻った2人は「あはは」と意味ありげな笑顔を向け合った。
「これは……すごいぜ」
 勉強の気分転換に教室を訪れた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が感嘆の声をあげる。
「本当に……とってもきれいです」
 芸術活動に造詣の深い天鐘 咲夜(あまがね・さきや)も見とれている。冠 誼美(かんむり・よしみ)は、氷付けのぬいぐるみやフルーツに興味を示し、セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)は、調節された光の加減で勇刃の上着の裾を握り締めた。
「ありがとう。見てくれるだけでも嬉しいけど、良かったら点数でもつけてってくれないか? 0点でも構わないぜ」
 マリリンの申し出に、4人は頭を捻る。すぐに「フルーツがおいしそうだから80点!」と答えたのは誼美。セレア・ファリンクスは「怖そうなので、60点ですわ」とこちらも理由を付け加えた。
 悩んだ末に、勇刃は「90点」、咲夜は「50点です」と答えた。共にはっきりとした理由は告げなかった。
「そっか、やっぱいろいろだなー」
 マリリンが納得し、プリスカも腕組みしながら「うんうん」と同意した。