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なし

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水中学園な一日

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水中学園な一日

リアクション

 東條 カガチ(とうじょう・かがち)シオン・プロトコール(しおん・ぷろとこーる)に先行させながら研究棟を進む。美羽と一団で進んでいくはずだったが、暴走したシオンを追っかけたせいで、あっと言う間に他のメンバーとはぐれてしまった。
「シオン、あんまり無茶するなよー」
 パチンコで警戒するシオンは聞く耳を持たず、すいすいと泳ぎ回っていた。
「にくきフリーメーソ(略)の陰謀は、ボクがぶち壊してやる!」
 不意に通り抜けようとしていたカニにパチンコを命中させる。カニは方向を変えると、カガチとシオンに向かってきた。
「よし、カガチ、行けー!」
「余計なコトするなよぉ」
 刀を構えて受け止めようとした瞬間、カニが吹き飛ばされる。
「会長さんだっけ? 大丈夫?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、カニに協力して一撃を与えていた。
「ああ、ありがとう」
「会長さんなら平気と思ったけど、なんか体が動いちゃってさ。ここはあたし達に任せてよ」
 2人は向かってくるカニに対して楽々と一撃を加えていく。セレンフィリティがカニのハサミを受け止めたかと思えば、セレアナが甲羅の隙間に打撃を加える。セレアナがカニの突撃を受け止めたかと思えば、セレンフィリティがシャープシューターで急所を狙い撃ちした。
「すごいねぇ。よく水中で動けるもんだー」
「私達は教導団で水中戦闘の訓練を受けているの」
 セレアナがカガチに説明する。
「そう、そしていつ何時、こんなことがあっても良いように、常に水着姿でいるの」
 セレンフィリティが胸を張る。ビキニ姿に目が行ってしまうカガチにシオンがムッとした。
 セレアナが「あ、それは嘘」とセレンフィリティの頭をコツンと叩く。そうこうしている内に、カニが再び向かってきた。
「そこで見ててよ! お代は要らないからさ!」
 セレンフィリティとセレアナは壁を蹴ってカニへと飛び込んだ。両のハサミを紙一重ですり抜けると、セレンフィリティが至近距離から狙い撃ち、セレアナが甲羅の隙間にランスをねじ込んだ。
「あっ!」
 4人がほぼ同時に叫ぶ。カニの足が一本折れてしまったからだ。“生け捕りに”の言葉が4人の脳裏に浮かぶ。しかしセレンフィリティが「まぁ、いいか」ととどめの一撃を叩き込んだ。カニはまさしく泡を噴いて動かなくなった。
「ま、良いよね」とセレンフィリティが折れた足を放り投げる。水中を勢い良く飛んでいった足は壁に何度か跳ね返って、どこかに行ってしまう。
「じゃっ、そう言うことで」とセレンフィリティは、カガチに手を挙げると次の獲物を探して泳いでいく。セレアナも少しためらったものの、セレンフィリティについて行った。
「どうしよぉ……」 
 悩むカガチに「じゃあ、そう言うことでっ」とシオンが泳ぎだす。カガチも止むを得ず追っかける。
「おい、シオン! ほんと余計なことすんなよすんなって、すんなっつっただろーおおおおおい!?」



 ドクター・ハデス(どくたー・はです)も装置停止隊に参加していたが、その目的は独自に追加武装『ウルカヌスシステム』を搭載させたヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)の水中テストが中心だった。そんな彼らに巻き込まれたキリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)にとっては、いい迷惑だった。
「ちょっと! どうしてこっちに飛んでくるのよ!」
「これは私達の方が危ないねぇ」

 モンスターに遭遇した一行は「俺達に任せろ!」とハデスとヘスティアが先頭に立った。
「ヘスティアよ、現在使用可能な武装は?」
「はい、ご主人様……じゃなかった、ハデス博士! 現在使用可能な兵装は、両腕のワイヤークローと、『ウルカヌスシステム』のブースターおよびミサイルポッドです。他の兵装は、まだ私の機能ではアクセス権限が足りず、起動させることができません。すみません……」
「……ふむ、両腕のワイヤークローに背中の追加武装ユニット『ウルカヌスシステム』の加速ブースターと六連ミサイルポッドか。フハハハ! よし、ならばそれらの水中稼働実験をおこなう! ターゲットは、逃げ出したモンスターだ! 加速ブースターで敵を撹乱しながら、ミサイルを撃ち込み、ワイヤークローで拘束してやるがいいっ!」
 勢いが良かったのはそこまでだった。モンスターに向かうはずのヘスティアは、なぜか一行へと向きを変えた。
「はわわっ? 水中だと、思ったように方向転換できませんーっ?! ターゲットはどっちですかーっ?!」
「なっ、何故、こっちに向かって加速してくるのだ? あとミサイルポッドとワイヤークローがこちらに向いてるのはっ……?!」
「え、ええと、とにかく、ミサイルを……あ、あれっ?! ロックオンができませんっ?! ワイヤークローも勝手にっ……!」
 発射されたミサイルやワイヤークローのことごとくが3人へと突き進む。動きの鈍い水中だったが、キリエのパラミタイルカによって、なんとか避けることができた。しかし爆発の余波までは遮ることができなかった。不幸中の幸いだったのは、巻き込まれたモンスターが逃げて行ってくれたことだった。
「とりあえず回復しましょうかぁ」
 キリエの手によりダメージは消えた。そしてリカインの指示で作戦を練り直す。 
「しょうがないわね。私が先導するから、キリエくん、フォローをお願い」
「んー、了解しましたぁ」
「俺達は?」
 ハデスとヘスティアには、リカインとキリエの冷たい目が向けられた。
「大人しく付いてきなさい」
「それが良いよねぇ」



 加能 シズル(かのう・しずる)秋葉 つかさ(あきば・つかさ)のフォローを得ながら、着実にモンスターを攻略していった。
「ああ、私のシズルがこんなに頑張るなんて……」
 戦うシズルをつかさがうっとりと眺める。時折、負傷することがあると、急ぎ駆けつけて負傷部分にキスをする。
「つ、つかささん」
「大丈夫、身を委ねてください……治療なんですから」
 そんな2人に森田 美奈子(もりた・みなこ)は、立て続けにシャッターを切っていた。
「天国のお父様、お母様、美奈子です。本日は水没した地元ツァンダの蒼空学園のことを案じたコルネリアお嬢様のお供をして、蒼空学園に来ております。この一大事に美奈子もしっかりと役割を果たしております」
 そう言いながらデジカメのメモリを交換する。今日はこれで何枚使い切っただろうか。
「つかささん、もうその辺で……」
「そうね……また頑張ってらっしゃい」
 シズルは傷口から全身へと響き渡る快感を振り払うと、棟の上を目指した。
「あっ!」
 突然、物陰からシズルに飛び掛かってくるものがある。たちまちシズルは全身を絡め取られた。
「こ、これは!」
 シズルの手足を拘束したのはタコのモンスターだった。8本の足を巧みに絡ませて、シズルの動きを制限する。
「うぉっ!」
 そこにシオン・グラード(しおん・ぐらーど)華佗 元化(かだ・げんか)が駆けつけてくる。シズルとタコモンスターを前に2人は動けなくなる。そして腰が引けたわけではないが大きく前かがみになった。
「俺は軟体動物は苦手なんだ! 華佗、任せる!」
「シオン、うかつに手を出すと危険だ! ここは慎重に行こう!」
 そんな2人に、つかさも美奈子も同調する。
「シズルならきっと1人でなんとかしてくれるはずです。私は信じてますわ」
「弱い私が足手まといになってはいけません。ここは私も記録に専念します。しかしシズルさんは余分な胸周りが残念ですね」
 メモリーとバッテリーを交換して、盛んにシャッターを切った。
 タコのモンスターはシズルの四肢を拘束すると、物陰に引っ張り込もうとする。しかしつかさ達がそれを遮った。
「タコさん、そんな方に行っては私達に見えなくなってしまいますわ」
 明らかにおかしなセリフだが、通路の真ん中に引っ張り出して、タコとシズルの絡みを見続ける。
「ちっ! この俺としたことが、軟体動物が苦手だなんて」
「シオン、仕方がないさ。誰にだって得手不得手はある。もう少し様子を見れば、なんとか弱点が見つかるかもしれん」
 相変わらず腰が引けた体勢で、シオンと華佗はシズルとタコモンスターを取り巻いている。その間にもタコモンスターはシズルの体のアチコチをまさぐっていた。
「ああ……シズル、素敵……頑張って」
 つかさは我がことのように体をくねらせながらもだえる。美奈子はまたもメモリを交換していた。
「シズルさんっ!」
 別ルートから追いついたレティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)が、タコモンスターに一撃を放つ。大きなダメージこそ与えられなかったが、衝撃でタコモンスターはシズルを手放した。
「ああ、もっと……やめちゃ……」
「シズルさん?」
「……はっ!」と我に返ったシズルは体のアチコチを見る。吸盤跡が生々しく残っていた。
「怪我は無いようですね。一旦、下がりましょうか」
 レティーシアの提案にシズルは反対する。
「この程度で下がっては、私の名前に傷が付きます!」
 タコモンスターを睨みつけた。
「美奈子、こんなところに居たんですの?」

 ── ちっ、小うるさいのが追いついたか ──

 などと思ったものの、美奈子はアイリーン・ガリソン(あいりーん・がりそん)に笑顔を向ける。当然、アイリーンと美奈子が仕えているコルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)もそこに居た。
「コルネリアお嬢様、ご無事でなによりです。お嬢様とアイリーンに必死で付いていこうと思ったのですが、力足らずではぐれてしまい申し訳ありません。でもシズル様と協力してここまで来られたんですの」
 アイリーンは美奈子の持つデジカメに視線を向ける。
「そのカメラで何を写していたんです?」
「これは何でもないんですの」
「良いから、寄こしなさい!」
 強引に取り上げると、画像を再生させる。映し出されたのは棟内やモンスターの映像ばかりだった。無論、この時に備えて美奈子が用意しておいたダミーのメモリーにすりかえてある。
「まぁ、良いでしょう。あのモンスターを攻略します。美奈子、あなたが囮になりなさい!」
「わ、私がですか?」
「弱いあなたにできるなんてそれくらいのものでしょう。さぁ!」
 アイリーンは美奈子の襟首をつかむと、タコモンスターに向かって放り投げる。なぜか避けたタコモンスターはアイリーンへと向かっていた。
「グルメのタコかしら? 見る目はあるようね」
 アイリーンはタコの足を避けると、頭の部分を蹴り上げる。
「ったく、聞こえたわよ」
 美奈子はタコモンスターを狙撃する。同一直線状にいるアイリーンにも流れ弾が行くが、全く頓着しない。
「美奈子! 気をつけなさい!」
「ごめんなさい! アイリーン様!」
 謝りつつも狙撃を止めることはなかった。
「シズル様、レティーシア様、無力な男共は放っておいて、私達だけで片付けましょう!」
 シオンと華佗に一瞥をくれると、コルネリアはタコモンスターに向かう。シズルとレティーシアも続いた。
 まずアイリーンがタコモンスターの注意を引き付けて、コルネリアが氷術を放つ。狙いが外れることはあったものの、次第に氷の塊がタコモンスターの足にまとわりついていく。
「面白くないなぁ」
 ここに至っては美奈子も協力するよりない。動きの鈍くなったタコモンスターに狙撃を絞る。
「今です!」
 コルネリアの合図でシズルとレティーシアが撃ちかかる。もはや反撃手段を封じられたタコモンスターはなんとか防ごうと足を振り回したが、先ほどまでのような滑らかな動きをすることができず、2人の打撃を急所に受ける。ほとんど動けなくなったところで、コルネリアが全身を凍らせた。
「とりあえずこれで十分でしょう」
「シズル、とっても素敵だったわ……」
 つかさが「どこか怪我でも?」と、シズルの全身を撫で回す。美奈子は「勝利記念に一枚」とシャッターを切った。
「美奈子! そのカメラ、先ほどのものとは違うのではなくて?」
 アイリーンに見咎められた美奈子は「さぁ、早く上に行きましょう」と必死にごまかした。