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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

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 荒廃の村 
 鉛色の雲が上空に立ちこめている。崩れ落ちた家屋の間を縫うように乾いた風が砂埃を巻き上げて行く。そして、地面のそこかしこには、激戦を物語るような赤黒いシミが残されている……。
「これが、あの赤津城村か?」
 柳生 十兵衛(やぎゅう・じゅうべい)はぼう然として荒廃した村の姿を見つめた。そこには、かつての活気ある『武道のメッカ』の面影は無い。ただ、死臭漂うのみ。
 しかし、沈鬱としている場合ではなかった。一刻も早く隠し部屋にいる村人達……この死の村の数少ない生存者達……に食料と、そして希望を届けなくてはいけない。
 その時、十兵衛は、突然背後から声をかけられた。
「失礼いたしますが、貴公はもしや柳生十兵衛様ではございませんか?」
 振り返ると数名の若者が立っていた。いずれも引き締まった精悍な顔をした青年だ。
「いかにも、拙者は柳生十兵衛でござるが、そこもとは?」
 すると、腰に二本の刀を差した青年が答えた。
「拙者は、この赤津城村の住人で宮本二刀と申す者。蓮妓様の申し付けで皆様が到着を待っておりました。さあ、こちらへ、隠し部屋への入り口へと案内いたします」
 そういうと、宮本二刀と名乗る青年は、他の村人達とともに皆を隠し部屋の入り口へと案内して行った。

 隠し部屋の入り口は、村の6カ所にあり、いずれも納屋の床下から通じていた。契約者達は6つのグループに分かれて、各々入り口を目指して行く。十兵衛達は平山幾蔵と名乗る若者について村の北にある入り口を目指して行った。

 しかし、静かだ。静かすぎて不気味なぐらいだ。

「敵は?」
 十兵衛が尋ねると、平山は首を振った。
「どこにいるのか、どこに隠れているのか我々には分かりません。いつも、突然に現れて襲いかかってくるのです」

 と、その時だ。突然、禍々しい気配とともに何者かが現れるのを十兵衛は感じた。見ると、一人の虚無僧が立っていた。編み笠越しに見える目が不気味に赤く輝いている。
「何者だ?」
 十兵衛は虚無僧に尋ねた。すると、虚無僧はくぐもったような声で答えた。
「服部三蔵」
 答えるや否や、敵は煙幕を張りこちらに向かって襲いかかって来た。

「うわ! なんですか? これは」
 いきなり視界を遮られ、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は叫んだ。しかし、白い煙に翻弄されながらも彼の鋭敏な感覚は上空に襲いかかる何者かの気配を素早く察知していた。
 手裏剣が飛んで来る。唯斗は歴戦の立ち回りで手裏剣を避けると、肉体の完成で防御力を上げ両手利きでティアマトの鱗を構えた。
 やがて、煙が晴れ見えて来たのは、黒装束をまとった一人の忍びの姿。しかし、見えたと思った瞬間には既に姿は消えていた。そして、背後から刃が襲いかかって来る。唯斗は素早くそれを避けた。
 しかし、三蔵は息をつく間もなく手裏剣を投げて来る。
 唯斗は、強化光翼を装備。素早さを上げて三蔵に対峙し。歴戦の立ち回りで巧みに手裏剣をかわしながら敵の懐へと飛び込んで行った。そして、両手に装備したティアマトの鱗で、猛攻撃を繰り出す。
 シュウウウウ……
 生臭い息とともに三蔵の目が赤く光る。そして、印を結び口の中で何かを唱える。
 その途端、唯斗の体が金縛りにあったように動かなくなった。
「忍法、魂縛の術……」
 三蔵はくぐもった声でいうと、刃を振り上げ唯斗を一刀両断にしようとした。その三蔵の背後に十兵衛が襲いかかる。素早く気配を察知し、三蔵は後ろを振り返った。そして、とっさに刃を振り切る。
 激しい剣戟音とともに二つの影ぶつかり合い、そして離れた。何度かの打ち合いの後、三蔵は十兵衛の刃を逃れて体勢を整えようとした。しかし、
「逃がさぬ!」
 十兵衛が叫びながら三蔵を追いつめて行く。
 その間に、唯斗にかけられた魂縛の術は解け、体が自由になった。
「助かりました」
 唯斗は十兵衛に向かって礼を言うと、三蔵に視線を移してつぶやいた。
「たいした腕前だが、無想に化けものにされてるってんならもう悪霊だ。俺が祓ってやる」
 そして、スキル悪霊退散を展開。光輝属性の魔法が三蔵に襲いかかり、その体を撃つ。
「うわああああ!」
 全身に光を走らせ化け物が悲鳴を上げる。その隙をつき、十兵衛の刃が化け物の体を薙ぎ払った! さらに唯斗が両手に構えたティアマトの鱗で三蔵を攻撃。歴戦の必殺術でとどめをさす。

 シュウウウウ……ウアアアア……

 三蔵は悲鳴とも言えぬ奇怪な音を立てながら、その場に崩れ落ちた。そして、その息が止まると同時に、その首がごろりと体から離れる。

「どういうことでしょう?」

 唯斗がそれを見て首をかしげた。

「首など切った覚えはないのに……」

「元々、首は無想に切られていたのです」
 平山幾蔵が答えた。
「大方、無想が妖力で無理にくっつけていたのでしょう」
 そして、平山は三蔵の首に向かい両手を合わせた。
「三蔵。常に冷静沈着で鍛錬を書かさぬ奴だった……」
 平山の目に涙がにじむ。だがしかし、
「弔っているヒマはない」
 と十兵衛は言った。崩れた家々のあちこちから、赤く目を光らせた化け物達がこちらに向かってくるのが見える。
「ここは、既に敵に囲まれてしまっているようだ」
「ええ。そのようですね」
 平山はうなずくと、手にした銃を構えた。

 元『村人』達は手に手に武器を持ち、ゆっくりとこちらに向かっていた。彼らを先導するように二人の人物が歩いてくるのが見える。
 一人は、背に身の丈ほどもある長い刀を差した若い剣士。もう一人は、鎖鎌を手にした野武士の頭領のような男。

「宍戸松軒に佐々木大次郎……!」

 平山が二人を見てつぶやく。

「あの二人もやられてしまったのか……」

 その光景を緋柱 透乃(ひばしら・とうの)はむしろ余裕の表情で見つめていた。
「死んでしまっては未熟者、とはいえ元が武芸の村で鍛えた人で、それが化け物になったんだからなかなかの強敵のはず。これは戦うのが楽しみだね!」
 すると、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が答えた。
「殺されて蘇った人達はアンデッドではないようですが、どうやって動いているのか死霊術師として少し気になりますね。ですが、状況が状況ですので戦うこと優先です」
「ただちょっと数が多いねー」
「そうですね。まずは群れの数を減らすところからですね」
「うん」

 元『村人達』は10メートル程のところまでゆっくりと近づいて来ると、いきなり奇声を上げて襲いかかって来た。
「来た!」
 透乃は叫ぶと陽子の前に立ち身構えた。
 化け物達は、刀をふるい一斉に透乃に斬り掛かって来る。
 透乃は我が身をもって村人達の凶刃を受け止めた。しかし、その体は龍鱗化と不壊の堅気で守られており、決して刃に貫かれる事は無い。斬っても斬っても傷つかぬ透乃の体に、化け物達は躍起になって刃を打ちつけて来た。しかし、それもやがて疲れたのか刃が鈍って来る。
「それだけ?」
 透乃は言うと、烈火裏逝拳(と言う名の裏拳で繰り出す煉獄斬)を展開。敵全体に炎熱属性の武器攻撃。化け物達はあっという間になぎ倒されて行った。
 さらに、その透乃の後ろから、陽子が範囲攻撃のエンドレス・ナイトメアを展開。闇黒が化け物達を包み込んで行く。しかし、村人達には効かないようだ。
「効きが悪いようですね」
 陽子はつぶやくと、凶刃の鎖を手に破滅の刃と歴戦の武術で攻撃。禍々しいオーラをまとった刃が無数の敵に襲いかかリ、次々と倒れて行く。
 さらに、その二人を援護するように、平山が大砲を撃つ。十兵衛も雑魚敵をなぎ倒して行く。
 その死線の中を、宍戸松軒と佐々木大次郎は、平然とした様子で透乃達に向かって来る。口にはうっすらとした笑みを浮かべて……。

「あの二人、今まで戦った敵とはあきらかに雰囲気が違いますね」
 陽子は近づいて来る化け物達を見て言った。
「うん」
 透乃がうなずく。
「他に比べて強そうだし、鎖鎌に野太刀とバランスがよさそうだね。まあ私達も拳に凶刃の鎖だから似たようなものだけど」
「私はなんとなく武器が似ているということで、鎖鎌の人を狙いましょう」
「私は野太刀を持ってる方を狙うよ」
 話し合うと、二人は各々の敵へと対峙した。

 宍戸松軒は、片手に鎌を構え、片手で鎖分銅を振り回す。同じく陽子は刃のついた鎖を振り回した。そうして、互いに鎖を振り回しつつ間合いをつめる事数秒。いきなり松軒が分銅を投げつける。それが武器を絡めとるより一瞬早く、陽子は後ろに下がると刃のついた鎖を松軒に向かって投げた。こちらは、武器を絡めるのでなく刺突や斬撃を狙った攻撃である。まっすぐに松軒の喉首をめざす。しかし、松軒もさるもの、素早く後ろに躱した。陽子は鎖を引き戻すと、再びそれを振り回しはじめた。
 こうして、投げあう事数度。なかなか決着がつかず、お互いに息が上がって来る。陽子は息を整えると、意識を一点に集中し、再び刃を投げた。

 ガシ!

 松軒は分銅で刃をはじくと、落ちて来る鎖を素早く手でつかんでそれを巻き取りはじめた。
「く……」

 さすがの陽子も青ざめる。

「これで身動きが取れまい?」

 松軒はそう言って笑うと、鎖をつかむ手に力を込めた。陽子はたぐり寄せられそうになるのをぐっとこらえる。陽子と松軒、鎖の引っ張りあいのような形になる。
 
「しかたないですね……」

 しばらくして陽子はつぶやくと、あっさりと凶刃の鎖を手から離した。

「!!」

 いきなり力を抜かれて松軒は体のバランスを崩す。その隙を見逃さず陽子は松軒に接近。光条兵器で松軒の背後から攻撃。もんどりうって倒れた松軒の鎖鎌を素早く拾い上げ、その首に思い切り振り下ろした。

「うぐ!」

 松軒は短い悲鳴を上げてその場に倒れた。首から血がほとばしり、ごろんと音を立てて地面に落ちた。

 一方、透乃は佐々木大次郎と対峙し身動きもせずにいた。
 互いに、互いの強さをを計っているようだ。しかし、松軒の首が落ちた瞬間。ついに大次郎が仕掛けて来た。愛用の野太刀『物干竿』で透乃に斬り掛かって来る。

 ヒュ!

 髪一筋ほどの距離を刃が駆け抜けて行く。一太刀目をかわしたと思った次の瞬間には、二の太刀が下から襲いかかって来る。秘剣『燕返し』だ。そして、さらに三の太刀、四の太刀、そして五の太刀が振り下ろされた時、

 ザシュ!

 鈍い音とともになんと、透乃は腕で物干竿を受け止めていた。

「なんだと!?」

 大次郎の顔が青ざめる。
 ありえない。白刃の刃が素肌の腕で受け止められるなど。
 もちろん、これは不壊の堅気や龍鱗化の効果である。
 透乃は腕で太刀を受け止めたまま、もう片方の腕で大次郎の腕をつかうと、金剛力で思い切り捻り上げた。バキバキと骨の砕ける音がして大次郎が苦痛で顔を歪ませる。『物干竿』が音を立てて地面に落ちる。透乃は大次郎から手を離すと、手近にあった丸太を拾い上げて、自動車殴りで大次郎を殴りつけようとした。大次郎はそれをとっさにかわすと、左手で刀を取り再び斬り掛かって来た。しかし、先ほどまでの勢いは無い。
 透乃は左の二の腕でそれを受け止め右手の丸太で思い切り大次郎の脳天を打った。

「あが……!」

 大二郎は白目を向いてその場に崩れ落ちる。

 ゴロン……

 大二郎の首が落ちた。

 全ては終わったようだ。