天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

首狩りの魔物

リアクション公開中!

首狩りの魔物

リアクション

「首を落とした同志達と闘う…だと!? 今し方まで共に戦った奴と闘うなんて……なんて酷い……」

 隠し部屋の手前で七篠 類(ななしの・たぐい)が紙袋を片手に憤慨していた。

「大体鏡池に首があるという事は、首を池に入れた奴が居る……ということだろう? お前等の中にそいつが居ないとも限らない……。……話にならんな。俺は下りさせて貰う」

「何を言ってるんだよ。七篠さん」
 グェンドリス・リーメンバー(ぐぇんどりす・りーめんばー)が言った。
「一緒に戦わなきゃ」
 しかし、そんなグェンドリスの言葉も無視して類は部屋から出て行ってしまった。

「もういいよ」
 グェンドリスは怒って言った。
「私たちだけで、敵と戦おう!」
 そして、【怒りの歌】で仲間達の援護に回った。

 一方、七篠は部屋からを十分離れた後、皆が居ないところでキョロキョロしつつ紙袋を顔に被ると、再び皆のいる部屋へと戻った。

「あれ? 七篠さん戻ったの?」
 グェンドリスが首をかしげた。すると、七篠は至極真面目な顔で答えた。
「違う……ぞ。俺は七篠なんて名前じゃない。通りすがりの正義の農家さんだ……か、勘違いするなよ? 俺は別にお前達を助けたいとか、そんなんじゃないんだからな。た、ただ……えーと……俺の畑を荒らした奴らを許しておく訳にはいかん」
 頤 歪(おとがい・ひずみ)は、そんな七篠を見てひどく感激する。
「流石七篠殿! 人助けをしながら敢えて顔も隠し名乗らないとは! 吾輩も見習ってスーパーの袋を被ってみたであります」
「……」
「あれ? 七篠殿。どうして手を握りしめているのでありますか? ……へぶっ!」
 歪は七篠に殴られたようだ。しかし、へこたれずに叫ぶ。
「吾輩もマホロバの民。マホロバの同志は皆吾輩の同志でありますよ。勿論、助けに行くでありますよ! ね! 七し…へぶぅっ!」
 歪は再び七篠に殴られた。
 一方、尾長 黒羽(おなが・くろは)はそっぽをむく。
「私……この紙袋を被った方とは赤の他人。私がこんな不振人物とパートナーな訳がありませんわ」
 それから、髪をかきあげて言う。
「ですが、東郷示現を倒したいと思ってるのでしたらお手伝いしてあげないことも無くてよ?」
 それから、一人でつかつかと東郷に近づいて行った。
 東郷は、ルーシェリア達と戦っている最中で黒羽には気付かないようだ。
 黒羽は禍心のカーマインを構えて東郷に向かって発砲した。東郷が驚いてこちらを見る。黒羽は、軽く話しかけた。
「今度は私が相手してさしあげますわ」
 東郷がゆっくりとこちらに近づいて来る。どうやら、次のターゲットを黒羽に絞ったようだ。
 東郷が十分に近づいたことを見て取ると、黒羽は【根回し】で予め用意してきた【ライトニングボルト】を発動させた。機晶石から稲妻が走り、東郷に襲いかかる。しかし、東郷には効かない。それでも黒羽は構わなかった。黒羽の狙いは、東郷の動きを多少なりとも鈍らせる事だったのだから。そして、その目論みは見事に成功した。東郷は驚きのあまり、僅かに動きを止めた。その隙を見逃さず、黒羽は東郷の背後に回ってその体をがっしりと捕まえた。
「……!」
 東郷は黒羽を離そうとめちゃくちゃに太刀を振った。黒羽の体を何度も刃が貫き赤い血に染まって行く。
 血に染まりながら黒羽は笑った。
「ふふ、刺されても何をされても離しません」
 そして、【機晶技術】で自らにある程度応急処置をかけていく。

 それを見て頤 歪は眉をひそめた。
「ふむ……あのままでは……尾長殿が凄く危険な気がするのでありますが……」
「……」
 袋をかぶった七篠は黙ってうなずく。
「あ! 名案であります!」
 歪は手をたたいた。
「あの動けなくなった状態の東郷を、吾輩の【鬼神力】で殴りつけたらどうでありますか?」
 その言葉に、七篠は首をかしげた。
「え? まんま過ぎるでありますか? 名案だと思うんでありますが……」
「うーん。とりあえず、やってみるか?」
 七篠はそう言うと歪と共に歩き出した。紙袋をかぶったままで……。
 その後ろでグェンドリスが他の契約者達に解説している。
「七篠さんって誤解されやすいんだけど、とっても優しいんだよ。……あんな格好してるけど、凄くいい人なんだよ! だから白い目で見ないであげてね……!」
 どうやら、身内の誤解を解くのに必死のようだ。


 歪は東郷に近づくと【鬼神力】を展開。右腕だけ黒く変色しごつごつした鬼のような大きな手になり、その腕で東郷の体を思い切り殴りつけた。東郷は白目を剥いてがっくりとうなだれる。黒羽が手を離すと、そのまま地面に崩れ落ちた。
「死んじゃったのかな?」
 グェンドリスが覗き込む。東郷はぴくりとも動かない。
 その東郷に七篠は剣で斬りつけた
「これが……あー……昨晩植えたとうもろこしの苗の恨みー!」
 言ってしまってから、七篠は険しい顔をする。【殺気看破】でよからぬ気配を察知したのだ。七篠は叫んだ。

「危ない! 下がれ」

 その言葉が終わらぬうちに東郷が立ち上がる。東郷は目の前のグェンドリスに襲いかかった。

「きゃ!」

 グェンドリスは悲鳴を上げながら【バーストダッシュ】で素早く逃げた。
 東郷は刀を構え直すと、黒羽に襲いかかって行った。


 そこに、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)が飛び込んで来た。
「後は俺にまかせろ」
 そして、東郷に向き直って言う。

「名のある武道家達と戦えるとは、光栄だね。死んじまって、操られてるんじゃ、彼らも不本意だろう。派手に一戦やらかすのが、弔いってもんだ」

 東郷はにやりと笑うと、重い一撃を仕掛けて来た。

「イェアァァァァーーーーー!」

 もし、これを刃でまともに受ければ、折れてしまいかねないほどの一撃である。しかし、幸いアキュートの武器は刀ではなくユーフラテスの鱗だ。とはいえ、東郷の刃をまともに身に受ければ斬られてしまう。アキュートは第一撃をなんとかかわした。しかし、東郷は奇声を発しながら目にもとまらぬ速さで次々に打ち込んで来る。
「イェアァァァァーーーーー、イェアァァァァーーーーー、イェアァァァァーーーーー」
「オッサン、なかなか強いじゃねえか」
 アキュートは、大げさにほめたたえると、ミラージュの分身を自身に重ね、相手の攻撃を予測し、残像残しつつかわしていった。体の動きに遅れて残像が付いてくる感じである。そして、そのまま死角に回り込んで斬撃をくわえようとはかった。しかし、敵もさるもの、アキュートの動きに見事についてくる。
 そして、東郷は再び刃を繰り出して来た。アキュートはそのタイミングで光術を展開。東郷はその目映い閃光に目をくらませたものの、それも一瞬。さらに追い打ちをかけるがごとく打ち込んでくる。そして、ついに凶刃がアキュートの脳天を打ち砕かんとした。
「まずい!」
 アキュートは、とっさにテツオこと鉄のフラワシを呼び出し寸止めで受け止めさせた。そして、敵に隙ができたところをユーフラテスの鱗で攻撃。鋭い刃が東郷のうなじを斬る。どす黒い血が、東郷の首筋から吹き出す。
 さらに、その背中をユーフラテスの鱗で切り刻みながらアキュートは言った。
「今のうち聞いといてやるよ、弔いの酒は、何がお好みだい?」
 返事の変わりに東郷はがくりとうなだれた。そして、次の瞬間、ごろりと首が落ちた。