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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション


 二刀 
 その頃、赤津城村の隠し部屋では無想も追い払いホッとしたようなムードが流れていた。
 清泉北都が折り紙を折って子供たちに見せている。新聞紙で剣や兜を作り、男の子達に配っている。それを受け取ると、子供達は大喜びで風呂敷をマント代わりにしてヒーローごっこをはじめた。白銀昶はなぜか馬の代わりにされたり斬られ役やったりと忙しい。
 一方では獅子神 玲(ししがみ・あきら)獅子神 ささら(ししがみ・ささら)が村人達に食べ物を配っていた。
 ささらは空飛ぶ箒シーニュに入れておいた高圧縮フードバー・カロリーフレンドや緑茶などを出し、美味しいお茶と消化に良く栄養のあるフードバーを用意して、ティータイムの準備をする。食べ物を配りながら玲は言った。

「……しかし、皆さんの食べてる姿を見ているとお腹が空いてきますね……ああ、ほんとにお腹が空いて来た……うう、ささらぁ〜」
 すると、ささらが「まったく」と言いながらメロンパンを差し出す。
「…はい、メロンパン食べてますね(もぐもぐ)」

 壁側では十兵衛が慈恩や蓮妓と話し合っている。

「宮本殿と平山殿には気の毒な事をした」
 十兵衛が言う。
「いいや。あの者達も武人。命を捨てる覚悟はできていたはず……」
 蓮妓が答える。
「せめてもの幸いは部屋が守られた事。あの無想に遅れをとらせるとは、やはりあなた方に来ていただいたかいがあった」
「でも、なぜ、無想は急に逃げ出したのでしょうか?」
 慈恩が首をかしげた。
「分からぬ。あるいは、鏡池に行った真桜殿やハヤテが首を見つけ、何かしたのか……」
「もしそうであれば、村人達の辛抱ももう少しということになりますね……」
「しかしまだ、油断はできぬ。今夜にでもまたあの化け物は襲いかかって来るかもしれん。我々は屋敷の外で見張りをする事にする」
 そう言うと、十兵衛は隠し部屋から出て行った。

「姉上」
 慈恩は蓮妓を見る。
「真桜は、首を見つけてくれたのでしょうか?」
「わからん。連絡の取りようもないのだから」
「でも、もしそうなら、近いうちに村人達もこの状態から解放される事でしょう」
「甘い希望を持つのはよせ」
「なぜ? 希望は必要ですよ」
 慈恩が言うと、その言葉に応えるように背後から声がした。
「そうです。希望は必要ですよ『希望』がある方が生き残ろうと思えるでしょ?」
 驚き振り返る姉弟の目に獅子神ささらの姿が映る。ささらは笑顔で言った。
「ああ、ごあいさつが遅れました……獅子神ささらといいます」
「ああ。十兵衛殿の仲間の方ですか。この度はどうも」
 慈恩が深々と頭を下げる。
 ささらは「フフッ」と笑うと、慈恩の手をやさしく握り、そして言った。
「……気を張り詰めてばかりでは、身体に悪いですよ。それより、この事件が解決したら今度空京に遊びに行きませんか?」
「はあ?」
 慈恩がきょとんとする。
 と……、
「ささら!」
 玲が走って来た。
「またさっそくナンパして……! 確かここに来る道中真桜さんにもちょっかいを出してましたね」
「勿論、真桜さんとも約束しましたしね、フフッ……両刀遣いを舐めないで頂きたい」
「フフッ……て。あなた、最近恋人が出来たばかりでしょ?」
「……もちろん、ワタシには恋人が居るので性的な事はしませんよ、ええ。皆さんを平等に愛せますけど……」

 実は、ささらも玲もわざと道化を演じていた。
 ……隠し部屋に居る皆さんは辛い状況ですからね。……少しでも、安心して頂く為に行動しないと……というのがささらの本心だ。



 隠し通路を抜けて十兵衛が外に出ると、「やほー! ラブだよ〜♪」とラブ・リトル(らぶ・りとる)が飛んで来た。
 彼女は、十兵衛の仕える日下部家の次男『竜胆』の友人※で、久しぶりに竜胆に会いに来ようと思って、十兵衛の面倒ごとに巻き込まれたわけだ。
「まったく……あんた達の一家って呪われてんじゃないのホント?」
 無邪気なラブの言葉に十兵衛は思わず破顔する。
「ははは、そうかもしれぬな」
「ま、竜胆の友達だから助けてあげるわよ」
「頼りにしておるぞ」
「それより、十兵衛。あたし、あっちの納屋で食べ物をいっぱい見つけたの」
 そう言うと、ラブは食料の入った袋を見せた。それを見て十兵衛は驚く。
「あんなところまで一人で行ったのか」
「そうよ。サイズがちっちゃくて軽くてスタイルのいい体格をいかして探索に行ったの」
 確かにハーフフェアリーのラブは、小さい上に飛ぶ事もできる。探索にはうってつけといえるだろう。
「だから、あたしこれを捕まってる人たちに届けに行行くわね♪ 竜胆の事件で聖剣の勇者※(自称)として【名声】高いアイドルのあたしが来たら、捕まってる人たちも元気が出るってもんでしょ!」
「ラブの言うとおりだ。皆喜ぶだろう」
「んじゃ、先行ってるね〜♪」
 ラブは荷物を抱えて、隠し通路の中へと入って行った。
 ※詳しくは拙著『とりかえばや男の娘1?3』をお読み下さい。

 
 屋敷の外では、契約者達が魔物の襲撃に備えるべく警戒をしている。
 戻って来た十兵衛に、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が尋ねた。
「ラブを見なかったか? 一人でどこかに行ってしまったのだが」
「安心しろ。ラブ殿なら、隠し部屋に食料を届けに行った」
 それを聞くと、コアはホッとしたようにうなずく。
「隠し部屋か。ならば安全であろう。今回も宜しく頼む、ジュウベエ」
 彼もラブと同様。前回の竜胆絡みの事件に関わっていた。

 それから、しばらく十兵衛達は屋敷の外に立ち続けた。杉の梢がざわざわと風にそよいでいる。時おりきれる雲間に月が通り過ぎて行く。

「不気味なほどの静寂」
 火に当たりながら馬 超(ば・ちょう)はつぶやいた。
「今夜は何も起こらないのか?」

 ……いや、ちがう。

 馬 超は思いを翻す。

 この静寂は魔だ。何かが、この静けさの中に潜んでいる。

 果たせるかな。次の瞬間、馬 超は何者かの気配を感じた。おそろしい殺気……! 何か禍々しい悪意が駆けてくるのを感じる。

「ハーティオン!」
 
 馬 超は叫んだ。

「何か来る!」

 叫んだ時には、すでにその何者かは現れていた。上空の、杉の梢より白刃を構えて飛び降りていた。
 その顔を見てハーティオンは驚く。
「宮本二刀!」
 
 そう。昼間無双に倒された二刀が魔物となって蘇って来た。真っ赤な目を光らせ、笑っている。

 二刀は両手に刀を構えた。
 ハーティオンはそれに応じるように右手に【勇心剣】を、左手には【ブレードフォン】を構える。宮本二刀は100人もの剣士を斬ったという神出鬼没の大剣豪だという。その剣に惑わされぬよう、ハーティオンは「受けの剣」で戦おうと思う。

 二刀は両手の刀を円形に旋回させ始めた。それはゆっくりと速度を上げ、やがて猛烈なスピードに変わって行く。同時に風が起こり、恐ろしい風圧がハーティオンに襲いかかる。

 ハーティオンは自身の重量と重心を低くして【フレイムブースター】でバランスをとって耐え、ひたすらに力を溜めた。

 突然、二刀が走り出した。空を切り、電光石火の勢いでハーティオンに駆け寄ると第一刀を振り下ろす。ハーティオンはそれを、左手の刀による【受太刀】で捌いた。が、次の瞬間には既に二の太刀が眼前に迫っている。しかし、それより先にハーティオンの【勇心剣】が【疾風突き】を繰り出していた。伏せ、耐えて……一瞬の好機に溜めた力を開放した最速の一撃を打ち込む…名付けて、『伏耐・土蜘蛛突き』だ!

 しかし、二刀は寸でのところでハーティオンの突きを避け、大きく後方に飛び上がり、杉の木の梢へと姿を消してしまう。



 その頃馬超は、二刀とは違う、もう一つの殺気を感じていた。

 チリーン

 どこからか、鈴の音が響いたような気がして、馬超は吹きすさぶ風の向こうに目を凝らした。

 チリーン

 再び鈴の音が響き渡る。それとともに、確かに……何者かがこちらに近づいてくるのが見える。
 やがて月明かりの下、その姿が露になって来る。引き締まった体つきの若き武将。目を赤く輝かせ、その手には槍を構えている。

 ……槍使いか

 馬超は思った。

 ……しかしこの気配……。マホロバの武将の事は知らぬが、これだけの殺気……ただ者ではあるまい……ハーティオン、宮本二刀の相手はそちらに任せた。私はこの槍使いと戦う。


 馬超は近づいて来る武将に呼ばわる。

「我が名は馬 孟起(もうき)。名も知れぬ戦士よ、存分に死合わせて貰おう」

 すると、化け物は答えた。

「我が名は国司本槍」

 名乗り終えるや、槍を構えて襲いかかって来る。空切り音すらしない凄まじさだ。馬超は自らも屈盧之矛を構え、本槍の槍を受け止めた。そして、技量を尽くして槍を合わせる事数手。

「なかなかの腕前だな」

 馬超は本槍に語りかけた。本槍はただ笑っている。

「どうだ。一つ提案だが、どちらの槍が速いかの一手勝負をしないか?」

「……」

 その言葉に、本槍は槍をおさめた。どうやら、馬超の申し出を受けて立つらしい。
 二人は間合いを取って向かい合った。そして互いにゆっくりと槍を構える。
 馬超はヒロイックアサルトの『神速突撃』の準備を行い、限界まで力を溜める。
 本槍も力をためている。

 そして……

 しばらくの静寂の後、両者は動いた。

 本槍の凄まじ速さの突き。しかし、馬超の全身から噴出す闘気に打ち砕かれ、そして、馬超の繰り出した恐ろしい勢いの突撃が……!

 本槍の首がごろりと落ちる。

 胸からはどくどくと赤黒い血が噴き出している。馬超は屈盧之矛を本槍の胸から抜くと。瞑目。そして、頭を下げてその場を去った。




「何かいる」
 神代 聖夜(かみしろ・せいや)は超感覚で何者かの気配を捕らえた。
 ここは、朝比奈家の中庭だ。ハーティオンと馬超の戦いの場からは壁越しに少し離れた場所になる。
 神崎 優(かんざき・ゆう)は警戒を強めた。側には神崎 零(かんざき・れい)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)もいる。彼ら四人は阿吽の呼吸が取れる程の信頼関係で結ばれている。
「そこだ!」
 聖夜は上を見て叫んだ。
「屋根の上に何かいる!」
「出て来なさい!」
 零は屋根に向かって『神の目』を展開した。すると、強烈な光の中。一人の剣士が降りてくるのが見える。
 その姿を見て優は驚いた。そして叫んだ。
「宮本さん!」
 二刀は着地するや否や優に斬り掛かろうとした。
「危ない!」
 刹那が光術を展開。目映い閃光が二刀に襲いかかる。二刀はとっさに手で目を庇うと、神速で刹那に近づき一太刀浴びせた。そして、飛びすさったと思うと、次の瞬間には優に斬り掛かっていた。
「く……!」
 優は辛うじて二刀の太刀を避けた。しかし、その後をすぐに二刀の太刀が追いかけて来る。これでは、刀を抜く事もできない。

「サンダーブラスト!」
 刹那が再び魔法を繰り出した。雷が二刀を打つ。その、稲妻に一瞬二刀が怯む。その隙に優は体勢を整え直し、帯刀した刀に手をかけて身構えた。

 それを見届けると、刹那は肩を抑えてその場に崩れ落ちた。その肩からは血が溢れ出ている。先ほど二刀にやられた傷だ。しかし、彼女は自分の傷を直すより、優の事を優先させたのだった。
「刹那……!」
 零が刹那に駆け寄った。
「無茶しちゃ駄目よ」
 叱るように言って、零は刹那にヒールを施す。見る見るうちに傷が塞がって行く。
「ありがとうございます」
 刹那が立ち上がった。
「もう、大丈夫です。それより優が……」

 見れば、今まさに二刀が優に斬り掛からんとしていた。
 それに対し、優は刀も抜かずにただ、構えている。
 しかし、何も無策なわけではない。
 優は二刀をぎりぎりまで懐まで招き寄せると、帯刀の刀を左逆手で抜き、刀の峰を右手で添えながら押し出した。神薙流奥義『無月』だ! 
 白刃が二刀の胸元に迫る。
 しかし、刃が迫ったその瞬間。二刀は後ろに飛んで逃げた。逃げたと思った次の瞬間には、もう前に踏み出している。
 そして、両手の太刀を広げて再び上から振りかぶる。優はそれを受け流しざまに刃を繰り出す。二刀は左の太刀でそれを受け、右の太刀で斬り掛かって来る。優は右の太刀を避けながら二刀の後ろに回り込む。二刀は素早く振り返り、振り返りざまにまた一太刀浴びせようとした。
 その二刀の頭上から、聖夜が襲いかかった。彼は隠れ身で姿を隠している。そのまま不意打ちで、二刀の背中に一太刀浴びせるつもりだった。
 ところが、二刀は聖夜の気配を察知し後ろに刃を振った。
「ヤバい!」
 聖夜はとっさに逃げる。しかし、僅かにその胸を二刀の太刀がかすめる。赤い血がほとばしる。零は聖夜にヒールをかけた。
「助かったぜ」
 聖夜は骨の短剣を手にブラインドナイブスで再び二刀に襲いかかって行く。
 同時に優も神薙流奥義『如月』で神速の居合いを放った。
 すると、二刀はなんと両の腕で二つの攻撃を同時に受け止めた。そして、しばらく3者のつばぜり合いが続く。

「今がチャンスです」
 刹那が言った。
「チャンス?」
 零が聞き返す。
 刹那は零になにか耳打ちした。
「ああ、なるほど」
 と、零はうなずくと素早く二刀の後方に回った。
 刹那は二刀の正面に立つ。
 そして、前と後ろから二人同時にバニッシュを唱えた。
 神聖な力が二刀に向かい襲いかかる。

「ぐ……」

 二刀の体から黒いものが立ち上がり始める。

 瘴気だ。

 二刀はあらん限りの力で優と聖夜を振り払うと、大跳躍。
 そのまま屋根の上を走り逃げて行った。