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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション

「宮本二刀が現れたらしい」
 氷室 カイ(ひむろ・かい)が憮然たる面持ちで告げに来る。
「つまり、それは魔物となってということで御座いますか?」
 九十九 天地(つくも・あまつち)がカイに尋ねる。カイは黙ってうなずいた。
「すでに屋敷に侵入し、屋根伝いにこちらに向かってるらしい。狙いは、この隠し部屋だろう」
 カイは背後の壁を叩く。
 ここは、ちょうど隠し部屋の前に当たる道場である。魔物達は、この壁の向こうに村人達が隠れているのを察知し、壁を壊そうと考えているようだ。
「でも、変だわよね」
 と、雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が首をかしげた。
「宮本さんは隠し通路の存在を知ってるはずでしょう? どうして、使おうと思わないのかしら?」
「それは、彼らがすでに生前の彼らでなく、単に無想の傀儡と化しているからか……もしくは、ただ、この戦いを楽しみたいだけだから……かもしれないわね」
 縁側に立ち九十九 昴(つくも・すばる)が答える。その目は、裏庭に茂る木々に油断なく注がれていた。全身の神経は張りつめられている。実は、彼女は『殺気看破』を使用して、神出鬼没という宮本の気配をさぐっているのだ。同時にその他有象無象の奇襲警戒も兼ねている。
 そうしながらも、昴は身の内の昂りを抑える事ができない。剣客としての血がざわめく。宮本二刀と早く手合わせしたくて仕方ない……! その気持ちが思わず口から出る。
「大太刀と小太刀の使い手、宮本二刀…ふふ、早く斬り合いたいものね……」
 そんな昴をパートナーの天地は危うげに見ていた。
「昴ってば、熱くなって……でもまあ雨宮殿と氷室殿に協力を頼んでいるから大丈夫でしょうが……」

 そう、彼ら4人は共闘する事を約束している。元はといえば天地が渚に相談して決まった話だが、昴は素直に受け入れた。
 相手は強敵である事に間違いはない……なら、ここは快くその協力に感謝しなくては。一個人の興味でもあるけど、これには隠れている人の命も掛かっているのだから……と、考えたのだ。村に入る前に4人は合流し、すでに自己紹介も済ませてある。
 そして、4人は最後の砦ともいえるこの場所の警護についた。村人達の安全のためにも、なんとしてもここは守らなくてはならない。

 木々がざわめく。海鳴りのようだ。だがしかし、そのざわめきの波間に……昴は一つの気配を感じた。そして叫んだ。

「来た!」

 その時には、月を背負い、一人の男が、昴をめがけて鷹のように襲いかかって来ていた。その両手には白刃が光っている。

「宮本二刀!」

 昴はたかぶった声で叫び、早々と【海神の刀】を抜いた。それに答えるように二刀が斬り掛かって来る。ものすごいスピードだ。訳も分からぬうちに昴は腕を斬られていた。さらに二太刀目が昴の喉首をねらって襲いかかる。

「危ない!」

 カイは自らにゴッドスピードをかけると、二刀と昴の間に割って入った。そして、行動予測と先の先で二刀の刃をはじく。

「熱くなりすぎるな」

 カイは昴をたしなめた。そして、二刀を牽制しながら『勇士の薬』を飲み、さらに昴にもゴッドスピードをかける。
 その時には、二刀の二太刀目が襲いかかっていた。カイは両手に二本の剣を構え、歴戦の立ち回りで二刀の刃を受け流して行く。

「ふうー」
 昴は額の汗を拭った。間一髪だった。腕を斬られただけで済んだのは僥倖といえよう。
 渚がヒールをかけてくれる。おかげで腕の傷はすぐに塞がった。
 さらに天地がカイと昴にディフェンスシフトをかけた。ゴッドスピードで下がった防御を補うためだ。
 天地は言った。
「本当に、雨宮殿に相談して良かったで御座います。一人だったらきっと、もっと無茶をしていたで御座いましょう。氷室殿、本当にありがとう御座います」
 彼女は昴の事を心底心配していた。万が一その彼女が危うくなったら、我が身を挺してでも守ろうと考えていた。
 
 一息つくと、昴は二刀の戦いぶりを見た。さすが、百戦錬磨の剣豪。電光石火の太刀捌きだ。しかし、カイもひけは取っていない。
 カイは行動予測と先の先、歴戦の立ち回りで巧みに二刀の太刀を捌いて行った。こうして、敵の注意を自分に引き付け、昴が行動し易いようにしようと考えたのだ。そのもくろみの通り、二刀は目の前のカイに全神経を集中しているように見える。
 
 今なら……!

 昴は再び【海神の刀】を手にすると、二刀の背後から疾風突きを繰り出す。
「!」
 二刀は素早く躱した。そして、片方の手で昴を牽制すると、昴に斬り掛かって来る。昴は、歴戦の立ち回りで二刀の太刀を避け懐へ飛び込んだ。そして、急所を狙った一撃をくわえようとした。
 しかし、二刀はそれを素早く避けた。そして、大きく後ろにジャンプして逃げようとする。その後をカイが追った。彼は、ゴッドスピードで宮本にぴったりと張り付いている。そして、宮本より僅かに速く地上に着地すると、袈裟がけに刀を振り下ろした。刀は宮本の脛を斬った。赤黒い血がほとばしる。
 しかし、宮本は強靭な精神力で痛みをこらえて地上に立った。
 そして、両手に構えた剣をゆっくりと回し始めた。そして徐々に旋回のスピードを上げる。恐ろしい風圧が一同に襲いかかる。
 目も開けていられないような風圧に、昴は『忠烈』で対抗する。本来、主君への忠義心で自分を奮い立たせようという心から発動する『忠烈』だが、昴に特定の主はない。ただ「人の命も係っている、その命を救いたいという意思」からの発動だった。救える命全てが忠義に値する。
 それでも、風圧は襲いかかり一同を怯ませるに十分だった。
 渚が「真空波」を展開。超能力による破壊エネルギーが、風圧を相殺して行く。
 その隙に、昴とカイが再び二刀に襲いかかって行く。二刀は足から血をほとばしらせながら応戦。両腕で二人の太刀を巧みにかわず。まさに鬼神のごとき戦いぶり。
 渚はドラグーンマスケット(銃)を使って弾幕援護した。さらに天地もヴォルテックファイアで援護攻撃。炎と銃弾が二刀に襲いかかる。
 全身に銃弾を受けながら、二刀は戦いを妨害する邪魔者二人をキッと睨みつける。そして、体中から血を噴き出しながらも恐ろしい勢いで斬り掛かって来た。
「危ない!」
 カイと昴が後を追う。
 二刀が渚に向かって刀を振り上げる。しかし、その太刀が振り下ろされるより速く、渚はフォースフィールドを展開。二刀の太刀が鈍る。その瞬間を狙い、カイが袈裟がけに二刀を斬る。さらに、昴が光条兵器(心刀『天明狂羅』を使用し、刀や防具を全て無視して宮本本体を刺す。最後にカイが言った。
「仮初の命で生きながらえる者か……せめて俺達がバケモノとしてではなく剣豪として殺してやる、全てが終わったら簡単な墓でも作って弔わせてもらおう」
 そして、宮本の腹を貫いた。
 二刀の首がごろりと落ちた。