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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

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 無想転生 

 ぼう然としている一同の目の前で、無想の体の傷は再び塞がりはじめた。真っ黒い瘴気を巻き上げながら……。何か、荒唐無稽な悪夢でも見ているような気になる。
 その、異常な光景を見て半ばうわごとのようにシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)は言った。
「また随分と大きな奴が来たのぅ。無想……と言うたか」
 すると、隣でエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が笑た。
「ふふふ、無想……ですか。確かになんともデカイ図体ですねぇ」
「剣士の成れの果てがこれでは、主自身も浮かばれぬじゃろう。しかし此奴を相手にするとなると、少々骨が折れそうじゃな」
 それを聞いた相田 なぶら(あいだ・なぶら)が義憤にかられて叫ぶ。
「確かに無想は強い、でもだからといって放って置くわけにはいかない!」
 エッツェルはうなずく。

「そうです。このまま進ませれば可愛い女の子達が危険にさらされますからね。久々に本気でいきますか。相手は不死の怪物、ならば倒せずとも足止めすればいいだけです。相対するは、やはり不死の怪物がふさわしいでしょう? そうだ。私に良い考えがあります」
「ふむ? どんな考えじゃ?」
 『手記』の言葉にエッツェルは答える。
「私が足止めしますので、まずフィアナさん」
「私……ですか?」
 なぶらのパートナーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)がエッツェルを見る。
「そうです。まずフィアナさんが必殺の一撃をお見舞いして上げてください。『触手の塊』はその後、なんとか奴の再生を邪魔してください」
 『触手の塊』とは『手記』の事である。大小様々な触手を器用に操って生活しているのでこう呼ばれているようだ。
 それを聞いた『手記』は手を打って喜んだ。
「ん……くくっ……くはははははは! 随分とまぁ面白い事を考えるものじゃな!? ……良いな、良いぞっ、素晴らしいっ! その策、乗った!」
 なぶらもうなずく。
「いいですねぇ。じゃあ、俺もエッツェルさん、手記さんと共に無想に立ち向かいます」

 こうして、作戦が決まった。名付けて【無想転生】。
「主公……我は何をすればいい?」
 魔鎧ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)がエッツェルに尋ねて来る。
「そうですね。私はあなたを纏い、戦う事にしましょうか」
「ククク……久々に……主公と……ともに戦える……」
 ネームレスは狂喜しながら全身を闇黒の霧に変えてエッツェルにまとわりついた。その後濃度が濃くなり身体に硬化し、最後には異形の魔人の如き姿の魔鎧となり着装完了する。そして、ありったけのパッシブスキルをエッツェルに上乗せした。

 こうして準備を整えたエッツェルは、無想の正面へと立った。他二人の壁役となるために無想と接近戦をおこなうためだ。
 その気配に気付いたのか、無想がエッツェルを見下ろすように立つ。片方には大太刀を持ち、片方は素手だ。先ほど幸村に太刀を折られたためである。エッツェルは。その素手の方に向かい突進した。無想に対して自身の魔力(闇黒属性メインなので)が通用しないので殴り合う事にしたのだ。
 とはいえ、そうやすやすと殴られる無想ではなかった。殴りかかって来るエッツェルに向かい、片手の大太刀で斬りつけた。
 エッツェルは鎧ごと胸を裂かれて血が溢れ出す。しかし、それもすぐに回復して行く。さらに、無想の体から立ち上る瘴気も彼にとっては無意味wだった。
 まさに、化け物と対峙するにはうってつけの人物と言えよう。
 さらに、幸運な事に、無想は先ほどの未散とカガミから受けた傷が、まだ回復しきっていないようだった。エッツェルはそこを狙って攻撃を仕掛けて行く。

 エッツェルの背後から『手記』が黒曜鳥を召喚して無想にけしかけた。電気を帯びた三対の翼を持つ非常に大きな黒鳥が無想に向かって飛んで行く。まぶしい光が無想を撃つ! 光輝属性の魔法に撃たれ、無想の体から瘴気が立ち上る。
 無想は大太刀で黒曜鳥を斬りおとそうとした。しかし、エッツェルに阻まれてうまくいかない。『手記』は何度も何度も黒曜鳥をけしかけた。しかし、それを繰り返すうちに飽きて来たのかいたずらでエッツェルに『完全回復』を飛ばす。間一髪で魔鎧ネームレスがキッチリガードする。

「私を狙ってどうするんですか? 頭の足りぬ触手め」

 エッツェルは『手記』に向かって怒った。

 フィアナ・コルトは、エッツェルに言われたように必殺の一撃を狙っていた。凶悪なまでの力を持った身の丈程もある大剣『梟雄剣ヴァルザドーン』を構えて一刀両断で切裂こうとする。しかし、相手はバケモノだ。フィアナの心に怯えがはしる。しかし、それでも……フィアナは飛びかかっていった。無想はフィアナの攻撃を片手で受け止めると、薙ぎ払い斬りかかって来る。咄嗟に剣で受け止め、フィアナは光波により無想を薙ぎ払おうとした。しかし、それもあっさり受け止められ、フィアナは剣ごと吹っ飛ばされる。
「く……」
 フィアナは立ち上がると、剣をレーザーキャノンとして使用。砲弾が無想に襲いかかり炸裂する。砲弾を身にまといながら無想はフィアナに近づき頭をつかんだ。そして、思い切り投げ飛ばす。それでもフィアナは立ち上がり、金剛力で斬り掛かる。無想はその剣を手で受け止めると、無防備になったフィアナの腹を思い切り拳で殴った。フィアナの体が何メートルもふっとぶ。

「ぐ……強い……」

 なぶらは拳を握りしめた。
 確かに無想の強さは理解の範疇を超えている。
 それでも、なぶらにはその『強さ』を認める事ができなかった。
 彼は首を振り叫んだ。

「でも……皆……色んな想いを……悲しみを背負って生きて……戦ってるんだ! 想いを捨てた……悲しみを知らぬ男に勝利なんて無いんだ!」


「ガハァ……」

 激しく地に打ちつけられフィアナは口から血を吐く。
 死ぬかもしれないと、フィアナは思った。
 そして、つぶやく。
「駄目……ですね

 やはり私の剣では誰も守る事なんてできないのでしょうか……

 私にもっと力があったなら……

 どんな敵も一撃で粉砕できる位の力が……

 もっと……もっと……力が……

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ……私の体が多少傷ついても構わない……

 パートナーが、共に戦う仲間が、そして何より私自身が生き残る為、唯敵を打ち砕く力を……

 鎧などいらない、剣を振るのに邪魔だから

 防御などいらない、剣を振るのに邪魔だから

 理性などいらない、剣を振るのに邪魔だから

 もっともっともっともっと力を……唯敵を打ち砕く、純粋な破壊力を……!」

 願いも虚しく、目の前が暗くなって行く。このまま自分は死ぬのだろうか? とフィアナは思う。その時、心の奥底から聞こえる声があった。

 ……いやだ、死にたくない! 生きたい!

 その途端、フィアナの中で、何かが弾けた。

「ガ、ガァアァッァァアッァ!」

 そして、彼女は立ち上がると、雄たけび(【クライ・ハヴォック】)をあげ、【ゴッドスピード】で速度を、【チャージブレイク】攻撃力を更に上げて無想に突っ込んでいく。暴走だ。暴走したフィアナは恐ろしさも忘れ、防御などは考えずただ敵を破壊するための兵器となった。その状態で無想に斬り掛かる。無想はフィアナを振り払おうとした。しかし、フィアナはゴッドスピードでそれを避けると、高く飛び上がり、首の無い無想の体を上から切裂こうとした。

 斬!

 激しい音と共に血飛沫が上がる。

「やったか?」

 なぶらが叫ぶ。

「いいえ」

 エッツェルが首を振る。

 剣は無想を真っ二つにはできなかった。それでも、左肩から胴にかけてを切裂いている。普通の人間であれば十分に致命傷と言えるだろう。しかし、その傷もゆっくりと塞がって行く。

「いかん!」

 すかさず『手記』が黒曜鳥に飛び乗り、無想の断面へ突撃した。
 そして、己が両腕をもって傷口が塞がるのを必死で妨害する。
 しかし、再生の力は思いの他強かった。再生に巻き込まれながら『手記』思う。
 ここで、死ぬかもしれぬと。

 覚悟を決めた『手記』は無想に語りかけた。

「無想よ……ありもせぬ耳を傾け、聞くが良い



 戦うのは好きか?

 斬るのは好きか?

 死ぬのは好きか?



 どれも好きじゃろうな



 戦わなければこうも大事には為らんかったじゃろう?

 斬らなければあんな同族を造りはしなかったじゃろう?

 死ななければそんな化物には成らずに済んだじゃろう?



 良いか、無想よ

 此処に三人の馬鹿が居る



 主の為に戦ってやる化物が居る

 主の為に斬ってやる乙女が居る

 主の為に死んでやる我が居る



 なぁ、無想よ

 この言葉の意味を考えよ

 

 何も考えずに戦うな

 何も感じずに斬るな

 何も想わずに死ぬな



 笑え



 主の為に戦う化物を

 主の為に斬る乙女を

 主の為に死ぬ我を



 馬鹿な奴等と笑い飛ばして、自分を想ってみるが良い!



 くっはははははははは!」

 そして、再生に取り込まれ、再生し切る前に黒曜鳥の炎の御霊と、天の炎で自爆!
 無想の肉片が散らばり落ちて行く! 同時に手記の体地上に落ちていった。

 そして、その瞬間。
 『手記』の体が地上に落ちた、その瞬間。
 天より恐ろしい雄叫びが響き渡った。

 皆、一斉に空を見上げる。
 何かが飛んでくるのが見える。
 それは、首だ。
 髪を振り乱して首が飛んで来る。

「あれは、まさか!」
 蓮妓は青ざめた。
「無想の首?」

 無想は高らかに手を掲げると、飛んで来た首を受け止めた。
 そして、満足げにそれを両手で抱え、皆が見つめる中それをねじ込むように己が首にすげた。

「そんな……」
 慈恩が唇をわななかせる。
「首は返してはならぬのに……」