天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

古代の悪遺

リアクション公開中!

古代の悪遺

リアクション





 8:Scram  
 




 scene1:Prevention


 殆どの機晶ワーム達が沈黙したその頃、動力室でも山場を迎えていた。

 バンッという、テロルチョコおもちの小さな破裂音と共に破壊された、動力炉の冷却装置を制御するパネルをこじ開け、その内部を露出させると「うん」と天音は頷いた。
「損傷なし。それにそこまで特殊な装置でもなさそうだね」
 これなら何とか弄れそうだ、という言葉を受けて、浩一も頷く。
「ゴモラの動力に関する冷却装置だけ止める、ということは出来そうですか?」
「ちょっと待って」
 トレジャーセンスによって探し当てたマニュアルを引っ張り出し、ざっと目を通しながら「何処を弄ればいいのかわかれば、かな」と控えめながらに可能だと示す天音に、今度はツライッツに「どうです?」と浩一は問いを向ける。
 その視線の先では、ツライッツが自身の端末を繋げて、装置の情報を収集しているところだった。
 幸いにも、中央制御室の防衛システムなどとは違って、動力の供給情報のような単純な物理情報は簡単に手に入りそうだ。浩一は、ツライッツの集める情報にあわせ、制御室から細々と入ってくる情報と共に、HCで共有化していきながら、制御パネルに向きあった。
「操作の必要な場所を指示します」
「お願いするよ」

 その間に、徐々に防壁を破りつつあつ制御室や、隅々まで動力室を飛び回ったディミーア空の情報を下に、凶司が作り上げたマップを見ながら、エヴァがぽき、と指を鳴らした。
「あたしの出番だな?」
「ああ」
 パートナーの確認に、煉は頷いた。
「冷却装置の制御を弄った場合、動力炉にどの程度影響が出るか把握しないと」
 下手に爆発でもさせれば、この場の皆が巻き込まれかねない。それだけですめばいいが、最悪、ゴモラの動力は止めても発射が止められなかった、などというオチになっては笑えない。
 そのために、どの程度の耐久力があるかどうか等について、正確に把握しておく必要があるのだ。
「おし、じゃあいっちょやるか」
 気合十分。エヴァが手近な動力炉に触れた。
「―――……」
 意識を集中させ、サイコメトリで情報を集めていくが、何分動力室の広さはかなりあるのだ。それだけの情報を得ようというのだから、精神への負担は相当なものだ。
 だが、泣き言を言っているような余裕も、休んでいる時間もない。じっとりと額に汗を浮かばせながら、得た情報をテレパシーで凶司へと伝え、マップ上に更に詳細な情報を重ねていく。
「やっぱり、冷却装置のほうは脆そうですね。一気に暴走させれば、動力炉ごと沈黙してくれそうです」
 情報を解析しながら凶司が言う。
「外装強度の高さが、ここにきて幸いしましたね。これなら内部を爆発させても、周囲を誘爆させずにすみそうです」
「そうですね」
 浩一も僅かに笑みを浮かべて頷き、割り出した破壊ポイントと、それに連動するパネルの位置を天音に伝えていく。それに従って、天音はコードを繋ぎ、或いは切断して、中央制御室のエネルギー供給を落とさないように細心の注意を払いながら、はんだ付けセットを駆使しつつ制御パネルを弄っていった。

 一秒すら長く感じるその数分間。
 唸るような動力装置の稼動音と、施設内に響く警告音の中に、本人たちも意識していない、早鐘を打つ心臓の音が混ざる。不安や焦り、期待や高揚などの入り混じる心を何とか押さえつけながら、その作業を見守ること数分後。先ほどまで規則的だった動力炉の稼動音が、唐突にその音量を増した。
「……っ!」
 エヴァが弾かれたように、装置に触れて確かめる。
「動力炉への負荷が増加してる。104%、107%、112%……!」
 カウントダウンと同時。オオン、と最後に遠吠えのようなひと鳴きをし、幾つかの炉が煙を上げ始めた。
「よし……! 狙い通りですね」
 浩一は思わず、ぐっと拳を握りこんだ。



「あとはこれ、ですね」

 台座に繋がる何本もの太いケーブルに、ルークが漏らした。
 動力炉の幾つかが落ち、エネルギーの充填速度が一気に落ちたとは言え、完全に断たれたわけではない。
 まだ粘り強く持ち堪えているものもあったし、一部動力は制御室側からも流れてきている。何らかの原因で機晶エネルギーの供給が不足した場合に備えて、他所から補填する予防措置が、当然取られているのだ。こちらは先の通り、中央制御室の動力を間違って落としてしまわないために、下手に弄ることは出来ない。
「となれば、ケーブルをどうにかするしかないでしょう」
 言いながら、HCで凶司の作成したマップを活用し、破壊箇所を特定していく。
「間違っても制御室のケーブルに影響を出すわけにもいきませんしね」
 急ぐ必要はあっても、焦ってはいけない、と、エヴァの協力を求めながら、ルークは慎重に破壊箇所を定めていく。台座に繋がっているケーブルは一本だけではない。それに、ゴモラ本体以外にも、様々な装置に対して機晶エネルギーが送り出されているのだ。一つ一つのケーブルの強度や役割を再度確認し、最も破壊すべきポイントへ、マップの上にマーカーを付けていく。その数は数十にも及んでいたが、今更それを重労働だと捉える者はなかった。
「足がある人は奥のポイントへ。それ以外の人はゴモラ側のポイントをお願いします」
 ルークの声に従い、各々が声を掛け合ってポイントへ散っていく。
 最も奥の地点へ向かうのは、ネフィリム三姉妹だ。
「ぶっ壊しちゃっていいんだよね?」
「そうよん。でもケーブルだけよ、間違っちゃだめよ?」
 それぞれの地点へ到達し、通信で尋ねるエクスの声に、セラフが答える。
「時間がないわ、次々いくわよ!」
 ディミーアの勇ましい声と共に、三人はその機動力を生かし、次々とポイントを屠っていく。エネルギーの供給先を失って空回りする動力装置が虚しく唸るのを横目に、ゴモラ側を受け持った煉たちも、機晶バイクで動力炉の合間を縫いながら、次々にポイントを潰していっていた。
「一気にぶっ壊せたらいいんだけどな」
 乱暴にエヴァが言うのに「そういうわけにもいかないだろ」と協力して破壊工作を行いながら煉は苦笑した。
「今そんなことをやれば、調査団たちまで巻き込むだろ」
 そう言うと、ふむ、と一瞬考えるようにしてエヴァは首を捻る。
「……ってことは、避難したあとなら良いんだな?」
「動力を壊したって、ゴモラが破壊できなきゃ意味ないんだ。一緒に壊せる保障でもあれば別だけど」
 それが無い以上、避難して爆発させたあと、結局発射されてしまうような万が一、の可能性が残っている以上、あまり現実的とは思えないな、と続ける意見に「そうねえ」と非常階段から合流したニキータが答えた。スパイーダたちはどうやら一掃し終えたらしい。
「まあ、今は壊せるかどうかじゃなくて、どうやったら止まるか、を試してる時よ」

 破壊手段を持った皆で手分けしてポイントを潰して回り、残るところはあと一本。
 台座に繋がった最も大きなケーブルが最後に残された。
「頑丈でありますね……」
 思わず、といった調子で丈二が呟く。持ち寄ったテロルチョコおもちでケーブルの表面を爆破したものの、内部がやや露出した程度で、破壊しきれなかったのだ。寧ろ、剥き出しになった部分からは、僅かではあるがエネルギーが漏出して触れるのを拒んでいる。皆が一瞬怯むように顔を見合わせる中、構わず手を伸ばしたのはルークだ。
「ここさえ断ち切れば終わりです、し、……っ」
 言いながら、ケーブルの内部部品を引き千切ろうとした指先がバチン、と弾かれたが、それに構わず再び伸ばそうとする手を、遮ったのはブルーズだ。
 パワードスーツを着込んだ分、生身よりも対抗できると踏んでのことだ。
「力技は我がやる。必要なところだけ頼む」
 言うが早いか、ブルーズはドラゴンアーツにパワードスーツの力を併せた力技でケーブルを引きちぎりにかかる。その傍らで、ルークも返事をする合間も惜しむように再度手を伸ばすと、力任せでは千切れそうも無い場所の接合部分のパーツを取り外していく。
「お願い、頑張って……!」
 その合間何度も指先を焼かれたが、それで怯みそうになる心を奮い立たせるように、リカインが傍らで懸命に激励を送る。傍で端正な姿の女性がエールを送っているのに、男として怯えた格好悪い姿など見せられるはずが無い、とルークは歯を食いしばる。
「……ッ、これで……っ」
 部品を解体し、要所に楔を入れて弱体化させると、最後の一押し、とばかりに、左右一方ずつをブルーズと分担すると、そのまま体重を後ろに倒すようにして、綱引きのような格好で力を入れる。つまり。
「ち、ぎ、れ、ろぉおお……ッ!」

 叫ぶのと同時、力任せに引っ張られたケーブルは、バチイイッ! という派手な音を立てて引きちぎられた。