リアクション
10:Epilogue
「随分と派手な花火が上がったもんだな」
クローディスは、もうもうと煙を上げる施設を眺めながら苦笑を漏らした。
守護者や機晶ワームの邪魔が無かった分、慌てはしたものの、なんとか安全に避難を終えた数分後。
念のためにとかなり距離を取ったにも関わらず、その爆音は地震と勘違いしそうなほどの振動を引き連れて響き渡った。
幸いだったのは、その破壊の規模は、施設の地下部分を潰す程度ですんだことだろうか。動力室での破壊工作がなければ、もっと被害は拡大していただろう、というクローディス達の指摘に、何人かが息を吐いた。
「……けどまあ、弔いの火には丁度良いのかもしれないな」
ぽつり、と漏らすとクローディスは視線を施設から外して、地面へ横たわった仲間へと向けた。
レンと英虎が連れ帰った調査団たちは、それぞれのパートナーであるノアとユキノによって治療が行われ、殆ど全快しているが、一人だけは、結局命の帰って来ることは無かったのである。
「ごめんなさい……手は尽くしましたが、既に」
「いや」
悲しげに顔を曇らせるノアに、クローディスは困ったように笑って、傍らで励ますように立つレンと、どういう表情をしていいのか、と迷っている様子の英虎とユキノの四人に向かって深々と頭を下げた。
「十二分に、助けてもらった。ありがとう……連れて帰ってくれて」
最初から、既に助からない者がいるだろうと、覚悟は出来ていたのだろう。
どこから取り出したのか、エースが差し出した花を受け取り、横たわる男へとそれを手向ける横顔に涙は無く、クローディスや、ツライッツたち調査団の面々は、言葉なくただ黙祷を捧げるばかりだった。
「……駄目ですね」
要請を受けて、遅まきながら到着した救援と共に、皆が帰還の準備に勤しんでいる合間、呟いたのはエオリアだ。制御プログラムの書き換えの際に、施設から集められるだけの兵器のデータをダウンロードしてきていたが、特殊なのはシステムの運用目的だけで、兵器そのものは構造に真新しいものもなく、資料として珍しいという程度でしかなかったのだ。それには、データを持ち帰ろうとした面々も息をついたが、文句を言っても始まらない。それよりも、気になるのは兵器そのものの方だ。
「しかし、何だって実験中止になったはずの兵器が残ってたんだろうな」
一人が疑問を口にすると「さあな」とそれに応えたのは、事後処理をひと段落終えたクローディスだった。
「本来は解体されるべきだったんだろうが、開発者たちはこの兵器の有用性を信じていたんだろうな。だから「実際に使ってみせる」つもりでいたんだろう」
あれだけの巨大な施設だ。予算もかなり動いたのであろうし、あと少しで実用化できたということへの未練もあったのかもしれないし、実際に使用し、その効果を実証できれば兵器として認められるはず、という自負もあったのかもしれない。
「プログラムから何から、やたら発射を優先した設定も「緊急時」を作ったうえで「許可を待たず使用に踏み切った」という建前を用意するつもりだったのかもしれないな」
「どうだろうね」
クローディスの言葉に、ぽつりと天音が口を挟んだ。
「こういう兵器が、そこまで”綺麗な”理由で残されてたとは思えないんだよね」
妙に作為的な故障箇所と、異常に強固だったセキュリティ。ただの偶然と言うには、不審な部分があまりにも多い。
「緊急事態を作り出してまで、町ごと焼き尽くすような兵器と、誰にも止められないように作られたシステムが狙ってたのは、本当に敵だったのかな?」
敵もろとも都合の悪い何かか誰か、或いはもっと別の意図を持って、町ごと全て灰にしてしまうつもりがあったからこそ、記録にも残さず、カモフラージュしてまで残してあったのではないか――と。
そう疑う天音に「さあ」とクローディスは肩を竦めた。
「この兵器にそんな悪意があったのか、今となっては計り知れないさ」
データは既に無く、公式な記録には載っていない。調べる手段は余りに少なく、事実は闇の中だ。
重くなりかけた雰囲気を取り払うように「それは兎も角」とクローディスは表情を引き締めると、全員の顔を見渡して、深く頭を下げた。
「今回のことは本当に感謝している。空京が守られたのも、私たちが生きているのも、君たちのおかげだ」
「……良かったんですか?」
調査を依頼されていたというのに、肝心の遺跡は破壊されて、データ自体も余り重要性は低いものだ。調査団としては手痛い失敗ではないのか、という控えめな問いに、クローディスは苦笑した。
「兵器を稼動させてしまった時点で、失態なんだ。その尻拭いをしてもらっておいて、何を言えるものでもない」
もしも兵器が止められなかったら、失態などというレベルの話ではなかったのだ。それを思えば、止めてくれたことに感謝こそすれ、よくも破壊したな、などと言えるはずも無い。
「それに、破壊してはいけない、とは言われていないしな」
と付け加え、クローディスは肩を竦める。
「扱いこなせないような兵器は兵器とは言わない。いずれにせよ破壊されることになったろうしな」
「……一存では開示できないんじゃなかったのかな?」
軍事転用が可能かどうかの調査も含まれていたのではないか、と疑われるような口調に、天音は思わず、といった様子で小さく意味深に笑う。だが、クローディスも「私達自身の目的は、最初からただの調査だよ」ととぼけたようにクローディスは言って肩を竦める。だが、それに続いた言葉は、真っ直ぐと強いものだった。
「その結果どうするかは、私たちの仕事じゃあない」
自分たちは、それが何であるのかを追い求め、ただ事実を明るみに出すだけで、それをどうするか、を決めるためにいるのではない、と、その立ち位置を明確に違うのだ、とその声は言う。
「例えば、この遺跡のような”力”に出会ったとき、遺跡として守るのか、危険だと破壊するのか、或いは――利用するのか」
”どうするか”を決めるのは寧ろ、これからの君たちの仕事だろう、と。
クローディスは見守るような、挑むような、様々なものを内包した目で、契約者たち一人一人を眺める。
その言葉の意味を、頭で、或いは心で受け取る契約者たちを、赤々と燃え上がるような夕焼けが照らし始めていた。
FIN
皆さまお疲れ様でした
色々と思わぬ事態がありまして、判定の難しい部分もありましたが
無事に兵器を止める事が出来て何よりです
ガイド等を色々読み込んでくださってるなあ、と、マスターが楽しくていいのだろうか、というぐらい
今回もまた、皆さまのアクションにたくさん引っ張っていただきました
ありがとうございます
イコン戦では、皆さまの拘りの機体を大変楽しませていただきました
イコンを使ったシナリオは初体験でしたので、判定の甘くなっている部分もあったかと思いますが
出来るだけ迫力を殺したくなかったので、頂いたアクションを大分生かさせて頂きました
楽しんでいただけましたら幸いです
それでは、またお会いできることを、心よりお待ちしております