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古代の悪遺

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古代の悪遺

リアクション

 

 scene2:Intention of excelling malice  




「動力炉停止、及びケーブル切断成功。機晶エネルギー充填率は47.6%で停止!」

 その一報に、中央制御室はにわかに活気付いた。
「誘爆の危険性は?」
 そんな中でのルカルカの問いに「大丈夫です」と浩一が答える。
「エヴァっちが確認した。少なくとも、現在稼動中の動力炉から誘爆する危険性は無い」
 続けて煉が告げるのに、今度こそ安堵の息をついた面々に、朗報は続いた。
「修復完了。命令認識装置の正常稼動を確認」
「こっちも、防壁の解除が終わったわ」
 ダリルとリーンがほぼ同時に告げる。
「割れたぞ」
 全ての防壁が突破されたことで、操作することはまだ出来ないものの、アクセスすることが可能になったことで、システムの全貌も明らかになった。
「成る程ね」
 理王が整理した兵器のデータを見やってセレンフィリティが苦い声を漏らす。
「なんで5000年前の兵器が、当時は辺境だったはずの空京に狙いを定めてたのか疑問だったけど」
 これで、納得できたわ、と、続いた言葉には、皆も複雑に頷く。

 5000年前。
 土地に対しての人口密度を基準に、指定された地域の中で最も密度が高く、且つ、殲滅効率が高い座標を割り出し、エネルギー量と目標を設定する、というシステムが開発された。
 小さな村落ひとつを囮にし、敵戦力を誘い込んだ上で、その町ごと焼き尽くす――という、非情な運用目的によって作られたそのシステムを組み込まれた大規模破壊機晶兵器”フレイム・オブ・ゴモラ”は、それでも実用段階にまで至っていたらしい。
 その最終実験用の場所として、かつては辺境であった空京島が設定され、実験時には遺棄予定の機晶姫などをデコイを用意して、攻撃目標範囲の選定をさせる予定が組まれていたが、運用上の人道的観点と、元々一部上層部の独走による兵器開発であったために、実験も計画段階で中止。
 一度も使用されること無く”フレイム・オブ・ゴモラ”は永遠に失われる――筈だった。

「でも、実際には失われずに残ってたんだわ。実験の時の、設定ごとね」
 そして、電源が戻ったことにより動き出したシステムは、当時設定された地域の中で、選定条件、つまり土地に対する人口密度の最も高い、現在の空京を狙って稼動を開始してしまった、というわけだ。



「全く、厄介なものを残しておいてくれたもんだな」
 苦い声を漏らす者もあったが、疑問の解消に浸っていられる状況でもない。
「制御の書き換えプログラムの準備は?」
「ちょうど、終わったとこよ」
 リーンの問いに、最後のキー操作を終えて、セレンフィリティとエースが息を漏らした。
「ダミーは全て破棄を完了。全システムの正常稼動を確認。いつでもアクセス可能よ」
 それに併せて、リーンが告げるのに、彩羽は頷いた。
「プログラム整合開始。制御システムを書き換えるわ」
 セレンフィリティがキーを操作して、作成されたばかりのプログラムを、制御システムと整合させていく。
 並行して、何人かが兵器のデータのダウンロードも開始しているのを、彩羽がちらりとその様子を見やったが、あえて何も言わずに、制御室のコンソールに向き直る。
 それから数秒。
「制御プログラムの同調を確認。発射シークエンスの停止を……」
 と、その時だった。
「不味い!」
 データを取っていたエースが、緊迫した声を上げた。
「システムが強制発射シークエンスに入ろうとしてる……!」
「まさか、失敗!?」
 セレンフィリティの声が焦りによって冷たく凍る。だがそれは、彩羽が首を振ることで否定された。
「プログラムの整合は問題ないわ。ただこのシステムが上手だったってことね」
 実験のために、とは思えない程の強固なセキュリティは、発射を阻害する要因を徹底的に排除しようとしていたようで、侵入者対策の制御ロックとは別に、今度はその解除が行われた場合の別の命令が組み込まれていたらしい。一度防壁がクリアにされ、正常に戻ったシステムは「警報が正しい手順で解除されていない」ことを確認し、今度こそ”正統な命令”として防御システムの発動と、発射シークエンスを開始したのだ。
「何が何でも発射させようってわけ?そうは行かないわよ」
 彩羽は不適に笑って、テクノパシーも使いながら制御装置のコンソールを高速で叩いていく。
 防御システムは発動しているが、防壁は既にクリアになっているのだ。そこから割り込むのは、ウィザード級ハッカーである彩羽にとって、朝飯前である。
「乗せ変えさせた制御プログラムは生きてるわ。ふりだしに戻れ、じゃない」
 セレンフィリティの作ったプログラムは正常に制御に関与しているが、システム側が命令の基準値を頑なに守ろうとしているが故に、上手く起動していないのだ。システムの根幹に割り込み、その命令順序さえ乗せ変えることが出来れば、制御権を掌握できる。
 あとは彼女がシステムを乗っ取りきるのが先か、システムが発射を完了するのが先か。
 問題は、時間だけだ。
  たった一秒の間に凄まじいまでの情報の攻防が行われる、目には見えない戦いが始まる。
「命令系統に割り込みをかけて、強制停止に持ち込むわ。バックアップをお願い!」
 確実に命令を阻害していくが、それでも完全にシステムを乗っ取らない限り、時間稼ぎにしかならない。 


 ほんの数秒前まで、朗報に喜色の満ちていた制御室は、あっという間に緊迫した空気で満たされた。