リアクション
「よし」 ○ ○ ○ 各校の要人を見送り、子供達と一緒にパーティの後片付けをして。 お昼寝する子供を寝かしつけた後で。 パーティを主催した白百合団員達も帰路についた。 「ちょっといいですか?」 百合園に向かう風見瑠奈を、樹月 刀真(きづき・とうま)が呼び止めた。 「はい……。私だけ?」 「ええ、君と話したいことがあります」 なんだろうと思いながらも、瑠奈は皆に先に帰っててと言って、刀真と一緒に別のルートで百合園に向かうことに。 「白百合団の選挙も、行われるそうですね」 刀真の言葉に、瑠奈は「ええ」と首を縦に振る。 「噂は色々と聞いています。そして、今日の白百合団の皆の姿を見て、確信しました」 刀真は瑠奈に真剣に語りかける。 「俺は備えとは最悪の事態を想定して行うものだと考えています。そして、その備えを無駄にするために努力をする……それからするとティリアの百合園の自衛力を高めるため国軍との連携強化やイコンの配備は最悪の事態の備えとして必要だと思います」 「……はい」 「ただ、その取り組みがもたらす変化は、本来の伝統を重んじる百合園生が感じている不安や戸惑いを増長させる可能性が高い」 瑠奈は黙って刀真の言葉を聞きながら、前を――街の人々を見ていた。 「そして、白百合会の会長がアナスタシアになった事でこれからの百合園は劇的に変化していくでしょう。その中で、今までの伝統やそれを誇りに思う百合園生達を護りたいと望むのなら……」 刀真は鋭い赤い眼で、瑠奈をまっすぐに見つめた。 「瑠奈、君は白百合団の団長として立つべきです」 彼の言葉に、瑠奈はぴくりと反応を示し。そして俯いた。 風見瑠奈は、守旧派だ。前会長の伊藤春佳や、現団長の桜谷鈴子をとても敬愛している。前生徒会役員たちのことも信頼しており、仲も良かった。 パラミタにありながら、日本の伝統を重んじる百合園女学院が大好きだ。 だけれど、生徒会役員には、彼女と親しい人物は1人も残らなかった。 エリュシオン出身の、新たな会長の下、百合園は変わろうとしている。 残念、だけれど。それならそれでいいと瑠奈は思った。 守旧派の人だけが好きなわけではないから。 百合園生を守りたい、友人を守りたいという気持ちになんら変化はない。 「俺は、君が友だけではなく、友のいるこの地を守るために、危険な場所の指揮に自ら志願し、守り続けたことを知っています」 かつて、刀真とは同じ立場の指揮者として、別の隊を率いたことがあった。 その時、ティリアは刀真の指揮下にいた。だが後に、刀真が気にかけたのはティリアより瑠奈の方だった。 しっかりとした意思を持ち、強く厳しく戦い、守るティリア。 時に震えながら、恐怖を押し殺して。大切な人の為に前線に立つ、瑠奈。 「ティリアの取り組みは団長じゃなければ出来ないことではありません。寧ろ、別の立場の方が理解が得られるでしょう。俺は君が団長を務めるだけの実力と誇り、心の強さと優しさを持っていると思っていますよ」 誰が団長になろうとも白百合団は物理的に守旧派の百合園生をも守り続けるだろう。 だけれど、白百合会役員が変わった今、彼女達の心の拠り所となれるのは、そして先輩達が築いてきた、百合園の伝統を守る存在として、象徴になれるのは――。 百合園生徒会のもう一人のトップとして相応しい存在は、ティリアよりも瑠奈だと刀真は理解していた。 「でも……自信がない。自信がないの。前線に立って、皆を守ることも、皆と一緒に守ることも、勇気をもって皆と一緒に立ち向かえば出来ないことじゃない。だけど、皆の上に立つということは、私の考えと指示で、誰かを傷つけてしまう可能性があるということ。信頼し合っている仲間なら、恐れることはないのかもしれないけれど、生徒の皆の意思が……百合園の未来が解らなくて……怖いの」 瑠奈の瞳は不安で揺れていた。 「不安はあるでしょう、当然だと思います……俺も離宮探索では、大丈夫だろうか? といつも不安を抱えていました」 刀真は瑠奈をまっすぐ見続けて、言葉を続けていく。 「君を含め、周りの助けがあったからこそ、成し遂げられたんです。君も先輩である桜谷鈴子さんや錦織百合子さん、ティリアを始めとした白百合団の仲間達と共に進めば、大丈夫ですよ」 少しだけ、表情を和らげて刀真は瑠奈に言う。 「勿論、俺も可能な限り、君の力になります。俺も君の事は好きですから」 瑠奈は少し赤くなって、刀真から目を逸らして。 百合園へ足を進めながら、しばらく考え込んだ。 そして。 「……あなたが白百合団員だったら。傍で助けてくれるのなら、いい返事が出来たと思うけれど」 瑠奈は刀真に切なげな笑みを見せた。 「少し出しゃばりすぎましたね」 彼の言葉に、くすりと瑠奈は笑うと。 「考えてみます。ありがとうございます」 頭を下げて、一人で考えたいからと刀真とそこで別れる。 そして、瑠奈は一人で百合園へと歩き出した。 |
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