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リアクション
「ラズィーヤ・ヴァイシャリーも来ているはずだが……見当たらないな」
鬼籍沢 鏨(きせきざわ・たがね)は『すずらん』の部屋部屋を回って、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)を探したが、彼女はどこにもいなかった。
ちらりと目を向けた先には、アレナの姿がある。
鏨は、彼女のことについて、ラズィーヤに相談があった。
「っと、君は百合園生だな? ラズィーヤがどこに行ったか知っているか?」
鏨は、百合園生と思われる女性に尋ねてみる。
「わたくしも探していますの。どうしても尋ねたいことがありまして」
答えた女性の名前は、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)。
「どうやら、子供達の中に紛れているようなのです。白百合団で選挙が行われますので、政治的な取引は受け付けない……ということなのだと思いますわ」
キュベリエは過去の世界的な出来事や、とある団体のことについて、聞きたいことや、その団体絡みの役職の提案などがあったのだが、今日はラズィーヤとは相談できないようだった。
尚、役職については、後に団に提案したところ、白百合団の管轄外だとやはり取り合ってもらえなかった。
「どのようなご用件ですの? お伝えいたしましょうか?」
キュベリエが鏨に問いかける。
「いや……結構」
そう言って、鏨はその場を後にし、自らの目でラズィーヤを探す。
「幼児化か……」
眉を顰めながら鏨は子供達を見て回る。
保護欲がかきたてられるあの少女――アレナ・ミセファヌスが白百合団の役員に名を連ねることが出来れば、面白い、と鏨は考えていた。
そして、優子を百合園に繋ぎとめておくためにも、彼女を役職につけておいた方がいいのではと。
鏨の考えは、ラズィーヤの考えとかけ離れはいなかたが、もしラズィーヤに意見を出すことが出来たとしても、ラズィーヤの力でアレナを推すことは出来なかっただろう。
なぜなら、ラズィーヤは、少なからずアレナに疑念を抱かれていることを理解している。
白百合団の人事にまで、干渉することを得策とは考えなかっただろう。
「はーい。では、新年のパーティを始めます。皆さん、一旦席についてくださいね」
瑠奈が手を叩いて、子供達を呼んだ。
「みんなで、挨拶をした後は、好きに移動していいのよ。でも、農家の人やお姉ちゃん達や、お友達が一生懸命つくった料理は、粗末にしたらダメよ?」
「はーい」
ティリアの言葉に、子供達が元気な声を上げる。
「それじゃ、始めましょう」
瑠奈、ティリア、ロザリンド、葵、レキ達、華やかな装いの白百合団員が前にでて、微笑みながらお辞儀をする。
「あけまして、おめでとうございます」
「おめでとうございまーす!」
挨拶の後はクラッカーが、そして拍手が響き渡り、賑やかにパーティが始まった。
「どうぞ。ティセラは小さくなっても、あまり変わりませんね」
子供化したティセラに紅茶を差し出したのは、共に訪れたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)だ。
シャーロットはティセラに相談したいことがあって、同行したのだけれど、子供達を楽しませることを優先と考えて、この場では言いだすことが出来なかった。
「アップルパイやいてきたの!」
祥子が鞄と一緒においておいたアップルパイを持ってきて、テーブルに広げた。
「ええっと、切るもの切るもの……ティセラちゃんもってる?」
「ビックディッパーならありますわ。アップルパイだけきるものにしていすれば、きけんはないですし」
「そうだねー」
「ちょ、ちょっと待ってください。それはダメです、どう考えても危険です。子供達が怖がりますし」
慌てたのはシャーロットだ。
「もちろんじょうだんだよー」
「じょうだんにきまってますわ」
「ねー」
「ええ」
祥子とティセラは笑い合う。
「それならいいですけれど……あ、すみません。食べやすい大きさに切っていただけますか?」
シャーロットは胸をなでおろして、給仕を担当している葵に切ってもらうことに。
「はいどうぞ。とっても美味しそうですね」
葵はナイフで切り分けて、お皿に乗せてあげた。シャーロットや同じテーブルにいる子供達にも。
「こうすると、もっとおいしくなるの」
祥子はカスタードソースをティセラのパイの上にかける。
「とてもおいしそうですわ。いただいてもいいかしら?」
「うん! いっしょにたべよー」
祥子は自分の皿の上にもカスタードソースをかけて、それからティセラと一緒に、フォークを使っていただくことにする。
「……とてもあまくておいしいですわ。うれしいきもちのなるパイですわね」
フォークで1口、2口と食べるティセラの顔に笑みが広がっていく。
「おいしいっ」
「つくったの? すごいねっ」
子供達も大喜びだった。
「うん、きじにもカスタードねりこんであるんだよ」
「さちこちゃんは、おりょうりおじょうずなのですわね」
子供達とティセラの言葉に、祥子はとっても嬉しくなった。
「えへへっ。みんな、ジュースのむ? ティセラちゃんもなにかいる?」
「わたくしも、さちこちゃんとおなじものをおねがいしますわ」
「うん、それじゃのみものもらってくるね」
祥子はぴょんと椅子から飛び降りると、にこにこ笑顔で飲み物を迎えに厨房へと向かった。
ティセラやお友達の笑顔がもっと見たかった。
「あまーい」
「おいしいっ」
カトリーンが持ってきた栗きんとん、栗きんとん羊羹、栗大福も、子供達に大人気だった。
「ジュースよりも、お茶が合いますよ」
後ろから、メイベルがそっと子供達に緑茶を出していく。
「みどりのおちゃ、やさいみたいであまりすきじゃない」
「でもね、あまいものどうしより、あうんだよ!」
「ちょっと甘いグリーンティもありますよ〜」
メイベルは微笑ましく見守りながら、少しだけ砂糖を加えてあるグリーンティも子供達に出していく。
「あっ」
「あちっ!」
小さな女の子がグラスを倒してしまい、隣の子の服にかかってしまった。
「大丈夫ですか」
すぐにメイベルは濡た布巾を、お茶がかかった部分に当てた。
「うん、びっくりしただけー。あんまりあつくなかった」
「ごめんなさい……」
「大丈夫ですよぉ。零しても大丈夫な温度にさましてから持ってきてますから〜」
メイベルは零れたお茶を拭いて、グラスを回収すると新しいお茶を取りに厨房へと戻っていく。
そうしている間にも、他の席で食器を落してしまったり、食べ物を零してしまったり。
小さな微笑ましいハプニングが沢山起きていた。
「山葉さんもこっちで遊びませんか?」
「勿論! 君の隣は俺の指定席さ。よーし行くぞ子供達〜」
レキが声をかけると、聡は近くの子供をひきつれてレキへと近づく。
「それじゃ、お餅に絵をかいてくださいね」
レキは食紅をちょんちょんとお餅に垂らす。
子供達はそれを指で伸ばして、思い思いの絵をかいていく。
「よーし、それじゃ俺も皆の大好きな膨らむと嬉しいものを描くぞ〜」
「年頃の女の子もいますので、その点よろしくお願いします」
「ハイ……」
趣味に走りかけた山葉だけれど、レキに釘をさされ、しぶしぶ普通にニコニコマークを描いた。
「ねえねえ、あたし2どめだけど、やってもいい〜?」
「いいよー。でも、焼いたお餅は自分で食べるんだよ? 食べられる分だけにしてね」
「うん! こんどはそこのおにぃちゃんのかおだよ〜」
子供は笑顔を浮かべて、楽しそうにお餅に聡の絵を描いた。
「はーい、それじゃ焼くよ〜」
レキは子供達が書いたお餅を集めて、オーブンで焼いていく。
膨らんだお餅に描かれた顔は伸びたり破裂したりして、変わってしまっている。
「あー、ボクのかお、おでこにコブができちゃったよー」
「あたしがかいた、おにぃちゃんは、ぶたさんにへんしんしちゃったよ!」
「ぶーぶー。せっかくだったら、狼さんに変身したかったぞ〜。あんまり可愛いと食べちゃうぞ」
「ダメダメ、かいたおもちは、じぶんでたべるんだもん。ねー?」
少女は笑いながら、聡を描いたお餅を死守する。
「そうだよ。山葉さんが書いた狼は狸に変身しちゃいましたね」
レキが言うとおり、聡の書いた絵は、狸のような顔に代わっていた。
「たぬたん」
「おおかみより、こっちのほうがかわいいね〜」
「ボクのは、パンダみたいになったよ!」
子供達は、餅を見せ合って楽しみ、そしてちょっと惜しんで、大切に食べていく。
「残念だが、去年と同じ轍は踏まんぞ!」
厨房に閃光が走った。……カメラのフラッシュだ。
「……誰? 私あなたのこと知らないけど」
「覚えてないか。まあそれもそうだろう。貴様はそれほど多くの善良な一般人をこうして弄んできたというわけだ」
言いながら、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はテーブルの上の紅茶が入ったカップを掴んだ。
「それが悪いというわけではない。大いに結構。だが今年は貴様にも飲んでもらおう、リーア・エルレン!」
大佐は薬の入ったカップを手に、リーアの動きを予測しながら、じわじわ近づく。
つられてリーアもじりじり後ろに下がる。
「逃げるなよ……。そう、数5000年前のことだったか。小さな魔女が、手の届かない女王の騎士に恋を……」
「な、何の話!?」
突然、リーアが慌てだす。
大佐が語りだしたのは、去年リーアの部屋で見た日記の内容だ。
「おっと、動くなよ。動いたらもっと思いだしそうだぞ?」
「……ふふふ、あなたには言葉を喋れない赤子になってもらわないといけないようね!」
ババッとリーアは懐から小瓶を取り出した。
「くらいなさい!」
「恋の相手の名前はー……! ジ……」
「ぎゃーーーーーっ」
リーアが大声をあげて、大佐の言葉を掻き消そうとする。
「リーア、どうしたでございますかーっ!」
騒ぎを耳にして、邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)(壱与)が……。
ぼふっ。
ビチャ。
リーアが投げた粉と、大佐が飛ばした紅茶を体に被った。
パシャッ。
壱与が子供化していく姿を、大佐はすかさずカメラに収める。
「どうやら薬はこれで最後のようだな。次はないと思え、リーア・エルレン」
パシャッと、大佐はリーアを撮影すると「さらばだ!」とその場から去っていった。
「い、壱与ちゃん。あ、あの……ごめんね?」
「りーあーーー!」
ぎゃーっと、壱与はリーアに突進するかのうように抱き着いた。
「うわっ……くしゅん!」
粉をまき散らし、壱与はリーアに抱き着き。リーアは壱与の身体に振りかかっていた魔法の粉を思い切り吸い込んでしまった。
そして、可愛い幼子が2人誕生した。
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