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新たな年を迎えて

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新たな年を迎えて

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「こんどはいっしょにってやくそくしたからちょうどいいですね」
「ん? やくそく……」
「いきますわよ!」
 壱与はリーアの手をぐいぐい引っ張って、パーティ会場の方へと向かう。
「いよちゃん、なにするの?」
「うらないをしていましたら、こどもたちっぽいあたりから、えっと、えっと……」
 幼児化しているせいで、難しい言葉が使えなくなっていた。
「いやなかんじがしたでございます。なので、みんなのなかにはいってどうにかするのです」
「どうにかするんだね!」
「そうでございます。どうにかするんです。そう、さいきんふきつなえいぞうをみたのでございますよ……えっとそううらないでございます」
 訳がわからなくなっていたが、とりあえず何かの犯人を捜す為に、壱与はリーアを引っ張って、遊んでいる子供達の中へと入っていく。
「ん? さっきまで見かけなかった子たちだな。もしかしてお前達も……」
 シリウスが2人に気づいて近づいてきた。
「わたくしたちは、たんていでございます」
「そう、わるいひとをさがしてるんだよ!」
「……探偵か、オレも事件の犯人を捜してるんだよな」
「じけんがあったでございますか!?」
「あくにんがいるのね!」
 シリウスが探しているのは、自分を子供化させた犯人だが、目の前にいるとは思いもよらず。
 思考回路が完全に幼児化している壱与とリーアは、探偵ごっこに夢中になりだし、子供達の元に調査に走っていった。
「ま、楽しそうだしいいのか、な。子供達の中ではオレ、年長だし。何かあってもいいように、注意だけはしておくか」
 複雑な顔で、シリウスは壱与や子供達を見守りつつ、自分も再び混ざっていく。

「エリちゃん、この人はたぶん、いいところのおじょうさまだよ?」
 5歳くらいの子供と化した黒崎 天音(くろさき・あまね)は、同じ年くらいの男の子の手を引っ張って、可愛らしい女の子の前に連れてきた。
「そうでございます。うらないによると、えっと、えっと……たくさんたいへんだけどがんばるひとでございます」
「すずらんのこじゃないわよねー。いいふくきてるし」
 壱与とリーアは観察して、メモをとっている。とはいえ、メモ帳に書いているのは文字ではなく、探偵気分で適当に書いている暗号だ。
「あけましておめでとう」
 天音はその少女に微笑みかける。
 彼女が誰なのか、天音には大体解っていた。
「おめでごうございます」
 5歳くらいの品のある少女は小首を傾げて微笑んだ。
「あなたは、おとこのこですか? おんなのこですか?」
「どっちだとおもう?」
 天音は子供時代、亡くなった母親によく似ていると言われていた。
 身長の割に、大人っぽい印象で、綺麗な女性系の顔立ちだった。
 今の服装は、施設で借りた白いセーターに子供用のジーンズ。男女どちらでも着られる服だった。
「どちらでもいいですわ。かわいいふくがにあいそうですわ」
 にこにこ、少女は天音を見ている。
「ね、エリちゃん。このこ、たくさんたいへんだけどがんばるひとなんだって」
 くいくい、天音はエリちゃん……エリオのことを引っ張る。
 先に幼児化していた天音は厨房から薬を拝借して飲み物に混ぜて、パーティの席についていたエリオに運んで飲ませたのだ。
「俺も、女王のために沢山がんばるんだ。君はきぞくだろ? 一緒にシャンバラのために頑張ろうな!」
 エリオはそう女の子に手を差し出した。
「ええ、がんばりましょう」
 女の子は小さな手を差し出して、エリオと握手をした。
「なんてよんだらいいかな?」
 天音の問いに少女は少し考えて。
「……ランとよんでくださいませ」
 と、答えた。
「うん、ランちゃんだね。のみものもらってくるけど、なにがいいかな?」
「俺はコーヒー。でも、甘いのがいいな」
 エリオはそう答えた。子供化しているせいで、味覚が多少変わっているのだ。
「ワインをいただけます?」
 女の子のその返答に、天音は笑みを浮かべる。
「ワインはダメだとおもうな」
「ざんねんですわ」
「じゃ、ぶどうジュースもらってくるね。あとそうだ」
 天音は玩具の入った籠を抱えて、女の子に近づいた。
「ランちゃんは、どのぬいぐるみが好き?」
「かわいいのがいいですわ」
 そう答えて、女の子はわたげうさぎのぬいぐるみと、こねこのぬいぐるみを選んで、ぎゅっと抱きしめにこっと笑顔を浮かべる。
「かわいいものがすきなんだね」
 幸せそうな女の子の顔を見て、幼い天音の心にも幸せ感が溢れていく。
「それじゃ、のみものもらってくるよ」
 天音は飲み物を貰いに行く。
 その間、エリオとランと名乗った少女は楽しそうに会話をしていた。

「ぬいぐるみかわいい……」
 ランの服の裾を、5歳くらいの少女になった冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)がひっぱる。
「あなたもとってもかわいいですわー」
 ランは小夜子の頭をなでなでして。
「ひとつどうぞ」
 こねこのぬいぐるみを小夜子に渡した。
「ありがとー」
 小夜子はパッと笑みを浮かべる。
「あそぼー。あそぼー」
 こねこのぬいぐるみを抱っこしながら、小夜子はランの服を引っ張り続ける。
 普段とは違い、猫をかぶっている部分もなく、感情を素直に表していく。
「そうですわね。あそこでおもしろそうなおはなししていますから、いってみます?」
「うん、いくいくー」
「ふくはだめですのよ。のびてしまいますわ」
 言って、ランは服の裾を掴んでいる小夜子の手をとった。
「てをつなぎましょうね」
「うんっ!」
 小夜子はとっても嬉しそうな笑みを見せた。
 同じ年くらいだけれど、しっかりしているランが大好きになっていた。
「わたくしは、たのしんでいるみんなをみにきたのですわ」
 ランは振り向いて、飲み物を持ってきた天音と、エリオに微笑みかけて。
 子供達が集まっている場所へと、4人で一緒に歩いていった。

「おみやげだよ。はい、どーぞ」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は、子供達にお土産を配っていた。
 ネージュ自身も更に子供化して、とっても可愛らしい姿になっていた。
「なにこれ?」
「しっぽ?」
「うん、しっぽ!」
 ネージュが子供達へと持ってきたのは『獣人なりきりしっポーチ』だ。
「ただのしっぽじゃなくて、ポーチなの。なかにものをいれられりゅんだよ!」
「ふさふさー」
「つけてあげる〜」
「わたしのつけてー」
 子供達はすぐに夢中になり、ポーチをつけていく。
 そして、互いのしっぽを握りあったり、悪戯したりして遊びだす。
「あたしのしっポーチはとくべつばん。せんこーしさくの『水穂さんのおきつねしっポーチ』」
 くるりと子供達に背を向けて、ネージュは自分のしっぽを見せる。
「わー、おっきくてふさふさ〜」
「ふさふさー」
 子供達はネージュのしっぽをにぎったり、頬に当てたり揺らしてみたり。
「ふさふさ……いいな……」
 小さな声に目を向けると、見たことのある3歳くらいの女の子がうらやましそうな目で見ていた。
「もしかして、あすかちゃん?」
 ネージュの言葉に、その女の子――神代 明日香(かみしろ・あすか)はこくこくと頷く。
「いっしょにあそぼー」
 ネージュがそう声をかけると、明日香はまたこくこく頷くのだけれど、近づいてはこない。
「どうしたの?」
「……あの〜……その……あいさつ……」
 隅の方でもじもじとしている。
 すっごく恥ずかしがり屋さんのようだった。
「ちょっとしっぽいどうするよ〜」
 ネージュはそう言って歩き出す。
「しっぽでんしゃしゅっぱつーだね」
「しっぽしっぽしっぽ♪」
 子供達はしっぽにつかまって、列になってついてくる。
「おまたせっ。おきゃくさまはどこまでいくのかな? おともだちのところかなっ」
 ネージュはおどおどしている明日香の手を掴んで微笑みかけた。
 明日香は顔を赤らめて、こくんと頷く。
 アゾートと共に訪れた明日香だったけれど、アゾートとはほとんど面識がなく。
 皆に挨拶をしなければということだけは覚えているのだけれど、人見知りが激しくて誰にも、アゾートにさえも近づけずにいたのだ。
 でも、ネージュとは仲良しなので、大丈夫。
 ぎゅっと腕を掴んで、ほっとした表情でくっついていく。
「しっぽ……しっぽ」
「よし、明日香ちゃんにもあげるね。みんなのぶんあるからだいじょうぶだよー」
 配ってない子たちにも声をかけて、ネージュはしっポーチを配り歩いて、仲間を増やしていく。
「しっぽでんしゃとうちゃく〜」
 子供達の列はどんどん長くなっていった。

「サンドイッチにおもちに、チョコにケーキうれしいな♪ うれしいな♪」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、子供達の輪に飛び込んで、手をつないで歌を歌っていた。
 ヴァーナー自身も、普段の半分くらいの年齢になっている。
「うれしいなー♪」
「おいしいですわ♪」
 小夜子と品のあるランと名乗った女の子も、混ざっている。
「フルーツたくさん、うれしいな♪」
「パイもクリのおかしもうれしいな〜♪」
 子供達は、テーブルの上の食べ物を確認しながら、喜びの歌を歌っている。
 それは本当に嬉しいからでもあり、パーティを開いてくれた人達への感謝の気持ちをも表しているようだ。
「えっと……これもどうぞ。皆で作ったものよ」
 歌っている子供達に、ルプスが皿に並べたクッキーと、アレナが焼いたパイを差し出した。
「いろいろあるね」
「あたしは、おはなのたべるー」
 子供達は、それぞれおクッキーを一枚と、パイを一切れとって、笑顔を浮かべて食べる。
 そんな子供達の表情に、ルプスの心に温かな感情が湧いていく。可愛いなと心から思う。
 ルプスは無自覚だったけれど、子供好きなのだ。
「テーブルの上にも置いて置くから、ね」
 でも、素直に表現は出来ず、少しだけ笑顔を浮かべてそう言うのが精一杯だった。
「ありがとー」
「ありがと。いろいろクッキーおいしいな♪ パイもさくさくおいしいな♪」
「おいしいです〜♪ えがおもとってもすてきです〜♪」
 ヴァーナーはすっごく可愛い笑顔を浮かべた少女をハグして、ほっぺにちゅー。
 隣のすっごく嬉しそうな笑顔を浮かべた男の子にも、ぎゅっと抱き着いた後、おでこにちゅー。
「おいしいですねー。きゃっ」
 小夜子にもちゅー♪
「あまいですわ。ふふ」
 ランにもちゅー☆
「みんな、みんなかわいいです♪ おともだち、おっともだちに〜、おともだちになるですー♪」
 歌いながら、ヴァーナーは可愛い子供達にハグとちゅーを繰り返していく。
「ヴァーナーおねぇちゃんもかわいいー」
 ぎゅっと抱き着いてくる女の子がいた。
「ありがとです〜」
 ぎゅっと抱きしめ返して、なでなでして、それからオデコとほっぺにちゅー。
 嬉しくて、楽しくて、ヴァーナーも、小夜子もランも、集まっている子供達の顔にも、可愛らしい笑顔の花が咲いていた。