リアクション
○ ○ ○ 「おおっ、ラジコンオレにもやらせろ〜♪ ……って、違う、違うだろ、オレ!」 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は頭を抱えていた。 彼女は先日、白百合団の所属希望申請を出して、白百合団員となった。 そして、この新年の挨拶とパーティの話を聞き、手伝いに訪れたはずだ。はずだったが。 「えぇと……どこかで何かを飲んで、気づいたらこう……」 いつの間にか、身体が縮んで子供になってしまっているのだ。 「ああなんか、食べ物の匂いに普段よりつられる……考えもまとまらねぇし、頭と心も完全に子供化してるぜ、これは……」 もういい、深くは考えず、遊んでしまおう! そう思ってしまう。 「でもこれは、白百合団に入っての初めての仕事みたいなもんだし……えぇと、この姿でできること……こと……」 手伝いに行っても子ども扱いされるだろう。料理もまともに運べない。 「あ、クッキー作ってるみたいだな。子供達に紛れていけば、大丈夫か?」 手伝いながら、それとなく犯人探しでもしようかと、そう思いながらシリウスは厨房の方へと向かう。 「もういい? もうかたちつくっていい?」 「うーん、もう少しね。もうちょっとだけ待ってね」 ルプス・アウレリア(るぷす・あうれりあ)は、子供達と一緒に、クッキーを作っていた。 冷蔵庫で寝かしたり、焼いたりしている間、子供達は待ちきれないらしく、そわそわうろうろとしており、数分毎にルプスの服の裾を引っ張ってくる。 (ああ、ルアがいてくれたら) 同じ緋桜 ケイ(ひおう・けい)をパートナーに持つルア・イルプラッセル(るあ・いるぷらっせる)とは、普段一緒に行動をしているのだけれど、今日は別の用事が出来てしまい、ここに来ることは出来なかったのだ。 ルプスは負けず嫌いで、強気な少女ではあるが、実は結構人見知りが激しく。 子供達とどう接したらいいのか、わからずに困っていた。 (でも、ルアがいたら、きっとつまみ食いとかして、邪魔してそうよね) ふうとため息をついて、ルプスは腕時計を見る。 「そろそろ良さそうよ」 ルプスがそう言うと、厨房にいた子供達が一斉に冷蔵庫に集まる。 「わーい」 「あたし、おにんぎょうさんのかたがいいっ!」 「オレは、イコン型〜♪」 生地を取り出して、伸ばして。 気に入った型をつかって、子供達は形を作っていく。 その中に、シリウスも混ざっていた。すっかり子供化している。 「人形タイプはね、首のあたりが難しいのよね。薄くならないように注意してね」 ルプスは口調がきつくならないように注意しながら、子供達を助けてあげる。 何度目かの型抜きなので、子供達も随分慣れたようだった。 小さな子供は踏み台の上に乗ってもらって、ルプスが伸ばした生地に、型だけを押し当ててもらう。 「くるまはぼくのね!」 「わたしはおはなのー。できあがったらこうかんしようね」 子供達は明るい笑顔を浮かべながら、型抜きを楽しんでいく。 そんな子供達の顔を見て、ルプスはほっと息をついた。 上手く子供の相手が出来るか不安だったけれど……子供達は本当に嬉しそうだった。 そして。 「焼きあがるまで、あと少しまってね」 オーブンは危ないので、仕上げはルプスが1人で行う。 「はーい」 「おねーちゃんも、あとでいっしょにたべようね!」 元気な言葉を聞き、ルプスの顔にも自然に笑みが浮かんだ。 「いっしょにあそぼ〜」 ローリー・スポルティーフ(ろーりー・すぽるてぃーふ)は、ブロックで遊んでいる子供達の中に駆けて行った。 ローリーはさっきまで、20代半ばの成人女性の姿だったけれど。 今は何故か、8歳くらいの子供の姿になってしまっている。 子供達に食べてもらおうと、パイを作っている最中に、ちょっと喉が渇いて。 牛乳を飲んだつもりが、なんだか変わった味の液体を飲んでしまったのだ。 そして、気づいたら体が小さくなっていた。 オーブンに手が届かなくなって困っていたら。 『続き、作りますよ。皆と遊んで待っていてくださいね』 ローリーと走らずに近づいてきたアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が引き継いでくれた。 「なにしてあそぼうか? パンま……いや『パイ生地こねこね祭り』やる〜?」 パイはアレナに任せて、広間で遊んでいる子供達と一緒に遊びながら、ローリーはパーティを待つことに。 「えい、えい、えいっ! すごいだろ〜」 「ほんとだ、すごいすごい。さっきのおにぃちゃんとおなじくらいすごい」 子供達に囲まれて、けん玉をしている子供がいた。 「おもしろそ〜」 ローリーも興味津々近づいてみる。 「せかいいっしゅーだぞ〜。えいえいえいっ」 4歳くらいの子供――幼児化した橘 カオル(たちばな・かおる)は、けん玉を巧みに操って、小皿、大皿、中皿と乗せていき、最後にけん先にさした。 「おおー」 「すげー」 「ね、ね、どうやんのどうやんのーあっ」 子供達は感心したり、やってみようとするが、カオルのように上手く皿に乗せることは出来なかった。 「ロリちゃんもやってみる〜。えいえいのえい」 ローリーもけん玉を借りてやってみるが、皿の上には乗っからなかった。でも気にせず、くるくるけん玉を回して、玉をむしろ弾いていく。 「むずかしいねー」 「なかなかのらないね〜」 ローリーと子供達が四苦八苦しながら、そんな会話をしていると。 「あんまりちからいれないほうがいいのー」 カオルより3歳くらい年上の女の子――李 梅琳(り・めいりん)が近づいてきた。 「ゆっくりやるんだよ。カオルみたいにうまくなるには1000ねんくらいかかるけどね!」 梅琳は、ローリーの手を掴んで、一緒にゆっくりと玉を大皿の上に乗せた。 「よぉぉし、もっとすごい技、みせてやるー!」 梅琳の自慢げな言葉がカオルはとっても嬉しくて。 観覧車とか富士山とか、知っている限りの技を次々に披露していく。 さっきまでは大人の姿で、普通にけん玉や独楽の技を披露していた。 でも、一息つこうとして、貰った飲み物を梅琳と飲んだ途端。身体が小さくなってしまったのだ。 「カオル、ふぁいと、カオル、がんばれー」 手の大きさと感覚が違くなったせいで、失敗も何度もしたけれど、梅琳は頼もしそうにカオルを見ていた。 トン、トン、トンと、カオルは連続技を慎重に行って。 「はいしゅうりょー!」 大技を完成させると、けん玉を掲げてポーズをとった。 「すごいねー」 「まほうつかったの?」 子供達は不思議そうな顔をしている。 「すごいすごい〜。カオルのくせに。あとでおしえてー」 口ではそんなことをいいつつも、梅琳は本当に嬉しそうに拍手をしていた。 「もちろん、おうちで、じかんかけておしえるよ」 カオルははいっと、梅琳にけん玉を渡して、梅琳よりも嬉しそうに笑みを浮かべた。 「メイリンはぼくのおよめさんになるんだー」 「うんー。そうだね」 カオルの言葉に、梅琳は自然に返事をした。 「ロリちゃんびっくり」 ローリーはびっくりして、けん玉の玉を落してしまう。せっかく成功しそうになってたのに。 「おおー。プロポーズしてるぜ」 「こどもどうしもけっこんってできるの?」 「ゆびわはきゅーりょーさっかげつぶんじゃないとダメなんだよ! でも、きゅーりょーもらってないから、ダメなんだよ」 子供達はそんな会話を繰り広げている。 カオルと梅琳は手をつないで幸せそうにしていた。 「ん? あっちにみんなとあそんでないこがいるね」 ローリーは部屋の隅で、こちらに背を向けて座っている2人の子供に気づいた。 「ちかづかないほうがいいよ。あぶないことしてくるから」 女の子が困った顔で言う。 「んと、パイがやけたらもっていってみようかな」 その2人は近づき難いオーラ―を放っていた。近づいたらなんだか大変なことになりそうな、そんな予感さえする。 (いやなことでもあったのかな? アレナぱいをもっていったら、こころ、らくになるかな……) そんなことを思い、兄弟を気にしながらローリーは子供達と遊んでいく。 |
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