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【●】光降る町で(前編)

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【●】光降る町で(前編)

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【 地輝星祭 】



 深い地の底で、討伐隊がその剣を取ろうとしていた、その数分ほど前に遡る。
 丁度太陽が天頂に昇る時刻。地上では、地輝星祭の最大の見せ場が始まろうとしていた。


 完全に閉じられた町は、昼だというのに外の光が一つも入り込まなくなっていたが、天井に飾られたランタンのおかげで結構な明るさがある。イルミネーションと言うよりは、真人がそう称したように、プラネタリウムのような雰囲気だ。
「空は覆われた。太陽に隠れたる星も今、瞬かん」
 長老が言葉と共に合図を送ると、術士が杖をかざす。すると、天井に飾られたランタンが、その輝きを増したかと思うと、拡散していた光が一本の糸のように地上へと伸び、地上に光の点を描くように、不思議な輝きを放ちはじめた。
「地上に星を輝かせる、っていうのは、このことだったんですね……」
 術士と共にストーンサークルまで来ていたアリーセが、感嘆に声を漏らす。そんな風に子供達が言っていた通りの順番で強く輝きだした星座が、今が昼間であることを見るものに忘れさせる。

 そして全てのランタンが輝くと、今度は合唱隊の歌声が、町に響き始めた。
 楽器の音と共に、町の人々も一斉に歌を紡ぐ中、ひときわ通って聞こえてくるのが、リカインの声だ。歌姫の鍛えられた歌声は、町全体に響こうかという力強さと、古い民謡のどこか哀しい響きをもって、人々の耳に届く。
「すごいな」
 ランタンを運び終えたディバイスと合流したレンが、素直な感嘆を口にする。ガイドを務める彼と、あれこれ食べ歩きをしながら回っていたときは、所謂カーニバル的な賑やかな祭りだと思っていたが、古い衣装を纏う合唱隊がゆっくり歌と共に行進する姿は、優の言っていたように、神前の儀式のように、神聖なものを感じさせる。
「しかし、此処にいていいのか?」
 垂がそう言ったのは、ディバイスがストーンサークルのすぐ近くまで来ていたからだ。ランタンの光を阻害したのだから、術士の障害になったりしないのか、と言葉にしないまでも案じていたのだが、ディバイスは大丈夫です、と首を振った。
「亡くなった父さんは、祭のとき必ずストーンサークルのそばにいたそうです。本当は何かお役目があるのかも知れないけど、ぼく、何も教わらなかったから…」
 ディバイスの寂しそうな顔に、余計な事を聞いたかな、と垂は眉を寄せたが、逆にディバイスは悪戯っぽく笑う。
「でも、そのおかげで、祭で遊べるしね」
 そんな子供らしい発想に、垂も釣られるように笑った。


 そんな風におしゃべりをしている内、やがて星を灯る順番をなぞるように、町を回り終わった合唱隊が、観光客と、それに紛れる契約者達の集まるストーンサークルへと辿り着いた。
「それでは、この度は歌姫が、特別にかつての祭りを再現してくださいます」
 その言葉に、ざわめきが広がる。長老の家から見つかった元の歌詞で歌おうと言うのだ。祭りを楽しむディバイス達の邪魔にならないように、少し離れていたマリー達は、反応を伺うように氏無を見る。
「大丈夫なのでありましょうか?」
 マリーの潜めた声に道満も懸念を口にする。
「わざわざ観光客を呼び込むのは、人数に頼む理由があるからであろう。それが歌にあるのだとすれば」
 憂慮する彼らをよそに、リカインは大きく息を吸い込む。
(大丈夫。メロディーは変わってないから行けるはず)
 程良い緊張感に胸を押さえ、リカインはその第一声を奏でた。

 その時だ。

 最初はひとつのランタンだった。
 ストーンサークルから最も離れた外周だったため、誰一人気付かなかったか、急にその光が強まったかと思うと、まるでそれがそのまま落ちたかのように、ランタンから明かりが消え、代わりに地面に灯った光が皓々と輝き始めたのだ。それは町を囲むようにはじまり、ゆっくり全てのランタンに及んでいくのに、町の人々ですら感嘆の声をあげた。
「これが、例の歌姫が歌った時に起こったという光でしょうか」
 ルミナが言うのに、キューも「おそらく」と頷く。
 先程までとは比較にならない光が地面を彩って、ランタンの光がなくなった分、夜空が地面に落ちて来たかのようだ。町の人間でさえ驚いた顔をする中、子供らしくはしゃいでいたディバイスが、唐突にびたりと動きを止めると、ぼんやりした表情で視線を中空へ向けた。
「どうした?」
 その様子にレンが尋ねたが、ディバイスは答えず、瞬きすらしない。
「『……時が来た……天蓋が、役目を終える』」
 その声に、垂は表情を険しくする。
「誰だ、お前……」
 呟かれた声は、ディバイスのものではなかった。
 騒然とする面々に向けて、その声は続ける。


『ようやく、満ちた。あとは鍵を開けるだけだ。そうすれば、力は大地へ還るだろう』