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ぶらり途中テロの旅

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第四章


 現場はノーンとエリシアの到着により新たな局面に突入する。
「当てないように気をつけて……」
 オクスペタルム号から暴徒鎮圧の威嚇射撃。
「機晶石は一度オクスペルタム号に運んでくださいですわ」
 連れてきた【不滅集団】による復旧作業。
 二人も事態を把握し、収束への手を打ち始めている。
 そんな中、機晶姫たちを相手に拳を握り、指を鳴らすエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)。筋肉質のいい体。
「折角、汽車の旅だっていうのに、これじゃおちおち筋トレもできないぜ」
 何故だろう、『折角』の意味が分からなくなってきたのは。
「わふーっ!? のうみそきんにくなのですっ!」
「俺の肉体は鋼のようだが、心はティッシュのようにやわなんだ……ラップに包んで言ってくれ……」
 ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)のツッコミにへこむエヴァルト。だけど、愛すべき馬鹿はすぐに復活してくれる。
「とにかくだ!」
 機晶姫に向き直り、
「楽しみを邪魔されるのは好きじゃないんだ! ストライキするくらいなら、ちゃんとした手続きで苦情出せ!」
 右ストレートでブッ飛ばす。
「乗客を巻き込むな!」
 まっすぐ行ってブッ飛ばす。
 目には目を、実力行使には実力行使の鉄拳制裁。手痛いお仕置き。痛いのは主にエヴァルトの手だけれども。
「くそっ、全然反省していない……こうなったら取っておきをお見舞いするしかない!」
 エヴァルトはおもむろに構え、
「喰らいやがれ! この俺の怒りをこめた……【打ち上げ花火】の一撃を!」
「たまやー、なのですー!」
 快晴の空に広がる大輪の花。
 突如として上がった花火に、視線を向ける機晶姫。
 しかし、夜空で輝くそれは多少鮮やかさに欠けていた。
 がっかり感の充満した空間が生まれてしまう。
「……俺のせいなのか!?」
「のーじんじゃー、なのですー」
 ミュリエルがそれを払拭させる。
「変身! ミュリエル・ザ・アリス! なのです!」
 呪文を唱え、【ファイアストーム】を近くの岩にぶつける。熱波ではじける岩。それはさながら花火のよう。
「反省しないと、今度は皆さんに今のを撃っちゃいますよ?」
 引っ込み思案なくせして、やることは大胆だった。
「さあ、反省してくださいですー」


「たまにはゆったり旅行も良いかと思ったんだが……」
 気苦労が絶えない御宮 裕樹(おみや・ゆうき)は、肩を落として後ろを振り向く。
「はあ、俺だけ一人でいくさ……」
「おやおや、頑張ってねぃ」
「はいさーい、行ってらっしゃーい、御土産よろしく」
 それを見送るパートナーのガルフォード・マーナガルム(がるふぉーど・まーながるむ)久遠 青夜(くおん・せいや)
「なんでこう、トラブルに……」
 溜息を吐き、「胃が痛い」「頭が痛い」「平穏が欲しい」と愚痴りつつも、体は車両の壁面を沿って移動、狙撃ポイントを探す。手には【70口径対戦艦狙撃銃】。
「旅行でも対艦狙撃銃を持ってきている時点で俺って……」
 業の深さは人一倍。何か災難が降りかかると思っての行動が変なところで気を利かせた。
「あれ、何でだろ? 涙がでちゃう」
 さめざめと泣く裕樹。
 それでも足は動き、先程までいた四車両の連結部へ。ここから隠れて狙撃するつもりだ。
 危険がないか前後左右、周りを確認し、そこから見えた車内の光景。
「お譲ちゃんも旅行かねぃ?」
 狼の姿でごろりと転がり、御宮 詠美古(おみや・よみこ)のふかふかソファとなっていたガルフォードはエリザベートへと声を掛ける。
「はいですぅ」
「俺たちも旅行でねぃ。なかなか騒がしい事になってるけど、動いている人もいるからねぃ。俺たちはまったりしようぜぃ」
 エリザベートを誘うガルフォード。そのお腹の上で詠美古も「あ……こんにちは」と挨拶するが、どこか申し訳ない感じが漂っている。
「でも、いいんですかね……?」
「裕樹が言っていたじゃないかねぃ。『旅行だからゆったりしてなさい』ってねぃ」
「そうですぅ。いいんですよぅ、ゆったりしてもぅ」
 いつの間にかガルフォードにもたれ掛かっていたエリザベート。気持ち良さそうに目を細め、『お酒のようななにか』を飲んでいる。
「むむ、可愛い子はっけーん! とぅあー!」
 青夜のセンサーが反応。
「ふぁ、なんですかぁー!?」
「もしゃもしゃもしゃー!」
 エリザベートを抱きしめ、髪を撫で回し、
「へい彼女ー、一緒にカラオケしなーい? なんなら、僕が演奏してもいいよ?」
 矢継ぎ早に誘いの台詞。
「あ、あの、迷惑でしょうし、その辺で……」
 制止の言葉を掛ける詠美古だが、
「ふふふ、ブレーキ役の裕樹がいないから、今の僕はMISSノーブレーキ! アクセルORダイだよ!」
 突っ走る青夜。もう誰にも止められない。
「……兄様すいません。青夜さんは私には制止しきれる方ではありません……」
 事態解消へ向かった裕樹に心で謝る詠美古。
「さあ、カラオケ大会の開催だよ!」
「もう一度、歌うのですぅー!」
「俺も参加しようかねぃ」
 嫌がりもせず、むしろ楽しんでいるエリザベートと尻尾をパタパタ振るガルフォード。
 それらを目撃し、
「楽しんでるなぁ……」
 裕樹は手にした銃がいつもより重く感じる。
 俺もゆったりと過ごしたい、そう思う裕樹だが、
「でも、放置はできんよな……」
 性格がそれを許さない。
 前方にはおびただしい数の機晶姫。
「こちとら久々に旅行してるっつーのに……ストなら後でやりやがれ……」
 私情の混じった呟きをもらし、構える。狙いは威嚇になる程度の場所。
「俺の安寧を返せ!」
 狙撃銃が火を吹いた。


「機晶姫も五月病にかかるんだな……」
 列車内で広まった噂話に感想を漏らす天城 一輝(あまぎ・いっき)だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「このままじゃダメだな、何とかしよう」
 思い立つと【小型飛空艇アルバトロス】に【登山用ザイル】を結び、三号車と固定。空と列車を繋ぐ一本のロープが張られる。
「これでどうするの?」
 一輝の行動が分からないコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は首をひねって尋ねた。
「こうするんだ」
 両手でザイルを掴み、上部へ登ると旗の様にたなびく。
「おー、泳いでるように見えるね!」
 それはまるで五月の風物詩、こいのぼり。遠目から見ると、より一層それらしく見える。
それに上空ならば、後ろの機晶姫たちも目視することが出来る。エヴァルトの花火が発想を与えてくれた。
「おまえも一緒にやるんだ」
「わかった!」
 コレットも加わり、二人並んで空を泳ぐ鯉となる。
 吹く風になびくと、絶叫系マシーンを彷彿とさせた。
「あはは、意外と楽しいかも!」
 歓声を上げるコレット。
 そんな二人の行為に興味を持ったのか機晶姫が数体近寄ってくる。
「よし、釣れたな」
 オペレーション『こいのぼり』、これが一輝の考えた作戦だった。
「あなたたちも参加しない?」
 空からの誘いに顔を見合わせる機晶姫たち。
「ほらほら、見ているだけじゃつまらないよ」
 コレットが【空飛ぶ魔法↑↑】をかけると、体が自然と浮き始める。そうなれば、参加しない手は無い。
 一体、また一体と少しずつ増えていく家族。
「大家族だね!」
 このままいけば作戦は成功……するかに見えた。
 突如列車の上空を通りかかる{ICN0004461#重巡航管戦艦 ヘカトンケイル}。その巨大さ故に気流が乱れる。
 右から左から、前から後ろから。無作為に吹きつける風が軸を揺らす。
「くっ、姿勢が安定しない!」
「ちょっと、あわわ!」
 しがみつく事が精一杯の一輝とコレット。契約者でこの状況、普通の機晶姫たちは耐えることが出来なかった。
 放り出される機晶姫たち。コレットの魔法のおかげで地面に叩きつけられることは無いが、楽しく泳ぐことはできない。
「くそっ、妨害したのは誰だ!」

――――

 ヘカトンケイル内部。
 この超弩級艦を用い小旅行用の下見に出ていたベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)は眼下に広がる光景に算盤の指を弾く。
 自分達のせいで崩れてしまったこいのぼりなど、視野にも入れていない。目は地表に光る石に釘付け。
「機晶石は今後の実験に欠かせません!」
 技術武官を務め、装備開発に精を出すマッドサイエンティスト。実験のための材料がそこらじゅうに転がっているとなると、涎まで出てきそうだ。
「長期休暇中の下見とか、実験の妨げになるだけだと思っていましたが、これは僥倖!」
 パチンッと、小気味良く鳴る珠。ベスティアの頭の中で、すべての計算が出来上がる。
「買うと高いんです! 高度を下げて回収しますよ! さあ、機晶石狩りです!」

――――

 ベスティアからの命令を受けレオパルド・クマ(れおぱるど・くま)は笊を両手に日本手拭をほっかむり。後ろには同じ格好の隊員を率いている。
 目の前には大量の機晶石。目的はこれの回収。
「やっちゃるけぇの!」
 レオパルドの扇動に、笊で石をすくい上げる集団。異様な場景である。
「拾う石を旅の思い出として、ずっしりと集めなさい!」
『イぃー!』
 戦艦からもベスティアの一喝がかかる。
「じゃけぇ、わしのジャーキー採集はどこへ……」
 旅の思い出と聞き、当初の予定に思いを馳せる。
 下見の先でパラミタ・サケと格闘すること。すべてはこの石にかき消された。
「わしの夢を奪った石ころ……」
 途端に機晶石が憎くなる。そして、一つを手に取ると、
「おどりゃのせいでわしの夢は!」
 豪快に投げ放った。
 その方向は機晶姫の群れ。石ころ一つは小さくとも、大群の中に放り込まれればどれかに当たる。
 ぶつかった機晶姫は昏睡。仲間が倒れ、驚きと憤慨を怒声に変える。
「あ……いけんことしょーったわ」
 どこから投げられたのか、辺りを探りだす。
「取るもの取ればすたこらさっさです!」
 暴動が大きくなる前に逃げを選択。レオパルドが帰還すると、全速前進。
「おまえら! 待つんだ!」
 無口な一輝の怒号。それで止まるベスティアではない。
「早速帰って開発です!」
「下見はどうするけぇの?」
「そんなの後回しです」
 惨事だけ残された一輝とコレット。
「……どうしよっか?」
「……とりあえず、隠れて線路の機晶石を退けよう」
 武器の【エアーガン】を持ち出し、一つ一つ打ち落としていく。
 こいのぼり作戦は失敗に終わってしまった。