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ぶらり途中テロの旅

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ぶらり途中テロの旅
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『……ということだ』
「なるほど、五月病ですか」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)は蒸気機関車と並走していた{ICN0004191#フィアーカー}内でトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)からの通信を受けていた。
『車内からでは成果が芳しくない。だから君達で状況打破の方策立案と実施をやってもらいたいんだ』
「了解しました」
『託したよ』
 トマスの信頼と共に交信が切れる。
「さて、どうするか……」
 輸送車の中で考察する魯粛。五月病と言われて、明確な解決策はすぐに浮かんでこない。気付けば問題の現地へと到着していた。
「五月病と聞いていたけれど、怒り狂っている奴もいますね」
 魯粛の言うとおり、大半はやる気なさそうにしているが、幾つかは気を張って様子を伺っていたり、怒りのあまり怒鳴り声を上げているものもいる。
「これだと一筋縄じゃいかないですね」
 無秩序になりつつある大群。それを御するのは難しい。
「魯先生、一つ提案があるのですが」
「おや、あなたは」
 別の輸送車に乗っていた三船 甲斐(みふね・かい)。連絡は別の部隊にまで渡っていた。
 軽く会釈すると、甲斐は意見を述べる。
「五月病であるならば、倒すよりはその解消を図った方が事件解決の早道かと思われます。『窮鼠猫を噛む』という故事もありますし、無理な迎撃は控えた方がいいかと」
「確かに、怒っている機晶姫を取り押さえるとなると多少手間がかかりますね」
 甲斐の言い分に最もだと頷く魯粛。
「それで、どうするのです?」
「それらを踏まえたあたしの作戦は、『PS(パワードスーツ)を着て一列のマイムマイムで機晶姫たちの憂鬱を晴らさせながら、列車の進路から外す』というものです。あたし達はクラッシャーズで出動します」
「鼠だけに、ハーメルンの笛吹きですか」
「さすが魯先生。何でも知っておられる」
「何でもは知らない。知って……おっと」
 一つ咳払いを挟み、言い直す。
「わかりました。これから私たちは『PSマイムマイム隊』として機晶姫の回収を行います。私たちが使用するのはフィアーカー・バルですね」
 その旨を部隊の面々に通達しようとする魯粛。甲斐はニヤリッとほくそ笑む。
 そこに突進してくるジェファルコン。通達は中断される。
「寝過ごしたー!」
「背中に乗るのは危険だから止めるのである」
 シルフィードの背に乗り、乗り過ごした列車を追う鳴神 裁(なるかみ・さい)。それを操るメフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)は騒ぐ裁に注意を促し、
(そうですよー? 落っこちちゃいますよー?)
 普段着として纏う魔鎧ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)もたしなめるのだが、
「電車見えてきた! フィ、早く早く!」
(やっぱり聞き入れてくれないのですねー?)
 困った子である。
「これなら次の駅で乗れ……ん? なんか様子がおかっにゃ!?」
 シルフィードが急停止。それに伴い、弾丸のように飛び出る裁。
「にゃーーーーー!!!」
(ああ、ほらいわんこっちゃないのですよー?)
 同時に飛ばされているにも拘らず、ツッコミをいれるドール。裁と一緒に地面をゴロゴロと転がる。
「ちょっとフィ! ドールを着てなかったら大怪我していたところなんだけどー!」
「言ったであろう? 危険であると」
「一瞬、風になっちゃったよ……おや? 魯先生に甲斐っちじゃん。何してんの?」
「あなたたちでしたか。私たちはアレをどうにかしようと作戦を立てていたんです」
「先程立案が終わり、今から実施するところです」
 機晶姫を示す魯粛と甲斐。
 知人の到着に、二人は視線を交わし
「そうです、共同戦線を張りませんか?」
 協力を仰ぐ。
 この戦略は数が多ければ多いほどいい。戦術の内容を説明すると、
「ほほう、PSを着てのマイムマイムで機晶姫たちを巻き込む作戦か。コレはまた奇矯なことを」
「面白そうじゃん! OK、ボクも協力するよ♪」
(ボクも参加ですよー?)
 全員からの合意を得る。
「ありがとうございます」
 魯粛は【銃型HC】を操作し、音楽データを探る。
「じゃあ、私は輸送車から音響を担当します。皆さんは頑張って機晶姫たちを回収していってください」
『了解!』

――――

「なんだか聞き覚えのあるメロディが聞こえるような……」
 耳に届く陽気な曲。それと、
「足踏みの音? 何が起ころうとしているんだ?」
 車窓から外の様子を覗く。
「あ、ミカエラ!」
 PSに乗り、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)がトマスの元へ駆けつける。隣にはもう一機。
「あなたのPSよ」
「ああ、僕の分のPSか、ありがとう。ところで、さっきから懐かしい音色と振動音が……」
「待って、先に魯先生からの作戦を説明するわ。まずは外を見て」
「外?」
 窓を開け、身を乗り出す。それでようやく見えるPS集団。手を取り合い、一列に並んでいる。
「これから本隊に合流して踊りの輪……ではなく、列を伸ばすしていきます」
「え?」
「機晶姫の適所に入り込んでステップを広めていくのです」
 目頭を押さえ、しばし黙考。
「それって、踊るってこと?」
「その通りよ」
「……僕も?」
「もちろん」
 それはトマスの知識で予想できる方策とはかけ離れていた。パートナーを信じて委ねた結果がコレである。
「いや、歴史にその名を残した魯先生の事だ、今の僕には計り知れない深謀遠慮があるに違いない。そうだ、そうに違いない違いない違いない……」
 自分に言い聞かせる。
「それではミッション『マイムマイム』、全力にて遂行いたします」
 敬礼し、本隊へ向かうミカエラ。それを追うトマス。
「そうだ、思い出した。流れてたのはマイムマイムだ」
 意味の無いところで合点がいった。

――――

「この計画が成功したら、多少は報酬貰ってもいいですよね、先生?」
 魯粛はテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)の質問に答える。
『彼らはシャンバラ・レールウェイズの職員です。機晶姫自体を貰うことはできないでしょうが、鉄道会社からの謝礼は貰えるでしょう』
「よっしゃ! 俺が先陣を切って情熱のサンバ……じゃなくて、マイムマイムを広げていくぜ!」
 ガッツポーズをして張り切る。
『作戦開始です!』
 輸送車から流れる大音量のマイムマイム。

♪マイムマイムマイムマイム、マイム・ベサソン♪

 一人、ステップを踏むテノーリオに差し出される手。
「あたしも一緒に手を繋ぐんだ!」
 エメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)は無邪気に加わる。
「おう! さあ、どんどん機晶姫を回収していくぜ!」
 二人になったステップ。
「ルルたちも踊ろうんだよ!」
 ルシェル・スプリング(るしぇる・すぷりんぐ)に誘いを掛けるエメラダ。
「急かされちゃったわ。それにしても、甲斐ちゃんはいつも愉しいこと考えるわねぇ」
「PSのためなら何だって考えます」
「さて、楽しんでマイムマイムを踊りましょう!」
 三人、四人。ルシェルと甲斐も手を取り合う。
「コレは崇高な作戦。そうだ、そうなんだ……よな?」
 車両から駆けつけたトマスとミカエラ。
「トマス、何を迷っているの?」
「……そうだ。僕は信じるんだ。パートナーを、魯先生を!」
 意を決し一緒に踊りだす。
「さすがトマスね。きちんと呑み込んでくれているわ」
 五人、六人。
 伸びていく列。楽しげに聞こえる掛け声。

♪マイムマイムマイムマイム、マイム・ベサソン♪

 でも、考えて欲しい。
 格好はPSなのだ。違和感が無いわけが無い。
「……どうしてこうなった?」
 {ICN0004591#パワードスーツ輸送車両}から猿渡 剛利(さわたり・たけとし)は誰もが思うことを代弁してくれた。
「誰だってこうするだろ?」
「いや、普通しないだろ……」
「しない? いや、俺はする! さあ、君も一緒に!」
 テノーリオは独自の理論で剛利を引き込もうとする。
 そこに寄ってくる裁。
「良く考えたら、ボクたちPS持ってないじゃん」
 協力すると言ったはいいが、踊る手立てがない。
 裁に憑依する奈落人物部 九十九(もののべ・つくも)も痺れを切らす。
(ねえ、裁。見てるだけじゃつまんない)
「でも、PSがないんだよね……」
(何か別のもので踊ろうよ)
「別のものって言うと……」視界に映るシルフィード。「そっか! その手があったか!」
 指を弾き、魯粛に尋ねる。
「魯先生、それでもいい?」
『構わないです』
「ごにゃーぽ! フィ、ボクもシルフィードに乗せて!」
「分かったのだよ」
 二人、否、魔鎧と奈落人を含めると四人が乗ったシルフィードはPS6体に混ざる。
 サイズ差が大きく、幼稚園児に混ざった先生みたいな構図が展開される。どんどんとお遊戯みたいになっていく。
 そして、最初は訝しく思っていた機晶姫たちも、曲に合わせた愉しげな掛け声を聞いているうちに注目しだす。
 一体が手を取り踊ると、糸が切れたかのように参加者が増加。長蛇の列が出来ていく。
 先生の存在は絶大だった。
「……どうしてこうなった」
 やる方もやる方だが、混ざる方も混ざる方。
 作戦が成功に向かっているというのに、その心理を理解できないでいる剛利。
「あれ? ゴリは踊らないのー?」
 小首を傾げるエメラダ。声音から何を言いたいか分かってしまう。
「まて、エメラダ。俺は【ソニックブラスター】でマイムマイムの曲をだな……」
「やだーゴリも一緒に踊るのー! 踊らなきゃやー!」
 駄々をこねるエメラダに同調するメフィストとルシェル。
「音響係りは一人おれば足りるであろ?」
「フィの言うとおり、音響は魯先生だけで足りるでしょ」
 だが、剛利は拒み続ける。
「それに、PSも足りん」
「生身で踊ればよかろう」
「……え?」
「何、機晶姫たちも生身であろ? 問題などないのである」
「それって、作戦内容とちょっと違うんじゃね?」
 その話を聞いていたのか、魯粛からの通信が届く。
『許可します』
「さすが魯先生。わかってらっしゃる」
 笑いを堪えるのに必死な甲斐。
「そんなんで良いのか……?」
「ゴリー、踊ろーよー」
 少し、鼻をすする音がした。
「剛利。エメラダちゃん泣かせたら……わかっているわよね?」
 笑顔が怖いルシェル。顔は見えないけれど絶対に笑っていると確信している剛利。
「ああ、そうですか……」
 ガックリと項垂れ、
「こうなりゃ自棄だ! やってやるぜ!」
「やったね!」
「うふふ、剛利はやっぱり弄り甲斐があるわね」
「どうしてこうなるんだ……」

♪マイムマイムマイムマイム、マイム・ベサソン♪

 機晶姫たちを引き連れ、マイムマイムを踊る『PSマイムマイム隊』。
 徐々に線路から離れるよう誘導する。
「作戦は成功ですね」
 魯粛は感慨深げに呟く。
 PS隊に、シルフィードに、生身の剛利。
 それと一緒に踊る機晶姫たち。同じ行動を取ることで気持ちが一つになり始めた。
 これが後々、大惨事を生む。