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ぶらり途中テロの旅

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ぶらり途中テロの旅
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 この事態を別の角度から見ていた者が居た。
「我らの他にもトレインジャックを企んでいる者がいただと!?」
 物騒なことを口走るドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。
「おのれ、我らオリュンポスを差し置いて……どこの悪の組織の仕業だっ!」
 勢い良く外に飛び出して目にした者、それは鉄道職員の機晶姫。
「ふむ、この機晶姫たちがテロの犯人か……当初の予定とは違ってしまったが、まあいい。そこの機晶姫たちよ! 秘密結社オリュンポスもテロに協力しよう!」
 高らかに宣言する。
「さあ行け! 我が部下たちよ!」
 ハデスの放った【親衛隊員】は忠実な部下として列車を包囲する。
 そして、機晶姫たちも……否、何もしなかった。
「どうしたというのだ? あれだけの数がいながら、動かないというのか?」
 元々テロではなくただの五月病なのだ。動くわけも無い。
「ええい、こうなれば【優れた指揮官】発動! 鳴かぬなら鳴かせてしまえばいいのだ!」
 策士的な台詞を吐き、強制的に加担させる。
ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)! 奴らの援護を行うのである!」
「かしこまりましたご主人様……じゃなかった、ハデス博士。所属不明の機晶姫と共闘し、援護を行います」
 職員と同じ機晶姫のヘスティア。一礼をすると命令に従い、援護射撃の体勢に入る。
聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)! おまえも行くのである!」
「だが断る!」
 主の命令に背くカリバーン。
「勇者たるこの俺が、テロに加担することはできん!」
 正義心が反抗する。
「そういうと思ったのである! 我に秘策あり!」
 白衣のポケットから取り出す【おもちゃのリモコン】。
「そ、それはシステムX! くっ、な、何をする、ドクター・ハデス! か、身体が勝手に……こ、これは神剣合体のシーケンス!?」
 カリバーンは抵抗するが、ハデスにコントロールされ神剣勇者エクス・カリバーンに搭乗させられてしまう。
「俺としたことが、このような行為に与するとは、何たる不覚……」
「フハハハ、これで何も問題はないのである! さあ、テロを起こそうではないか!」

――――

 所変わり、機晶姫集団の中。
 鉄道職員に混じり、五月病にかかっていたヒノエ・ブルースト(ひのえ・ぶるーすと)
「もう仕事に疲れました……毎日毎日同じことの繰り返し……嫌になります」
 周りの機晶姫たちも同じ体。
 気だるい、働きたくない、休みが欲しい。
「あなたたちも、そうなんですか?」
 頷く集団。
 共感することで生まれる一体感。共属意識。
 連鎖する負の感情。
 そして、先程と同じく一つのことに取り組む連帯意識。
 それらが機晶姫たちを変えた。

――――

「ん? 何が起きているのだ?」
 スキルを発動しても制御しきれなくなった機晶姫たちに気付いたハデス。視線をそちらに向ける。
「おお! これは!」
 鉄道職員独自の小型連結器を使用した連結合体。巨大機晶姫が誕生していた。
「素晴らしい! このような機能が隠されていたとは!」
 自称、悪の天才科学者は感動する。
「これで我が群は圧倒的! しかし、慢心してはいけないのである。ヘスティア・ウルカヌス!」
「かしこまりました」
 数々の武器を携えて、巨大機晶姫の肩に捕まる。さながら、装着型射撃ユニットだ。
「これが……ハデス博士の言っていた機晶合体!」
 合体したわけではないが、一人で興奮しているので放っておくハデス。
「さあ、エクス・カリバーン。神剣形態へ変身である!」
「く、さ、逆らえん!」
 {ICN0004107#神剣エクス・カリバーン}へと形態変化し、巨大機晶姫の手の中に。
「準備は整った! これで我らの野望は達成されるのである!」
「ラズィーヤのヤツ、イコン持参ってこういう事かよ……」
 ラズィーヤから連絡を受け、シュヴェルト13に乗ってきたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
「む、やはり野望達成に障害は現れるものなのだな。巨大機晶姫よ! 貴様の力を見せてやるのだ!」
 ハデスの号令。それに呼応したのか、動き出す。
 コックピットから見える状況に判断を迷うシリウス。
「ど、どーする!? 本来は五月病のストライキだぜ? それに軍隊投入みたいで後味悪いし……」
「混乱してないで、早く作戦指示! 三秒で決めないとボクのやり方で決定するよ?」
 メイン操作のサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)がサーベルを構える。
「ス、ストップ! サビク、ストップ! 武器はまずい!」
「はいはい、ストップね」
「向こうも殺す気は……って、列車飛んできてるっ!?」
 巨大機晶姫はそのへんにあった貨物車両を持ち上げ、投げつけてきた。
「やばい、受け止めろ! 」
「やってみるよ」
「そ、そっとだぞ!?」
 【鉄の守り】でシュヴァルト13の装甲を固め、【高速機動】で掴みかかる。そのまま勢いを殺しつつ着地。車両の破壊は防げたが、中は多分えらいことになっているだろう。
「くそ、このままじゃ埒が明かねぇし、とにかく動きを封じるんだ!」
「そうね。電車キャッチなんて何度もやりたくはないね。シリウス、【戦慄の歌】をお願い」
「任せとけ!」
 【戦慄の歌】で行動不能に陥る巨大機晶姫。その隙を突き、一気に距離を詰めて脚を抑え込む。
「で、この後どうするの?」
「…………」
「考えていないのね」
 図星だった。
「どうした、巨大機晶姫!?」
 事態を確認するハデス。
「あやつらのせいだな! ヘスティア・ウルカヌス、援護射撃開始だ!」
「かしこまりました、ハデス博士」
 【六連ミサイルポッド】三台からミサイルが放たれる。
「サビク、やばいやばい! ミサイルが!」
「だからって、今動いたら……あれ?」
 ミサイルの機動がおかしい。シュベルト13が組み付いている脚ではなく、胴体に飛んでいる。そのまま着弾、爆発。
 数体の機晶姫が連結器を破壊され崩れ落ちていく。
「何をやっているのだ!」
「申し訳ございません、ご主人様!」
「ハデス博士と呼べ!」
 内輪もめを始めたハデスたち。
「今のうちに誰か! 解決策を持ってきてくれ!」
 シリウスの声に反応したのか、列車や上空から数々の援護射撃。徐々に剥がれていく機晶姫。
 しかし、その数は膨大。まだまだ機能停止には程遠い。
「使えないやつだ……カリバーン! 『カリバーン・ストラッシュ』である!」
「【ファイナルイコンソード】を行えというのか!?」
「命令だ! 従ってもらうのだよ!」
「俺は……無力だ……」
 ハデスの命令に逆らうことの出来ないカリバーン。
「さすがにそれは……」
「やばいなんてもんじゃないぜ!?」
 身動きできないシリウスとサビク。
 巨大機晶姫の手から放たれる【ファイナルイコンソード】。襲い来る不可視の剣技。
 その攻撃を受け止めたのはソルティミラージュだった。
「さすがにいてぇな」
「何っ!? 天御柱のイコンだと!?」
「てめぇら、覚悟はできてんだろうな?」
 操縦者村雲 庚(むらくも・かのえ)の威喝。
 パワーでは勝るエクス・カリバーンだが、HP・装甲など、そのほかの性能は多少劣ってしまう。分が悪い。
「仕方ない……ヘスティア、カリバーン! 退くのである!」
 早期決断。
「だがしかし、まだ終わらんのだよ! 秘密結社オリュンポスは不屈なのだ!」
 捨て台詞を残し、撤退するハデスたち。
「これで後はでか物だけか」
 巨大機晶姫を睨みつける。
「助かったぜ!」
「礼はまだいい。こいつを何とかするのが先だ」
 シリウスの謝辞に、ぶっきらぼうな庚。
 その台詞に何か策を持ち合わせていると思ったサビクは質問する。
「どうするの?」
「これだけでかけいと、外からちまちまやっても無意味だ。強大なものを倒すには、中からだ。ハル、巨大機晶姫をスキャン。コンタクト可能な固体に繋いでくれ」
「わかったよ!」
 任命を受けた壬 ハル(みずのえ・はる)は解析を開始。
「見つけたよ! 固体名、ヒノエ・プルースト?」
 庚と一文字違いの名前。運命の悪戯な気がするハル。
「とにかく調整して……カノエくん、繋がったよ!」
「こちら天御柱学院の村雲庚だ。聞こえるか?」
「村雲、カノエ?」
「ヒノエ・プルーストだな?」
「……そうですけど」
「何故おまえはそこに居る?」
「仕事に疲れたんです。毎日毎日、受け付け業務で同じことの繰り返し……長い休みがあってもサービス業に休みなんて無いんです。むしろ忙しくなるだけ。ヒノエの存在意義ってなんですか? 生きてるってどういうことですか?」
 哲学的な問題を抱えていた。

――――

 ボランティア精神で機晶石を回収していた師王 アスカ(しおう・あすか)だったが、
「もうこれ、数多過ぎでしょー!」
 拾っても拾っても数が減らず、だんだんと腹が立ってきていた。
「本当だったら、このまま帰って今日スケッチしてきたラフ画をキャンバスに描いて色をつけたいのにぃっ」
 こうなってしまったのもあの機晶姫たちのせい。今では連結し、巨大になっている。
「ちょっとあの巨大機晶姫を驚かせる事できないかしらぁ……」
 思案顔のアスカ。
「アスカちゃん、何かいいこと思いついたの?」
 同じく撤去作業の地味さにうんざりし始めていたオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は、いい笑顔を見せるアスカに尋ねる。
「そういえばベルって最近面白いスキル覚えたよね?」
「【カタクリズム】のこと?」
「そう、それ。せっかくだからここで試しに使ってみないー?」
 何をするのか、詳しく教えると、
「ふーん……確かに面白そうね」
「でしょー?」
「それだったら、機晶石の性質も利用してあげると更に楽しい事になるかもね♪」
 今までの鬱屈は忘れ、行動を起こす二人。
 アスカは【なぎ払い】で巨大機晶姫の足元付近を抉り取る。
 オルベールは【カタクリズム】で大量の機晶石を巨大機晶姫の間接部へ叩きつける。戦闘で幾体か剥がれ、できた綻びのおかげで容易に当てることが出来た。
「的当てみたい!」
「これを繰り返してやれば……」

――――

 一通りの愚痴を聞き終えた庚はボソリと呟く。
「……しゃらくせぇ」
「あ、カノエくんのスイッチが入っちゃったよ」
 ハルの言葉通り、庚のハイパー説教タイムが始まった。
「自分の存在意義なんて自分で見つけるもんだ。悩む事ができるなら、それを考え、追求する事だってできる。それは俺たち人間も機晶姫も変わらねぇ……」
 コックピットハッチを開け、生身を晒す。
「一人でみつけられないってのなら俺が手を貸す」
 手を差し伸べ、肉声と【テレパシー】で耳と心に訴える。
「ヒノエ・プルースト、決めるのはお前だ。お前自身だ!」
 危険だと思いつつ、その情景を眺めて居るシリウスとサビク。
「なんかさ……」
「ラブロマンスみたいね」
 当の本人にそのつもりはない。
「カノエくんの悪い癖だよね……」
 ハルは自分が助けてもらった時も同じようなことを言っていたなぁ、と過去を思い出す。
「ほんと、誰にでも面倒見がいいよねぇ」
 苦笑いしか出てこない。
 言葉を受けたヒノエは押し黙ったまま。反応を待つ庚。
 しばしの間、静寂が包み込み、
「行きます!」
 叫び、小型連結器で繋がれた間を縫って庚の元へ。
「あ、来た。なーんかライバルが増えただけのような気がするけど……」
 そう、『だけ』だった。
 未だ巨大機晶姫は健在。
「おい、どういうことだよ!?」
「一体だけじゃ無理ってことでしょ」
 取り乱すシリウスに、冷静に返すサビク。
 動き出そうとする巨大機晶姫。
「くそっ、もう抑えきれねぇぜ!」
 踏み出した一歩。だが、そこにはアスカが掘った穴があった。
 急な段差に体勢が崩れる。
「チャーンス!」
「今だわ」
 説教中に投げつけた機晶石。弱った連結器へと【パイロキネシス】で熱を送るオルベール。
 熱を帯び、弾ける連結器。重力が間を埋めようと押しつぶす。
 崩れた姿勢、押しかかる圧力。
 それに耐え切れず、自ら連結を解く機晶姫。
 一体が解くと、その隣が耐え切れずにまた解く。またその隣が……と、連鎖が広がる。
「おー、すごいすごいー!」
「なし崩しされていくわね」
 崩壊していく連合体。
「やはり、中が弱点だったか。しかし……」
「できれば傷つけずに何とかしたかったよね……」
 数刻後、残ったのは気絶した機晶姫の山だった。

 これで事件は解決……そんな訳にはいかない。
 運行を再開するには、線路の障害物を取り除かなければいけない。
 不幸中の幸いか、機晶石はほとんど誘爆しており、移動させるのは機晶姫のみ。
「あら? もう終わっているわ」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は、サブパイロットのスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)と共にスクリーチャー・オウルで現場へと急行したのだが、一足遅かった。
「しかし、走行の邪魔になっているのでござる」
「ねえ、これを片付ければ報酬って貰えると思う?」
「どうでござろうか……」
 事後処理に鉄道会社が謝礼するか、判断が付かない二人。
 しばらく考え、彩羽の頭に妙案が閃く。
「なら、プラスアルファを付ければいいのよ」
「どのようなものでござるか?」
「私たちは技術者系クラスよ。機晶姫を直すのはお手の物じゃない」
「なるほど」
 納得するスペシア。
「確かに、これだけたくさんの機晶姫が暴走したのでござる。鉄道会社の労働条件もさることながら、整備も行き届いているとは思えないでござる」
「心身共にリフレッシュさせるなりしないと、また同じ問題に直面するわ。それを私たちが解決するの」
「それは名案でござる」
「これなら、報酬も貰えるに違いないわ」
 思い立つと早速行動。
 スクリーチャー・オウルから【超電磁ネット】を発射。
「少しだけ痛いけど、今は我慢してね」
「後で思う存分、気持ちよくなってもらうでござる」
 投網の要領で機晶姫を捕獲していく。
 何回か投げることで、線路の上から退かすことに成功。
 鉄道会社の整備所へと向かう。
「これからは私たちの腕の見せ所ね」
「身体は整備するとして、心はどうやって回復させるのでござるか?」
「そうね……お花見はもう時期が過ぎちゃってるし、ハイキングやレジャーが妥当だわ」
 彩羽は意地悪く、スペシアに問う。
「スペシアも一緒に南の島でダイビングってどうかしら?」
「それがしにはムリでござる!」

 こうして機晶姫の五月病事件は解決した。