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第3章 デートスタート!

「じゃんけんぽん!」×3
「おぉー」
「ふむ」
「ぬぅわあああ〜!!」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)白星 切札(しらほし・きりふだ)、そして弥涼 総司(いすず・そうじ)
 大の男が3人、往来でジャンケンをしていた。
 男性が3人。女の子が2人。
 そう、これは運命を分けるジャンケンだった。
 始まりは、雅羅・サンダース三世がアイドルから身代わりとデート相手の紹介を頼まれたことだった。
 雅羅似のアイドル、沙良・サラーと璃良・サラー。
 彼女たちは双子のアイドルだった。
 とりあえず知人に電話したり通りすがりの相手を探したりした結果、集まったのは、上記の3人。
 そしてジャンケンの結果。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。とりあえずショッピングモールでもぶらぶらしましょうか」
「急にお願いしてしまって、すみません」
「いえいえ。ちょうど娘……家族に君たちのファンがいるものですからね」
 小次郎が沙良・サラー。切札が璃良・サラーのデート相手を務めることに。
「ごめんなさい、折角来てもらったのに」
「あぁ、いやいや……気にするな」
 申し訳なさそうに謝る雅羅にはははと笑い飛ばすと、総司はひとり喧騒に背を向ける。
(あぁ、もしあの時グーを出さなければ……)
 総司の脳裏にきゃっきゃうふふでダークネスなトラブる光景が浮かんでは消える。
「きゃあぁ、た、助けてくださいぃ……」
「あぁ、待ってろ! こうか、それともこうか?」
「あん、それな所……っ」
「よし、こうだ!」
「なにこれぇ、ベトベトですぅ……」
「それは大変だ。これを……お、おや?」
「ひゃうっ、き、きついですよ……」
「む、すまんがこちらも自由に動けなくなってね……」
「う、動けば動くほど、絡まって、取れません……っ、あ、やん、そんなに動かないでくださいぃ」
(く、くくくくく……はぁ)
 どんな状況だったのだろう。
 その光景の空しさを噛みしめながら、とぼとぼと去って行く総司だった。

「こ、この服はどうかなっ?」
「いいねいいね〜」
「こちらは、いかがかしら?」
「うん、似合ってるよ」
「きゃはは、これもイケてなぁ〜い?」
「おっけーかわィ〜ネ!」
「こ、こんな恰好は変ですか……」
「そんな事ないよ、すごくイイよ」
 ショッピングモール内のとある店の試着室。
 くるくる変わる衣装と表情を前に、尾瀬 皆無(おせ・かいむ)はアイドルとのデートを満喫していた。
 彼女の名前は来留間 くるみ。
「お芝居の練習に付き合って!」と頼まれたその言葉通り、衣装ごとにその人格や喋り方、表情まで全て一変する。
 そんな彼女の様子に皆無は振り回されつつも、新鮮な刺激を味わっていた。
(こっそりアイドルとデート! なんという男の夢! このまま美少女とムフフな一時を……)
 皆無がこれからのアレコレに思いを馳せていた時だった。
「ねーねーこの服カワイイ! とーぜん、りりむの分も買ってくれるんだよね、パパぁ?」
(くぅう…… りりむさえいなければ……)
 皆無の野望を打ち砕くかのように、デートに同行してきたのは尾瀬 りりむ(おせ・りりむ)
(やっぱ家族が過ちを犯さないよう監視するのは娘の義務ってやつ?)
 皆無の気持ちなどお見通しとでもいうように、りりむは悪魔的微笑を浮かべる。
「ほらほら、あんたもぜーんぶ買ってもらいなよ。デートのおごりは男の甲斐性ってヤツなんだから!」
「え、いえ、私はそんな……」
 りりむの言葉に当惑した様子で口ごもるくるみ。
 お芝居をしている時以外は、どこか内気な普通の少女のようだ。
「そうそう、ここは俺様のおごりだ! 男として当然だ」
「んじゃ次はあそこでゴハン食べよーね。その後はゲーセンで遊ぶぞー、おー!」
「お、おー!」
「お、おぉ……」
 どんどん寒くなって行く懐に手を当てながら、少女二人の後を追いかける皆無だった。

「お願い! ボクと一日デートしてくれないかな?」
「断る」
 出会い頭にぶつかりそうになった少女の突然の言葉を、村雲 庚(むらくも・かのえ)は一刀両断した。
「あ……ちょ、ちょっと待ってよう!」
 すたすたと歩いて行く庚を、少女は慌てて追いかける。
「待って、今日一日だけでいいんだ。お願い! ……あ」
 庚に追いすがる少女の隣を、明るい声が通り過ぎた。
 学生だろうか。
 数人の少女たちが笑いながら歩いている。
 その少女たちからそっと顔を背ける少女。
 まるで、誰かから隠れているかのように。
「……被っとけ」
「あ」
 庚は自分の被っている中折れハットを少女の頭に乗せた。
「え、と……」
「デートか何か知らんが、一日くらいなら付き合ってやってもいいぜ」
「ありがとう!」
 少女の顔がぱあっと明るくなる。
 その後すぐ、庚は彼女の正体を知ることになる。
 駅に貼ってある大きなポスターに映っている少女の中に、隣で歩いている少女の姿を見つけて。
「えへ……バレちゃった?」
「さあな。アイドルなんて、俺はよく知らねえんだ」
 彼女は、今売出し中のアイドルKKY108のメンバー、明理明里だった。