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第4章 さっそく握手会準備

「ど、どうしてこうなったんだろう……」
 KKY108の握手会会場控室。
 下川 忍(しもかわ・しのぶ)は突然の展開について行けず、茫然と座り込んでいた。
 きっかけは、ぶつかった少女。
 肩が当たった少女が、忍そっくりだった。
 何か考え込んでいる様子の少女に声をかけたら、いきなり言われた言葉。
「水着、大丈夫?」
「え、うん大丈夫」
「じゃあ、脱いで!」
「え? え、え、えええー!」
 少女はいきなり服を脱ぎだした。
 そのまま服を入れ替えられて「一日だけあたしと代ってアイドルをやって!」ときた。
 しかも返事をする前に逃げられてしまい、忍の意志はそこに介在していない。
「と、とりあえず代わったからには心を込めて握手しなきゃ!」
 どこまでも律儀な忍だった。
「そう、あなたもなの。私も、突然身代わりにさせられた口よ」
 忍の話を聞き、気の毒そうに声を潜めたのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 彼女もまた、恋人セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とのデート中に突然現れたアイドルに身代わりを頼まれたのだ。
 断ろうと思ったら、何故か恋人の方が妙に乗り気。
「いいじゃんいいじゃん、アイドルになったセレアナの姿、見たいなー」と言われては断るわけにもいかない。
 不承不承承諾し、とりあえず握手会の為に楽屋に来てみれば恋人の姿はどこにもない。
 「もう、折角のデートだったっていうのに……」
 ただでさえ愛想がないと言われてるその顔は、ますます不機嫌な色を浮かべていた。
「みんな同じなのねぇ」
 フィンラン・サイフィス(ふぃんらん・さいふぃす)が、周囲の仲間の状況を聞いてむしろ安心したように胸を撫で下ろした。
「私の所にもそっくりな子が来て、『握手会を重点的にお願いね!』とだけ言われて。強引とか強制的とか、そんなチャチなもんじゃ……」
 どこか遠い目をしたままぶつぶつと呟く。
 あの時走り去っていった彼女の後ろ姿が目に焼き付いている。
 その直後に、豪快に転んで見えた下着の柄さえも。
 くまさんだった。
「私、多くの人が集まるイベント苦手なのに……返事も待たずに行っちゃったのよね」
「だ、大丈夫?」
「あまり無理しない方がいいわよ」
「あのくまさん……」
「くま?」
 あまりのトリップっぷりに、思わず自分の立場も忘れて心配になる忍とセレアナ。
「とりあえず、本番では僕がフォローしますよ」
 フィンランの兄のアクロ・サイフィス(あくろ・さいふぃす)が、妹の肩を抱く。
「僕達でがんばりますから、心配しないでください、ね」
 アクロはシベレー・ウィンチェスター(しべれー・うぃんちぇすたー)ファウロ・ブラウディア(ふぁうろ・ぶらうでぃあ)に目配せする。
「ええ、そうですね……アクロ様とフィン様を信じてます」
「あ、ああ、そうだな」
 ぎこちなげに頷く二人。
 シベレーは心配でおろおろ歩き回っており、ファウロは変態が出入りしないか過剰な勢いで目を光らせていた。
「特に先生、やりすぎは禁物ですよ」
「い、いやそんな事する筈ないじゃないか、ははは」
 ファウロは手に持った獲物を隠しつつ、乾いた笑いを響かせた。

「にっへへー☆ この鎧型アイドル・マジカルアーマーアリッサちゃんにバッチリお任せだよ!」
 心配を募らせている一行に対して、自称のアイドルネームまで設定してやる気に満ち溢れている存在もいた。
「アリッサちゃんは色んな人の為に一生懸命で偉いですね。私は嬉しいです」
「アリッサちゃん、一肌脱いじゃうよ〜」
 元気いっぱいのアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)と、それをのほほんと応援するフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)
「穴を埋めるどころかあの子のアイドルの座を奪っちゃう勢いで頑張っちゃうんだよん。おねーさまも応援してね!」
「ええ、がんばってください」
 何やら不穏なことを言い出すが、フレンディスは気合の発露だと思ってか気に留める様子もない。
 しかしアリッサ本人は本気。
 彼女の脳内では、既にアイドルを蹴落としてスポットライトを浴びている自分の姿でいっぱいだ。
「くすくすくす☆」
「うふふふふ」
 そんなどす黒い気持には微塵も気づかず、アリッサと笑いあうフレンディスだった。

「折角うちのリイムが握手会に参加するんだ。その点、きちんと告知しておいてくれよな」
「ええ、勿論。告知欄にほら、このように名前が」
「もっと大きく」
「は、はい!」
 握手会の準備の裏側で、パートナーのリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)ために根回しをしているのは十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)
 元々、彼はリイムが穴埋めの一日アイドルとして声をかけられた時には乗り気ではなかった。
 しかし、リイムの強い希望を受け、それならばと自分にできる最大限の協力をすることになった。
(これも、リイムがパラミタ一の抱き枕になるためだ!)
(リーダー……ありがとうでふ。僕、アイドルになりまふ!)
 そんな宵一の心遣いを感じ、燃え上がるリイムだった。