リアクション
急流地帯 さあ、大幅に時間を戻しましょう。 トップを進む屋良黎明華さんですが、最初に急流地帯に到達しました。 川の途中にある岩で、流れが細くなったり曲がったりしていて、最大の難所となっています。 「ひゃっはあー!」 一気に乗りきろうとした屋良黎明華さんでしたが、そこはただの段ボール舟のこと、急流に巻き込まれたとたんにひっくり返ってみごとに木っ端微塵となりました。厳重にガムテープで防水をしたつもりですが、やはりしょせんはガムテープです。急いで作った分、どこかに隙間があったのかもしれません。 「まさに、D級……」 デンジャーの略でしょうか。幸いお腹に巻いたペットボトルのおかげでもみくちゃにされつつもなんとか急流を乗りきった屋良黎明華さんでした。 「たとえ、そのシーンごとのブチメカでも、そのたびごとに黎明華は甦るのよ!」 なんとか岸に辿り着くと、そこに都合よく用意されていた段ボールの山で、屋良黎明華さんは弐号機の制作を始めました。決してめげません。 ★ ★ ★ 二番手に上がってきたリース・エンデルフィアさんとアガレス・アンドレアルフスさんのペットボトル筏が急流に突入しました。激しい流れに、ペットボトル筏が大きく捻れて今にもバラバラになりそうです。 「きゃあ!」 振り落とされそうになって、リース・エンデルフィアさんがしっかりとペットボトルを抑えるようにして身を伏せました。 アガレス・アンドレアルフスさんの方は、ゆるぎありません。止まり木にしっかりと止まったまま、後ろから来る秋月葵さんとフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんのぺったんこを堪能しています。 「ひゃあ〜。クルクル回るぅ。クルクル回るぅ」 「くっ、面白いではないか……。っと、目が回りゅうるぅ〜」 タライ舟の秋月葵さんとフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんは、クルクルと凄い回転をしながら急流を流されていきました。最初からまっすぐ進まないので、途中でリース・エンデルフィアさんたちに抜かれてしまったのです。けれども、なまじ丸くて回転しているおかげで、流れに逆らわずに進んで行きます。 とはいえ、ガリガリと底を削る嫌な音も聞こえてきます。 「み、水を入れるのだあ」 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんが叫びます。 「ミミズなんていませんですぅ」 「違ーう! 水を入れて、凍らせて補強するのだあ。急げー、沈没するぞお!」 秋月葵さんの空耳を、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんが訂正しました。 「きゃあー!」 なんだか、あわただしくなってきました。 「お師匠様、しっかりつかまって……。お師匠様!?」 リース・エンデルフィアさんが注意するように声をかけましたが、返事がありません。 「くるくるくるくる……くるっぽー……」 「あー、お師匠様!!」 どうやら、クルクル回転する秋月葵さんたちを見つめすぎたせいで、目が回ってしまったようです。 ぽろりと、アガレス・アンドレアルフスさんが止まり木から落ちていきました。 「お師匠様! お師匠様の分まで、私頑張ります!」 ちょっとあられもない姿でペットボトル筏にしがみつきながらリース・エンデルフィアさんが叫びました。 落ちたアガレス・アンドレアルフスさんは、そのまま川の藻屑になるかと思われましたが、クルクル回転している秋月葵さんたちのタライ舟に撥ねられました。 「はうあっ!」 勢いよくポーンと飛んでいったアガレス・アンドレアルフスさんが、元の止まり木にぶつかります。必死でアガレス・アンドレアルフスさんがしがみつきました。 「お師匠様!? ……お帰りなさいませ」 ちょっと驚きつつも、リース・エンデルフィアさんがせっかくの独り立ちのチャンスが……と残念がりました。 「ひとまず、修理します」 なんとか岸に近づくと、リース・エンデルフィアさんは、用意されていたガムテープをこれでもかと筏に巻きつけました。 ★ ★ ★ 続いて、鬼龍貴仁くんも急流に突入しました。意外に奮闘して順位を上げてきています。 「きっついですねえ」 水中の部分が多いせいか、筏がぼこんぼこんに岩にぶつかります。衝撃がハンパありません。 「うがあ!」 ついに木枠が吹っ飛びました。残されたのは凍ったペットボトルだけです。ほとんど流氷と言ったところでしょうか。 「ひ、罅が……。凍れえ〜、凍れ〜!」 あわてて氷術で鬼龍貴仁くんが筏を補修します。なんだか、筏の氷が大きくなったような気もします。今では完全な流氷です。ということは……。 「さ、寒い……。き、気合いだあ!」 なんとか、根性できり抜けるつもりの鬼龍貴仁くんでした。 ★ ★ ★ 「だから嫌だって言ったのよ!!」 迫ってくる急流の立てる激しい水音を前にして、コルセア・レキシントンさんが、葛城吹雪さんにむかって叫びました。 「この程度、行軍教練に比べたらぬるいであります!」 「嘘つきなさい!」 言い合いしている間にも、ペットボトル筏が急流に突入しました。 激しくペットボトルが捻れそうになりますが、丈夫な段ボールを使っていることもあり、ロープでしっかりと縛っているので、リース・エンデルフィアさんたちの筏よりは丈夫です。 「左前方、岩!」 迫ってくる岩の出っ張りを見て、コルセア・レキシントンさんが叫びました。 「うりゃあ!」 すかさず葛城吹雪さんがキックを放って、なんとか岩を回避しました。アガレス・アンドレアルフスさんが見ていたら、また見とれて落っこちてしまいそうですが、いかんせん紙袋が怪しいです。 ★ ★ ★ 「遅れをとりましたね。突入します!」 戦部小次郎くんたちの段ボール舟が急流地帯に達しました。 「小次郎、大変ですわ!」 竿代わりにして持っていたクォータースタッフを振り上げてリース・バーロットさんが叫びました。 「この場面でなんです?」 「これ、クォータースタッフです」 「ええと、直訳すると……長さは四分の一しかない短い杖だよー……ですね」 「ほとんどワンドの長さしかないんで、障害物まで届きませんわ」 言っている間にも、障害物をつつくことなく、舟がガリガリと岩をこすりました。あっけなくビニールシートに裂け目が入りましたが、蝋のコーティングのおかげか、船体自体は無事でした。 |
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