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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

リアクション

 周囲に七人の、操られた人々が立っていた。
手には何も持たず、ただただ立っているだけだったそれは、しかし今まで彼女たちが対峙してきたどの“人々”よりも不気味な雰囲気を持っている。だからこそ、一同の警戒も一層強くなる。
「ねえ、あれってさ」
 ふと北都が指を指した先。男の一人が持っているのは、かなり小型の機晶爆弾。それこそ、人ひとりが爆心地に居なければ怪我さえしないレベル。人に当たれば、体の一部が欠損する程度の爆発力しかない、しかし確実に部位を破損させられるだけの威力を持った、爆弾だった。
「この人数であれを持ってきたところで、誰が怪我をするわけでもないし、威嚇にもならんだろうな。突っ切るぞ」
 和輝の言葉に頷いた一同を余所に、彼等を囲む男たちは一斉に、手にする爆弾の起爆装置を作動させた。そしてそれを、投げるでもなく、持って走ってくるわけでもなく。あろう事か彼等全員が口に含んだ。
「え――何を」
 シェリエの驚きの言葉は、結局最後まで言われる事はなく、言葉にならなくなったそれは、次の瞬間ただの悲鳴に変化する。

 小規模な爆発の後、男たちの上あごから上だけが、綺麗に爆散し、破裂したのだ。
体内に所持している血液のその全てが勢いよく辺りに飛び散り、吹き上がる。
思わず目を背ける者。悲鳴を上げてしゃがみ込む者。目を逸らして眉を顰める者。皆が皆でそれぞれの反応を見せる中。彼等、彼女等に敵対している女性が一人、高らかに笑い声をあげた。
「なぁんだ。あなたたちこれくらいで悲鳴を上げるの? おっかしい」
「笑うな!」
 狙撃をやめ、地上に降りてきた恭也が怒鳴りながら銃を構える。
「てめぇらとは違うんだよ! 何もかも、感性も、志も、てめぇらにはわからねぇ様なモンを、俺たちはたくさん持ってんだよ!」
「ふぅん。私様が誰か、見当がついたって感じ?」
「知らねぇよ。寧ろ知る気もねぇよ。どうせお前ら、此処で死ぬんだからな!」
「まあまあ怖いわ! でも逞しい殿方って素敵よねぇ……。私様、あなたの様な人間を見てるとついついよだれがでちゃうの」
 目に見えてわかる程の挑発。
「虫唾が走るよ。それよか早くどっか消えろよ」
「いやよ」
「消えろ!」
 銃声が響く。数発、厳密には、三発。
彼女は全く避けようとすらせず、それを全て体で受け止めた。肩に一発。左大腿に二発。
 同じように血液が出てくるが、それが血液なのか、もしくは何か違う物なのか。暗がりの中ではわからない。
「いいじゃない。やれば出来るのね、人間も」
「ちっ……!」
「待て……あの女、絶対におかしぞ。物言い、発言……攻撃を誘っている様な――」
 和輝の静止を振り切って、恭也が再び銃を構える。
「知ったこっちゃねぇな。あいつの虚勢がいつまで続くかなんて考える気にもならねぇよ。此処で倒しちまえば、何企んで用が一緒だろ」
更に四発の銃声。が、最後だけは。最後の一撃だけは、彼女は回避して攻撃を避けた。
「あーあ。ありがとう、これで私様も、貴方達と遊べるわ」
 右肩に二発、左掌に一発。更に液体が溢れだす。さも、山々に抱かれている泉が如く、際限なく彼女の体内から外界に向けて、液体が溢れだす。が、彼女は別段苦しそうな様子もなく笑っていた。笑って――。
「殴り合いとか、したいわね」
 呟き、その姿を晦ます。暗闇が故に視界が悪いのもあるが、一同が一斉に見失っている以上、何か違う力が働いていると言って過言ではなかった。
 慌てて北都が殺気看破を試み、そして位置を把握する。
「上だよ!」
 一同が顔を上げると、真っ赤な髪が夜風に揺られ、物凄い速度で一同に向けて振ってくるのを確認する。それぞれ慌てて回避行動をとりながら地面に転がり、今居る場所から離れるのだ。
 女性が着地したと同時に、地面が割れる。彼女が思い切り拳を振り下ろしたその地点の地面が抉れた。
「残念、そうね。そう言う力があるのね。ふぅん。でもまあいいわ、避けようと避けまいと、紙一重で躱すなんて芸当は出来ないまでに、早く動けばいいんですもの」
 心の底から楽しそうな笑みを溢す彼女の頭部が、不意に小さな爆発を起こした。
「はろー! お届け物やでー」
 上空、空を浮遊する巨大な金属製の箒に跨り、ひらひらと手を宙に舞わせて現れたのは、奏輝 優奈(かなて・ゆうな)である。隣には、こちらは金属製でもなければ巨大でもない箒に跨っている奏輝優奈著 メテオライト(かなてゆうなちょ・めておらいと)が、辺りの様子を伺っている。
「何? 今の」
「へ? 魔法やけど? 今さら火術くらいで驚くん?」
 目を丸めて驚く敵対者の女と、そのリアクションに一層驚きを見せる優奈。が、すぐさまにんまりと笑って口を開き始めた。
「まあまあ、これがどこまで出来るかは知らないねんけどな? でも試してみるんもええかなって。ああ、あれやで? 別に遊びにきてるんと違ごうて、真剣や! 真剣に実験って事で、堪忍な!」
 一同に振り向いて、両手を合わせる彼女の瞳は明るい。
「実験成功したらめっけもん、失敗したかて、そしたら普通に戦えばええだけの話やし、ま、ええやろ。ほなガンガンいくでぇ」
 数個の瓶を敵に向けて投げつける彼女。対して全く身動きを取らない敵は、その瓶に被弾し続けた。爆発が起こったり、僅かな火花が散ったり、将又雷のような何かが見え隠れしたりするも、しかしそこまで大きな効果は期待出来ないものだった。
「あちゃ……駄目やったかぁ……」
「やはりの……そも、魔法を維持させて物質に閉じ込める事のそれ自体が難儀。故に残っていたとしても、それは所詮残り火に過ぎぬ、と言う事じゃな」
 冷静に状況を把握しながら、自分が持っている瓶を興味なさ気に見つめるメテオライトは、それを女に投げつける。
金属の割れる音と、微かに物質を焦がす音を響かせながら、標的たる彼女の頬から煙が立ち込め、頬がただれた。
「それでもまあ、使用用途はあるかのう。例えばこれじゃな。かなり莫大な規模の魔法を、しかし一点に集中させたい場合は使える。ある意味これは、成功と呼べる実験かもしれなんだ」
「そこは求めてへんかったけど、副産物やね。失敗の陰に成功あり。失敗は成功の母也、やったけ」
 肩を竦めつつ、しかしどこか悪戯っぽい顔で、優奈はそう言うと地上まで一気に下りていく。
「で? 奴さんは誰なん? どっかで見た様な顔しとるけど、皆々様のお知り合い?」
「知らない人、知らない敵。だと思うよ」
 美羽が目線を逸らさぬままに返事を返し、それに対して優奈は成程と短く返事を返すと身構えた。
「実験が失敗やったのはわかった。せやからこっからは、まあ多少は協力したるよ」
「どうでも良いわ。人間風情が一人や二人増えたところで、止まらないことだってある。私様がそれこそ此処で終わってしまえば、“あの方”の全てがそこで停止してしまうのだから」
 意味深な発言をした彼女は、しかし全く動く気配を見せずに佇み、目前で対峙している面々を見つめていた。表情に焦りはなく、されとて余裕がある訳でもない。何も思っていない、とばかりの表情を浮かべ、そして彼女は攻撃を待っている。