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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

リアクション

 5. ―― 麗シキカナ、其ノ“センリツ”





     ◆

 彼等が到着したのは門前。文字通り門の前、それらは不気味に集まっている集合体で、塊だった。恐らくは“どす黒い何か”と言う形容が一番ぴったりくるような、そんな情景。
「くっ……駄目ですか……。私一人でこの数は……流石に……!」
 和輝が目を閉じて呟いたのは、彼が既に敵として、その塊に認識されている、と言うある種絶望的な状態が為だった。
目の前の塊の侵入経路、そして退路を真っ先に見つけたのは彼であり、そしてそれを破壊しようと試みたのも、彼だった。十数台の運搬車両の内、彼が破壊する事の出来た台数は二台。たった二台と思えばそれは違い、たったの一人でこの数の敵から見つからず、二台も車両を破壊できた事は、既にそれを脅威と取って良い。
 しかし、そこで停止する。彼は敵の群れに見つかり、健闘虚しく今、命の危機に瀕している訳だ。撤退する事も叶わぬほど、彼は深くまで潜り込み過ぎた。敵が辺りを制圧する速度が尋常じゃなかった、と言っても良い。
「話が通じる相手でも……なさそうですしね」
「ちょっと! アナタ!」
 声が響いた。見れば、走ってきたのはシェリエたちである。
「何をやってるのかは不明。って言うか何で既にやられてる?」
 冷静に敵と、地面に倒れながらも武器を敵に向け続けている和輝を交互に見やったフェイが首を傾げた。
「兎に角助けなきゃ不味いだろ! 大丈夫か?」
 某が駆け寄って彼を引き摺り、敵から距離を取って和輝の容態を確認する。
「大事ではありません。大丈夫です……面目ない……」
 悔しそうに俯く彼を、しかし某は何も言わずに上着を丸めて枕にして、彼の首へと潜り込ませた。
「暫くしたら応援もくると思う。そしたら回復して貰ってくれ」
「すみません……」
「にしても、シェリエ姉。ちょっとこいつらの様子がおかしいよね?」
 怪訝そうな顔で口を開いたのはパフュームだった。やってきた彼等もその言葉によくよく目を凝らす。
「何がおかしいの? パフューム」
「敵の群がり方が尋常じゃない、と思うの」
「言われてみれば……たしかにそう」
 無表情のままに言うフェイも、しかし警戒をしていない訳ではない。と――
「なあ、その群れの後ろ、何だあれ?」
 上空から様子を見ていた恭也の言葉に一同が反応する。
「ごめん、こっちからじゃ全く見れないの」
「やっぱり何かがいるんだね!? シェリエ姉! 行こう!」
「無暗にツッコむのは得策とは言えないよ。結えない末っ子」
「そうだな……どうするか、この状況」
 思考を巡らせていると、後ろから彼等が合流してくる。先程囮として残っていた彼等。
「大丈夫!?」
「やっと追い付けましたか」
 北都とリオンの声。
「うわっ……さっきより多くない? って妙な集まりかたしてるわね。どう思う? 真人」
「恐らく後ろに、何かがあるんでしょう」
 真人とセルファも合流し、目の前の敵を見つめて呟いた。
「ふぅ……まさか敵を連れて行こうと思ったらシュッキー(『手記』)に攻撃されるとは思ってなかったなぁ……疲れたぁ……」
「あれ、美羽さん。皆さんいますよ……?」
「良かったね。また僕たちだけであれの相手するとなると、ちょっと疲れちゃうからねぇ」
 美羽、ベアトリーチェ、託も合流する。
が、どうやら彼等は彼等で既に疲労の色が激しかった。よくよく見れば、それは全員に言える事である。此処までの間、目の前の塊となっている、“生気やどらぬ人々”を、決して殺さずに倒さなくてはならなかった。体力的な問題だけではなく精神力も削られ続けているのだから、無理もなかろう。
「兎に角、今の状況は――」
 北都の言葉を遮る様に、塊が動きを見せ、故に全員が臨戦態勢を取った矢先、声がする。

「脆弱にして滑稽な道化はもうご用命ではないのかな? えぇ? 人間とその眷属である諸君たち」

 男の声。暗がり、うっすらと見え隠れするシルエットに、思わず数人が息を呑んだ。