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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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     ◇?◇

背後から聞こえるのは、穏やかな旋律だった様に思う。それは彼等、彼女等が奏でる、この惨劇にはまるでふさわしくない程の澄み切った旋律だった。
 伝説と言う名の、ある種戒めや呪いに近い縛りを持った楽器の奏でる、悲しみと喜びが混在する音色だったのかもしれない。
きっと――そう、だからきっと、俺はこんな事を口にする事が出来たんだと思うよ。
こんな俺にも、言葉を持てと。
こんな俺にも、希望を持てと。
だけどあくまでも、お前はお前だぞ。

 楽器たちが俺に、そう言っている様だったから。だから俺は、聞いてみたんだ。



 ねえ、ラナロックさん。

 何でしょう?

 俺さ、何が間違えだったんだろう。

 わかりませんわ。

 俺ね。嫌だったんだ、世界に独りぼっちだった、“あの時”が。

 世界に独りぼっちだったあの時……ですか。

 そう――。自由のない檻の中でさ。自分が思い通りにならないの。きっとみんな思い通りではないのかもしれないけど、でも俺の場合はさ、俺自身が思い通りにならなかった。

 そうでしたか。

 でね、俺がこの世界に来てから、色々な場所に行ったし、色々な物をみてきた。

 ええ、そうでしょうとも。

 だから思うんだよね。俺――これで良かったのかな、ってさ。

 そうなんですか?

 俺、自由を知らずにいればよかったのかなって。

 それは違いますわよ?

 ……そうかな。

 はい。自由は良い物、ですわ。例え一時、その自由を剥奪されたとしても、手放してしまったとしても、その自由に培われた時の記憶だけは、誰も奪う事は出来ないでしょう?

 手放す事も、ないって事?

 ええ。私はそう、思いますわ。だってそう――恐らくそれが、人の持てる最高の知識だから。

 知識……。

 ええ、思い出。それが最高の叡智であって、きっとそれが最大の……。

 最大の……?

 答えはご自身がもう、持っていると思いますわ。だから此処に、居るのでしょう?

 そうなの……かな。

 あなたの事は細かくは存じ上げていませんけれど、でもきっと、あなたは何かを成したくて此処にいる。今こうして、存在しています。

 何かを成したくて。

 誤った道は、きっとご友人が、誰しもが、正してくれると思いますわ。だからこそ、私も、そしてあなたも。のびのびと自由を得る事が出来ている。

 そうだね……そうなのかもね。

 だから真っ直ぐ。誰の為でも良いし、勿論ご自身の為でも構いません。真っ直ぐ進み、頼れる人に頼れるだけ頼り、そして頼ってくれる人を少し支えてあげればそれで――良いと思いますわ。

 そっか……そんなにうまく、出来るかな。

 大丈夫ですわ。きっと大丈夫。この音色が教えてくれるでしょう? こんなにも、多くの人が心を持って接してくれていると。

 そうだね。きっと、そうなんだろうね。

 難しい話は、私にはわかりませんけれど。それこそウォウルさんに聞いてほしいとは思いますけれど、私の今言えるあなたへの言葉は、そう。“伸びやかに――”その一言だけです。

 じゃあ、誰の役に立ってなくても――

 上澄みだけを見てはいけないんだと、思いますわ。あなたが今此処でこうしている事は、大勢の人の心に響いています。武器を手に取らずとも、知恵を振り絞らなくても、存在している。というその事自体で、大勢の人が救われるんだと、私はそう思います。

 ……そっか。

 はい。




 優しく笑ったラナロックさんは何も言わないから。だから俺は、彼女と同じようにしてただただ音色に耳を傾けるだけにした。
 涙がこぼれてしまわない様に。
 これ以上、悲しい考え方をしない様に。

 今は、瞳を閉じてみるんだ。

 明日を信じてみても、良いよね。