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リアクション
「フハハハハ、世界征服の第一歩として、この店の景品を全て我が手に収めてくれよう……いやいやいや、小さいな!」
「ならばこの夏祭りを征服して……って、大して変わらん!」
一人忙しそうにボケツッコミを繰り広げているのは、ドクター・ハデス(どくたー・はです)。
やたらツッコむ楽しいことがしたい幽霊の取りつかれているせいだが……普段が普段なので、周囲から身咎められることもない。
「まずは、この射的屋から……行け、我が部下ども!」
「はっ!」
ハデスの特戦隊・影武者・エリート戦闘員たちがわらわらと吹雪の店の前に並ぶ。
「弾10発お願いします」
「私も10発」
「私も」
「……ただの上客じゃないか! しかし楽しい! 夏祭りを制服してやろう!」
既にハデスか幽霊か分からない者の言葉が響く。
※※※
「ぐるぅ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃー」
「どうかな?」
「駄目だ、分からない……」
「テラー、一体どうしたというのだ!?」
「ぎゅ……っ」
テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)を取り囲んでいるのは、パートナーのサー パーシヴァル(さー・ぱーしう゛ぁる)、チンギス・ハン(ちんぎす・はん)、グラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)。
グラナダは焦っていた。
テラーの言葉。
動物が唸るようなその言葉を、グラナダは理解していた筈だった。
しかし、今、テラーの口から発せられる言葉を彼女は理解できない。
(一体、どうして……)
一方、テラーの中もそれはそれで大変なことになっていた。
『た、たすけ……』
(ぎゅる?)
『たすけて……』
(ぎゅぎゅー)
テラーには、陰気でおいしいものが食べたい幽霊が取りついていたのだ。
通常ならばここで、幽霊は取りついた主と対話したり外の人間に相談して、成仏方法を伝えることができた。
しかし、テラーはテラーだった。
人間の言葉を話せないテラーに、幽霊と意思を通わせることは不可能。
また、構造的に人の言葉を話せないため、グラナダたちとの意思疎通もできなくなっていた。
「ぎゅう……」
(うう、どうすれば……)
テラーの中で、がくりと項垂れる幽霊。
「ま、いいじゃん。気にしないでお祭り楽しもうよ!」
突如、パーシヴァルがテラーの手を取り走り出した。
「あ、ちょっと待ちな!」
「様子が分かるまで動くのは得策ではない」
グラナダとチンギスが慌てて止めようとするが、止まらない。
「大丈夫大丈夫。だってテラーだもん!」
理由になっていない理由を口にしつつ、パーシヴァルは素敵な出店を見つけた。
「すいませーーん!」
「テラー、やっと見つけた……って!?」
「どうしたのだ……むむ?」
しばらくして、テラーとパーシヴァルを見つけたグラナダとチンギスは絶句する。
無理もない。
テラーとパーシヴァルの手には、お好み焼きたこ焼きイカ焼き焼きそば、そしてドリンクにアイス。
この短時間でよくもまあそれだけ揃えたと思われるほどの屋台の食べ物が握られていた。
「あんた達……」
「あの、あのねっ。テラーが色々食べたそうだったから……」
呆れ返るグラナダに、弁解するように説明するパーシヴァル。
そんなやりとりを余所に、テラーに入った幽霊は幸せの絶頂だった。
あと一息で成仏。その時だった。
ぽろ。
「ぎゃ!?」
テラーの悲鳴に全員の注目が詰まる。
テラーの手に持っていたアイス。
それがぽろりと落ちたのだ。
テラーの、着ぐるみの中に。
「ぎゃー!」
「あ、こら、待て!」
テラーの手が、着ぐるみのファスナーに!
「ぎゃー!」
す・っぽーーん!
テラーが身に纏っていた着ぐるみは、いとも簡単にすっぽ抜けた。
その中身は……
「うわー!」
「いかーん!」
グラナダとチンギスが絶妙な位置に滑り込み、周囲の視線からテラーを守り切る。
「ぎゃー!」
そんな二人を気にもせず、満足そうな様子で着ぐるみについたアイスを食べるテラーだった。
着ぐるみは、後で二人によってスペアに着替えさせられました。
※※※
「マスター」
「ん?」
「お祭り、賑わっていますね……」
「あぁ」
「あ、あそこにサニーさんたちが。ほら」
「あぁ」
「え、と……」
ちゃり。
言葉に詰まったフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の指が、無意識に胸元のペンダントを撫でる。
ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)にもらった大切なお守りだ。
(私は……どうしたらいいのでしょう……)
隣りのベルクの顔を盗み見ながら、頭の中は常に煩悶としたままで。
(マスターの気持ち、私の気持ち…… よく、分かりません)
『分かります……分かります……しくしく。その気持ち、綺麗ですね……』
「え?」
一瞬、声が聞こえた。
次の瞬間、フレンディスの意識は遠くに追いやられてしまった。
「ま、まためんどくせー事に……」
「え、えっぐ、すみません……うぅう」
「うわ! あ、な、泣くな! 頼むからその顔で泣かないでくれ!」
フレンディスに幽霊が取りついてしまった。
しかも、彼女の気持ちに呼応したのか、やたら泣き虫な幽霊が。
「分かった、分かったから! 綺麗なモノ探しだっけ? 何でも協力してやるから、がんばって成仏しような、な?」
「うぅ……ありがとうございます」
涙で潤んだ瞳でベルクを見上げ、微笑むフレンディス。
そっとベルクに寄り添う。
(こ……これがフレイ本人のものだったら!)
腕に、肩に感じるフレンディスの温もりに、強く強くそう思うベルクだった。
「どうだ? この光景は?」
「素敵……」
二人は少し小高い神社の丘に来ていた。
眼下に、お祭りの風景が一望できる。
風に揺れる提灯。
色とりどりの出店。
そして、様々な浴衣を着た人々。
それらを、うっとりと見つめるフレンディス。
(あぁ、この光景よりもフレイのがずっと綺麗…… いやいやいや、あれの中身は別の奴だった!)
思わず隣の彼女に手を伸ばしそうになり、その手を押しとどめる。
(いい雰囲気なのに……くそっ)
(いい雰囲気ですね……はぁ)
フレンディスもまた、その光景を見ていた。
幽霊に乗っ取られた意識の奥で。
まるで、デートのように仲睦まじく隣に座っているベルク。
だけど、その相手は、自分ではない……
(はぁ)
ちゃり……
フレンディスの指が、ペンダントを撫でる。
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