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リアクション
(わ、あそこのカップル美男美女だなぁ……あそこは、喧嘩しちゃったのかな? ってうわぁ、あーんなにくっついちゃって!)
「何ボーっとしてるの?」
「うわ!? な、なんでもない!」
周囲のカップルについつい目が行っていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に声をかけらら思わず大きな声を出してしまった。
「なんでもないって…… 気になるんでしょ? あそこの二人連れ、仲良さそうだもんね」
「え、う、うん……」
(なんか、今日のコハクは妙に突っ込むなぁ。それに…… な、なんだか積極的だし……)
美羽は顔を赤らめながら、自分の右手を見る。
そこには、もう一つの手……コハクの左手が重ねられていた。
美羽の視線に気づいたのか、重なった手に少し力が込められる。
「ん……」
美羽は、更に顔が熱くなっていくのを、コハクがそれを見て面白そうに微笑んでいるのを、感じる。
(も……もぅ、恥ずかしいよぅ!)
つい先日、海水浴に行った時に見てしまった様々な光景を思い出す。
あんな事やこんな事をやっていたカップル……
(わ、私達もいつかあんな事……いやいやいや!)
ふと思い浮かんだ妄想に、慌てて首を振る。
「……む?」
「え?」
コハクが何か話しかけてくれていたようだ。
慌てて聞き返す。
「顔が赤いよ。体温も少し高いし……何か、冷たいモノでも飲む?」
「あ……うん」
手を引かれるままについて行ったのは、ディンス・マーケットの店。
美羽が口を開く前に、コハクは大ぶりのフルーツジュースをひとつ、注文する。
ひとつだけ。
だけど、ストローは2本。
「さあ、飲もうか」
「え……えぇ!?」
(こ、これはあの伝説の……! どうしちゃったのかなぁ、今日のコハク、なんだかドキドキしちゃう……)
口を付けることもできず、ただもじもじと浴衣の袂などをいじる美羽。
美羽は気づかなかったが、勘のいい人間なら早々に気づいているかもしれない。
そう、コハクは幽霊に取りつかれていた。
やたらツッコむ恋愛がしたい幽霊は、二人の奥手さに我慢できなくなったのかコハクに取り付いて好き放題やらかしていたのだ。
「ほら」
「ん……」
コハク……に入った幽霊に促され、思い切ってストローに口をつける美羽。
同じく、コハクもストローを咥える。
ぽわり。
コハクの体から、幽霊だったものが光となって零れた。
(ん……んんん!?)
コハクに意識が戻ってくる。
とんでもない状況下で。
(みみみ美羽と僕が同じジュースをストローでっ!?)
焦るコハクの耳には、成仏する寸前の幽霊の声が残っていた。
『あとは、頑張れよ』
(こ……こんな状況で頑張れって言われても!)
ぷふー!
コハクのストローから、盛大にジュースが吹き出した。
※※※
「キミ、誰?」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は、目の前で微笑む相手に鋭い目を向けた。
微笑むクナイ・アヤシ(くない・あやし)。
目の前の人物は、彼の恋人のクナイであった筈。
(ううん、違う)
今この人物がクナイである筈がない。
彼がこんなにもエロい筈は……時にはあるけど、ない。
北都の視線に、目の前の人物は笑いながら正体を話した。
彼が、楽しいことをしたいだけの幽霊だということを。
ちょっと遊びに付き合ってくれれば素直に成仏するということを。
「そしたら、成仏してくれるんだね。……仕方ないなぁ」
「そうですか。じゃあ、行きましょう!」
「ひゃ、ま、待って!」
腰に手を回して歩き出そうとする相手を北都は慌てて振り払う。
その手が、妙にいやらしかったから。
しかしそんな事は全く気にせずどんどんと進んで行く、幽霊に取りつかれたクナイ。
その先には、一人の女性がいた。
クナイと同じく幽霊に取りつかれた龍滅鬼 廉だった。
「クナイ、待って」
北都の声が聞こえないのか、ふらりとその女性に近づくクナイ。
「ねえ、彼女……すごく魅力的ですね。私と、いいコトしませんか?」
「クナ……っ」
絶句している北都を余所に、廉を口説き始める。
「い……いいコトって……!」
赤くなって思わずツッコミも忘れる廉に取りついた幽霊。
「い、いいよと言いたいが……そろそろ、帰る時間だ」
ぽわり、と廉の体から淡い光が零れた。
「……はっ! 俺は一体、何を?」
幽霊が成仏した廉は、目が覚めたように周囲を見渡すと慌てて自分を待つ晴江の元へ帰っていく。
「……ちぇ」
さほど残念そうでもない口調でクナイが呟く。
「次に行くか……どうしました?」
「別に」
傍らの北都に声をかける。
無表情のまま、小さな返事。
(あぁあ、この幽霊め……っ! 北都の機嫌がどんどんと悪くなっているではありませんか!)
幽霊に意識を追いやられ、それでも僅かに外界の様子を感じているクナイは意識の奥底で歯噛みする。
外の様子ははっきりとは分からないが、北都の機嫌だけはよく分かる。
再び幽霊に口説かれ、ほんの少し機嫌が治っていく様子も。
(北都……)
一緒に、出店を回る北都。
楽しそうに笑う幽霊に、僅かに微笑みを返す北都。
肩に、腰に回る手に抵抗ができなくなっていく北都……
人通りが途絶えた境内の片隅。
北都と、幽霊に取りつかれたクナイは向かい合っていた。
「あ……」
北都の肩を、クナイが掴む。
顔が近づく。
「だ……駄目」
「ん?」
「それは、駄目。君はクナイじゃないから」
「……そうですか」
あっさりと肩から手を離す。
「まぁ、十分楽しみましたし、では」
「あ……」
クナイから、淡い光が零れた。
「ほ、北都……」
「クナイ?」
再び、北都の肩に手が置かれた。
ちりりと、二人が持っている開運にゃんこストラップの鈴が鳴った。
祭りの時間は終わる。
二人の時間が、始まる。
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