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リアクション
「可愛いお嬢ちゃん、愛してるぜ」
「はぁう!」
風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に取り付いた幽霊は、とりあえず手近にいた存在、テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)をナンパした。
恋愛がしたい彼にとって、それはごく自然で軽い気持ちのものだった。
それが、まさかあんな恐ろしい事になろうとは……
「嬉しい! 優斗さん、私の事が好きなら早く印鑑をここに!」
テレサが取り出したのは、婚姻届だった。
「いや、そんなモノいつも携帯してるのかよ!」
驚く幽霊だが、こんなのはまだ序の口だった。
「だぁああああめーっ! 優斗お兄ちゃんは僕の婚約者なんだからっ!」
怒ったミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)も、婚姻届を差し出す。
「お前もかよ!」
「優斗は私の夫だ。おまえは私を選んで結婚式まで挙げたのだろう?」
鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)も婚姻届を突きつける。
「うん。でもやっぱり持ってるんだな」
3人の少女たちから婚姻届を突きつけられるというハードな世界。
「いや、俺は恋愛がしたいわけで、こんな昼ドラ的展開はまだちょっと早いっつーか……」
「優斗さん!」
「優斗お兄ちゃん!」
「優斗!」
「か、勘弁してくれ〜っ!」
たまらず幽霊は走り出す。
(俺が憑依してる本体は一体どんな人間関係を構築してるナンパ野郎なんだ!?)
走りながら考えていた幽霊の目の前に、一人の少女の姿。
「おっ、お願いします! 助けてくださああい!」
「ん?」
振り向いたその少女の姿は、かなりの美少女だった。
(おぉ!)
一瞬、ナンパしそうになるがこれ以上の惨劇はさすがに回避したいので、ぐっと堪える。
「たっ、助けてください! 女の子をナンパしたら、結婚を迫られて……っ」
「どんだけ展開が早いんだ!」
呆れた顔でツッコんできたのは、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)、に憑依した幽霊。
「お、俺自身何言ってるのか分からない……」
「まぁ、このもつれた糸を解決することができたら私の無念も晴れるかもしれないしな……」
アゾートは優斗が走ってきた方を見る。
「待ってくださあーい!」
「逃がさないよ!」
「お仕置きだ!」
3人の少女の姿。
「ひいっ」
「来い!」
……結論から言えば、二人は成仏した。
アゾートの幽霊は、結局3人の迫力に完璧に押されあっさり逃走。
逃げた先の射的屋で景品をゲットして成仏。
「わ、わーい成功したー」
優斗の幽霊は、3人に迫られた恐怖のあまり成仏。
「に……人間こわーい」
幽霊たちは成仏したものの、問題は何一つとして解決していない。
「優斗さん、ほらっ、これですよ早く捺印を!」
「お兄ちゃんってばー、サインサイン!」
「優斗、ここに名前を」
「え、えーっとぉ……?」
正気に戻り、何が何だか分からず目を白黒させる優斗。
「……とりあえず、せっかくのお祭りだから、何か食べませんか?」
「わあ、いいですねえ。さすが優斗さん」
「はーい、僕チョコバナナ!」
「私は、冷たいものを」
天然強し!
きゃいきゃいと騒ぐ少女たちの後を、にこやかに追いかける優斗だった。
※※※
「綺麗ですね…… 提灯の光は、どうしてあんなにも幻想的なんでしょう」
「そ、そうだな。薄暗いから、多少裏で何かやっても……痛っ!」
「どうしました?」
「な、なんでもありません」
神崎 優(かんざき・ゆう)と神崎 零(かんざき・れい)は連れだって歩いていた。
いわゆる、デートという奴だ。
しかしそれにしてはどこか様子が変だった。
優はいつになくそわそわしている。
零にも、どこか緊張感が漂っている。
そして彼らから数メートル離れた後ろには、こそりと隠れてついてくる神代 聖夜(かみしろ・せいや)と陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)の姿。
彼らは、優が零のお尻に手を伸ばしたのを見つけては即座に石を投げ、肩に手を回そうとするのに気づいては氷を押しつけ、影からエロくなる展開を回避すべく尽力していた。
「頼む! 一度だけでいいから、俺とのデートに付き合ってくれ!」
優からそう言われ、土下座された零は当初ものすごく混乱した。
彼らは、夫婦。
常ならば土下座などしなくてもデートは日常茶飯事の筈。
しかし、優は幽霊に取りつかれていた。
「え、ええと、その……」
「零。優の事だ。きっと自分に取り付くこの幽霊の事を想って受け入れたんだと思うんだ」
「そうですね。ですから、この幽霊の願いを叶えてくれないでしょうか? 私からも、お願いします」
「俺からも、頼む」
「お願いします!」
聖夜と刹那にそう言われては断るわけにもいかない。
「分かった。けど、絶対にエッチな事は禁止! 守ってくれないならデートはおしまいだし、無理矢理にでも浄化させるからね!」
「あ……ありがとうございます!」
そんな経過を経て、今に至る。
幽霊は一応約束を守ってはいるものの、魂に染みついたエロい心を押えるのは難しいらしく、今はなんとか聖夜と刹那の助力でかろうじてセクハラを押えている状態だ。
「全く、あの幽霊……おかげで目が離せないぜ」
「ええ。でも、その……少し、楽しいですね」
「楽しい?」
「そ、そなたと、こうして夏祭りを共に過ごすことができて……」
「あ……」
「ち、違いますか?」
「い、いや、違わない! 全然違わない!」
刹那の言葉に顔を僅かに赤らめながら、必死で肯定する聖夜。
そうしている間に、幽霊の右手が、零のお尻に……
「む、ぐっ」
それを止めた手があった。
幽霊の、左手だった。
「どうしたの?」
「い、いや何でもない」
「ね、楽しい?」
「あ、ああ」
「デートをする時は、相手の事を想って考えながら行動するんだよ。それと相手に楽しんで貰うと同時に、自分も楽しめなきゃ駄目なの。じゃなきゃ全然楽しくないし、嬉しくないんだよ」
微笑みながら、零が告げる。
「ああ、そうだな。本当に……」
優が目を瞑る。
「なら、俺はとても上手くいった。……大成功だ」
ぽわりと、淡い光の球が浮かび上がった。
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