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第8章 夏と花火と変態と

「出店……まだまだ。金魚……まだまだ」
 幽霊に取りつかれたミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、一人、綺麗な物を探して歩いていた。
「提灯……まだまだ。風船……まだまだ」
 しかし、なかなか『これ!』というものを見つけられないでいた。
「雑貨……まだまだ。アイス……まだまだ」

「浴衣美人を見たらいいよ!」
 ネスティ・レーベル(ねすてぃ・れーべる)は、太陽の東月の西 三匹の牡ヤギブルーセ(たいようのひがしつきのにし・さんびきのおすやぎぶるーせ)にそう助言した。
「浴衣……美人。浴衣美人!」
 浴衣と美人。
 二つのキーワードに反応して素直に喜ぶのは、ブルーセに取りついた幽霊。
 この幽霊が、やたらとエロい。
 少女のような外見をして、ネスティに手を出そうとしたり、周囲の女性に鼻の下を伸ばしたり、好き放題していた。
(うぅう……こんなの僕じゃないよう。僕の体でエロいことしないでー!)
 意識の奥に追いやられたブルーセは、垣間見える取りつかれた自分の行動に泣きながら頭を抱えていた。
 幽霊は、エロいくせに何故かロマンチストだった。
 綺麗なものを見れば、成仏すると言う。
(早く綺麗なものを見つけないと! 助けてネスティ!)
「どう? 綺麗な浴衣に綺麗なおねーさんに綺麗なうなじ! これを見て早く成仏してよね!」
(そして、早くいつも通りのブルーセに戻ってもらわなくちゃ!)

「大変だ! 東雲がスレた!」
「いや……だから、違う……」
 急に様子が変わった五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)を見て、心配して騒ぐリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)
「なんだ、幽霊か……って、大変だー!」
「だから……話を、聞いて……」
 幽霊本人から説明を受けてもおたおたと落ち着かない。
「仕方ない。成仏に協力してくれるなら、この、人間の本体についての重要な話をしてやるから」
「本体……東雲の、重要な話?」
 陰気な幽霊の口から出た重要な単語に、思わずリキュカリアは居住まいを正す。
 幽霊が語ったのは、たしかに東雲にとって重大な事実だった。
「そんな……東雲の、魂が……寿命が……」
「そういう事だ。確かに伝えたので、俺の方にも協力を……」
「……あの時、東雲は助からなかった方が良かったのかな。契約したせいで、余計に東雲を苦しめているのかな……?」
「あの、綺麗なものを見せて……」
「ううん。ボクは、最後の最後まで東雲と一緒にいる。看取るって、約束したんだ」
「出来れば、俺の方も看取って欲しいんですけど……」
 幽霊の話はもうリキュカリアの耳には届かない。
 彼女の頭は、東雲の事でいっぱいだった。
「綺麗な、綺麗なものを……」

「そんなに見たければ、見せてやろう!!」
 ひゅるるるる、ぱーん!
 打ち上げ花火をバックに、神社の鳥居の上に仁王立ちする人物の影。
「俺様の美しい肉体を見て成仏するがいい!」
 全裸にマントと赤マフラーの、変熊 仮面(へんくま・かめん)、登場!
 花火に生える美しい肉体、そして股間に屹立する立派なモノ!
 と、股間のモノがぽろりと落ちた。
「……って、チョコバナナじゃないか!」
 それを拾い上げ思いっきりツッコむのは、久我 浩一(くが・こういち)
 彼もまたやたらツッコみたくなる幽霊に取りつかれていた。
 さて、変熊の股間には、大量の黒くて長いモノが!
 勿論、全てチョコバナナです。
「どんだけ買ったんだ!」
 咥えるの大歓迎。
「俺のチョコバナナを食べてくれ!」
「下品か! ってゆーかツッコミ所が多すぎて追いつかない!」
 必死で、しかしどこか生き生きとツッコミを続ける浩一。
「そうだな……俺も、ツッコみたい」
 浩一の隣にフラフラと進み出てきたのは、翌桧 卯月(あすなろ・うづき)
 手には、ビッグサイズのチョコバナナを持っている。
 心配そうなパートナー、日比谷 皐月(ひびや・さつき)の視線を余所に、卯月はチョコバナナを構える。
「性的な意味で、ツッコミたい!」
「えええー!?」
 そう、卯月には『やたらツッコむエロい幽霊』が取りついていた!
「生きてる間に、一度思いっきり男にツッコんでみたかった。それだけが、未練だった……」
「い、嫌な未練だな!」
 浩一に取りついた幽霊がツッコむが、どこか腰が引けている。
「成仏を手伝ってあげたいと思ってたけど……倒錯しすぎだろふざけんな!」
 ごきん!
「きゅう」
 卯月をぶん殴ったのは、皐月。
 ひとまず、どんな手段を使っても卯月を止めるべきだと判断したらしい。
 皐月が持っているのは、冷凍チョコバナナ。
 犯行後、食べてしまえば凶器が残らない優れモノ。
「いや、駄目だろう! ってゆうかそんなん凶器にすんな!」
 浩一はツッコミに忙しい。
「被害が出る前に、こいつを早く何とかしないと……」
「俺は全然OKだが!」
 仁王立ちの変熊仮面。
 さすが、微動だに動揺していない。
「ツッコむのもツッコまれるのも優しいのも荒々しいのも、ばっちこい!」
「変態だー!」
 既にツッコミではなく、事実。
 ひゅるるるる……どーん!
 どーん!
 ぱらぱらぱら……
 夜空に大輪の花火が咲いた。
 変熊のバックに、花火が輝く。
 勿論、変熊の仕組んだもの……ではない。
 祭りの始まる前からこの時の為に花火を仕込んでいた、阿部 勇。
 そしてそのパートナーの夜刀神 甚五郎、草薙 羽純、ホリィ・パワーズたちの手によるものだった。
「ハァーッハッハッハ! 打ち上がっている、輝いている、僕の分身たちが!」
「なんか、人の注目が変な所に集まっているようだが」
「僕の花火に目を奪われない人はいない! 仕掛け花火に火をつけます!」
「お……おぉ!」
 ぱちぱちぱち……
 境内に光の滝が現れる。

「き、綺麗……でも!」
 苦悶の表情を浮かべるミーナ。
 だって、花火の前にはポージングする変熊仮面!
「ひ・わーい! あんなの見ながら成仏するの、嫌ぁあああああ!」
 ぽわん。

「く、悔しいっ……あんなのを見て綺麗だと思ってしまうなんて!」
「ブルーセ? ええと……まぁ、元気で、ね」
 ブルーセの体から、温かい光が零れる。
 ぽわん。

「あ、ちょっと待ってもっと東雲について教えて!」
「もう……あれでいいから、成仏させて……」
 成仏しようとする東雲についた幽霊を、必死で押しとどめるリキュカリア。
 しかしその努力むなしく、光が。
 ぽわん。

 綺麗を求める幽霊たちは、変熊の肢体……もとい、勇たちの花火によって無事昇天した。
 浩一に取りついた幽霊も、ツッコみまくって満足したのかいつの間にか成仏した。
 卯月の幽霊だけは、皐月がボコボコにした挙句無理矢理昇天させた、らしい。
 らしい、というのは一時期変熊仮面と卯月の姿が見えなかったからで……
 深く考えるのは止めましょう。