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第4章 迷い 1

 ジークたちは先を急いだ。守備兵の骸骨たちを倒したということは、それが敵の親玉の耳に届くのも時間の問題だった。道中、遠野 歌菜(とおの・かな)がジークに話しかけてきた。
「いいですか、ジークさん」
 歌菜はぴっと指を立てて、まるで生徒に話をする教師のような顔になった。
「冒険というものは役割分担が大事なのです。たった一人では出来ないことも、仲間と力を合わせることで出来るように……って、あれ?」
 ジークは歌菜を無視して、すたすたと先に行っていた。
「ジ、ジークさぁん……」
 歌菜は肩をおとしてなげく。
「ま、しかたない」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)が歌菜の肩をぽんと叩いた。ジークの気持ちもよく分かる。先ほどの戦いを通じて、何か考えるようにはなったようだが、まだまだ心に整理はつかないのだろう。歌菜は急ぎ過ぎなのだと、羽純は言った。
「で、でもでもっ。何かあったらじゃあ遅いよ! ジークさんにもしものことがあったら、嫌じゃない!」
「わかるけどな。しかし、なにごとも順序ってものがある。あの子にとっては、自分で考えることが大切なのさ。歌菜、お前の言うことだって、別に伝わってないわけじゃないさ」
「そうかなぁ?」
 歌菜は不安そうにジークを見た。うつむきがちに歩くジークの背中は、少しだけ小さく見えた。

「人助けは大切なことだよ」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)はなにを当たり前のことを聞いているんだというように、きょとんとして言った。ジークは眉をひそめ、鳳明を見返した。
「何の得がある? 見返りをくれるからか?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど。ジークくん、魔法が得意なんだよね? だったら、それを評価してくれる人が必要じゃない? 私、『最強』って肩書きは自分じゃなくて誰かがくれるものだと思うし。それなら、人助けをしたほうが、その肩書きは得られる可能性があるわけでしょ?」
「一理ある」
 ジークはなるほど、というようにうなずいた。鳳明はそれを見て苦笑した。
「まあ、人助けの醍醐味はそれだけじゃないけどね」
「それだけじゃない? それ以外になにがあるんだ?」
「人助けをすると、人脈も広がる。見聞も得られる。もしかしたら、思いもよらない報酬があるかも。そしてなにより、気持ちいい!」
「気持ちいい?」
 ジークはたずねた。
「そうそう。もう、それが最大級だね。ビックバンだね。それがあるからこそ、人助けはするべきだよ」
 うんうんと自分でうなずきながら鳳明は断言した。ジークは気持ちいいのために自ら動くという、その意味がよく分からなかった。誰かを助けたとして、気持ちがいいとなるとは思えない。自分の力を他人のために無償で使ったという、後悔が残るだけな気がした。
「まあ、アレだ。ジークは他人に期待される快感を覚えることだな」
 いきなり、横に現れた南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)が言った。大型の騎狼に乗ったちびっ子の姿。紅色の髪に褐色肌。にしししと、いたずらっぽい笑みをうかべていた。
「他人に期待される快感?」
 ジークは言葉の意味すらよく分からなかった。
「何事も、ひがみ根性だけじゃ先に続かんて。なあ、鳳明?」
「ヒラニィちゃんもたまには良いこと言うね。あ、ところで、捕まってるとかいう村の人たちは見つけたの?」
「ん? おお、なんだか知らんが、クロネコから村人のいる場所までのマッピングデータが送られてきたらしいぞ。他の連中がチームを組んで、そちらに向かってる。結構、人数を割いたからな。きっと大丈夫だろうて」
 どうしてクロネコからデータが? ジークは疑問に思ったが、口にはしなかった。もしかしたらクロネコの手の者が洞窟に忍び込んでいるのかもしれない。だとしたら、やはり逆らわなくて良かったと、ジークは思った。

 好都合だった。元々調査対象だった骸骨王を、自ら退治するという人たちが現れたのだから。協力を惜しむつもりはまったくない。佐野 和輝(さの・かずき)は洞窟内を探索しつつ、得られた情報を常時、ジークたちへと連絡しておくことにしていた。
「和輝、こんなところに骸骨王に関する情報とかあるのかな?」
 スノー・クライム(すのー・くらいむ)が言った。周りには数々の本棚と、何に使うのかも分からない試験官やビーカーなどが置かれていた。しかもかなりの年代物だ。この部屋自体が使われなくなって、そうとうの年月が経っていると思われる。スノーは、本棚にあった一冊の古書に目を落としていた。
「さあ、どうかな」
 和輝が答えた。同じように、別の本棚から抜き取った研究書に目を落としていた。
「どうかなって、なによその無責任発言。洞窟を調べてみたら何か分かるかもって、あなたが言ったんでしょう?」
「かも、だ。かも。そこまで責任は持てない。なあ、アニス」
「う、うん、アニスもそう思う」
 和輝の隣にいたアニス・パラス(あにす・ぱらす)がこくっとうなずいた。話をよく聞いていなかった様子だが、和輝の言うことには無条件でうなずくのだ。アニスは自分も同じような古書に一生懸命目を落とす。ちんぷんかんぷんで、首をひねっていた。
「アニスに同意を求めるなんて、卑怯なことしないでよ。で、なにかわかった?」
「一応は。ちょっと、これ見てみて」
 和輝はスノーに近寄って、古書のある一ページを見せた。そこには、骸骨王らしきものが直筆の挿絵で描かれ、その下に研究論文が書かれていた。
「えーと、モンスターがどれだけ人に近づけるか。それを知るためにはまずモンスターの頭脳を知的生命体に近づける必要があった。ドラゴンの中には人語を介するものがいるという。モンスターにも、人間レベルまでの知能を有することが出来る可能性が秘められているのだ。私はそこでスケルトンモンスターを材料に選ぶことにした。彼らはもともと、人間であり、その骨が邪悪な力を得てモンスターとなった存在だ。となれば、より人間に近づける可能性が高まるのではないだろうか。これって、もしかして」
 スノーは本から顔をあげ、和輝を見た。
「骸骨王は作られた人造モンスターってこと!?」
「そういうことになるな。通常のスケルトンよりも何倍も頭が良いんだよ。もしかしたら、その隣にいるボーンビショップもそういうことかも」
「あ、こっちに書いてる。研究材料は二つあったって」
「間違いない。あとは、弱点とかが見つかれば良いんだけど」
「そんなの、あるの?」
「こういうモンスター研究をしてるネクロマンサーなんて基本は臆病で陰険なもんだ。もしモンスターが自分に逆らったらと考えて、色々と対策を練ってるはず。まあ、見つかれば良いんだけどな」
 和輝はスノーから離れて、もう一度本棚をあさってみることにした。
「とにかく、見つかった情報は全部、あの、えっと、そうだ、ジークたちに流そう。きっと役に立つはずだからな」
「ひとの名前ぐらい覚えておきなさいよ」
 スノーはあきれて、アニスを見た。アニスは本を読むのにすっかり疲れはて、ぐっすりと寝息を立てていた。