天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

死の亡霊軍

リアクション公開中!

死の亡霊軍

リアクション


第3章 死の亡霊軍 1

 からから。からから。斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は骨を被って、洞窟内をうろついていた。骨は獣の頭だった。ちょうどヘルメットみたいにすっぽりおさまって、隙間から視界を確保することが出来た。
 隣には天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)がいた。こちらも獣の骨をすっぽりと頭に被っている。骨の隙間から飛び出た狐の耳が、なにやら音を聞く度に、ぴくっ、ぴくっ、と動いていた。
「ハツネさん、ハツネさん」
 葛葉は前を歩くハツネに声をかけた。
「なに? 葛葉」
「これって何の意味があるですか? 潜入捜査ってこういうことですか?」
「こういうことなの。潜入には変装がつきもの。見て、周りは骸骨さんだらけでしょ?」
 ハツネは手を広げた。骸骨兵たちがうろつく中に、二人も紛れこんでいた。
「お間抜けな骸骨さんたちです。尻尾は隠さなくていいですか?」
「尻尾付きのスケルトンだってことにすればいいじゃない。細かいことは気にしなくていいの」
 そういうものだろうか? 葛葉は首をかしげたが、それ以上は何も言わなかった。
 ちょうど急成長したところだ。それが功をそうしていた。今までみたいに子どものような姿をしていたら、きっと骸骨たちにもすぐにバレてしまっていたことだろう。うむうむと、葛葉はひとりでうなずいた。
「あ、葛葉、待ってなの」
「どうしました、ハツネさん」
「あそこ、攫われたお姉ちゃんたちがいるの」
 ハツネが指をさした先にいたのは、複数の村人たちだった。主に女性。だからハツネはお姉ちゃんたちと言った。だけど中には、老人の姿もあるようだった。ハツネはそれは勘定には入れなかった。
「葛葉ちゃん、マッピングしてる?」
「もちろんです。僕を甘くみないでください。きっちりしっかりマッピングしてますよ。で、これをクロネコさんに送れば良いんですよね?」
「そういうことなの」
 葛葉は銃型HCを操作して、マッピングデータをクロネコに送った。
「さあ、どんどんデータを流すの。情報漏洩なの」
「おー」
 二人は拳をあげて、洞窟内の散策を続けた。

 生きることはつらいことか。生きることは嘆くことか。グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)には分からなかった。だが、自分の身体が蝕まれていたことに気づいたとき、望んだのは死ぬことではなかった。生きること。この、途方もない魔力を制御し、解放されること。それがグラキエスの望みだった。
「たった一人で、それがやれるつもりか?」
 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)が言った。グラキエスの目がゆっくりと開いた。どうやら意識が朦朧としていたらしい。記憶が、ばあっとよみがえってきた。
「ウルディカ、俺は……」
 ウルディカは骸骨兵たちと戦っていた。そこにはアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)の姿もあった。壁にもたれかかるグラキエスを守るように、二人は骸骨兵と果敢に戦っていた。
 そうだ。確か、敵を攪乱するためにジークたちから先行したのだ。敵を見つけ、戦いに飛び込んだ。二刀の刀を手に、一心不乱に、敵を斬り裂き、魔法でその身をなぎ払った。しかし、限界はおとずれる。意識を失いかけたとき、現れたのがウルディカとアウレウスだった。
「主よ。私はあなたを止めはしない」
 アウレウスが言った。
「私の御命こそは主の御命。もしあなたが望むことがこの戦いであり、自らを蝕むものに対する抵抗であるならば、私もそれを全力で望むだろう。私は主の盾だ。鎧だ。主を守り通す。それが、私の使命なれば」
「アウレウス、だけどそれは」
「なぜ、何も言わないんだ、エンドロア」
 ウルディカが骸骨兵の一体を倒した。ガントレットに装備された刃が、相手の胸を貫いたのだ。ウルディカはグラキエスをにらんだ。
「俺たちは力不足だというのか。俺は、お前を守りたい。この気持ちはアウレウスとは違うものかもしれない。だけど、俺はお前を守りたいんだ、エンドロア。そんなにも俺は、たよりないのか?」
「違う! 違うんだ、ウルディカ!」
 グラキエスはどなり、たちあがった。ふらついた足で、なんとか踏ん張った。
「俺のこの魔力は、俺だけの問題だ。お前たちを巻き込みたくはない。それに、巻き込んだとしてどうなる? お前たちがどうにかできるようなものじゃない。だったら、どうせ迷惑をかけてしまうだけなら、俺は一人でも」
「傍にいることぐらいは、出来る」
 ウルディカの手がグラキエスの肩をつかんだ。
「傍にいることぐらいは出来るぞ、エンドロア。それのどこが悪い」
「悪いなんて! だけど、それではお前たちを」
「それでいいんだ!」
 グラキエスは黙り込んだ。
「いつか、俺はお前を守れるようになってみせる。それには時間がかかるかもしれない。あるいは、無理な話なのかもしれない。それでもそばにいたら、いけないのか。それはお前にとって、邪魔なことなのか!」
「違うさ、エンドロア。邪魔だなんて、あるはずないだろ」
 グラキエスの目に涙があふれてきた。ウルディカはその涙を指先でぬぐいさった。
「だったら、これからも俺は傍にいる。お前を守るために。そうだろ、アルゲンテウス」
「そうだな。俺はもとより、主の鎧。主が御身を守るため、傍にいることは必然だ」
 二人はグラキエスを再び壁にもたれかけさせた。しばらく休んでおけ、と言われ、グラキエスの意識はまたまどろみに誘われた。かっとなったことで、少し疲れたのかもしれない。まどろみの中で見たのは、骸骨兵と戦う二人の後ろ姿だった。