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死の予言者

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死の予言者

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 4 

 葦原の路地裏を子供達が声を上げて走って行く。
 手に手に風車を持ち、面をかぶった子供もいる。
 どうやら、オニごっこをしているようだ。
「ねえねえ、君たち」
 その、子供達を呼び止める者があった。
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だ。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
 レキは金平糖の入った袋をちらつかせて言う。
「なんだい? お姉ちゃん」
 金平糖にひかれて子供達が寄ってきた。
「君たち、灰色の髪に猫背の占い師をみた事がないかな?」
「うちのおじいちゃんがそうだよ」
「ちがうよ。ただのおじいちゃんじゃなくて、人が死ぬときを当てる占い師だよ」
「知らなーい」
 子供達が首を振る。
「そっかあ」
 レキは肩をおとすと「ありがとう」と言って子供達に金平糖をやった。

「やっぱりダメだったよ。そっちは?」
 レキはパートナーのカムイ・マギ(かむい・まぎ)に向かって言った。
「こちらもダメでした」
 カムイが首を振る。
 レキ達はずっとこうして子供達を相手に聞き込みをしていた。
 なぜ子供がメインと言えば、甲賀忍者がどこに潜んでいるか分からないからだ。忍びといえども子供には化け難いだろう。しかし、あまりにも情報が少なすぎた。灰色の髪に猫背の老人なんて普通にどこにでもいそうな感じがする……とレキは思う。
 それでも、辛抱強く二人は聞き込みを続けた。必ずしも占い師の事だけでなく、雑談を交えて色々な情報を集めて行く事にする。

「どんな小さな事でもいいから知らないかな? 誰かから聞いた話でもいいよ」
 別の路地でレキが男の子達を呼び止めて聞いている。
 その側では、カムイが御飯事している女の子達と話をしていた。
 占いは女の子の方が信じたりするものだし、怖い思いをしている子もいるかも知れないと思ったのだ。
 確かに女児達は占いの話には興味津々だった。
 そして、一人の女児が言う。
「そういえば、咲夜ちゃんのお父っつぁんが毎日占い師を見かけるっていってたよ」
「え?」
「ちがうよ。あれはゆうれーだよ」
「ちがうよ。占い師だって言ってたよ」
「ゆーれーだもん! 白い幽霊だって言ってたもん」
「喧嘩しないでください(苦笑)それで……咲夜ちゃんのお父っつぁんはどこにいるんですか?」
「死んじゃったよ」
 子供達が答える。
「え?」
「この間、神社の境内で殺されたんだって。おっかさんが言ってたよ」
「きっとお化けに殺されたんだよ」
「なんでそう思うのですか?」
「だって、咲夜ちゃんのお父っつぁん言ってたよ。神社でお化けをみたって」
「ちがうよ。神社でみたのは占い師だよ。毎日同じ時間に、神殿の中から出て来るって」
「ちがうよ。神殿の中から出てきたのはお化けだよ」

「どう思いますか?」
 カムイは子供達から聞いた話をレキに伝えてたずねた。
「間違いなく、あやしいよね。で、その神社ってどこの神社?」
「清里神社だそうです」

 清里神社。
 葦原の町の片隅にある、誰にも忘れられたような小さな神社だ。
 そこに、ふらりと現れた4つの影がある。
 セルマ・アリス(せるま・ありす)リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)、それにレキとカムイも一緒にいる。
 実はセルマは既に占い師に寿命の宣告をされていた。
 その期日が今日だった。
 といっても、それは元々のセルマの作戦だった。
 彼は、占い師に囮になろうと考えたのだ。多少乱暴かもしれないけど、目指すは死を宣告する占い師。占われるのが一番手っ取り早いかな? と思ったから。
「危険すぎます」
 と、竜胆には止められたがセルマは作戦を決行し、狙い通り寿命宣告をされる事ができた。
 寿命を宣告されたからには、逃げも隠れもできない。
 逃げも隠れもできないならば、進んで自ら敵地に乗り込もうとセルマは思った。それで、何か得る物があるかもしれない。
 それで、偶然出会ったレキ達の話を聞き、一番怪しいスポットと思われるこの神社へともに来たのだ。
「随分危険な手段を採りましたね」
 と、リンゼイにも言われたが、
「竜胆さんのお仲間を助ける為だしね。それに、この作戦、危険だとしても必ず死ぬことが決まるわけじゃない。コントラクターはそれに抗えるはずだから」
 セルマは首をふる。
「そうですね。代わりに占いの日に風太郎さんの方を狙う忍びの数が減らせるかもしれません」
 リンゼイも納得したようだ。

 それからしばらく何ごとも起きなかった。
 セルマは【殺気看破】で油断なく当たりに気を配りながらも、何も知らないふりをしてハトに餌をやっていた。
 しばらくすると、恐ろしい気配を感じた。
 ふりかえると、ボロ布を纏った猫背の老人が立っていた。
 それだけではない、周りに無数の殺気を感じる。
 リンゼイも、森の中で同じ気配を感じていた。
 セルマはとっさに【対電フィールド】を使用した。
 ほぼ同時に、忍び達がセルマに襲いかかって来た。
 忍び達がセルマ眼前に迫る。
 その時、
 目映い光とともに、雷光が忍び達に襲いかかった。
 リンゼイが【放電実験】にてセルを中心に電気を流したのだ。
 忍び達は悲鳴もあげずに、次々と黒こげになって行く。

「ち」

 占い師が舌打ちをした。

 しかし、さらに別な忍びがセルマに襲いかかってきた。
 【放電実験】を免れた者達のようだ。
 セルマは自らに【龍鱗化】をほどこし、忍びの刃物攻撃を防ぎつつ、【ゴッドスピード】で移動速度を上げて、【光明剣クラウソナス】で峰打ちをして行く。下手に時間をかけると逃げるか自害するようなのも出るかもしれないから、手早く片付けて行く。さすがにそれは避けたかった。
「なぜ殺さぬ?」
 一人の忍びがたずねた。
 それで、セルマは答えた。
「あくまで風魔さんを守るのが目的で相手が死んでいい訳ではないから」
 リンゼイも襲い来る忍びに手錠をかけて捕らえて行く。何か情報が引きだせるかもしれないからだ。
 
 その頃、レキ達も別の場所で戦っていた。
 忍者達の攻撃をミラージュで分身を使って回避しつつ戦う。
 と、突然、レキの視界の端に何か白い物が見えた。
「?」
 何だろうと思いながらそちらを見ると、白い着物を着た男がフワフワと歩いて行く。
 まるで、幽霊のようだ。
「追わなきゃ」
 レキはそう考えて、とっさに『しびれ粉』を撒いた。忍び達は動けなくなる。
 レキは『光学迷彩』で姿を消して白い男の後を追った。男は神殿の中に入っていく。レキは男の背後にぴったりとつき、何をするのかを眺めていた。すると、男は鏡を手にそれを右に二回。左に三回回した。すると、鏡の前の像が開きその中に道が見える。男が中に入って行ったので、レキも入ろうとした。ところが足元から生えてきた蔦が絡まり前に進めない。
「な……なに? これ? くすぐったいよ」
 レキは蔦から逃れようともがいた。
 その時。
「何をしてるんですか?」
 声がした。
 ふりかえるとカムイが見ている。
「あ、助けて。蔦が」
「蔦? そんなものどこにあるんですか?」
「どこにって、ここに……あれ?」
 気がつくと蔦は消えて、レキは鏡の前に座っていた。
「なんで? 今確かに蔦が……」
 レキはぼう然とした。 
 
 一方、セルマもまたぼう然としていた。
 なぜなら、斬ったはずの占い師が陽炎のように消えてしまったからだ。
 コアの時と、まるで同じである。
 セルマは、捕らえた忍びにたずねようとした。
 しかし、コアの時と同じく、ほとんどの忍び達が死んでしまっている。
「しまった」
 セルマはつぶやく。
 こういう事にならないために、急いで始末をつけたつもりだったのに。
 が、
「あれは……オズノ様の影だ……」
 背後から声がした。
 ふりかえると、一人の忍びがセルマを見上げている。
 先ほど「なぜ、殺さないのか」とセルマにたずねた者だ。
「影?」
 セルマは聞き返した。
「そうだ。分身の術で生み出した影だ。本体は別の所におられる……」
「別のところ? 一体どこだ?」
「そこまでは言えぬ。いずれにしても、オズノ様はお主らに殺せる相手ではない」
 そういうと、忍びは何かを噛み砕いた。同時に頭を垂れて絶命した。どうやら、口の中に毒を含んでいるようだ。
 セルマはやりきれない思いでそれを眺めた。


「影か」
 報告を聞いて柳生十兵衛(やぎゅう・じゅうべい)が言う。
「確かに手に自分の影を見せる幻術というのは存在するらしいが、術者は必ず影の近くに潜んでいると聞く」
「もしかしたらレキさんの見た白い男がオズノ本人だったのかもしれませんね」
 竜胆の言葉に十兵衛がうなずいた。
「清里神社を探ろう。俺も同行する」
 こうして、調査組は清里神社へと向かった