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死の予言者

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死の予言者

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 6 


 予言当日。
 奇しくも風太郎が死亡宣告されたのと同じその日。
 セレンとセレアナは葦原の宿屋にいた。
 今日一日が無事に終わるまで、宿屋に引きこもろうと決めたのだ。
 そして、二人は……現実逃避に走るセレンの求めるまま、部屋に閉じこもっていつ終わるともしれない情事に耽り、何度も何度も激しく快楽を貪る有様で、セレアナも不安から逃れたくて泥沼のような快楽に溺れていた。
 

 その頃。日下部家では夜が明けても戻らない竜胆達を心配しつつも、風太郎を守るべくコントラクター達が警護を固めていた。
緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は屋敷の正面の守りについていた。
 敵が甲賀の忍びということならば、多分この屋敷の守りのことも大体把握しているだろう。翻って、もし自分が潜入するとしたら、正面から一部隊突っ込ませて警備している人達を引き付けて、その間に本命の部隊を侵入させる。そうくることを予想して、透乃はあえて屋敷の正面の守りについて、正面からくる囮役の敵を食い止めることにした。そういう敵のほうが戦い甲斐がありそうだからというのも理由の一つである。侵入して直接風太郎を狙ってくる敵のことは他の者にまかせることにする。
 透乃の側には緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が影のように付き従っていた。本音を言えば、陽子はむしろ対象を自殺させる術というのに興味があった。自らの戦闘や暗殺に便利そうだからである。しかし、調査はあまり得意ではないので、屋敷と風太郎の警護につくことにした。生きたまま主犯を捕らえられればあとで情報を聞き出せるかもしれない。
 透乃の狙いは見事に当たった。
 しばらくすると、正面から黒い一団が押し寄せてきたのだ。言うまでもなく、甲賀の忍び達だ。忍びらしくもなく姿を露にして襲いかかってくる。忍び達は疾風のごとく押し寄せると、四方から手裏剣を投げつけて来た。
 その刃が唸りながら透乃と陽子の肌を切裂かんとする。
 しかし、
「質より量という感じですね」
 陽子は淡々と述べた。
 実際、その軌道はややもすれば正確さを欠いている。
 陽子は、できるだけ訃刃の煉鎖の届く程度の間合いを保つようにすると、忍び達に向かってフールパペットを展開した。忍び達は精神をかき乱され悪夢を見始めた。まさに愚かな操り人形と成り果てた忍び達を、陽子は破滅の刃で確実にとどめをさしていく。
「なかなかやるじゃないか」
 女の声がした。
 見ると、いつの間にやって来ていたのか紅の衣装をまとった、豊満な肉体の女が立っていた。
「誰?」
 透乃の言葉に女は妖艶な笑みを浮かべて「火焔アスラ」と答える。
 火焔アスラは赤い髪を炎のように燃え立たせ、こちらに向けて火矢を浴びせてきた。
 何本もの火矢が透乃に向かって放たれて行く。
 しかし、透乃は回避しようともせず、アスラに向かって突っ込んでいった。狙いは兎に角接近戦を仕掛けに行く事だ。攻撃をものともせずに突っ込んで来る透乃に怯んだのか、アスラは火矢を捨て捕火方を構えた。筒から炎が吹き出され透乃の体に直撃! しかし、透乃は心頭滅却で炎によるダメージを軽減。さらに不滅の精気でダメージも自然に回復させていく。そして、アスラの至近距離に迫ると、気合の烈火と透煉の左拳を組み合わせた炎の拳での一撃必殺を狙った。透乃の体が桃色の炎に包まれる。そして、左手がアスラの腹を無慈悲に撃った。
 巌を受けたような激痛とともにアスラの体がくの字に折れる。しかし、このくのいちはそれでも体勢を整え直した。腹を守る金剛石の鎧が彼女の体を辛うじて破壊から守ったようだ。そして、痛みはアスラの怒りに火を注いだ。アスラは全身から炎を燃え立たせると、炎を纏って透乃に襲いかかってきた。アスラの纏う炎は比喩でも幻覚でもなく本物の炎である。透乃の危機を察した陽子はとっさにクライオクラズムを展開した。ナラカの底に漂う闇黒の凍気がアスラに襲いかかり、全身の炎をかき消して行く。
 その隙をつき、再び透乃が攻撃に転じた。オーダリーアウェイクで鬼神力以上の力をひきだし、レックレスレイジで無意識下にセーブしている力を限界を越えて解放する。そのパワーを丸ごとアスラにぶつける。
 鈍い音とともにアスラの鎧が砕けた。砕けた鎧をさらに砕きつつ、透乃の拳がアスラの腹をえぐる。
「ぐ……」
 アスラはぼう然として自らの腹に打ち込まれた拳を見つめた。
 そして、口から泡を吹いたままその場に崩れ落ちた。 



 八神 誠一(やがみ・せいいち)はトラッパーで屋敷のあちこちに罠を仕掛けていく。襲撃予定日までに何度か、藤麻に許可を貰って屋敷への侵入を自ら試み、侵入しやすいルートを割り出していたのだ。
 瞬間接着剤の小瓶を軽く加重を掛ければ割れる程度に削って、それに迷彩塗装を施して床に転がし、同じ細工を施した接着剤の小瓶を、塀の上に固定しておく。
 そして、釣り糸を足首の高さに張り、それに触れると人間の頭大の石が飛んでくるワイヤートラップを仕掛けると、自身は屋敷の中に隠れ身で潜み、殺気看破とディメンションサイトで周囲を警戒、迎撃態勢を取った。

 その時、どこからか声が聞こえた。

「段蔵が逃げたぞ!」

 どうやら、牢に閉じ込めらていた鳶ノ段蔵が脱獄したようだ。何者かの手引きがあったのか。自力で逃げ出したのか。おそらく後者だろうと誠一は思う。彼の仕掛けた罠を破って牢に近づける者がいるはずないからだ。
 そして、その言葉を合図に、あちこちでビンの割れる音が聞こえてきた。
 どうやら忍び達が誠一のかけたトラップにかかっているようだ。
 誠一の潜んでいる位置からも、見えないビンを踏みしだき、足から血を流す忍びの姿が見える。
 石に打たれて悲鳴を上げる声もあちこちから聞こえて来る。 
「隠れ潜んで仕事するのって、忍者だけじゃないんですよねぇ」
 誠一は身を隠したまま満足げに笑った。
 しかしどうやら敵は単独ではないようだ。
 誠一は気配で数を数えると、いきなり忍び達の前に躍り出て、飛燕を介してエンドゲームで不可視の斬撃を放った。
 忍び達がばたばたと倒れて行く。倒れていない者も、突然の攻撃に怯んでいた。その隙を狙って間合いを詰め、そこに疾風突きを喰らわす。忍びは血を吐いて昏倒した。しかし、つかの間。また立っている者達が襲ってくる。誠一は、影衣を用いた奇襲同然のカウンターで全てを始末した。
 そして、倒れた忍び達を見てつぶやいた。
「やれやれ、抜け忍始末するのは、組織としちゃやむを得ないんだろうけど、何も知らないも関係な人を次々に消すってのは、少々大人気ないよねぇ」

 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は居合の刀二本で二段抜刀で次から次に襲いかかる忍びを倒していた。殺気看破で常時警戒しながら、不可視の糸による結界で物理的に警戒もしている。
 その不可視の糸におもしろいように忍びが引っかかっては正体を晒し、それを唯斗が巧みに倒して行く。やはり、忍者には忍者ということだろうか。
「貴様も忍びの端くれなら分かるだろう?」
 甲賀者は唯斗をなじるように言った。
「我らのやっているのは粛正だ。抜け忍に対する当然の報いだ」
「ふーん? 抜け忍に対する粛清ね?」
 唯斗は刀を振り回しながら答える。
「ま、らしいっちゃらしいけどそんなんは納得できねぇなぁ。こちとら忍者やってるがほぼ完全に我流。いろんな流派のごちゃ混ぜだ。その上現代っ子なんでね。おたくら程厳格じゃねーのよ」
「なんだと?」
「だから気ままに、思う事を行わせて貰うぜ。俺が嫌いな事の一つは理不尽に命が奪われる事なんだ。知っておけよ? そーいう奴に関わるとロクなことにならないってさ」
「何を……!」
 忍び達は逆上して襲いかかってきた。
 唯斗は殺気看破と超感覚で巧みに躱しながら、忍び達を次々に倒して行った。

 一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)は中庭のそばの部屋の天井裏に身をひそめていた。 悲哀は、同じ土地に住まう仲間として、日下部藤麻を助けたいと思っていた。
 彼女は……明倫館に来て、多くの人に手を差し伸べてもらったという記憶がある。だから、葦原に居る皆様人達が困っているなら、自分も助けたいと、そう思っていた。
 自分にできる事は微々たる事かもしれないが、風太郎の警護を是非したいと、そういうけなげな気持ちでこの警護にあたっていた。 
 悲哀は『ナラカの蜘蛛糸』で部屋に糸を張っていた。これで、もし万が一にも接近して攻撃するような者がいても、彼女の糸の中を通らなければならない仕掛けになっている。
 相手が暗殺に長けるというのであれば、姿を隠して近づくかもしれない。そのための仕掛けだ。藤麻の了解も得ている。
 そして、さらに部屋の入り口にあたる中庭にもトラッパーで罠をしかけておいた。急ごしらえなので、典型的な落とし穴と、網が振ってくるタイプである。それでも、効力はしっかりとあるだろう。その上で、『ナラカの蜘蛛糸』を持ったまま屋根裏で待機した。
 悲哀のすぐ側にはカン陀多 酸塊(かんだた・すぐり)が身を隠している。彼は蜘蛛の姿をしたギフトだ。
 悲哀からこの依頼を受けたと聞いた時、
「悲哀ー! 悲哀、人助けするの? じゃあ、僕も手伝うー♪」
 と無邪気についてきた。
 悲哀が喜ぶと、
「悲哀、偉い? 褒めて褒めてー♪」
 と無邪気に喜ぶ。
 彼は悲哀を守るべく、すぐ近くで待機しているのだ。

「来ました!」
 悲哀が小声で叫んだ。
 彼女の【殺気看破】にいくつかの気配が引っかかってきたのだ。
 天井から窺うと、落とし穴や罠にはまっている忍び達の姿が見える。辛うじて罠を避けた者も部屋に張り巡らせた蜘蛛の糸の犠牲になり、次々に倒れて行く。
「くそ」
 忍び達は糸に気付くと、刀で糸を斬って行った。そして、天井を見上げる。どうやら、悲哀達が潜んでいるのに気付いたようだ。こちらに向かって手裏剣を投げつけてきた。
「危ないよ」
 酸塊はサイコキネシスで手裏剣の軌道をそらして行く。そして、『狂科学者の銃』で忍び達を次々に倒して行った。
 忍び達が攪乱されている隙を狙って、悲哀は敵の背後からゆっくりと首を狙ってナラカの蜘蛛糸を投げつける。
「う!」
 忍びの首にナラカの糸が巻き付き、忍びの体をつり上げた。
「ぐ……ぐぐ!」
 忍びは首で宙につり上げられたような格好になって、しばらくもがいていたが、やがてがっくりと動かなくなった。そのタイミングを見計らい、悲哀は糸を強く引っぱる。糸が切れて忍びの体がどさりと床に倒れた。同じようにして、悲哀は次々と忍び達を倒して行く。
 一方、酸塊は忍びの体を【サイコキネシス】で動けなくしてたずねた。
「ねぇねぇ、なんででも門下生を殺そうとするのー? ちょっと教えてよー♪」
「ぐ……」
 しかし、忍びは頑に口を閉ざしている。
「ねえ教えてってばあ。自害しようとしても無理だよ。ボクがさせないからー」
 酸塊の言葉に忍びがようやく重い口を開く。
「す……すべては我ら甲賀の繁栄のため」
「え? え? どういう事?」
 さらに酸塊が気候とした時、忍びの体が崩れ落ちた。
 背中に手裏剣が刺さっている。どうやら、味方に殺されたようだ。