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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

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  第4章 EJ社・周辺


 漆黒の星が翔ける。
 魂剛。ニルヴァーナの空を切り裂く、黒き閃光。
「陽動もいいけどよ……。別に、あの虫どもを全滅させてもいいんだろ?」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が地上兵器を見渡した。蟲。蟲。蟲。中型・大型の車両は、まだごっそり残っている。
 なぎ払う『アンチビームソード』。敵を断ち、罪を断つ。
「ふ、唯斗よ。妾、久方振りにマジギレモードであるよ!」
 オペレータ席、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が笑う。
 そう。
 笑うのだ。
 怒りを超越した者は、名も無き感情に狂わぬよう、敢えて笑みをこぼす。
 その微笑みは――死の宣告。
「彼奴等に見せてやろうぞ! 妾をキレさせたらどうなるかを!!」
 斬撃。爆音。斬撃。爆音。
 エクスは、視界に映る全ての敵を撃退せんとする。
 魂剛の前にいた敵は、瞬く間に、灰色の煙。
 弾薬給弾車叫哥哥を壊滅させると、彼らは狙いを切り替える。
「そんな柄じゃねーけどよ。……俺もケッコー、怒ってんだよね」
 吐き捨てた唯斗へ、魂剛も同調する。罪を憎むその感情に。
――人ならざる者、イコン。魂剛は限りなく鬼に近づいた機体だ。
 対するは、人として生まれながら、道に背いた兇徒の群れ。
 この戦い。
 もし、世界の創造主が見ていたら。
 魂剛を指して“人間”と呼んだことだろう。
「さぁ。来いよ」
 唯斗が、次の標的を自走迫撃砲夜蝉、火焔放射戦車赤龍に定めた。
 レバーを握る手に、力を込める。
 回避などしない。
 集まれ。集まれ。もっと集まってこい!
 虫が光を求めるように。
 夜蝉・赤龍の全車両が、魂剛が放つ漆黒の光に導かれた。
「……唯斗よ。行こうか」
「ああ。――武神剣帝の怒り、見せてやるよ!」

 薙ぎ払われた【デュランダル】。
 機晶で蘇った聖剣が、地上の虫を殲滅していく。


 
 ここにもまた、機晶技術により伝説から蘇った兵器があった。
 EJ社の戦闘機鬼蜻蜒
 かつての第二次世界大戦。武勲をあげながら散った戦闘機。
 それが、機晶技術で復刻されていた。
 世界大戦を再現する、ニルヴァーナの空。
「……どうやら、賭けは俺の勝ちみたいだな」
 柊恭也が敵の残機を確認。
 ペダルにかける足が微動するのは、武者震いか。
「残りの敵は約30機か……。負けたよ」
 柊唯依が撃墜数を計算する。
 彼女の足の震えは、貧乏揺すりかもしれない。
 ストライク・イーグルが落とした機数。わずかに、恭也の予測が近い。
――残る鬼蜻蜒を全滅すればの話だが。
「さぁ。派手にぶちかましてやろうぜ!」
 もちろん、彼らにはある。【ビッグバンブラスト】という完全勝利の確信が。
 解き放たれた、禁忌の兵器。激烈な爆発が空を揺らす。
 鬼蜻蜒に、再び敗北の味を教えた。



 撃つ。撃つ。撃つ。
 岡島伸宏は連射していた。地上を這いまわる装甲車閻魔蟋蟀に向けて。
「……伸宏君。弾数が残り少ないわ」
 山口順子の警告。モニタを見つめる彼女の額に、汗が滲む。
 まだ撃ちたりない。伸宏はレバーを引き続けた。
 もっと啼かせろ! 
 あの黒い虫どもに、断末魔の悲鳴を!
「エネルギー、残り30%を切ったわ。潮時よ」
「……仕方ない。いちど帰艦するぞ」
 伸宏は、閃電を旋回させる。機動要塞・加賀で補給をするためだ。
「なあに。ここまで来れば、あとひと押しだ」
 彼らを受け入れた大田川龍一が、敵を睥睨。序盤から猛火を浴びた加賀に、余力は僅かだが。
「最後に、大きいのをひとつ撃てますわ」
 天城千歳が残量を確認。それを聞いた龍一は、十分だと笑う。
 残りのエネルギーを出しきり、加賀が重力波砲を放つ。
 蟋蟀は、悲鳴を上げる間もなく、塵となった。



 蜃気楼が、ゴスホークを包んでいた。
 ヴェルリア・アルカトルの放つ幻影だ。
 遮られた視界の中。
 自走りゅう弾砲精霊飛蝗の射撃を、柊真司が避ける。
 見えていた。
 幻影の中にあっても、奴らの飛翔が手に取るようにわかる。
 可能にするのは、真司の優れた空間認識能力。見えないものが、見える。
 痺れを切らした飛蝗の群れが、一斉掃射。
 回避できない弾には【G.C.S】だ。重力をねじ曲げ、弾の軌道を変えた。

「あと一息ですわ! 頑張りましょう」
 要塞・ウィスタリアの操縦席。アルマ・ライラックが援護射撃していた。
 イコン部隊から少し後方で待機するウィスタリア。
 艦内では。
 柚木桂輔が、大活躍。
 へとへとになりながら、イコンを修理していた。
 だが。補給できるエネルギーが尽きようとしている。
「最後まで……もってくれよ」
 桂輔が言い聞かせたのは、ウィスタリアだろうか。それとも、自分自身だろうか。

「……リミッターを解除」
 真司が、ゴスホークの闘争本能をむき出しにする。
「これで終わりにしてやるよ」
 飛蝗どもに視線を巡らし、【ファイナルイコンソード】。
 神速の斬撃。
 人の目には映らない剣の唸り。散りゆく者たちは、神の裁きと感じたことだろう。
 飛蝗の群れは、完膚なきまでに壊滅した。