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リアクション
★ ★ ★
「ターゲット確認、敵からのロックオン確認」
コパイロットシートに座った大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が、センサーを確認してパイロットシートの鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)に告げた。
「了解。急降下後、水平飛行に移り、ターゲットを破壊する。アトラス山急降下!!」
意味不明の技名らしきものを叫ぶやいなや、鮎川望美がフライトスターを急降下させた。直前まで、ジェファルコンタイプのイコンのいた場所を、模擬弾としてのレーザーが通りすぎる。
「うっ、くぎゅううううぅぅっ」
急降下からの水平飛行で、慣れないGに晒されたオペレータ席のコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が意味不明な悲鳴をあげた。なにしろ、初のイコン搭乗で、よりにもよって鮎川望美のアクロバット全開の操縦に晒されたのでは、たまったものではない。
「稲妻水平! よし、ガトリングガン用意」
フライトスターの機動性を生かして、地面すれすれをジグザグに機体を左右にゆらして進みながら鮎川望美が言った。
「準備はとうに完了している」
「上等! ガトリング乱舞!!」
大洞剛太郎の言葉を聞いて、鮎川望美が嬉々としてガトリングガンのトリガーを引いた。ペイント弾が、ターゲットとしてのレーザー砲台をまだらに染めていく。
もうノリノリで、中二病全開の必殺技名らしきものを叫ぶ鮎川望美だが、これも、彼女特有のテンション維持の方法らしい。もっとも、端で聞かされる方はたまったものではないが。
「え、エチケット袋……」
最初はイコンに乗れるとはしゃいでいたコーディリア・ブラウンであったが、遊覧飛行気分がまさかこんな地獄のジェットコースターになるなどとは予想だにしていなかった。
「もう嫌、早くお家に帰りたい……」
涙を浮かべて言う、コーディリア・ブラウンだが、鮎川望美はそんな様子にはまったく気づいてはいない。もう、操縦に酔いしれている。大洞剛太郎も、そんな鮎川望美のサポートに夢中で、ヘルメットをしない鮎川望美の額の汗をわざわざ後部シートから身を乗り出して拭いてやったり、合間合間の通常飛行時にスポーツドリンクのストローつき水筒を差し出して飲ませてやったりと、かいがいしい。
いや、ちょっとやり過ぎだろうと、コーディリア・ブラウンは、嘔吐感を噛み殺しながら思った。いっそ、乙女の恥も外聞もかなぐり捨てて、二人の頭の上でゲロゲロしてやろうかとさえ思ってしまう。
「次行くよ」
イコン基地の一つである海京の離れ島上空に再び舞いあがると、鮎川望美がフライトスターにビームサーベルを抜かせた。
「ダウンバースト斬り!」
そのまま斜めに急降下しながら、ターゲットマーカーを真っ二つに切り捨てる。
直後に急停止し、振り返り様にガトリングガンを発射した。あまりの急制動に、シートから放り出されそうになったコーディリア・ブラウンが、安全ベルトによって乱暴に引き戻された。
「ついでに、ミサイル発射!」
鮎川望美が調子に乗って、ミサイルポットのミサイルまで発射する。
「おい、それは予定に入ってない……」
あらぬ方向に飛んでいってしまったミサイルに、大洞剛太郎が焦った
★ ★ ★
「訓練海域に到達した。これより、イコンの発着艦訓練を行う。整備分隊、甲板科分隊、仕事だ」
海峡を遠巻きに一周する航路に土佐をのせたまま、湊川亮一がイコンデッキに命令を伝えた。
「さあ、みんな、出番ですよ」
命令を受けたアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)が、整備分隊の物たちをうながした。
「イコンをカタパルトに接続いたします。マニュアルに沿って、各シークエンス、確認してください」
ジェファルコンタイプの閃電をカタパルトに移動させながら、ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)もテキパキと指示を出している。
今回、艦載機として岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)と山口 順子(やまぐち・じゅんこ)の閃電が訓練に協力してくれている。
「リニアカタパルト、イコン脚部接続。アンカーフックロック。固定確認」
甲板科分隊の仕事を見ながら、ソフィア・グロリアが復唱確認していく。
「リニアカタパルト、コンデンサ、チャージ確認。電圧、正常。出力規定値へ」
一方、管制ルームへと移動したアルバート・ハウゼンの方は、リニアカタパルトの方を整備分隊とともに管理していた。
「ブリッジより指示、進路クリア。イコン、発進態勢へ。甲板員は退避せよ」
アルバート・ハウゼンの指示で、ソフィア・グロリアの誘導によって甲板科分隊がわらわらと滑走路脇の避難ボックスに退避する。
戦闘機とは違って、イコンの場合はジェット噴射に焼かれると言うことはないが、やはり近くにいては巻き込まれる危険がある。
「発進シグナル、グリーンに変わりました」
「いつでもいいぞ」
山口順子の言葉に、岡島伸宏がモニターに映った官制ルームにむかって言う。
それに応えて、管制ルームの中から、発進を示すサインが送られた。
「閃電、発進する!」
ドンという加速と共に、閃電がリニアカタパルトで押し出された。土佐の飛行甲板を急速に加速し、甲板突端で放り出される。同時に、エナジーウイングが目映い光を放って展開し、閃電が大空へ舞いあがった。
「まあまあの手際だな」
戦闘指揮所からモニターでその様子を確認しながら、湊川亮一が言った。
「対象海域には、何もなしか。他の訓練機の進入でもあるかと思ったが、平和なものだ」
波を蹴たてた低空飛行や、急反転ロールなどの軽い飛行訓練をこなしながら、岡島伸宏が言った。
「高熱源体接近! ミサイルです!」
レーダーを監視していた山口順子があわてて叫んだ。
「迎撃する!」
すぐさま、岡島伸宏がレーザーバルカンで弾幕を張った。同時に、土佐からも、砲雷科分隊からミサイルの迎撃が行われたが、いくつか撃ちもらした。それを確実に迎撃して、岡島伸宏が第二波がないかと警戒する。
「どこからのミサイルだ!」
湊川亮一が、高嶋梓に確認した。
「別の訓練領域からの流れ弾のようです。確認しました、識別コード・フライトスター、移動島の領域で訓練中です。敵ではありません。ちょっと、別区画に接近しすぎましたね」
高嶋梓が、周辺データを確認して答えた。
「はた迷惑な、厳重に抗議をしておけ。それから、砲雷科は何発か撃ちもらしたな、後で特訓だ」
「了解しました。――こちら土佐、現在本艦は現海域で訓練中である。双方、射程内に進入しないように注意されたし」
湊川亮一の指示を受けて、高嶋梓がフライトスターに警告を発した。
★ ★ ★
「あっ、怒られちゃった?」
「あたりまえだ。少し自重しろ」
さすがに、大洞剛太郎も鮎川望美を注意する。
「いったん、島まで戻るぞ」
「うん、もう帰りたいです」
大洞剛太郎の言葉に、すかさずコーディリア・ブラウンが同意した。
「この後は、地上での白兵戦訓練に切り替える」
「ええっ、まだやるの!?」
げんなりして、コーディリア・ブラウンがうつむいた。そのまま思わずえづいて、酸っぱいものがこみあげてきた。
★ ★ ★
「土佐より入電。これより着艦訓練に入るとのことです」
山口順子が、土佐からの連絡を告げる。
「よし、戻るぞ」
閃電が戻ると、土佐の飛行甲板より、着艦誘導ビーコンが受信される。着艦軸を合わせると、侵入角と速度を自動調整した。
「イコン用、緊急着艦ネット準備。急いでよ」
ソフィア・グロリアに命じられて、甲板科分隊が飛行甲板奧に何枚もの巨大なネットを展開する。戦闘機タイプであれば、着艦フックを用意するところだが、重心の高いイコンではそうもいかない。通常であれば垂直着艦するのがセオリーだが、今回は訓練である。緊急時の強制着艦となっていた。
ぎりぎりまで減速したイコンをシャトルに着艦させつつ減速し、最後は複数枚のネットによって完全停止させるのである。
墜落限界スピードまで落とすと、閃電がエナジーウイングを収納した。慣性で甲板上のシャトル板にみごと着陸し、ブレーキで勢いを殺しつつ格納庫へと突っ込んでいく。前のめりになった閃電の機体を、張り巡らされた巨大なネットが次々に受けとめて減速していった。左右壁面のガイドレールがきしみをあげ、転倒しないようにイコンの機体を受けとめる。
「よーし、着艦成功。各部点検訓練に入るぞ。チェック項目1番から300番まで順次チェックだ。かかれ!」
アルバート・ハウゼンの命令で、整備分隊の者たちがわらわらと散っていった。
結局、数度の発着艦を繰り返して訓練の大まかなプログラムが終了する。後は、航海科のお仕事だ。
一仕事終わった岡島伸宏は、飛行甲板にビーチチェアーを引っ張り出してくると、のんびりとそこに寝転んだ。南国の陽射しは、肌を焼くにはちょうどよい。
「くつろぎすぎですよ」
「就業時間後だからいいだろう?」
苦笑する山口順子に、岡島伸宏はそう答えた。
湊川亮一の方は、発着艦訓練の他に、砲雷科分隊の射撃訓練や、航行中の機関科分隊の訓練を順次行っていった。
「実り多い訓練でしたね」
おおむね結果に満足しながら、高嶋梓が言った。
「そうだな。それでは、諸君、これより帰投する。進路変更、海京へむかえ」
湊川亮一は、ベテラン航海士に力強く命令した。
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