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リアクション
★ ★ ★
「映画、面白かったですね」
「ああ。最後、雲海から現れたインテグラルを、主人公が旧型のイーグリットで押さえ込んで、そのままアトラスの傷跡の溶岩の中に飛び込む所は格好よかったぜ。でも、その後、ちゃっかり、脱出カプセルで射出されていたって言うのは、少し拍子抜けだったなあ」
喫茶店で、一つの巨大パフェを間にはさみながら、デート中の神代 聖夜(かみしろ・せいや)と陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が、見てきたばかりの映画の話題を話し合っていた。
「そこがいいんじゃないですかあ。あの生死が分からない脱出カプセルにヒロインが駆け寄っていって、開かないカプセルを光条兵器で一刀両断するラストシーンは最高だったです」
「中身まで切ってたら、どうなってたんだろうなあ」
「またそんなことを言う。それじゃあ、コメディになっちゃいます」
せっかくの感動が台無しだと、陰陽の書刹那がちょっと肩をすくめた。
「今度は、コメディを見に行ってもいいぞ。ほら、映画予告でやってた、101匹ゆるゆる大行進とか、面白そうだったじゃないか」
「そうですね。また連れてってくださいね。じゃあ、これは、契約料の前払いと言うことで。あーん」
そう言うと、陰陽の書刹那が、スプーンですくったアイスクリームを、神代聖夜の口許へと差し出した。これは、神代聖夜としても、食べざるを得ない。
「後で、お買い物にも行きましょうね」
そう言うと、陰陽の書刹那が、今度は私にも食べさせてくださいと、お口をあーんした。
★ ★ ★
「わざわざ空京までつきあってもらって悪かったわね、フラン」
ブティックの中で、ハンガーに下がった服をいろいろと物色しながらエメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)が言った。
「いや、こういうお店は目の保養になるから、こっちも楽しいわ、エメリー」
一緒になって神剣に服を選びながら、フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)が答えた。みごとなオネエ言葉だ。見た目はイケメンなので、ちょっとギャップが大きい。けれども、そのへんがエメリアーヌ・エメラルダにとっては気のおけない相手だというのだろう。
「なにせ、うちの他の男共じゃ、壊滅的に服のセンスが信頼おけなくてさあ。そのへん、フランならバッチリよね」
「それは、任せておいて」
自信ありげに、フランソワ・ショパンが答えた。
「まあ、自分だけだと、どうしても偏っちゃうのよね。たまに他の人の意見も入れないとね」
「ねえねえ、これなんかどうかしら」
さっそく、薄い白のカーディガンを手にとってフランソワ・ショパンが言った。
「夏だし、暑くないかなあ」
「そのへんは、着るんじゃなくて、こうして肩にかけて袖を縛るって感じかしら。肩掛け風にするのよ。で、冷房で寒かったりしたら着るわけ。で、重ね合わせが基本で、上着はこんなところかなあ」
何枚かの色違いのキャミソールを選びだして、フランソワ・ショパンが言った。
「うんうん、それは、私的には斬新かも。やっぱり、あなたに頼って正解だったわ」
そう言うと、エメリアーヌ・エメラルダはさっそく試着室にこもり始めた。
一人、着替えが終わるのを待ちながら、フランソワ・ショパンがあらためてエメリアーヌ・エメラルダのことを考えてみる。こんな実質デートのようなことをしているのに、はっきりと口にだしてデートに行こうとは言えない自分が少し情けない。今日だって、実際に誘ってきたのはエメリアーヌ・エメラルダの方だ。
いつか、はっきりと告白して、ちゃんと二人の仲を進展させたいのにと思いつつも、その一歩がなかなか踏み出せないフランソワ・ショパンであった。
「お待たせー」
やがて、着替えの終わったエメリアーヌ・エメラルダが、試着室の中から出て来た。
ダークグレーのキャミソールの上に、薄手のやや短めのライトグレーのキャミソールを重ねている。下はやや光沢のあるスチールグレーのスチールグレーのカーゴクロップドパンツで、むきだしになったくるぶしから編みサンダルへのラインが軽快な感じに纏まっていた。むきだしの肩は、白いカーディガンをショール風に羽織って、上品に全体をまとめあげている。
「どうかなあ」
ちょっとはにかみながら、エメリアーヌ・エメラルダがフランソワ・ショパンに訊ねた。
「素敵、すっごく似合うわよ」
ちょっとの間、本当にエメリアーヌ・エメラルダに見とれてしまいながらフランソワ・ショパンが言った。
「あなたの綺麗な緑色の髪が際立つようにと、全体的にモノトーンのグラデーションで纏めたつもりなのだけれど。うん、凄く綺麗よ」
グレーを基調としたラフな全体の感じを、白が引き締めると共に、緑をよりいっそう華やかに見せている。
「やっぱり、フランに頼んで大正解」
ちょっと違った今日の自分を見つけられて、エメリアーヌ・エメラルダも大喜びだ。さっそく、一式をレジへと持っていく。
「ねえ、お礼と言うにはちょっと微妙なんだけれど、これ、受け取ってくれるかなあ」
そう言って、エメリアーヌ・エメラルダが自分をモデルにした人形をフランソワ・ショパンに手渡した。
「これで、いつも私と一緒だよ」
そう言って、エメリアーヌ・エメラルダはニッコリと笑った。
★ ★ ★
「ねえねえ、こんなのどうかなあ」
空京デパートの食器売り場で、真新しい食器類を代わる代わる手に取りながら、辻永 理知(つじなが・りち)が夫の辻永 翔(つじなが・しょう)に訊ねた。
「夫婦茶碗かあ、うーん、いいんじゃないか」
あまり食器に気を遣うことなどなかった辻永翔が、よく分からないから好きにしていいよという感じで答えた。
今朝ベッドで目を覚ましたときに、突然買い物に行きたいと布団の中で辻永理知に甘えられての買い物デートだ。帰りにイコプラショップによってもいいからとお許しをもらって、表向きはしかたないなあという感じでほいほいとついてきてしまっている。
甘え上手な辻永理知に、案外とすでに尻に敷かれているのかもしれない。
さて、二人でアパートを借りて新婚生活を始めたはいいが、御多分にもれず必要な物は一つしかなく、一つあればたくさんである物は思いっきりだぶって二つあるという状態に辻永理知は困り果てていた。特に食器は、辻永翔が最低限の物で使い回していたので、まったく足りないという状況だ。それゆえに、意を決しての大量のお買い物である。
「夫婦茶碗……夫婦……うふっ♪」
何気ない言葉にも、ちょっと過剰反応してしまうと言うのも、新婚さんゆえというところだろうか。
とりあえず、全ての食器をペア物にするというのが、本日の辻永理知のささやかな野望であった。
「あ、これも可愛い。これって、いろいろ使えそう。こっちなんか、食べ物が美味しそうに見えそうだよね」
辻永理知が、選んだ食器を次々と辻永翔の持っているカゴに入れていくので、だんだんとずっしりした重さになってくる。
「あー、このカレー皿素敵。そうだ、今日はカレーにしようよ。お料理はまだいろいろと勉強中だけど、今日はカレーに挑戦してみる!」
高らかに宣言すると、辻永理知が辻永翔の背中を押してレジへとむかった。
「さて、次はどこへむかうのかな」
すでに両手に一杯、買った物の入った紙袋をぶら下げながら、辻永翔が辻永理知に訊ねた。一応は、食器や、箸や、スプーンや、テーブルクロスや、醤油差しなど、一通りの物は揃ったはずだ。
「えーっとね、次は翔くんのイコプラの番だよ。さあ、いこ〜」
そう言うと、辻永理知はいくつかの紙バックを自分でも持って、イコプラショップへとむかった。
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