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リアクション
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「しかし、本気で作り始めるとは。要塞戦のときはデーターだけだとばかり思っていたのに。だいたい、このピーキーなステイタスはなんだ。ほとんど動けないのに、パワーだけ高いって言うのは、バランス悪すぎだろう」
アトラスの傷跡、宇宙港のそばの広場で、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)がぶつぶつと文句を言った。
今、セリス・ファーランドたちが中にいる場所は、量産型饕餮をフルカスタマイズしたカイザー・ガン・ブツの内部である。
その姿は、超巨大な大仏にしか見えない。色も、ど派手な金メッキである。
「ふふふふふ、機動性などという物は、ただの飾りなのだよ。お偉いさんには、そのへんのことが分かっていないのだ」
鍋から吹きこぼれるような絶対的な自信でマネキ・ング(まねき・んぐ)が答えた。
「この世に絶対命中はあっても、絶対回避は存在しない……はず。ゆえに、攻撃は最大の防御。このカイザー・ガン・ブツは、全ての攻撃を絶対命中させる究極のイコンなのだあ。はっははははは……」
最後の部品を誘導しながら、マネキ・ングが言った。
「その通り。世は、混沌に満ち、民は、救済者たるワタシの到来を望んでいます。ワタシは、その想いに応え、力づくで立ちふさがる障害を排除しなくてならないのですよ!」
マネキ・ングの横で、このカイザー・ガン・ブツのモデルとなった願仏路 三六九(がんぶつじ・みろく)が、肩をならべて二人で哄笑した。
今回、アトラスの傷跡の遊園地に運び込まれたカイザー・ガン・ブツのパーツ群は、ここで最終組み立てが行われている。
「このカイザー・ガン・ブツ量産の暁には、パラミタ中のお布施など一ひねりだ。おひねりだ。このアトラス遊園地を皮切りに、葦原島の各地に名所を作り、いくいくはコンロンまで輸出を……」
思いっきり絵に描いた餅で皮算用をしながら、マネキ・ングが目を細めた。
「お偉いさんと言えば、なんでフリングホルニが二隻もあるの?」
宇宙港の駐機場に綺麗にならんだ二隻のフリングホルニを見て、メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)が訊ねた。
マラカイトグリーンのフリングホルニの横にあるのは、黒とダークグリーン縦縞にペイントされた同型艦の翠花だ。先だっての機動要塞戦の優勝賞品として、源 鉄心(みなもと・てっしん)らに譲渡されたものである。
単なるシミュレーションの大会の賞品としては破格だが、元々は先だってのエリュシオン帝国での反乱騒ぎのときの協力に関するお礼として用意されていたものである。本来であれば、シャンパラ王国の政府所有となるところだが、実際に活躍したのは傭兵という建前の一般の者たちであったので、エステル・シャンフロウ(えすてる・しゃんふろう)の意向によって、個人へ譲渡されることになった。そのため、賞品が先にあり、その所有者を決めるために大会が開かれたというわけだ。
本来であれば、スキッドブラッド型とされ、フリングホルニが二番艦、翠花が三番艦となるべきところではあるが、元々スキッドブラッドは試作艦であり、反乱に使用されたために縁起が悪いということで、試作零番艦とされた。そのため、制式にフリングホルニ級と制定され、一番艦がフリングホルニとなっている。翠花は、栄えあるその二番艦だ。ちなみに、建造にはデュランドール・ロンバスのバックにある地球企業が関わっているため、現時点では三番艦の建造については明らかになってはいない。
ならんだフリングホルニのそばには、かなり派手な大型飛空艇が停泊していた。ヤング・ジェイダスことジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)の御座船だ。エステル・シャンフロウたちとは別件で、アトラスの傷跡のマスドライバーを視察に来ている。
「こちらへどうぞ、ここからなら、パークの全体像が確認できます」
建築中のアトラスの傷跡のアミューズメントパークの中央コントロールセンターで、シャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)がヤング・ジェイダスを案内していた。たまさか仕事でアトラクションのナレーションを担当していて、現場を見に来ていたのだ。そこへ急遽ヤング・ジェイダスがやってきたので、案内を頼まれたというわけである。もっとも、シャレード・ムーンとしても、まだこの施設に詳しいというわけではないのだが、どうせ説明するのであればきれいどころで失礼のないようにと言うのが実質パークを運営している恐竜騎士団の考えであった。
「中核を成すのが、マスドライバーを改造した高速ジェットコースターです」
アトラスの傷跡をぐるりと一周するフィールド加速器を模型を交えてヤング・ジェイダスに見せながら、シャレード・ムーンがマニュアルに沿って説明を始めた。
元々の計画では、当初アルカンシェルしか月基地との往還能力を有さなかったため、他の大型宇宙艇などを宇宙に打ちあげるために建造されたものであった。だが、さすがに機動要塞や大型飛空艇を打ちあげるには加速チューブが実用的な大きさではないと判断され、計画は頓挫していた。
通常の無人物資コンテナを打ちあげることは可能であったが、マスドライバーとしては月基地のマスキャッチャーの建造が必須であるにもかかわらず、そちらは一切進んでいなかった。これでは、打ちあげた物資は、月基地に対する単なるミサイルになってしまう。
また、その有用性を過大評価されたため、テロの標的になると言うことで、施設の大きさから維持が困難ということになり、結果的にマスドライバーを警備するという大義名分の元に、恐竜騎士団に実質的に接収される形になっている。もちろん、所有権はシャンバラ政府にあるが、実際には恐竜騎士団が好き勝手に周囲にアトラクションを建造し始めて、全体が遊園地と化してしまっていた。そのうち、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)がきっちりと管理してくれることだろう。
実際、天御柱学院から宇宙用のプログラムの供給を受けた第二世代以降のイコンは、許可を申請して大気圏脱出プログラムのプロテクトを一時的に解除してもらえば、単独で地上から大気圏を突破できるようになったので、マスドライバーによる補助加速の意味はほぼなくなっている。ただし、イコンによる大気圏離脱は時間をかけたゆっくりとしたものであると同時に、宇宙にでたからと言って、衛星間航行するには実用的ではない。何よりも、許可が下りることはまれである。
「ふむ、アトラスの傷跡を一周というのは、ジェイダス杯の次のコースとしては面白いな。候補に数えておくべきだろう。それに、観客を呼ぶには、このアミューズメントパークは面白い。特に、あの大仏像、シュールで人目を引くではないか」
なぜか、近くに見えるカイザー・ガン・ブツをいたく気に入ったヤング・ジェイダスであった。