リアクション
○ ○ ○ ヴァイシャリー家での相談を終えてから。 ロザリンドはティリアと共に百合園の生徒会室に戻った。 生徒会室では、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が情報の取りまとめを行っていた。 「ダークレッドホールに入っちまった百合園生がいるようだけど、お蔭で内部の情報が得られそうだ」 シリウスは美咲が自分の意思で突入したことを報告するかどうか迷いつつも、今は言わないでおいた。 調査に当たっているイングリットからは、蒼空学園に所属している陰陽師が、ホール内に式神を派遣することに成功したという知らせが届いていた。 「ホールの先で団員が危機に陥っていても、助けに向かえないかもしれない……怖いわね」 ティリアが悔しげな表情をする。 「他にも指揮者として必要と思われることがあります」 ロザリンドは、ティリアに以下を提案する。 ・行方不明者や秘書長、そのパートナーについて直前までの行動調査。 ・記憶喪失で保護された人の中で身元不明者の身元確認。 ・記憶喪失者で契約者の場合、全てのパートナーの体調確認。 ・ダークレッドホールに近づく者に、炎だけでなく光などにも注意を呼び掛ける。 「団員を指揮して、仕事を分担していただくことはできませんか?」 混乱しているティリアに、ロザリンドは優しく強い目で目で言う。 「皆でやれば壁も越えられます」 「……そうね、情報収集に動いてもらいましょう」 すぐに、ティリアは百合園に残っている団員に呼びかけて、調査に向かってもらうことにした。 ダークレッドホールに関しては、イングリットに連絡をいれておく。 生徒会室に紅茶の良い香りが漂っていく。 「落ち着け……っても、無理だよな」 言いながら、シリウスはティーカップをことんと、副団長のティリア・イリアーノの前に置いた。 それから、ロザリンドの前にも置き、最後に自分の分をテーブルに置いた後、椅子に腰かけた。 悪い知らせがいくつも入っており、白百合団は混乱の極みにあった。 シリウスは淹れたばかりの、ティセラブレンドティーを一口飲んで大きく息をついてから、話しだす。 「ティリア。今だからいうけど……オレ、選挙はお前支持だったぜ?」 顔を向けてきたティリアをまっすぐ見つめて、シリウスは言葉を続ける。 「少し思い出してみないか? 名乗りを上げた時のこと」 「……」 「……お前にも瑠奈や優子と同じで、負けない位の何かはあるはずだぜ。まだオレたちがついている。オレたちは後悔せずお前に従う。 諦めず、一緒に戦ってくれ」 それから強い瞳で微笑んで。 「『ウィナー・ネヴァー・クイッツ(勝者は決してあきらめない)』……だぜ?」 言葉以上の、何かを伝えるかのようにウィンクをした。 「ありがとう」 ティリアは弱い笑みを浮かべる。 「私ね、情報をまとめたり、交渉をしたり、会議を開いたりするの苦手なんだなって痛感したわ。 瑠奈がいたら、彼女にここを守ってもらって、私はダークレッドホールに突入してたと思うなあ……。 彼女に責任を負わせない為に、自らの責任で作戦を立てて、特殊班を率いてね。桜谷先輩と神楽崎先輩も多分そんな関係だったと思う」 そして、シリウスとロザリンドを見て頷く。 「瑠奈はいないけれど、こうして一緒に考えてくれる仲間がいるのだから、足らない部分は補い合って、頑張らないとね」 紅茶を飲んで、ティリアも息をついた。 「よし、それじゃ相談を始めよう」 シリウス、ロザリンドがそれぞれまとめてきた資料をティリアに見せる。 「まず盗難事件と、ジャ……信頼できるスジから届いた情報だが」 飲み仲間から聞いた話から、シリウスはエリュシオン帝国の古代の魔道書が事件の発端であると確信していた。 「ダークレッドホールは人為的に作られたもの……罠の可能性が高い。渦から帰還した奴らも、今は監視をつけた方がいいと思う……ただ脱出できたと考えるには、面子や状況が少々不自然すぎる」 「監視をつける権限も根拠もないけれど、注意を呼び掛けてはみるわね。帝国の魔道書については、桜谷先輩から説明を受けているけれど……これは機密情報のはず。白百合団が原因して情報が広まったりしないか心配だわ」 情報の取り扱いに気を付けないと、一般人の暴動に繋がったり、自己判断で団員が動いて危険な目に遭う可能性があるから、気を付けてねとティリアはシリウスに言った。 勿論、ヴァイシャリー家の盗難事件の詳細についても、友人に話したりしていないわよね? とも言われて、シリウスはギクリとする。 ヴァイシャリー家固有のものはともかく、ヴァイシャリー家が預かっていた国の機密データが盗られたと知られたら、ヴァイシャリー家が失墜しかねないのだ 「その辺は情報をきちんとまとめて、必要な情報を団員や協力者に開示し、指揮をとらないとな。うん」 そう言ってごまかした後、シリウスは自分の推理を話しだす。 「敵はかなり近くにいる気がする……古王国所縁の人間じゃないかとオレは思う。ヴァイシャリー家の倉庫に詳しく、持ち出した品もピンポイントで古王国絡みの品ばかりだ。 その人物が魔力増幅の杖で秘術書を使い、何らかの目的……秘術書の効果から導き出せるかも……を、起こした、とか」 「データの流出はいつかはわかりませんが、道具類の盗難は9月上旬以降で、ダークレッドホールの発生は8月末ですから、発生事態に杖が使われたということはないでしょうが……」 ロザリンドがそう言うと、そっかと答えながら、シリウスは友人に情報を正しく伝えられていたか少し気にかかった。 眉を寄せて考えながら、紅茶をごくりと飲む。 「ふう……まぁ動機や目的はともかく……事件に人の悪意が絡んでいるのは確実だと思う。 戦いの準備をしておいた方がいいかもな」 空気が重くなり、皆の表情が暗くなった。 |
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