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リアクション
個別リアクション
『1.水の無い世界』
スキルや防具で炎の耐性を高めて、美咲とレオーナはダークレッドホールに突入した。
炎の渦の熱とパワーは凄まじく、体が引きちぎられバラバラになるような感覚を受け、叫び声も上げられずただ、耐えることしか出来なかった。
――しばらくして、熱さが少し弱まり、2人の体は急降下する。
美咲はイコプラをしっかり抱えており、レオーナは美咲にしがみついた状態で、2人は地上に叩きつけられた。
身に着けていたもの以外は、失ってしまっている。
身に着けていたものや服の損傷も激しかった。
「ううっ……」
うめき声を上げながらも、美咲は身を起こし、すぐに行方不明になっている者を思い浮かべテレパシーを送ろうとするが、頭の中にノイズが走っており、集中が出来ない。携帯電話も電波が届いていないだけではなく、誤作動を起こしており使えそうもなかった。
「うーっ、むむむっ!」
何とか集中して突入して見つかっていない人達に送ろうとするが、答える声はない。
魔法もまともに使えそうもなかった。
「痛い……く、くるしい……でも、女の子たち、を……」
レオーナの状態はかなり酷かった。
倒れたまま、立ち上がれずにいる。
美咲が抱えていたイコプラは、損傷が激しいものの、形状は留めており、僅かな動きも見られた。
「魔力が渦巻いているようです。ここは……川、だったのでしょうか」
美咲とレオーナがいる場所はくぼんでいた。
かつては、川が流れていたように見える。
「少し休んでいてください。様子を見てきます」
美咲が立ち上がろうとしたその時。
遠くからエアバイクのような乗り物に乗った、人型ロボットが近づいてきた。
(樹月刀真さんの言っていた人造人間? この状態じゃ戦えないですし……)
美咲は、レオーナと共に身を隠し、息をひそめる。
辺りは夕焼けのような赤い光に包まれており、酷く熱かった。
じりじりと体が焼かれ消耗していく……。
水が、欲しかった。
○ ○ ○
刀真は木の上に降りていた。
かつては林だったのだろうか。
山火事の跡のような、焼けた木々が立ち並んでいる場所だった。
「ピピ、セイゾンシャハッケン、ホカク」
ブラックコートで気配を消していたが、レンズの目の人型ロボットに気付かれた。
熱さと渦巻く魔力のせいで、身体が思うように動かない。
ロボットが放った光の弾を辛うじて躱し、飛び下りて平家の篭手で扱う白の剣とワイヤークローで、頭部を強引に刎ね落そうとする。
ひどく固く、1撃では無理だった。
だが、木々が邪魔をし、ロボットは上手く稼働できない。
攻撃をかわしながら、刀真は数度剣を繰り出し、ロボットを破壊した。
「生存者……生存者……」
生身の人間の姿をした女が、近づいてきた。
(光条兵器使いの可能性もあるな)
刀真は気配を消して樹木の後ろに隠れていた。
しばらく付近を彷徨っていたが、刀真を見つけることはできずその者は去っていく。
刀真はジャンプをして樹木の上に出る。
アルティマレガースの損傷も激しく、本来ほどの威力はないが浮く程度は可能だった。
方角は解らないが、前方は荒野。左右の前方にそれぞれ建物が見える。
続いて、後ろを確認しようとしたその時――。
左前方の遠くに一筋の光、雷が落ちた。
身体が震えるほどの、激しい胸騒ぎを感じた。
『2.任務遂行』
「今は何とか拡大を抑えているですが、いつ再拡大するか、またどこまでが巻き込まれるか、どのくらいの被害が出るか現状ではわからないですぅ」
ルーシェリアはサンタの箒で飛び回り、数日間かけて島々を回って、有力者に避難を呼びかけていた。
「だがなぁ。あてもねえべしな〜」
「百合園の寮で暮らさせてくれんべか?」
ダークレッドホールの方を見ながら、不安そうな表情を見せるものの、人々もどうしたらいいのか分からないようだった。
島にある小さな飛行船では、暮らしている人々を一度に運ぶことは無理だ。
だから今のうちに避難を始めておくことが大切なんだと、ルーシェリアは訴える。
「物は後で直せても人はそうはいかないですから、女性や子供達を優先に避難をお願いするですぅ」
そして、島の人口や先に避難させるべき人の人数、必要な物資、避難先の手配の依頼など、必要なことをメモに残しては、イングリットの元に戻り、報告をしていく。
「ダークレッドホールの監視までは……できないですねぇ」
移動の最中、様子をちらりと見る程度で精一杯だった。
人手が足りない……でも、団員が集まったら集まったで、ホールに突入をする人が増えるんだろうなとも思う。
1日の仕事を終えた後、ルーシェリアは箒を駆りイングリットのいるツァンダの北東の空の港町に向った。
イングリットもエリシアから時々ダークレッドホールの状況を聞きながら、この周辺の島々の人々の避難の呼びかけをしていた。
この町には辛うじて携帯電話の電波が届いている。
「あ、ルーシェリアさん、お疲れ様です」
島に着くと、イングリットが急ぎ足で近づいてきた。
「先ほど団から連絡が入りまして……小夜子さんとイルミンスールの魔女さんが発見されたそうです」
「ホントですかぁ。それは……良かった、と言っていいのでしょうか」
共に複雑な表情で眉を寄せた。
「それと、イリアーノ副団長から、緊急帰還命令が出ています。付近にいる百合園生も連れて、急いで戻ってくるようにとのことです」
島に停まっていたいた飛空艇には、ダークレッドホールやツァンダに訪れていた百合園生が多数乗り込んでいた。
「ミルミはアルちゃんに会ってからにするよ! アルちゃんも近くにいるはずっ。ミルミのこと見たら、思いだすかもしれないし……!」
「わたくしも、小夜子に会いますわ。すぐに会いたいです……っ」
「今はダメです。きちんとお会いできる機会を設けますから!」
小夜子とアルコリアを案じて訪れていたミルミと美緒が残ろうとするが、イングリットはそれを許さず、2人を飛空艇に押し戻す。
「ええっと、そんな命令をするからには、何かとっても重大な訳があると思いますぅ。落ち着くですよぉ。お2人は強いですから、すぐに復学しますよぅ」
ルーシェリアも2人を励ましながら、飛空艇に乗り込んだ。
そして。
飛空艇が飛び立って少しした、後。
後方――空の港町で爆発が起きた。
『3.密談』
瑠奈とサーラの部屋で、円は花を活けながら、テレパシーでサーラに話しかけていた。
(サーラ先輩、普段どおりにしつつ聞いてください。
貴女が監視されてる。脅されていると思い、テレパシーを使ってるよ)
サーラからは返事はなかったが、円はテレパシーを続けていく。
(貴女は、ヴァイシャリーに忠誠を誓っている。……そうシストから聞いてる、いいかな?)
何らかの理由で返答ができないなら、何か合図をしてくれと頼むが、サーラは俯いているだけで何の反応も示さなかった。
(監視者はモニカ? 彼女もヴァイシャリー家縁の騎士?)
指輪を譲ってほしいと聞いてきた人は、ヴァイシャリー家の人間なのか。
シスト以上の影響力を持つ人なのか。
そう問いかけていくが、サーラは反応を示さない。
(指輪の場所に心当たりは本当にない? 指輪があれば、瑠奈を助けられるかもしれないんだよね?)
その問いにもサーラは沈黙を保っていた。
テレパシーを拒絶はしない。円の話を黙って聞いてはいて、円の指示通り普通にしている、ようではあった。
テレパシーさえも読まれているのだろうかと円は考える。
それとも別の理由で彼女には語れないことがあるのか……。
口に出す出さない関係なく、他人に伝えることができないのだろうか。
(指輪、恋人と別の男からもらった物だし、持ち歩いているとは考えにくいよね。部屋にしまっているかも? 探索してもいいかな? 記憶を取り戻すために、普段の物を持ちだすって誤魔化すから)
ちらりとサーラを見ると、ごく小さく彼女は頭を振った。
「で、聞いていると思うけれど、瑠奈先輩、記憶がないみたいで……。何か持ち物を見せてみようって案が出てるんだ。あとで友達が貰いに来ると思うけど、よろしくね!」
円が声に出して笑顔でそう言うと、サーラは今度はきちんと首を縦に振った。
モニカも何も言わない。
その後、少し談笑してから、円は部屋を後にする。
自分の部屋へと歩きながら、円はブリジットにテレパシーを送り状況を伝えた後、シスト・ヴァイシャリーにもテレパシーでサーラが何も語らない……語れない状況であったことを報告する。
(やっぱりモニカが監視なのかな?)
(モニカ・フレッディだが、素性の調べがついた。彼女はツァンダ家の祖先とゆかりがあった人物らしい。……調べたと言っても、ティリア・イリアーノを始めとした、親しいものへの聞き込み調査の結果でしかないが)
シストからはそんな言葉が返ってきた。
(ところでさ、シスト)
(……まて、その前に。お前、俺が誰だかわかっているか? 態度が失礼だとは思わないのか)
(知ってるよ。百合園生のシスティ・タルベルト。百合園と白百合団の後輩。だからテレパシーの時くらいタメ口でいいよね、めんどくさいし)
でさーと、円はマイペースで話を続けていく。
(「瑠奈の願いを叶える為には、俺の協力が必要不可欠」って言ってたよね。あれは、どういう意味?)
(別に深い意味はない。事件にも関係がない)
(ミケーレは? 彼は味方? それとも敵?)
(ヴァイシャリー家の繁栄を願っているという面では、同志。仲はあまり良くない)
言葉は不機嫌そうに返ってくる。
円の態度が気に入らなくて……というわけではなく、彼もまた事態に頭を悩ませているようであった。
(ヴァイシャリー家で、キミ以上の権限を持つ人間にサーラが抱き込まれている可能性は? 泥棒の件はキミの仕込みだとか?)
(窃盗の犯人は、ヴァイシャリー家に仕えていた秘書長に間違いなさそうだ。現代のヴァイシャリー家の者ではなく、シャンバラ古王国時代の権力者が裏で動いているらしい。サーラにも接触があったようだな……彼女は合宿の時までは俺の命令に従っていた。その後、か)
(で、キミはどう動くの?)
(考え中……。
とりあえず、瑠奈の部屋へは俺が行って調べてくる。興味もあるし)
それはちょっと問題があるんじゃないか……と思う円だったが、止めることはできなかった。
『4.鍵を握る者』
「コーヒー、淹れたよ。ちょっと休憩にしよ!」
瑠奈の部屋のドアが開き、ネージュが顔を出した。
ブリジット、システィ、モニカはいくつか瑠奈の持ち物を持っていき、リビングで選ぶことにした。
持ちだしてきたのは、瑠奈の愛用のバッグ、恋人からもらった装飾品、アルバム、白百合団の活動記録だった。
「あとは、あまりしたくないけど……ダークレッドホールとか、他の行方不明者の写真を見せたら、何か反応あるかしら」
コーヒーを飲みながら、ブリジットが呟く。
明日にでも、ツァンダの病院にいる瑠奈のところに行って、見せてこよう。
そう思いながら、ブリジットは瑠奈のバッグを眺めていた。
その時――。
「あ……っ」
サーラが小さな声を上げた。
次の瞬間、彼女の身体が震え出し、呼吸が荒くなっていく。
「瑠奈……瑠奈……っ」
「どうした?」
システィが腕を伸ばし、サーラの両肩を掴む。
「黙っていれば……何も、言わなければ、瑠奈に……手を出さないって、約束、だったのに……。モニカ……」
サーラの顔から血の気が引いていく。
「サーラ……っ」
モニカが苦しげな表情でサーラを睨む。
「お願い、助けて、助けて……瑠奈を、助けて……!」
サーラはシスティの腕を強く掴み、苦悶の表情を浮かべる。
「何? まさか、パートナーロスト?」
ブリジットは瑠奈の様子を知るために、急ぎ携帯電話で友人に電話をする。
「サーラ、瑠奈に何かあったのか!?」
システィがサーラを支えながら問う。
「お願い、です……瑠奈、を助けて、お願い……シスト、さま。あ、あああ……っ、る、な……」
激しく痙攣し、涙を落としてサーラは倒れた。
「しっかりして。すぐにお医者様呼ぶから!」
ネージュはサーラを寝かしつつ、携帯電話で救急隊を呼ぶ。
「……っ、どういうことだ、モニカ!」
髪を振り乱し、システィが鋭くモニカを睨み、低い声で問う。
普段のハスキーな声ではなく、男性のような声で。
「シスト・ヴァイシャリー……」
すっと、モニカがシスティに手を向けた。
彼女も鋭い目で、システィを睨みながら。
「ダメ! 喧嘩している場合じゃないっ」
ネージュが両腕を広げて2人の間に立つ。
「く……っ」
モニカは拳を震わせると、窓を開き外へと飛び下りる。
そして翼を広げて、どこかに飛んで行ってしまう。
「待て!」
システィが部屋の外へと飛び出した。
「瑠奈は元気だそうよ。しっかりして……パートナーロストなんかじゃない。違うのよ!」
ツァンダの病院にいる瑠奈に異変はないという話を聞き、ブリジットは倒れたサーラを抱き上げながら言う。
「……なん、で……るな……」
震える手で、サーラは何かを取り出して、ブリジットに握らせた。
意識を失った彼女を救急隊に届けた後、ブリジットは手の中を確認する。
「指輪?」
重厚なデザインの指輪がひとつ、煌めいていた。
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