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戦いの理由

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戦いの理由

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「ここの警備はロイヤルガードに命令が下りてきてるわけじゃないけど、超極秘の任務に違いないよ!」
 ロイヤルガードのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、張り切り意気込んで、入口の警備についていた。
 ロイヤルガードの隊長である神楽崎優子は、今日は百合園の白百合団員として警備を担当しているが、彼女が総指揮を任されているのは、ロイヤルガードの隊長たる故だ。
「晩餐会だけじゃなくて、新型イコンのお披露目会がなにかがあるそうなんだ」
 カレンは、彼女や隊員である自分達に期待されているのは、帝国による新型イコンの奪取、もしくは破壊作戦の阻止だろうと思い込み、信じて疑わなかった。
「新型イコンのお披露目会があるのか? となると龍騎士団が介入してくる可能性もあるが……それまでは通常の会場警備として動くぞ?」
 パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、少し疑問も感じていたが、カレンの言葉を信じて、共に警備についていた。
「うん! あ、ようこそいらっしゃいました〜」
 今はあくまで物々しくならないよう、会場の警備員として愛想も振りまいておく。
「お疲れさまぁ〜」
 訪れた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が、カレンとジュレールに微笑みを向ける。
「はい。まずはあちらで受付をすませてください」
 優美な和服を纏ったリナリエッタを、カレンは受付へと案内する。
「お名前、よろしいですか?」
 ちょうど、受付で名簿の確認を行っていた夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が対応をする。
「雷霆リナリエッタですわぁ。百合園女学院の生徒よぉ〜。白百合団にも所属しているわぁ。今日の晩餐会、楽しませていただくわねぇ」
「百合園の方ですね。では、こちらにお名前お願いします」
 差し出された名簿に、リナリエッタは名前を記していく。
「ではまた、後程〜。よろしくお願いしますわねぇ〜」
 笑みを残して、リナリエッタは会場へと向かう。
 中には、白百合団団長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)の姿がある。
 事前の打ち合わせで、要人の避難場所については、確認をとってあった。
「こちらの受付へどうぞ〜」
 カレンは次の客を迎える。
 可愛らしい服を纏った、お嬢様……彼女も百合園女学院の生徒だった。
 長身の侍女を連れている。
「……」
 無言でこくんとだけ頷いて、彼女は受付へと向かった。
 名簿に記した名前は、南西風 こち(やまじ・こち)ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)
 ともにリナリエッタのパートナーだが、今日は他人として要人を装っての参加だ。
 こちは会場に入ったリナリエッタが、鈴子に近づいていく様子を黙ってみていた。
 リナリエッタが鈴子の為に動いていることに、なんだかもやもやとしてしまって。
 普段より更に口数が少なく、俯き気味になっていた。
「お嬢様、まずは主催者のラズィーヤ様にご挨拶に向かいましょうね」
 ベファーナが腰を落としてこちに語りかけ、会場へと誘っていく。
 会場に入った途端、鈴子と目が合うも、こちは会釈もせずにすぐに顔を背けてしまう。
(……こちは、悪い子になってしまったので、しょうか……)
「ラズィーヤ様はまだこちらにいらしていないようですね。お嬢様はあちらのテーブルがよさそうです」
 一人、自己嫌悪に陥っている彼女を、ベファーナは鈴子やリナリエッタから離れたテーブルへと連れていくのだった。

 ラズィーヤ・ヴァイシャリーは、金鋭峰達と共に、貴賓控室にいた。
「失礼、金団長にラズィーヤ女史」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、失礼を承知でパートナー達と共に、2人に近づく。
 彼は今回、マホロバ幕府、陸軍奉行並としてこの場に訪れていた。
「少し、お二人にシャンバラと周辺諸国の関係をどのようにお考えかお聞きしたい」
「晩餐会と関係のないお話でしたら、手短にお願いしますわ」
 ラズィーヤの言葉に頷いて、牙竜は端折って質問を投げかけることする。
「戦犯やスパイ行為……後、テロリストへの対応だ」
 今のシャンバラは犯罪者天国と言ってもいい。
 罪人が碌な裁きも受けずに逃亡し、何食わぬ顔で所属校で日常を過ごしている。
 証拠を突きつけても、指名手配にしても処罰されることが殆どない。
 また、帝国に味方しても特定の地域では、のうのうとシャンバラの味方をしている矛盾した行為をしている。
 契約者間での治安は水面下で最悪な状態……疑心暗鬼と言っていいだろう。
 カナン、コンロン、マホロバでも同様に見受けられる。
 放置すれば私掠行為と現地の民に見られてもおかしくないし、悪化すればテロリストを養護する国家と見なされるのではなか。
「政務と軍事を司るお二人はどのようにお考えかな?」
「この場で、貴公個人に名言できることではないな」
 鋭峰はその一言だけで、牙竜の問いに答えようとはしなかった。
「把握はしておりますけれど……」
 そう答えたラズィーヤに、武神 雅(たけがみ・みやび)がテクノコンピューターの中に記録されたデータ一覧を見せる。
「例えば、教導団のロイヤルガードの一人がエリュシオン帝国支配下のシャンバラ大荒野の都市キマクで指名手配を受けたと聞く、戦果を広げる火種にならなければよいが……。
 他にも、ロイヤルガードをロイヤルガードが所属する部隊が身柄を拘束した話もあったな」
 百合園女学院は、パラ実の若葉分校と親交があるようだが、若葉分校生の中に帝国に与する者がいない保証はあるのか、疑問が出てくる。
「本音は分裂など望んでいなかっただろうし、東西統一する状況が望みとは言え、百合学が世間から見れば、エリュシオン帝国に深入りしすぎているな」
 そう、言葉を続けていく。
「ラズィーヤのおねーちゃん、絵描いたのみてー!」
 アネイリン・ゴドディン(あねいりん・ごどでぃん)は、クレヨンで一生懸命描いた絵を開いて、ラズィーヤに見せる。
 彼女が描いたのは、パラミタの地図だ。
「マホロバがエリュシオン帝国の支配下に置かれるとシャンバラへの進軍の中継拠点になるねー。
 ここに大きな空中要塞や強い龍騎士が配置すれば、容易に進軍できちゃうね! マホロバは蒼学生が世界樹の扶桑を燃やしちゃったから、仲が悪いから全滅」
 言って、アネイリンはクレヨンでマホロバにバッテンを書いた。
「こうなると、シャンバラまで一直線! 中継地点が出来ちゃうと攻め込まれやすくなるよね補給ラインが出来るし!
 あ、この位置だとカナンにも進軍できるんだ!」
 あどけない顔を、アネイリンは鋭峰に向ける。
 鋭峰は首を軽く左右に振っただけで、何も答えはしなかった。
「さて」
 重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が吐息をついて、2人に語りかける。
「私達の質問ですが……聡明なお二方なら意図は理解出来るかと思います」
 自分達が得たい答えは「シャンバラの国としての治安に対する姿勢」だと。
 自分達の活動はマホロバがメインだが、シャンバラ国外では自分勝手な信念もなく、他国を他国を荒らす者がいる。
 この状態が長く続いたため、シャンバラ国内でも契約者間でのモラルの欠如が出来ている。
「今のシャンバラに帝国に対抗するために他国と協力する資格がありますかな?」
 更に牙竜がこう言葉をつけたす。
「両校とも身辺整理はした方が他国との外交をする上で、シャンバラのためだと思うが?」
「ご忠告ありがとうございます。ですが、本日はその話のための会談を行う席は用意しておりませんの。同様に諸問題を抱えているために、有能な人材も足らず、対処が追い付いていないことが思いのほか多いということを、貴方方の言葉で理解いたしましたわ」
 礼を言った後、ラズィーヤは「晩餐会、楽しんで行いってくださいませ」と牙竜に告げて、鋭峰と共にその場から去っていった。
 牙竜達は控室の要人達とも、情勢や契約者達について話をしていく。
 契約者達の管理を厳密にしたい。
 国内の情勢も混乱しており、おいつけないのも事実。
 現場ではそうした契約者に対する、処分を強化していきたい。
 要人達の意見はそのようなものだった。