リアクション
○ ○ ○ 「病院に向かった優子から連絡が入りました。皆、後遺症などもなく、近日中に退院できるそうです」 魔法資料館にて、白百合団団長、桜谷鈴子が、ラズィーヤ・ヴァイシャリーにそう報告をした。 副団長の神楽崎優子は、負傷者に付き添い病院に向かっていた。 「わかりました」 ラズィーヤはそうとだけ答えた。 控室のソファーにゆったりと腰かけながら、出された茶や茶菓子には手を付けず、彼女はなにやら考え込んでいた。 相手……敵はラズィーヤの策略に策略で返してきた。 ヴァイシャリーがエリュシオンの支配下にあった頃。ラズィーヤにはレストのことを、龍騎士の中で最下位の、力のない神と見ていた。 故に、レストが七龍騎士に就任する可能性など、考えていなかった。 晩餐会側の指揮で手一杯で、直前で、ユリアナをパイロットから外すかどうかの検討を行う時間も彼女にはなかった。 ユリアナ・シャバノフという人材。 強力な魔道書。 神。 いずれ、その3つの力をラズィーヤは手に入れたいと思った。 シャンバラで過ごした半年間に、ユリアナにもシャンバラで護りたいものが出来ていることと、今は無理でも、将来的に恩人である龍騎士を説得してシャンバラに引き入れてくれることを、期待していたが……。 特殊機……力を、敵に鹵獲されるくらいなら、破壊。 その考えはラズィーヤも同じ。 「すっごい強い人達が攻めてきたみたいだけど、掠り傷程度で済んで、良かったね」 片付けをしながら、綾乃が舞香に微笑みかける。 「……うん、良かった。綾乃が無事で、百合園の皆も無事で……良かった。良かったよ」 舞香は綾乃に微笑み返して……軽く彼女を抱きしめた。 無事で、本当に良かった。 あのまま戦いが続いていたら、命を落とした人もいたかもしれない。 だから、良かったんだ。 要塞の結果は聞いた、けれど。 多くの犠牲者が出たと、聞いた……けれど。 「白百合団員として、守るべきは百合園の生徒達。シャンバラの為に力を貸すこともあるけれど、一番は百合園の生徒達なんだから」 そして、自分の一番は、目の前にいるこの子。 綾乃だから。 (優子お姉様も無事で、本当に良かった……) ○ ○ ○ 「あ、こっちこっち。このあたりに何人か埋まってるみたいなんだ」 マッシュが、瓦礫と化した要塞に訪れた人物――国頭 武尊(くにがみ・たける)を手招きした。 「酷い目に遭ったけれど、要塞も新型機も潰せたし、まあ成功なのかな。これも国頭さんのお蔭だよ。龍騎士の皆も、これからも期待してるって。……悪いようにはしないよ」 瓦礫をどかしながら、マッシュは笑みを見せた。 「……ああ」 小さく返事をして、武尊は瓦礫の撤去と負傷者の救出を手伝う。 (これで、良かったんだよな) 爆破された要塞、荒野に散らばる戦いの跡。 放置されたままの、イコンと人々の身体。 武尊の狙いは、資料館襲撃を阻止することだった。 招待客として晩餐会に行き、不自然なく館内を歩き回り……サイコメトリも使って、情報を集めた。 だが、ラズィーヤが警備員にさえ、満足な情報を流していなかったことから、襲撃を止めるほどの情報をテレパシーでマッシュを通じて龍騎士団に流すことは出来なかった。 龍騎士団にはマッシュから武尊が信頼に足る人物であることは、キマク陥落のきっかけを作った人物、恐竜騎士団の下、風紀委員を務めていることなど、実績と共に説明してある。 故に、龍騎士は資料館に深くは立ち入らず、彼の情報を待ち、早々と撤退をした。 魔法資料館が襲撃され要人が害されようと、新型イコンが破壊されようと、武尊にとっては、どうでもよい事、知った事ではなかった。 だが……その場には、なんとしても“守りたい人がいた”。 その為に、襲撃を阻止したかった。 (他の連中がどーなろうと知ったことじゃないが、彼女だけは、彼女だけは――) 自分は何も間違っていない。 間違っていないんだ。 今尚、心の中でそう唱えながら武尊は龍騎士団に協力していく。 ○ ○ ○ 「……どこか、行きたいところはあるか」 答えない彼女に、答えることのない彼女に、レンは穏やかに語りかけていた。 「紫陽花でも観に行くか。ゆっくり花を観賞したことも、ないんだろ?」 サイドカーに乗せた彼女を、花園へと連れて行く。 死なせたくない、娘だった。 レンは彼女を助けたかった。 彼は何故、助けたいと願ったのか……。 それは、助けたことがないから。 守りたかった時に、守れなかった経験をしたから。 罪滅ぼしという気持ちではなく。 誰かの代わりに、見ているわけでもない。 助けたい。 そう心が動いたから。 彼女の目を見て、心が感じた。 せめて、身寄りのない彼女の、唯一の物である。 この身体は、助ける。 それは揺るがない気持ちだった。 ○ ○ ○ 「そうですっ。ユリアナさんのリュックも用意しておきましょう……!」 マユは、自室でピクニックの準備をしていた。 「ユリアナさん来てくれるかな……いっしょに行きたいです」 腐らないものをリュックの中に詰めて、一人、お出かけの準備をしていた……。 「あ、れ……?」 ぽたり。 手の甲に落ちた水滴に、マユは驚く。 「楽しみ、な、はず……なのに、苦しい……です」 目から、涙が溢れて、溢れて、あふれて、マユの小さな手を濡らしていく。 「呼雪、さん……」 何故だろう。 胸が痛い。 「かなしい、かなしい、です……呼雪さん」 拭っても拭っても、涙はあふれ出る。 涙が止まらない。 涙が、止まらない……。 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
ご参加ありがとうございました。 |
||